著者
三枝 正彦 小林 紀子 山本 晶子
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.1-7, 2004-02-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
32
被引用文献数
3

田面水のケイ素濃度の変化を,水稲「ひとめぼれ」を栽培した大区画水田で詳細に調べた.実験は,2001,2002年の栽培期間中に宮城県古川農業試験場の沖積土壌で行った.2002年には,田面水のカルシウム,マグネシウム,カリウム,リン濃度についても調べた.得られた結果は以下のとおりである.1)水口の田面水ケイ素濃度は,2002年には,11.8〜13.0mgL^<-1>の範囲を示した.しかし,その濃度は水口からの距離とともに減少し,水尻では0.20〜5.0mgL^<-1>であった.同様の傾向が2001年にも観察された.水尻の田面水ケイ素濃度は,6月初句から下旬にかけて顕著に低下した.しかし,その低下程度は7月にかなり回復した.2)カルシウム,マグネシウム濃度は,水口からの距離に伴って上昇する傾向があった.カルシウム濃度は,水口で6.0〜6.5mgL^<-1>検出され,水口から80m以上離れた地点では,10.3〜17.7mgL^<-1>になった.マグネシウム濃度は,水口で1.8〜2.1mgL^<-1>検出され,カルシウム濃度と同様に,80m以上離れた地点で著しく上昇し,3.0〜5.7mgL^<-1>検出された.3)カリウム及びリン濃度は,一定の変動パターンは示さず,水稲生育時期によって異なる変動を示した.4)ケイ素濃度とカルシウム,マグネシウム濃度の間には,それぞれγ^2=0.923^<***>,γ^2=0.907^<***>と高い負の相関が認められた.
著者
速水 悠 前田 守弘
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.25-32, 2020-02-05 (Released:2020-02-18)
参考文献数
19

1日の灌水をタイマーで4回に分割した少量多頻度灌水(多頻度区)で促成ナスを栽培し,細根および土壌養分分布,ナスの生育,収量を,1回で全量灌水する1回灌水(1回区)と比較した.10月調査時(定植後55日)や3月調査時(定植後257, 258日)の多頻度区では,灌水後に水が横に拡散することで蒸発が進み,水を求めて細根が畝全体に広がったため,1回区より細根が広範囲で多かったと思われる.終了調査時(定植後257, 258日)では,1日当たりの灌水量が増えたため,多頻度区では灌水位置付近の重量含水率が増え,その位置で細根数が多くなった.また,同区のNO3−-Nの分布は1回区と同様であったものの,交換性塩基は1回区より高かった.これは,NO3−-Nはナスによって吸収されたが,吸収量以上の塩基類は溶脱せずに畝内に残存したためと考えられる.ナスの生育や収量には,灌水方法による違いが認められなかった.これは,いずれの灌水方法でも,ナスの生育や収量に必要な養水分は吸収されたためと思われる.以上のことから,低コストで導入できるタイマー制御の少量多頻度灌水であっても,栽培後期の畝内土壌の重量含水率が保持でき,養分の下方浸透を軽減しつつ,ナスの生育や収量を維持できる可能性が示された.
著者
松本 美枝子
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.345-352, 1990-08-05 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

ハクサイにおける,ゴマ症発生と基肥窒素施用量(10a当たり10,20,30kg)の関係を体内成分の面から検討した.基肥窒素施用量の増加に伴い生育が促進され,ゴマ症の発生も増加した.基肥窒素30kg施用区でとくに発生が著しかったが,10kgおよび20kg施用区であっても生育が促進された場合は発生が多くなった.この発生株ではNO_3-Nおよびαアミノ態窒素濃度が上昇し,糖濃度は逆に低下する傾向を示した.また,機関別体内成分とゴマ症発生の関係では,葉柄よりむしろ葉身中でのNO_3-Nおよびαアミノ態窒素濃度の蓄積が発生を助長した.これらの事実から,ゴマ症の発生を防止するためには,基肥窒素施用量を20kg以下にすることが必要と考えられた.
著者
境 昭二 高田 穣 中川 良二 川田 芳雄
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.26-30, 1985-02-05 (Released:2017-06-28)

1)オキサミドは,pH10以上のアルカリ域で加水分解され,オキサミン酸を経てシュウ酸を生成する.酸性域ではpH1以下でなければ加水分解されない.2)オキサミド分解菌富化土壌の水抽出によって調製したオキサミド分解活性を有する溶液(以下,オキサミド活性溶液と略す)は,フッ化アンモニウムによる滅菌処理,あるいはメンブレンフィルターによる除菌処理によってその活性を失う.3)1)および2)から,土壌中におけるオキサミドの分解は,微生物作用によるものと考えられる.4)^<14>Cで標識したオキサミドをオキサミド活性溶液中で分解させると,オキサミド態炭素はすべて二酸化炭素として回収される.また,分解途中にオキサミン酸とシュウ酸が一時的に検出され,ギ酸は検出されない.5)オキサミド活性溶液中でシュウ酸はオキサミドより分解が速いが,オキサミン酸はオキサミドとあまり変わらない.したがって,オキサミン酸およびシュウ酸の集積がわずかにしか認められないのは,オキサミン酸とシュウ酸が少なくともオキサミドよりも遅くない分解速度を示すためであると考えられる.6)4)および5)から,オキサミン酸およびシュウ酸を通らないオキサミドの分解経路の存否については不明であるが,大部分は次の反応式のように,まず加水分解によって脱アミド化され,順次オキサミン酸とシュウ酸を生成し,シュウ酸はさらに酸化されて二酸化炭素になる経路をたどるものと考えられる.[chemical formula]
著者
大島 宏行 後藤 逸男
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.263-271, 2008
参考文献数
36
被引用文献数
5

ウリ科急性萎凋症が多発する地域の土壌養分とりわけ,リン酸の蓄積実態を明らかにする目的で,茨城県筑西市において小玉スイカ栽培ハウス32ヶ所の土壌分析を行った.小玉スイカに対する窒素とカリ施用量は施肥基準量にほぼ同等であったのに対して,リン酸は約2倍に達した.また,堆肥からハウス土壌に供給される三要素の有効成分量の施肥基準量に対する割合は,窒素20.3%,リン酸72.7%,カリ62.7%であった.調査対象ハウスの土壌はいずれも黒ボク土であった.調査地域内の未耕地土壌は酸性が強く,交換性塩基や可給態リン酸を欠いていたが,ハウス土壌ではpH(H_2O),塩基飽和度,塩基バランスの他,可給態微量要素はほぼ適正な状態にあった.一方,作土中の硝酸態窒素は11.6〜732mgkg^<-1>におよび,その影響で電気伝導率は0.23〜2.39dSm^<-1>と著しく高かった.黒ボク土にもかかわらず,作土の可給態リン酸は510〜3,440(平均1,950)mgkg^<-1>におよび,その約20%が水溶性リン酸であった.40年間にわたり小玉スイカを栽培してきたハウスでは土層60cm内に酸分解性リン酸として4.36Mgha^<-1>におよぶ大量のリン酸が蓄積していた.リン酸蓄積層では著しいリン酸吸収係数と可溶性アルミニウムの減少が認められた.小玉スイカハウス土壌における土壌養分,とりわけ硝酸態窒素とリン酸の過剰蓄積実態が明らかになった.
著者
加藤 秀正 平井 英明 星野 幸一 松川 進
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-8, 2005-02-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
23
被引用文献数
3

土壌溶液のアルミニウム種とその濃度が植物の根圏環境の形成にどのような影響を及ぼすかを調べ,以下の結果を得た。1)土壌溶液におけるAl^<3+>主成分域のpHとpAlt'はいずれもほぼ4.5以下であった。2)Al_6(OH)_<15>^<3+>主成分域はpHが4.5〜6を示す土壌溶液のAlt'高濃度側に分布した。3)Al_6(OH)_<15>^<3+>主成分域pHにおけるAlt'低濃度側には単独で50%を上回るアルミニウム種が存在しない領域が存在した。4)Al(OH)_2^+主成分域はpHが5以上で,かつpAlt'が5.5付近以上に存在すると予想された。5)水耕と異なり土耕では根系の観察が困難であることから,幼植物の根が把握した土壌量が根系の発達程度の良好な指標となる可能性を示した。6)コムギの根による土壌の把握量が制限されるのは第1にAl^<3+>主成分域であり,次がAl_6(OH)_<15>^<3+>主成分域のうち,土壌溶液のpHが4.5〜5.5付近で,かつAlt'が4〜5とみなされた。7)Al_6(OH)_<15>^<3+>主成分域であっても,pHが5.5付近以上では根の土壌把握量への影響は小さい。これはAlt'値が10^<-5>mol L^<-1>(0.27mg L^<-1>)以下になるためであろう。8)土壌溶液の酸性アルミニウムが中和されるに伴い,根の伸長→根毛の発達・拡大→根による土壌把握量の増大へと進み,根圏における根と土壌間に連続性が保たれる結果,養水分の移動・拡散に好都合な環境が整っていくものと判断された。
著者
寺澤 秀和 大崎 満
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.561-565, 2009
参考文献数
7

ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)で木材多糖の水酸基を架橋により保護して,木材パルプそのものを微生物の分解を受けにくい構造にした化学改質紙が,テンサイの紙筒移植栽培において,苗と移植後の生育,および収量に及ぼす影響を調査した.1)化学改質紙紙筒は,育苗中に紙筒や育苗土への微生物繁殖を抑制し,混抄紙紙筒にみられた微生物が苗の根に及ぼす障害を軽減し,移植時の苗の生育を増加させた.さらに,混抄紙紙筒に比べて良好な移植時の苗の生育は,移植後6月中旬の生育も向上させた.2)化学改質紙紙筒の収穫時の根重と糖量は,混抄紙紙筒と有意な差がなかった.根の肥大により紙筒が開裂する6月中旬から収穫期までの約4ヶ月間の栽培期間に,移植後初期にみられた紙質の違いによる有意な生育差が縮小した.