著者
中川 健司
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.61-71, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
8
被引用文献数
2

『留学生のための二漢字語に基づく基礎医学術語学習辞典』は先行研究を基に選定した基礎医学術語(全7073語)の学習を目的としているが,基礎医学術語から抽出した二漢字語(漢字二字からなる熟語)を学ぶことによって基礎医学術語のより効率的な学習が期待できるという考えに基づいている。しかし,医療分野の漢字には難解なものも多く,二漢字語を介して基礎医学術語を学ぶ場合も高い漢字知識が必要とされる。本研究では,二漢字語を介して基礎医学術語を学ぶ場合に優先的に学習すべき漢字を選定することを目的として,二漢字語及び基礎医学術語中の出現漢字の頻度と傾向についての調査を行った。その結果,学習者に日本語能力試験2級までの漢字の知識がある場合,二漢字語中に出現する1級以上の漢字228字に加えて級外の38字及び第1水準削除分の1字を学べば基礎医学術語中の出現漢字の約96%と級外漢字の約90%がカバーできることが明らかとなった。
著者
烏 日哲
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.1-12, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
9

本研究は,中国語を母語とする上級日本語学習者と日本語母語話者が絵本の説明を行うときに現れる語り方の違いを明らかにすることを目的としている。調査材料としては,ある種の文化リテラシーを必要とする漫画を避け,またダイナミックな談話展開を表現する語りの姿を知るために,字のない絵本を用いた。具体的には,絵本にかかれている絵と,話し手の発話とがどのくらい一致するのかという「語りと絵本の一致度」に着目し,個々の発話の表現的特徴を探った。その結果,語りの最初と最後に物語そのものの性格を解釈したり,ストーリーに対する感想を述べたりする点で,母語話者と異なることが観察された。また,学習者は絵本にかかれていない内容,特定の絵と照合できない内容や表現を語りに加えることが多く,解釈を含める傾向が強いことがわかった。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.174-181, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
6

中国語話者は漢語の知識があるために習得が容易な場合もあるが,日中両言語の間の「ズレ」のために習得が阻害される場合もある。本稿では漢語サ変動詞のうち,非対格自動詞の場合について,アンケート調査を用いて中国語話者による習得状況を見た。その結果,学習者の回答に「される」が相対的に高い割合で見られるものと「される」がほとんど見られないものが存在することがわかった。これは英語のL2習得で主張されている「非対格性の罠」の例の一つと考えられる。さらに,日本語能力がより高い中国語話者に対しても同じ調査を行い,その後フォローアップインタビューを行った。その結果,事態の成立に「外的な力」が感じられるか否かが「される」の使用動機となっていることが示唆された。
著者
川上 尚恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.144-158, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

本稿では,北京近代科学図書館で編纂発行された日本語教科書『初級日文模範教科書』と『日本語入門篇』の分析を行い,編纂背景をふまえ,占領初期の華北における日本語教育の一側面を明らかにした。『初級日文模範教科書』は,国定国語教科書と内容が重なる部分と例文・会話文の部分からなっていた。教科書に付された「教授参考」では,対訳的ではない中国語を利用した教授が提唱されており,日本語の学習過程をふまえた学習者への配慮が見られた。しかし,それを入門用教科書として再編纂した『日本語入門篇』では,中国語での説明が増加し,「読書的な対訳法」に近づいた教科書となった。両者の編纂には日本人図書館職員・中国人日本語講師が関わっていたが,特に『日本語入門篇』には中国人の伝統的日本語学習法が強く反映していた。今後の中国人の日本語学習・教育史をふまえた研究の必要性を指摘した。
著者
菊岡 由夏 神吉 宇一
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.129-143, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
28

本研究は「生活者のための日本語教育」構築の基礎として,外国人を含む就労現場の言語活動に着目し,それを通した第二言語習得過程での言語発達の限界と可能性を明らかにすることを目的とした。具体的には,外国人が働く工場でフィールドワークを行い,その言語活動を「一次的ことばと二次的ことば」の観点から分析した。その結果,外国人作業員は一次的ことばによる作業員同士の言語活動には堪能な一方,二次的ことばによる「他者」との言語活動には困難を生じることがわかった。これは二次的ことばが一次的ことばとは異なる「自覚性と随意性」という言語的思考を要するためだと考えられた。換言すれば,これは無自覚な言語使用は可能でも自覚的な言語使用が不十分だという第二言語習得過程での言語発達の限界を示す現象だと考えられた。最後に,この限界を超え可能性を生かす日本語教育が目指すべきものとして,「越境のための日本語」という概念を提示した。
著者
田中 共子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.61-75, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

ソーシャルスキルは,対人関係の形成・維持・発展に役立つ技能を指す心理学の概念であり,内容や機能に関する調査や実験が蓄積され,教育訓練の方法が発達している。異文化圏では,挨拶,主張,遠慮,社交辞令などの対人行動が未知であると,困難や誤解が生じる。そこで,文化的行動の背景や異文化交流の要領として,異文化圏での人付き合いに役立つ認知や行動を抽出し,社会的行動の学習を試みるのが,異文化間ソーシャルスキル学習である。本稿では,在日留学生を対象とした研究をもとに異文化適応とソーシャルスキルの関わりを論じ,この心理教育を異文化間教育として使う場合の概念枠組みと学習セッションの概略を紹介する。そして,将来的な研究課題を述べる。ソーシャルスキルが適応にどのように関わるのか,ホストとの対人関係形成,およびホスト文化への関わり方の観点から考察し,日本語教育との接点を探る。
著者
岩下 倫子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.18-33, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
50

本稿で報告する研究はMackey & Philp (1998) を基盤に2種の文法項目における集中言い直し訓練の効果を調査したものである。12週間にわたる母語話者との毎週1時間の会話練習に参加した5人の学習者が後半の6週間,会話練習前に15分言い直し集中訓練を受けた。訓練前後に行った算出テストの成績を比べた結果,先行研究の結果と同様に学習者の2種の文法項目の使用における正確度が向上した。しかし研究対象となった2種の文法項目が似通っているために,訓練前に正しく使用できた項目の正確度が訓練後一時的に後退したが,すぐに回復した。その後言い直し訓練の効果は六か月後に査定したテストの結果においても正確度は後退しなかった。本研究の結果は現場の教師の間違い訂正ストラテジーに応用することには無理があっても,フィードバックの効用性に新しい局面を展開する。
著者
大西 由美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.82-96, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
22

本稿では,ウクライナの大学において日本語を専攻する学習者を対象に,日本語学習動機調査を行った。ウクライナは日本との人的・経済的交流が少ない「孤立環境」と呼ばれる地域である。日本語学習者は増加傾向にあるが,卒業まで意欲的に学習できない学生が多いことが問題となっている。 一方,日本語学習者を対象とした動機づけ研究では,環境が大きく異なるにも関わらず,他地域の動機づけ尺度を基に調査が行われる傾向がある。 そこで,本稿では,日本語学習動機を自由記述によって収集し,先行研究にはない項目を含む35項目の尺度を作成した。5大学の学生を対象に質問紙調査を行い,180名分のデータを得た。学年層別の因子分析の結果,低学年と高学年では動機づけの構造が異なることが明らかになった。低学年の学習者は文化に関する動機と仕事に関する動機の相関が高く,これらの動機が対立するものだとしている他地域の先行研究とは異なる結果となった。
著者
小玉 安恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.114-128, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
24

日本語の時制研究において,現在形で過去の出来事を表す,通称歴史的現在形(HP)は,小説など書き言葉を中心に様々な機能が検証され,英語のHPとは違った機能を持つとされてきた。近年では口語データでも研究が進められ,過去形は語りの世界の語り手の視点を,HPは物語世界の登場人物の視点を表す,という視点説が有力である。しかし,その二分的な視点説も,なぜ語り手は視点を変えるのかという問題や,HPの機能の多様性を説明しきれていない。 本稿では44の体験談を,Labov(1972)の口語ナラティブ分析の枠組みを使って質的かつ量的に分析した結果,日本語のHPは,1)話の骨格を成すナラティブ節だけでなく,背景的な節にも現れる,2)物語世界の視点を表すが,だれの視点かは指定しない,3)統御不可能な知覚経験か登場人物の移動に誘発されて使用され,それにより評価機能やテキスト機能などの異なった機能を持つことが分かった。
著者
李 在鎬
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.84-98, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本稿では,大規模テストの問題作成におけるコーパスの利用可能性を考察した。考察においては言語テスト分野におけるコーパス利用の現状を紹介した後,試験問題の作成過程でコーパスを用いる利点について述べた。そして,読解の問題作成での利用を想定し,日本語能力試験の級区分に基づくコーパスデータの分析を試みた。分析においては,日本語能力試験の読解テキストを学習データ,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の収録データを評価データにし,判別分析を行った。この分析から『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の収録データが1級から4級のどの級に相当するかを明らかにし,問題作成における利用範囲を示した。最後に,日本語教育におけるコーパス分析の視点としては,定量的アプローチだけでなく,具体的な用例を確認しながら質的に分析していくアプローチも必要かつ重要であることを指摘した。
著者
大島 弥生
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.42-56, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
25

大規模テストにおける記述テストには,受験者選別の機能に加え,診断的評価の側面,正負の波及効果の側面がある。本稿では,アカデミック・ライティングと社会生活でのライティングについて,これらの側面からJSLの記述テストの新たな可能性を検討する。また,自動採点技術や日本語母語話者にとってのライティングの現状など,近年の技術発展や状況の変化を視野に入れつつ,記述テストの将来像について考察する。
著者
宮永 愛子 大浜 るい子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.31-38, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

本稿は,従来言い淀みや場つなぎ語などと言われてきたフィラーの中の「あの」に焦点を当て,談話構造が明快な道教え談話を用いて,「あの」のテクスト構成機能について検証するものである。道教え談話を,道順説明に相当する「現行部分」とコミュニケーション上の問題への対処に関わる「副次部分」から成るとした上で,「あの」の出現位置の特定を試みた。その結果,「あの」は,副次部分の導入と関係が深く,また,現行部分においては,現実との照合が必要な情報内容を導入する際に用いられることが多く,話し手が聞き手の理解ということに特に気を配る箇所で使用されるということを明らかにした。
著者
三宅 和子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.19-33, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
30

メディアは人間の身体感,世界観,コミュニケーションのあり方を変容させる力をもっている。近年の電子メディアの急速な浸透により,日常の様々な局面でメディアの影響が実感され,メディアへの関心や研究の機運が高まっている。日本語教育においても,「メディアの介在」を意識し検証することや,メディアを利用して自己表現や発信力を高めることが求められている。 メディア言語研究は,メディアを分析の枠組みの中に組み入れて研究する。本稿ではまず,メディアとことばが互いに関わってきた歴史から説き起こし,隣接領域のメディア研究を概観する。そして近年のメディア言語研究の流れを追いながら,対象となってきたメディアやトピックの変化を振り返る。その上で,研究の具体例として,放送談話における「はい」の機能を考察した研究と,日韓の漫画の役割語を比較対照した研究を取り上げ,メディア言語研究の意義と日本語教育への応用可能性について考える。
著者
田川麻央
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.34-47, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
31

本研究は,要点探索活動と構造探索活動,その両方を促す要点構造探索活動と構造要点探索活動が日本語中級学習者の文章理解に及ぼす影響を検証した。協力者は,国内で高等教育機関への進学を目指す中級日本語学習者86名である。計画は要点探索群,構造探索群,要点構造探索群,構造要点探索群,統制群の一要因被験者間計画である。割り当てられた活動を行いながら因果型の説明文を読んだ後,筆記再生課題と正誤判断課題を行った。データは要点理解,全体構造理解,要点構造の理解の観点から分析した。結果は,要点理解で構造要点探索群が構造探索群や要点構造探索群,統制群より効果があった。全体構造理解には差がなかった。要点構造理解は,構造要点探索群と要点探索群が促進した。以上より中級学習者にとって全体構造の理解は容易ではないが,構造と要点の順番で両方を探索させることが要点理解と要点構造の2つの理解を促進させることが示唆された。
著者
大関 由貴 遠藤 郁絵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.61-75, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本稿は,教師が「自律的な学びとは何か」という問いを持ち,漢字の一斉授業を対象に自らの実践を振り返り,分析を行った実践報告である。意思決定の主体と教師の学習観の変容に焦点を当て分析した結果,初期の教室では教師が学習を設計,主導していたのに対し,学習活動が変化すると,学習者が自身に合った方法や内容を考えながら実践するという意思決定が行われていたことが明らかになった。また,学習過程の観察を通し,教師の関心は学習者主体の学びへと移り,次第にそれを尊重する態度が生まれていった。これらの分析結果を踏まえ,自律的な学びの支援者として,教師には1)学習者の主体的な学びを理解すること,2)そのために彼らの学習過程から学ぶこと,3)学習者が意思決定を行いやすい協働的な学習環境を設計することが求められると考えた。
著者
池田 順子 深田 淳
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.46-60, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
19

Speak Everywhere(以下SE)は,インターネットの繋がる環境にいれば,どこからでもアクセスでき,学習者が個人的に口頭練習をしたり,オーラルテストを受けることができるウェブベースのシステムである。本稿では,このSEを取り入れたスピーキング重視のコース設計とその実践について報告する。SEをカリキュラムに組み込み,教室活動と密接に連動させることで以下の成果が得られた。(1)本来,個人練習であるべき基礎口頭練習が授業時間外で個人的にできるようになり,口頭練習の機会が増え,さらにそこで得られた授業時間をコミュニケーション活動の充実にあてることができた。(2)オーラルテストを,対面式に加え,SE上でも行うことによって,貴重な授業時間を確保でき,またスピーキング能力を評価する機会も増えた。(3)学習者はより快適な環境で,個人的に練習したり,オーラルテストを受けたりすることができた。(4)学習者の多くがSEのシステムに対し,肯定的な評価をした。
著者
張 勇
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.100-114, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
20

中国人日本語学習者は,異文化の社会や人々に対してどのような態度を持っているか,そこにはどんな特徴があるかを検討するため,日本語専攻の大学生(276名)を対象に,英語専攻,フランス語専攻,他文系専攻の学生(523名)と比較して,対日態度と一般的異文化態度の質問紙調査を行った。その結果,日本語専攻の学生は,①全体的に肯定的対日態度を持っていること,②学年が上がると,否定的対日態度と中立的対日態度が上昇し,対日認識が多面化する傾向があることが観察された。否定的対日態度については,特に対人関係の項目で数値が上昇した。また,一般的異文化態度に関しては,③異なる文化一般に対して相対的に高い敬意を持っていること,④学年の上昇に伴い,異文化接触の際の不安が解消され,異文化の人々とのコミュニケーションで,より柔軟な姿勢を取るようになる可能性が示唆された。
著者
立川 真紀絵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.189-197, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

本研究では,中国人ビジネスパーソン(以下CBP)に対するインタビューから,CBPの在日日本企業における異文化間コンフリクトの対応方法を分析した。その結果,「回避」「順応」の対立管理方式が多く用いられ,対応方法には言語・文化的マイノリティーや部下であること等の職場環境的な要因の影響が考えられた。一方,それらの多くは発想の転換や相手情報・企業ルールに基づく理解等,多様な働きかけを伴っており,戦略的な使用が観察された。「回避」「順応」がCBPに多用される中で,その一部は主体的な対立管理となり,有効に作用していることが示唆された。
著者
王 先哲
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.142-158, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
23

本稿は,親しい日本人女性同士の依頼会話のビデオを中国人日本語学習者(C)と日本語母語話者(J)に視聴してもらい,両者が被依頼者の行動をどのように予測するか,何を手がかりに予測するかを認知の視点から,比較,考察したものである。 分析の結果,依頼直後に被依頼者が内容の確認をしている段階から,CよりJの方が断られると早く予測し,一度断られると予測したら,その後も,引き受ける可能性があると予測を立てる者は少ないことが分かった。また,報告された予測の手がかりにも違いが見られた。CはJより被依頼者からの依頼内容に関する「情報要求」を受諾の兆候だと認識する者が多く,被依頼者の念押しの「確認要求」に対して,被依頼者の顔の表情や姿勢など「表象的手がかり」を合わせて,予測の根拠に挙げる者も多かった。一方,JはCより「依頼内容の負担度への言及」,「責任感の表明」を拒絶の前触れだと認識する傾向があり,特に「責任感の表明」に対する認識は日中の間で大きく異なることが分かった。
著者
鎌田 倫子 中河 和子 後藤 寛樹
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.95-110, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
8

エンパワメント評価は評価活動自体をエンパワメント活動と捉え,評価によってプログラムの改善を目指す評価方法である。エンパワメント評価はどのように実践され,組織や当事者にどのような変化がおこるのか,日本語プログラムにおける評価実践から見えてきた点を報告する。大学の理系小規模日本語プログラムでエンパワメント評価を実践し,プログラム当事者のエンパワメントによりプログラムの改善を目指した。評価実践を1期実施した中間点で,プログラム当事者である教員の変化について分析した。エンパワメント評価の導入には,プログラムがエンパワメントされることを希求する「エンパワメント文脈」が必要とされることから,当該プログラムのエンパワメント文脈について検討した。より困難なプログラムに向くとされるエンパワメント評価を,同様の困難を抱える日本語プログラムに適用すればプログラムの改善に繋がることが期待される。