著者
福田 純也 稲垣 俊史
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.31-44, 2013 (Released:2017-03-21)
参考文献数
12

本研究は,稲垣(2009)の追試により,目的を表す表現「ために」と「ように」における,中国語話者によるタメニの過剰般化が第一言語からの転移によるものなのか,実証を試みた。先行研究が示唆するように,タメニの過剰般化が中国語の「為了」との形式の類似に起因するものならば,この現象は中国語話者特有の現象だと考えられる。本実験では,日本語話者11名,中国語を第一言語とする日本語学習者11名,中国語以外を第一言語とする日本語学習者11名によるタメニとヨウニの習得状況を比較した。その結果学習者2グループ間でタメニの容認度に大きな差はみられない一方,中国語以外を第一言語とする学習者はタメニとヨウニの両方を容認する傾向が見られ,中国語話者はヨウニの代わりにタメニを容認するタイプの過剰般化が多いことが示された。以上の結果により本研究は,タメニとヨウニの習得における第一言語の影響を確認し,更に詳細な知見を付加したと言える。
著者
李 文平
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.63-77, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
30

本研究では,教科書の改善の方法を探るために,中国で使用されている日本語教科書のコロケーションを調べ,母語話者の使用実態との比較を行った。今回の調査の結果,次の三点が明らかになった。第一に,教科書のコロケーションは頻度も種類も母語話者の使用より多い。第二に,教科書において母語話者がよく使うコロケーションを提示することは,これまでの日本語教育と補完し合うものと期待できるにもかかわらず,現行の教科書は母語話者の使用実態を十分に考慮していない。特に,「影響を受ける」「役割を果たす」などトピックに依存せず,広く使われているものを積極的に取り入れていない傾向がある。第三に,教科書は新出単語を母語話者がよく使うコロケーションの形で提示しておらず,母語話者があまり使わないコロケーションを大きく取り上げる傾向も見られた。これらの問題点を指摘した上で,今後の改善点を提案した。
著者
山田 智久
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.32-46, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
27

本研究は,日本語教師二名へのPAC分析調査を3年の間を空けて,2回行い,教師のビリーフの変化,および変化を促した要因について分析したものである。PAC分析調査の結果の比較から教師のビリーフには,その性質によって変化しやすいものと変化しにくいものがあることが分かった。変化しやすいビリーフの特徴としては,形成されて間もないものであることや同質のビリーフが存在せずに単独で存在していることなどが挙げられた。反対に,変化しにくいビリーフの特徴としては,新人教師の頃に獲得されたビリーフであることや同じ性質を持つビリーフが集まったビリーフの塊が形成されていることなどが挙げられた。
著者
葦原 恭子 小野塚 若菜
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.1-16, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
17

経済のグローバル化を背景に,日本企業に就職を希望する高度外国人材に対する就職支援事業が実施されている。一方で,企業における高度外国人材の活用があまり進んでいない要因として,採用時の能力判定が難しいことが挙げられている。また,高度外国人材のビジネスコミュニケーション能力を伸ばす教育の必要性が指摘されている。そこで,本研究では,ビジネス日本語能力を評価するシステムとして,また,ビジネス日本語教育の現場における到達目標レベルの設定に活用することを目的としてビジネス日本語Can-do statementsを開発した。開発にあたっては,BJTビジネス日本語能力テストの測定対象能力を参考に項目を構築した。そして,予備調査に基づいて再検証を行った結果,ビジネス日本語Can-do statementsの妥当性が高まった。しかし,一部の項目には問題点が残っていることから,今後の更なる検証の必要性を指摘した。
著者
S.M.D.T. ランブクピティヤ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.112-130, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

本研究では,日本語母語話者(JNS)とスリランカ人シンハラ語母語話者(SNS)が感謝の送り手と受け手の「親疎関係」及び「同位・上位関係」を基に感謝場面をどのように理解し,どのような感謝表現を使用するかを調べた。調査方法では,JNSとSNS,各10組ずつを対象に,「友達が忘れ物を渡す」,「見知らぬ人が忘れ物を渡す」,「友達の家を訪問する」,「先生の家を訪問する」という4つの場面でロールプレイを行ってもらった後,フォローアップインタビューに応えてもらった。調査の結果,SNSは感謝の送り手と受け手の関係が親しいと認識した場合,相手に距離を感じさせないように感謝の表出をしないことと,感謝の受け手が先生の場合,上位関係に対する尊敬の念を込めて感謝を表出することがわかった。一方JNSは,互いの関係性の「親疎」及び「同位・上位」という要素を認識してはいるが,どの場面においても感謝を「定型表現」で表出することがわかった。
著者
滑川 恵理子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.49-63, 2015 (Released:2017-06-21)
参考文献数
13

言語少数派の子どもに対し教科学習を支えるための言語能力育成が議論されているが,表面的な理解や丸暗記ではない概念学習が必要である。本稿では概念形成の過程に注目し,子ども自身や親の生活に関わる知識や体験を抽象概念と結びつける,母語と日本語による国語の支援授業におけるやり取りをヴィゴツキー理論および言語生態学の視点から質的に分析した。事例において,母親や支援者という身近な大人が働きかけ,子どもが応答する中で,生活体験に裏打ちされながら概念が変化し,広がっていく過程が認められた。この結果から,豊かな体験を積むこと,体験(具体)と抽象とを結びつけるため他者との十分な交流が確保されることの重要性が示された。言語少数派の子どもに対しては母語と日本語の両言語を介して体験と交流が得られる学習環境の整備が必要である。今後の課題として複数言語に通じた人材育成の必要性と所属クラスでの概念学習の検討が挙げられる。
著者
庵 功雄
出版者
日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.58-68, 2009

<p> 「でしょう(だろう)」には推量と確認の2つの用法がある。しかし,実際の発話データを分析した結果では確認が多数派である。特に,推量の「でしょう」の言い切りの用法は極めて少ない。「でしょう」で言い切ることができるのは発話者が「専門家」である場合(天気予報はその典型である)など一部の場合に限られる。にもかかわらず,日本語教科書では推量の「でしょう」(言い切り)は必ず導入されている。これは「体系」を重視する日本語学的発想によるものであり,「日本語学的文法から独立した」日本語教育文法という立場からは否定されるべきものである。本稿では発話データと日本語教科書の分析を通して,「でしょう」の実相を明らかにし,それに基づいて「でしょう(及び「だろう」)」の導入の順序について論じる。本稿は白川(2005)らが主張する日本語教育文法の内実を豊かにすることを目指すものである。</p>
著者
大場 美和子 中井 陽子 寅丸 真澄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.46-60, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
48

本研究では,会話データを対象とした多様な研究を「会話データ分析」という包括的な概念で捉え直し,学会誌『日本語教育』創刊号から153号で会話データ分析を行う研究論文170本を対象に,その研究の動向を年代別に分析した。まず,『日本語教育』中の(1)会話データ分析論文数の比率,(2)分析データ場面の傾向(母語場面,接触場面,両場面),(3)会話データの種類の傾向について年代別に集計した。次に,この集計結果に加え,各論文が分析項目として設定している項目も詳細に見つつ,当時の日本語教育の歴史的・社会的状況をふまえた総合的な分析を行った。この結果,80年代から会話データ分析の論文が増加し,分析も専門化・詳細化し,会話データ分析の研究成果を教育現場で活用することを主張する論文が増加していることが明らかとなった。今後は,より専門化・詳細化していく研究成果を多様化する教育現場で活用できるよう,会話データ分析の知見を多分野で共有し,連携していく重要性を主張する。
著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.30-45, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
12

本稿では,終助詞「もの」について,多くの先行研究や日本語教育での導入における意味・用法の記述(主に正当化や言い訳に用い,主に若い女性や子供が用いる)の妥当性を母語話者の使用実態を基に検証し,その本質的意味を考える。また,非母語話者の使用実態を調査し,コミュニケーション上の問題点を考察する。結果は次の4点である。1.「正当化・言い訳」用法は使用が少なく,理解・同意を提示/要求する用法や例などを示し理解を促す用法の使用が多い。2.性別・年齢差による使用の偏り(主に若い女性が使用)は各用法においてない。3.意味は「先行発話/事態の正当性を示す根拠を強い気持ちで提示する」ことを表す。4.非母語話者は上級者であっても使用が少なく,理解・同意を提示する用法の不使用がコミュニケーション上の問題点となりうる。以上の結果から,日本語教育では頻度・有用性ともに高い,理解・同意を提示する用法での導入を提案する。
著者
中西 久実子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.17-29, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
19

学習者は「弟は10歳だけだ」など不自然な「だけだ」を多用する。先行研究ではこのような「だけだ」は質を規定する名詞述語に接続すると不自然になるとされている。 本稿では「だけだ」が質を規定する名詞述語に接続しても不自然にならない反例があることを指摘し,「だけだ」が不自然になる原因を解明する。「Xだけだ」というのはたとえば「朝食はバナナだけだ」のように「X+X以外」のセットを前提集合とし,その否定「X+X以外のセットではない。Xはあるが,X以外はない」を表していなければならない。しかし,問題となる「だけだ」では前提集合「X+X以外」があり得ない。質を規定する述語Xにつく「だけだ」では「X+X以外」が,「Xであり,かつ,X以外だ」になるからである。たとえば,学習者が用いる「弟は10歳だけだ。まだお酒は飲めない。」の場合,「弟が10歳であり,かつ,20歳だ」はあり得ないので,「だけだ」が不自然になる。
著者
白石 知代 松田 文子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.1-16, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
15

本稿は「ぬく」を後項とする複合動詞「V-ぬく」を取り上げ,コア理論を援用してその意味を記述したものである。これまで「V-ぬく」の大半は本動詞「ぬく」の意味が希薄化した統語的複合動詞であること,これらの「V-ぬく」には「貫徹」(例:走りぬく),「極度」(例:悩みぬく)などの用法があることが指摘されている(姫野,1999)。しかしこのような説明だけではL2学習者に納得のいく説明とはなりにくい。そこで本稿では本動詞の意味から複合動詞の意味推測が可能となることを目指し,本動詞「ぬく」の意味を「場所Yの中からYの外へXが移動することを表すが,その移動には必ず「抗う力」が伴う」と捉え直し,「ぬく」のコア図式を提示した。こうすることで,本動詞「ぬく」と語彙的/統語的複合動詞「V-ぬく」の意味の共通性を示すことが可能となる。
著者
山本 富美子 二通 信子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.94-109, 2015 (Released:2017-06-21)
参考文献数
9

人文・社会科学系に多い「資料分析型」論文で,論文筆者が資料をどのように引用・解釈して結論へと導いているのか,論理展開のための解釈構造を分析した。その結果,引用・解釈に関わる文には「A中立的引用文」,「B解釈的引用文」,「C引用解釈的叙述文」,「D解釈文」の4種があり,それぞれ独自の機能を果たしていることが判明した。Aは資料の着目点を中立的立場から引用・提示し,Bは資料を論文筆者の立場から引用して解釈構造の軌道に乗せる。Cは資料との内容的関連性を持たせつつ論文の解釈構造の中で引用叙述し,Dは資料には一定の距離を置いて読み手を論文の解釈構造の中に巻き込み,主張・結論へと導く。論理展開パターンにはDの論点提示からA,B,Cの引用・解釈,Dの論文筆者独自の議論を経て,重要な論理展開要素の認定または内容の小括で締めくくられる。量的特徴からもB,C,Dの効果的指導が求められる。