著者
梅原 英一 太田 敏澄
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.35-49, 2005-09

迷惑施設や原子力施設の継続的な事業運営や設置などに関するリスク情報開示は, 社会現象としても数多く取り上げられている。行政は住民によりリスク情報開示を求められている。しかし、リスク情報開示では, 行政と住民の間には, 情報の非対称性や情報保有度などの情報ギャップが存在する。そこで、本論文ではリスク情報開示を、行政と住民の相互作用と考え、リスク情報開示ゲームとして定式化する。これにより、行政と住民の代替案の得失に関するモデルを構築し、行政のリスク情報開示における代替案の性質を明らかにする。住民の行動は、満足化意思決定理論によるモデル化を行う。これは、住民が満足していれば、問題意識は通常あまり高くないという状況を表現している。行政の行動は、累積プロスペクト理論によるモデル化を行う。これは、行政が非開示というリスク追求行動をとる可能性を表現している。その結果、自発的開示ゲーム、安心ゲーム、情報探索ゲーム、強制開示ゲームの4種類のモデルとなることが分かった。安心ゲームと情報探索ゲームでは、均衡解は次善解であり最適解になってない。そこで、行政の戦略と住民の情報保有度についてのモデル化を行う。この結果、行政に対しては監視、住民に対しては啓蒙、それぞれの役割を果たすエージェント(ガーディアン・エージェント(Guardian Agent)と呼ぶ)を導入すると、強制開示によらなくてもパレート解を達成できる可能性があることを示す。ガーディアン・エージェントの例としては、ファシリテータやNPO等をあげることができる。
著者
白楽 ロックビル
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.59-71, 2011

10年余りかけ、読売新聞の記事データベースから、明治・大正・昭和・平成時代(1874~2009年)の136年間の「研究者の事件データベース」を作り、最近完成させた(白楽ロックビル『研究者の事件と倫理』、講談社サイエンティフィック、2011年9月出版予定)。136年間の「研究者の事件」(含・技術者)は、文系も含めた全分野で1,402件あった。直近23年間(1987~2009年)の件数の多い順の「事件種」ランキングでは、セクハラが1位、研究費が2位、改ざんが3位だった。「研究者の事件」をおこす研究者は、「55+歳の大学医学部の男性教授」が多かった。「盗用」、「ねつ造・改ざん」を詳細に分析した。
著者
山本 仁志 諏訪 博彦 岡田 勇 鳥海 不二夫 和泉 潔 橋本 康弘
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-43, 2011-09

本研究の目的は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトにおけるコミュニケーション構造の推移に着目し,SNSのライフサイクルにある種の法則性を見出すことである。我々は,SNSにおけるコミュニケーションのされ方の移り変わりに着目し,コミュニケーション関係は固定的に維持されるのか,推移していくのか,コミュニケーション関係はフレンドネットワークと近いのか,無関係なのかといったコミュニケーションの性質を表す因子を抽出している。これらの指標から,コミュニケーション構造の推移を明らかにし,その推移をライフサイクルとみなしSNSを分類している。分類したSNSのネットワーク構造や活性化の度合いを比較し,さらに特徴を分析している。その結果,現実の人間関係がベースとなるSNSは規模が小さく密なコミュニケーションがなされていることを確認している。また,ファンサイトのような対象物を中心としたSNSは,初期に開拓的であるものがより活性化することを確認している。
著者
江口 眞人
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.39-58, 2006
被引用文献数
1

ISP事業者の選択にあたり最も重視されているのは、価格だと言われている。本論文では、ISP事業者の選択やインターネット利用状況に関する既存の調査データを用いた実証研究を通じ、大手ISP事業者の乗り換え選択構造を述べる。本論文の主要な成果は以下にまとめられる。1.ISP事業者を乗り換える理由は価格だけでなく、接続スピード、付加機能、コンテンツサービスも重要な要因として機能している。2.ISP事業者の乗り換え選択に2つの代表的なパターンが観測される。Yahoo!BB、ぷらら、へと乗り換える低価格・接続スピード重視型、So-net、@niftyへと乗り換える付加機能・コンテンツサービス重視型である。3.ISP事業者の乗り換え選択には、ユーザーニーズとインターネット利用状況(行動特性)の双方が関係した場合に、より明確な影響が現れる。以上の知見は、今後、ISP事業者がとるべき戦略を議論するうえでのベースとなるものである。
著者
佐藤 佳弘
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.19-31, 2008-03-30

生活情報化の進展は,移動電話契約数の増加,IT機器の世帯普及率の上昇,インターネットの人口普及率の上昇,ブロードバンドの契約数の増加など様々な面に現れている。しかしながら,これら契約数や普及率の上昇は,個々の側面における情報化の進展状況を示しているものであり,生活側から情報化の進展度合いを総体として表してはいない。なぜなら,生活の中の情報は,携帯電話に代表される通信メディアによってだけではなく,郵便,放送,印刷をはじめとする多様なメディア(媒体)によっても媒介されており,これらのメディアが生活の情報化を構成しているからである。本稿は,様々なメディアから構成されている生活情報化の進展度合いを家計消費支出の側面から把握することを試みている。情報メディアに対する家計支出を通信・放送・郵便・手書き・記録・PC(情報機器)・印刷の7種に分け,さらにオンライン/オフラインとパーソナル/マスから成るマトリクスを用いて分析している。その結果,1995年以降の生活の情報化は,オンラインとパーソナルに傾斜しており,その主要因は通信にあることが家計消費支出によって裏付けられた。また,生活における情報支出は,1995年を境に選択的支出に転化しているものの,高所得層の世帯においては基礎的支出の位置付けにあることが明らかになった。
著者
加藤 菜美絵 小川 祐樹 諏訪 博彦 太田 敏澄
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-32, 2009-09-30
被引用文献数
2

本研究は,企業内SNS導入の有効性を明らかにすることを目的とする。具体的には,有効性を問題解決に着目し,組織の意思決定モデルであるサイモン-松田モデルとゴミ箱モデルに基づき,問題解決の過程と構造の面から明らかにすることにより,企業内SNSが企業の問題解決において果たす役割を考察する。まず,企業内SNSの利用に関する文献の調査に基づき,調査仮説を設定する。そして,調査仮説の検証および企業内SNSの有効性をより明確にするために,企業への構造化インタビュー調査と質問紙調査を行う。その結果,企業内SNSが,導入以前は関与することのなかった多様な参加者の気軽な情報発信や議論を可能にすること,個々が抱える既存の問題と多様な参加者により提示される有効な情報を結びつけること,選択肢の候補を得る洞察段階や解決策を得る選択段階において効果があり素早い問題解決を可能にすることを確認している。さらに,日記機能やQ&A機能,コミュニティ機能といった気軽な情報発信をサポートする機能が,「この場で相談してみよう」と思わせる親和の整った場を構築することに役立っていることを確認している。
著者
岡田 勇 太田 敏澄
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
no.10, pp.98-112, 1998-09-30
被引用文献数
4

人間や社会といった観点を含んだ社会情報システムの構築や運用にとって、組織硬直に関する諸問題の発生や解決を問うことは、避けて通れぬ必要不可欠な課題である。本研究は、パーソナリティという局所的要素から、組織硬直化という大域的現象が、如何にして創発しているのかに関して、マルチエージェントシステムに基づく計算機シミュレーションを用いて解明しようとするものである。計算機シミュレーションは、操作的オーガニゼーションを可能にし、直観的には妥当性が見通せない現象についても、そのダイナミクスを議論する基礎を与えてくれる。本研究は、複雑系に関するフレームワークとしてのマルチエージェントシステムと、研究ツールとしての計算機シミュレーションの有効性を示すものであるといえる。硬直化モデルを定式化するにあたり、人間の心理的特性を持つパーソナリスティックェージェントを定義した。パーソナリティは、タスク執着、対人好悪感情、保守性とする。組織硬直化とは、組織業績の低下、環境変動への非適応性、情報への不信頼性として観察されるものとする。計算機シミュレーションの結果、現実の組織硬直化のメカニズムに関する興味深い数多くの知見を得ることが出来た。それらは、例えば、対人好悪感情によって組織内に派閥が形成される過程についてや、タスク選択過程において妥協が生じるメカニズム、または、タスク執着と保守性の組織業績に関する相殺作用などがある。これらは隆盛しつつある社会情報システムの構築や運用に対して意義深い示唆を与えている。
著者
遠藤 薫
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
no.11, pp.37-47, 1999-09-30

デジタル社会は、ネットワーク上の電子空間と現実空間とが多重的に共在し、また、複数の異なる社会・文化が緊密に相互接続される社会である。このような社会は、一方であらゆる可能性が試され、旧来の境界(バリア)が解放される社会であり、他方では社会を構成するさまざまな行為主体が自らのアイデンティティの再構成を迫られざるをえない社会でもある。本稿では、このようなデジタル社会における境界とアイデンティティのパラドックスを、「可能世界」と「仮想世界」をキーワードとして解読する。さらに、このパラドックスを、社会のオートポイエーシス性との関連からむしろ積極的に捉えたうえで、共感を基盤とした社会を醸成するための装置について考察する。その装置として、まさしくデジタル社会とともに進展してきた新たな表現技術、すなわちシミュレーションや仮想現実技術の社会的機能に期待することができるのではないだろうか。
著者
馬場 眞知子 福田 豊
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.5-17, 2009-09-30
被引用文献数
2 3

日本に定住する外国人は2007年末には総人口の1.69%と,日本ではかつてない外国人の増加に伴う様々な課題や問題が起き,多文化共生は行政の大きな課題となってきている。一方ICTの発展は著しく,行政の電子化が本格的に進められようとしている中,ICTが多文化共生にどのように活用できるかという検討はほとんど行われていない。既に多くの行政のWebサイトでは、外国人向けの外国語ページが見られるが,それが定住する外国人支援から見てどのような内容であるかの検証はほとんどされていない。定住する外国人にとってこれらの行政Webサイトが有効に活用され,行政サービスを受けやすくすることは,多文化共生にとって重要な課題だと考えられる。本稿では都道府県のWebサイトに見られる外国人向けのページについて調査し、その内容とユーザビリティについて簡単な評価を試み、ICTが多文化共生にどのように活用することができるか、その可能性について考察した。その結果,都道府県Webサイトで外国人支援として有効と考えられる項目を抽出することができた。またこれらの項目を用いたユーザビリティ評価では,外国人支援として高い評価を得る都県と低い評価となった都県の大きく2つのグループに分けられ,その取り組みに差があることがわかった。
著者
藤原 正弘
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.83-92, 2012-03-31

家庭向けテレビ電話サービスが始まって20年ほど経つが、未だにコミュニケーションツールとして普及しているとは言いがたい。これまでの調査から「料金が高い」「使いづらい」「顔を見て通話する必要を感じない」などが挙げられているが、一方で、利用意向も少なくない。我々は、テレビ電話が普及しない理由を探るために、アンケート調査を実施した。その結果から、夫婦、親子の間でテレビ電話に対する需要のすれ違いがあることが明らかとなり、この「すれ違い需要」がテレビ電話の普及を阻む理由のひとつであることが示された。
著者
諏訪 博彦 山本 仁志 岡田 勇 太田 敏澄
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.59-70, 2006-03-31
被引用文献数
6

持続可能な社会の実現のために、様々な方法で環境問題の解決が試みられている。しかし現状では、環境教育プログラムによって環境に対する態度は変化させられるものの、環境配慮行動を促す効果的なプログラムの開発は不十分である。我々は、どのような「環境に配慮する態度」をもっている個人が、「環境に配慮する行動」を実行しているのかを明らかにしたい。このために、既存の環境教育力リキュラムの順序性と心理的プロセスを援用し、人々が環境に対してどのような関心や動機を持ち、行動を行っているのかに関して質問紙調査を行った。調査結果を基に環境配慮行動を促す環境教育プログラム開発のための関心・動機・行動間のパスモデルを構築した。その結果、意識的環境配慮行動を規定する要因として、費用負担意思がもっとも高い影響を及ぼしていることがわかった。
著者
児玉 晴男 鈴木 一史 柳沼 良知
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.95-105, 2012-03

放送アーカイブの構築は,「e-Japan戦略II」で取り上げられた重要な施策である。この放送アーカイブは,放送事業者により著作・制作された放送番組が対象となっている。ここで,放送番組のコンテンツの構造は,テキストと映像(動画,静止画)からなっている。そのテキストと映像とがメディア融合されアーカイブされたコンテンツは,インターネット配信される対象としてのウェブキャストコンテンツを指向するものになろう。ところが,その取組みは,十分に履行されている状況にあるとはいえない。その要因に,著作権とプライバシーとの相関問題がある。もうひとつの課題として,倫理的な問題がある。本稿は,コンテンツのインターネット配信に関する法的・倫理的な課題への対応について,著作権法制と情報法制および放送倫理と出版倫理などを統合する観点から考察する。その考察から,わが国の社会制度に適合したコンテンツのインターネット配信に関する社会情報システムは,コンテンツ管理と権利管理が相互に連携し,権利管理を財産権の保護と制限および人格権とコンテンツの同一性の保持とを連携させることによって,効率的で合理的に機能するものとなることを導出する。そして,コンテンツのインターネット配信を促進するための,コンテンツ管理と権利管理とが相互に連携するコンテンツの著作・制作・保存の仕組みの開発事例について紹介する。
著者
百崎 英
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
no.10, pp.17-28, 1998-09-30

国・地方における行政の情報化は、1998年には、二つの意味で新たな局面を迎えることになると考えられる。一つは、政府が1997年末に、これまで進めてきた行政情報化推進基本計画を全面的に改訂して新たな五か年計画を閣議決定し、これが本年4月からスタートしており、もう一つは、自治省がこれまで検討してきた住民基本台帳ネットワークシステム構想を実現するため、先の通常国会に住民基本台帳法改正案を提出し継続審議となっているが、これが成立すれば、同構想が本年からスタートすることになるからである。本稿においては、政府の行政情報化のこれまでの進捗状況及び今回改訂された推進基本計画の新たなポイントを6項目取り上げて若干のコメントを付しながら紹介するとともに、住民基本台帳ネットワークシステム構想の概要及び同構想について筆者の考える三つの画期的な意義、即ち、(1)地方公共団体の全国ネットワークの構築、(2)ネットワーク上の本人確認システムの構築-一台帳コード制、(3)広域的な行政サービスの全国展開について述べ、最後に、今後、国・地方を通ずる行政情報化を進めるに当たって解決すべき課題のうち、特にワンストップサービスを実現するための制度上の課題を中心に論ずることとした。