著者
山本 恵梨子 平野 美千代
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-11, 2019 (Released:2019-04-26)
参考文献数
22

目的:症状が進行しつつある在宅パーキンソン病(PD)療養者がとらえる生活の中での主体性を明らかにすることを目的とする.方法:60歳以上でYahr II~III度の在宅PD療養者10名を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的分析を行った.結果:在宅PD療養者がとらえる生活の中での主体性は,【体が全く動かなくならないようできる範囲で予防する】,【症状の変動に制限される中で1日の生活を形づくる】,【家族の力を借りながら自分にできることをする】,【今の自分が送る普段通りの生活を続けたいと願う】,【PDの進行への不安や体のつらさにふたをして心を安定させる】,などの7カテゴリで構成し,主体性の中心として《未来の自分からは目をそらしPDから今ある生活と自分らしさを守る》ことがあった.考察:PD療養者は自分らしさや今ある生活の維持を大切にしており,療養者の主体性はPDの進行から自分の生活を守ることであると示唆された.
著者
清水 めぐみ 原田 小夜
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.94-102, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
26

目的:介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する認識と飲酒問題を持つ本人,家族への関わりを明らかにする.方法:介護支援専門員24人の面接内容を質的統合法(KJ法)により分析した.結果:介護支援専門員は【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】と【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】を認識しており,【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】で【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】を行っていた.【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】と【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】を望んでいた.考察:介護支援専門員は飲酒問題の学習不足を感じつつ,介護サービスを活用し,医師や断酒会と連携して本人,家族を支援していたと考える.
著者
嶋澤 順子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.250-258, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
19

目的:市町村保健師による精神障害者地域生活支援内容を明らかにし支援方法への示唆を得ることである.方法:4市町村の精神保健福祉担当課に所属する保健師4名に半構造的面接調査を実施し,質的記述的分析を行った.結果:支援内容は,ニーズの顕在化による支援の開始や集中,医療継続の確認と調整,当事者の主体的な精神病症状管理促進による悪化の予防と対策,家族の助力の確認と維持,世帯の経済的安定維持に向けた親族・専門機関との調整,在宅ケアサービスの適用とモニタリング,生活者である本人と周囲の人々との関係性把握と調整,主体的に自立していくことへの支持と促進,の8カテゴリーであった.結論:支援は,多様な相談経路からの導入に続き医療と地域生活継続の基盤形成,次いで生活者として地域に生きる力の獲得というプロセスであった.方法として,プライマリレベルの多様な相談を受けて医療につなげる,他機関からのサービスと協働し補い合いながら家族を支える,障害者がその人らしく生きていける居場所を地域の中につくる,という示唆を得た.
著者
岡本 玲子 岩本 里織 西田 真寿美 小出 恵子 生田 由加利 田中 美帆 野村 美千江 城島 哲子 酒井 陽子 草野 恵美子 野村(齋藤) 美紀 鈴木 るり子 岸 恵美子 寺本 千恵 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.47-56, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
24

【目的】本研究の目的は,東日本大震災で津波災害を受けた自治体の職員が,震災半年後に印象に残ったこととして自発的に語った遺体対応業務とそれに対する思いを質的記述的に解釈することである.【方法】対象は一自治体の職員23名であり,個別面接により被災直後からの状況と印象に残ったことについて聴取した.【結果】自治体職員として行った有事の業務に関する262のデータセットのうち遺体対応に関するものはわずか21であった.遺体対応業務には,震災後,直後からの遺体搬送,約2か月間の遺体安置所,約3か月間の埋火葬に係る業務があった.それぞれの業務に対する職員の思いは,順に,「思い出せない,どうしようもない」,「精神的にやられた,つらい」,「機能マヒによる困惑」が挙がった.【考察】避難所と物資の業務については,創意工夫や今後の展望などが具体的に語られたのに比べ,遺体対応については非常に断片的であり,話すことにためらいが見られた.遺体対応業務は通常業務とは全く異質なものであり,準備性もないまま遂行した過酷なものであった.我々は有事に起こるこのような状況について理解し,今後に備える必要がある.
著者
大西 竜太 平野 美千代 佐伯 和子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.240-248, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
19

目的:3歳児の養育における統制場面でのスマホ使用に関する母親の認識を明らかにする.方法:3歳児の統制場面でのスマホ使用について20~30代の母親10名に対し半構造化面接を実施し,質的記述的分析によりカテゴリーを抽出した.結果:母親は【スマホは子どもの育ちと親役割を奪う存在だ】,【スマホは頼れる「お守り」として私と子どもを支えてくれる】,【便利なスマホは私にとって魅力的である】と統制場面でのスマホの特徴を認識していた.また,【親としてスマホを管理する責任がある】,【スマホが存在する中での親としての在り方と向き合う】という親としての意志を認識していた.考察:スマホは親子への問題性がありながらも,統制の補助手段として有効かつ母親にとって魅力的なツールであった.親子にとってのスマホの良し悪しを踏まえ,母親がスマホをコントロールしながら使うためには,親としての意志の持ち方が重要と考えられる.
著者
麻原 きよみ 小野 若菜子 大森 純子 橋爪 さつき 井口 理 池谷 澄香 小林 真朝 三森 寧子 宮崎 紀枝 長澤 直紀 佐伯 和子 留目 宏美
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.80-88, 2019 (Released:2019-08-30)
参考文献数
25

目的:自治体で働く事務職と保健師が,両者が関わる中で保健師の仕事をいかに認識しているのかについて記述した.方法:2つの自治体の事務職10名,保健師15名に対するインタビューを中心として参加観察,資料の検討を行い,質的に分析した.結果:事務職については〈事務職がもつ基準で保健師の仕事をとらえる〉〈事務職と同じ行政職としての仕事を求める〉のカテゴリと4つのサブカテゴリ,保健師については〈保健師の仕事と専門性が理解されない〉〈行政組織の一員として保健師の仕事をするために努力する〉のカテゴリと4つのサブカテゴリが抽出された.考察:事務職は官僚制組織の特性を示す基準,保健師は専門職の基準で保健師の仕事をとらえていること,そこには組織内の集団間パワーバランスが関連していると考えられた.保健師は事務職とは判断基準が異なることを前提として,協働のあり方や基礎・現任教育を考える必要がある.
著者
吉岡 京子 黒田 眞理子 蔭山 正子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.28-36, 2017

<p>目的:近隣住民等からの苦情・相談(近隣苦情・相談)で保健師が困難ケースと認識した精神障害者と,それを契機に医療につながった者の特徴を解明する.</p><p>方法:全国53自治体の精神保健担当保健師261人に無記名自記式郵送調査を行い(有効回答率39.6%),ロジスティック回帰分析を行った.</p><p>結果:医療につながった者は156人(59.8%)で,医療につながったことに有意な関連が見られたのは,属性では男性であること,家族要因では精神科医療機関受診時に親族の協力が得られたこと,精神科要因では不潔な身なりと自傷のおそれがあることであった.</p><p>結論:精神障害者のセルフケア能力の低下への着目は,早期受診の一助になると考えられる.</p>
著者
田野中 恭子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.23-32, 2019

<p>目的:精神疾患の親をもつ子どもの困難を示し年代別の特徴を明らかにする.</p><p>方法:子どもの頃に精神疾患を患う親がいた10名の成人に対し半構造化面接を実施し,質的記述的研究によりカテゴリーを抽出した.</p><p>結果:子どもの困難は全年代を通して【わけのわからぬまま親の症状をみるしかない生活】や【親の言動に振り回される精神的不安定さ】,【心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ】,【我慢だけ強いられ周囲からも支援を受けられない苦しさ】があり,特に学童期から思春期にかけては【世話をされない苦しい生活】があり,青年期以降は【青年期以降に発達への支障を自覚する生きづらさ】が明らかになった.</p><p>考察:子どもは精神面だけでなく生活面を含む困難を家庭内外にもっていた.支援として子どもの疾患理解を支援,生活支援,子どもとの関係づくりと気持ちの支え,青年期以降も支援,精神疾患に関する啓発活動が必要である.</p>
著者
佐藤 優 鹿毛 美香
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.11-20, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
31

目的:特定の地方自治体の事例から,介護保険二次予防事業の長期的な効果について,新規要介護認定の発生を指標としたアウトカム評価を行うことを目的とした.方法:北九州市における,2007年度の二次予防事業(訪問型介護予防事業,通所型介護予防事業,地域交流支援通所事業,セルフプラン型介護予防事業)対象者1,936名の二次的データについて分析した.Cox比例ハザードモデルを用い,2007年度の基本チェックリスト実施から2013年3月までに起きた新規要介護認定をエンドポイントとして,二次予防事業への参加・不参加による要介護認定のハザード比を算出した.結果:要介護認定を受けた者の割合は,参加群で53.3%,不参加群で38.9%であった.二次予防事業参加群に対する不参加群のハザード比は最大で0.74(95%信頼区間:0.61–0.90)であり,不参加群の方が要介護認定のリスクが有意に低くなっていた.結論:分析の結果,二次予防事業の要介護認定の発生に対する長期的な予防効果は見られなかったが,一次予防事業等の活動と連動させた事業終了後の継続支援及び事業の評価方法に関する示唆を得た.
著者
仁村 優希 佐伯 和子 青柳 道子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.268-277, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
23

目的:大都市における高齢者の見守られ意向および見守られたい相手の関連要因を明らかにすることを目的とする.方法:対象は5町内会の65歳以上の高齢者とした.無記名自記式質問紙を用いて,個人属性,町内の人との交流,見守られの現状,見守られへの期待と心配,見守られることに対する意識を調査した.関連要因の分析は,χ2検定,Fisherの直接確率検定を用いた.結果:回収数は526部,有効回答数は511部だった.74.0%に見守られたい意向があった.住民から見守られたいという希望は,安心感の獲得と人とのつながりの期待が有意に高かった.介護や保健医療の専門職の希望は,生活の維持への期待が高かった.生活支援サービスや機器によるシステムの利用希望は,他者からの干渉と相手を信頼できないことの心配が高かった.考察:高齢者は見守る側との関係性を考慮し,見守られへの期待と心配の内容により見守られたい相手を選択していると考えられる.
著者
岩本 里織 岡本 玲子 小出 恵子 西田 真寿美 生田 由加利 鈴木 るり子 野村 美千江 酒井 陽子 岸 恵美子 城島 哲子 草野 恵美子 齋藤 美紀 寺本 千恵 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-31, 2015

目的:本研究は,東日本大震災により被災した自治体における職員の身体的精神的な健康に影響を与える苦悩を生じる状況を明らかにすることを目的とした.<br/>研究方法:研究参加者は,東日本大震災で甚大な津波被害を受けたA町職員30名であり,半構成質問紙による個別面接調査を行った.調査内容は,被災後の業務で印象に残っている内容や出来事などである.分析は,研究参加者の語りから,身体的精神的健康に関連している内容を抽出しカテゴリ化した.<br/>結果:研究参加者の平均年齢は40.6歳,男性17人,女性13人であった.研究参加者の語りから2つのコアカテゴリ,9つのカテゴリ,19のサブカテゴリが抽出された.<br/>結論:被災した自治体職員は,自身も被災者であり家族など親しい人々の死にも直面し,職務においては,津波による役所建物などの物的喪失や同僚の死による人的喪失が重なり,業務遂行の負担が大きく,身体的精神的健康に影響を与えていることが考えられた.震災後の早期から職員の健康面への継続的な支援が必要である.
著者
當山 裕子 桃原 のりか 小笹 美子 宇座 美代子
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-28, 2016

目的:本研究の目的は,学童期の発達障がい児支援の必要性について保健師の認識を明らかにすることである.方法:市町村保健師を対象とした自記式質問紙調査を実施した.「保健師による学童期の発達障がい児の支援は必要だと思いますか」という問いに「はい」と回答し,その理由を記載していた85名の自由記述を,質的帰納的研究法で分析した.結果:発達障がい児の学童期支援が必要と思う保健師は,支援が必要となる背景として,『学童期に新たなニードが現れることがある』『学校外の支援者が必要である』『多職種が連携した支援が必要である』と認識していた.そして発達障がい児の『親・家族支援によって児の発達を助ける』ことや,『地域での育ちを保障する』ことを支援の目的と保健師は認識していた.結論:発達障がいを持つ児の地域での育ちを保障するという長期的な視点で保健師による発達障がい児への学童期支援の必要性が示唆された.