著者
木原 香織 平山 寿雄 広井 正彦
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1025-1032, 1999-11-01
参考文献数
14

ハムスター卵という異種の雌性配偶子を用いて,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection;ICSI)を施行することで,人為的配偶子操作が精子染色体に及ぼす影響の検討,並びに重度男性不妊症における精子染色体の解析を,本学の倫理規定にのっとり,精子提供並びに染色体分析の承諾を得た後,行った.ICSI法とSPA(sperm penetration assay)法を用いた正常男性における精子染色体の異常発現率を検討すると,ICSI法において染色体異常は6.7%,SPA法においては6.9%と差を認めなかった.Percoll法,swim up法といった精子調整法の精子染色体への影響を検討すると,Percoll使用群においては,ICSI法では6.9%,SPA法では6.3%に染色体異常が観察されたのに対し,swim up群においては,それぞれ8.3%,6.7%で,精子調整法の違いによる精子染色体異常の発生率に有意な差は認められなかった.精子前培養法のTEST-yolk buffer(TYB)による保存時間が精子染色体に及ぼす影響を検討すると,ICSI法,SPA法とも24∼35時間に対し,60∼72時間の保存では有意に染色体の構造的異常の増加が認められ,TYBにての低温長期保存においては,慎重な配慮が必要であると考えられた.男性不妊症患者12名において,精子濃度と精子染色体異常との関係をみると,精子濃度10∼20×10^6/ml,1∼10×10^6/ml,0∼1×10^6/mlの3群における染色体異常の発生率はそれぞれ9.5%,7.9%,10.7%で有意な差は認められず,運動,形態とも正常な精子を選択使用する限りにおいては,受精した精子には数的,構造的染色体異常は正常群と比較して差がなく,ICSI法により受精が可能となった場合,正常妊娠に導く可能性が十分にあることが示唆された.
著者
小泉,佳男
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, 1999-02-01

女性性器の単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)又は2型(HSV-2)の初感染における血清抗体(IgM, IgG)の推移をELISAを用いて検討した. HSV感染初期におけるIgM抗体の陽性率は第5〜7病日でHSV-1は53.3%, HSV-2は28.6%, 第11〜15病日ではHSV-1, HSV-2ともに100%であり診断的意義は高いと思われた. IgM抗体価の平均的な推移はHSV-1, HSV-2感染ともに2〜3週をピークとして徐々に低下したが症例ごとにみるとIgM抗体価の推移が三つのパターンに分けられることが判った. つまり2〜3週をピークとして低下する群, ピーク以降も低下しないで8前後の1%値を続ける群, 抗体価は上昇しないで2前後の低い値のまま持続する群の3群である. IgM抗体が8前後の高値のまま持続する群は, HSV-1感染例に比べてHSV-2感染例の方が有意に多かった. IgG抗体の陽性率は第5〜7病日ではHSV-1感染例とHSV-2感染例でそれぞれ13.3%と0%, 第11〜15病日でそれぞれ93.3%と62.5%となりHSV-2の方が陽転率が低かったが有意差はなかった. IgG抗体はIgM抗体よりも出現はやや遅れ, IgM抗体にはやや劣るものの診断的価値はあると思われた. IgG抗体はHSV-1, HSV-2ともに3週頃まで上昇したが, 抗体価は低く3カ月目まで臨床的にヘルペス既往のない妊婦や再発を繰り返す性器ヘルペス患者よりも遥かに低い値で推移した.