著者
影山 奈々美
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.435-446, 2022 (Released:2022-11-11)
参考文献数
31

本稿では、Michael Fieldingが提起した「ラディカルな同僚性(radical collegiality)」概念について、その形成文脈と思想的背景を辿ることでFieldingの議論の特徴を検討する。その際、教師と生徒の対等な関係性の主張に着目し、実践研究「研究者としての生徒(Students as Researchers)」との結びつき、Judith Littleの「同僚性」概念との民主性を軸にした新たな連関、そしてJohn Macmurrayの哲学に依拠したFieldingの議論の特徴を明らかにする。教師と生徒の権力問題への着手からは、学校や教育の意味に転換をもたらすことが示唆される。
著者
高木 加奈絵
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.296-308, 2018 (Released:2019-10-12)

本稿は、日本教職員組合(以下、日教組)が、教育公務員特例法の作成過程で存在した教員身分法案作成に関する闘争をどのように行ったのかを、日教組の内部史料を用いて明らかにした。文部省の「秘密主義」の壁の厚さは、教員の身分保障の重要な場面で日教組が有効な運動を組織できなかったことを示している。つまり、労働三権を持ち、戦後最も有利に諸闘争を行いえた時期でさえ、日教組の運動は大きな制約を受けていたといえる。
著者
山口 泰史
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.409-421, 2022 (Released:2022-11-11)
参考文献数
26

本稿では、大学進学者が同年代の過半数を占めるようになった今日の日本社会において、大学進学希望の形成時期が教育達成における階層差の形成メカニズムにどのように寄与しているのかを、高校生のパネル調査データを用いて検討した。分析から大学進学希望形成時期が出身階層と教育達成の関連を媒介していることが示唆されたことを踏まえて、高校による生徒の進路に対する「枠づけ」と教育達成の階層差形成の関連を議論した。
著者
汲田 克夫
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-9, 1963-03-30 (Released:2009-01-13)
参考文献数
44

A Histrical Study of Measures concerning the Private Primary School
著者
小針 誠
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.422-434, 2004-12-30 (Released:2007-12-27)
参考文献数
28
被引用文献数
5

This research based on a questionnaire survey of 604 mothers discusses different social classes of parents who choose the national or private elementary school for their children in the metropolitan area. According to the results of this survey, the following trends appear to be evident. Parents who choose private schools are likely to hold highly respected occupations with higher incomes. They are about five years older than the regular parents of the kindergarteners. Those fathers who meet the requirements for the elementary school entrance examination are from the age group of around 35 years old or older and are in the administrative position in their companies. On the other hand, mothers that have made the choice of not having more than one child was because they are already too old to give birth. Moreover, many of those mothers with much cultural capital, helped their children's successful performance at the entrance examination. This, in fact, contributes to the cultural reproduction of social classes. As a result of these factors, the parents succeed increating a luxurious educational environment where they invest economic capital and cultural capital in "only one child".
著者
恒吉 僚子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.417-426, 2000-12-30 (Released:2007-12-27)
被引用文献数
1

本稿は「最後の手段」ともしばしば呼ばれる、リコンステイテューションを用いた改革を、メリーランド州、プリンス・ジョージズ郡、A小学校の事例を切り口に検討している。リコンステイテューションとは企業モデル的発想に基づき、「破産」、つまり、恒常的な学力不振に悩まされるとされる学校の教職員の入れ換えを軸とした改革である。測定できる指標をもとにしたアカウンタビリティを重視し、市場競争に依拠した教育改革は多くの国(米国や日本も含み)で一つの流れとなっている。プリンス・ジョージズ郡で展開された本稿で取り上げる改革方式は、成功の指標としてテストの結果を重視する。本稿では、プリンス・ジョージズ郡のA校を取り上げ、リコンステイテューション実行の前後、一九九五年から二〇〇〇年にかけて、一から二週間単位の三回のインタビュー、観察調査のデータを分析している。焦点になっているA校は大多数がマイノリティの小学校であり、一九九七年五月にリコンステイテューションの対象になっている。教育長、郡のスタッフ、校長以下一部教職員のインタビューと学校観察が行われた。本稿は、前記郡におけるリコンステイテューションのプロセスを分析し、教育コンテクストにおいて、企業における大量レイオフを正当化する理論に類似した発想による教育員の入れ換えを批判的に取り上げる。さらに、本稿は前記懲罰的改革が示す、特定の学校、教師の守備範囲を超えた社会的条件による学力不振をも教育ヒエラルキーの底辺に位置する教師に責任転嫁する傾向、教育における対人関係的要素の軽視、市場競争力に欠ける学校の再建を市場原理に委ねる傾向も、批判的に分析している。
著者
浅井 幸子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.249-261, 2019 (Released:2019-10-12)

本稿は、レッジョ・エミリアの幼児教育におけるドキュメンテーションが、どのような意味で評価―アセスメントおよび/またはエバリュエーション―であるかということを、カルリナ・リナルディ、グニラ・ダールベリ、ヒッレヴィ・レンズ=タグチの議論に即して検討し、ドキュメンテーションが価値中立的なアセスメントの蔓延に対抗するツール、価値付与と意味生成を通した民主主義のツールとして位置付けられていることを示した。
著者
仲田 康一
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.450-462, 2011-12-29 (Released:2018-12-26)

保護者に対し学校に協力する特定の行動を求め、同意の上署名をして提出する「確認書」実践を行う学校運営協議会に着目し、その取組を実現させた論理と帰結を実証的に検討した。その結果導出されたのは、学校選択制下で、学力という成果を求める学校運営協議会が、地域の社会関係を介して保護者に対する問責を生じさせ、保護者を統治する様であった。保護者は然るべき行動を取ることができない場合があるが、それは社会的要因の制約による部分があるにもかかわらず、それへの顧慮は剥ぎ取られたままであった。