著者
石井 政嗣 大杉 頌子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.192-197, 2019 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

症例は70代女性。来院2日前からの嘔気嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した。炎症反応の軽度上昇と腹部造影CT検査にて少量の腹水,腸閉塞,回腸に隆起性病変を伴う腸重積と思われる所見を認めた。血流障害を伴う小腸腫瘍による腸重積と診断し,同日腹腔鏡下イレウス解除術を施行した。回盲部より約40cmの漿膜面に充血を伴った小腸腫瘍と考えられる部位を認めたが,重積,重積の跡は認めなかった。病変部位を臍部創より体外に出し,腫瘍を露出しないように小腸部分切除術を施行した。術後に小腸を切開したところ,内部より椎茸が検出された。術後経過は良好であり,術後14日目に退院した。 小腸腫瘍に伴う腸重積と術前診断したが,結果的に食餌性イレウスであった症例であり,鑑別診断を考えるうえで有用であると思われたので報告する。
著者
塚田 俊郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.42-65, 1960-06-30 (Released:2011-02-17)
参考文献数
76

During the period from July, 1957, to September, 1958, epidemiological studies were carried out, with the specific object of investigating familial prevalence, on Ascaris and hookworm infection among the inhabitants of 10 agricultural communities and 1 residential area (the control) in and around Chiba City. The rural areas where the investigation was carried out had been so selected that they included lands with different geographical features-the reclaimed land, the land where paddy-fields predominte, and the land where fields prodominate. With over 90 per cent of the inhabitants participating in the program, tests for infection with Ascarides and hookworms were conducted by means of smear method, suspension method and culture method.1. The smear method proved superior to the suspension method in detecting unfertilized Ascaris eggs, whereas the culture method was better than the suspension method in detecting hookworm eggs.2. Farmers and part-time farmers had a higher incidence of positive reactions to tests for Ascaris and hookworm infection than did non-farmers. The farmers cultivating fields ranging in area from 0.1 to 2.0 tan (1 tan corresponds to 0.245 acre) had the highest rate of Ascaris infection.Hookworm infection had no relation to the area of land cultivated. Both Ascaris and hookworm infection rates were low among the farmers using night soils fertilizer by mixing it with manure, than among the farmers employing other methods of night soil disposal.3. Among adults, those who were engaged in agriculture had the highest incidence of both Ascaris and hookworm infection. Among those engaged in agriculture, males had a higher incidence of infection with Ancylostoma duodenale, and females with Ascarides and Necator americanus.4. A. duodenale' showed the highest familial prevalence, followed by Ascarides and N. americanus in the indicated order. The prevalence of A. duodenale and N.americanus among those members of the family who were engaged in agriculture was as high as the familial prevalence, but the prevalence of Ascarides among those members of the family who were engaged in agriculture was lower than familial prevalence. Familial infection of these parasite worms in terms of the relations between husband and wife and parent and child gave the following picture: husband had a close relation with wife in infection with Ascarides; parent and husband had a close relation with child and wife, respectively, in infection with A. duodenale; and husband had a close relation with wife in infection with N.americanus.5. The following picture of mixed infection was obtained: Ascarides were closely related to A. duodenale in infecting children; Ascarides and A. duodenale were closely related to A. duodenale and N. americanus, respectively, in infecting adults. No close relation was found between Ascarides and N. americanus.6. In the light of the result of present investigation, it would seem that A. duodenale has larger possibilities of invading the human body by mouth than N. americanus.
著者
高橋 友明 畑 幸彦 石垣 範雄 雫田 研輔 田島 泰裕 三村 遼子 前田 翔子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.804-808, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
5

我々は,先行研究で腱板機能不全患者は僧帽筋上部線維の過剰な収縮と下部線維の活動低下が肩甲帯筋のアンバランスを生み,それによって腱板の機能不全を引き起こすと述べた。本研究の目的は,我々が行なっている肩甲骨周囲筋のアンバランスを矯正するための『肩甲帯筋トレーニング』の効果を明らかにすることである。対象は肩関節に愁訴のない健常人50例100肩で,下垂位最大外旋位(棘下筋テストの肢位)で男性は5kg負荷,女性は3kg負荷で3秒間保持を3回実施し,同時に僧帽筋の筋活動を計測した。次に肩甲帯筋トレーニングを5秒間2回実施後に前述と同様の方法で筋活動を計測し,トレーニング前後での筋活動量と利き手・非利き手側間での筋活動量を比較した。なお,測定筋は僧帽筋上部・中部および下部線維であり,表面筋電計Noraxon 社製MyoSystem 1400Aを用いて得られた波形を筋活動量として,3秒間の筋活動量積分値を最大随意収縮で正規化した活動量%MVCを算出した.僧帽筋上部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に抑制されており(p<0.05),僧帽筋中部・下部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に多かった(p<0.05)。今回の結果から,我々が行なっている肩甲帯筋トレーニングは,肩甲骨周囲筋のアンバランスを改善し,肩甲骨の安定化に寄与している可能性が示唆された。
著者
永美 大志 前島 文夫 西垣 良夫 夏川 周介
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.14-22, 2015 (Released:2015-07-10)
参考文献数
45
被引用文献数
3

農薬は第二次大戦後急速に使用量が増加し, 農薬中毒が農村医学の主たる課題になって久しい。本学会はこの課題に長年取り組んできており, 特別研究プロジェクト・農薬中毒部会では全国の関連医療施設の協力のもと臨床例調査を行なってきた。2010~12年分について報告する。 農薬中毒 (障害) の症例が, 37施設から137例報告された。性別では男女ほぼ同数で, 世代別では, 70歳代 (22%) が最も多く, 60, 80歳代 (各18%) が続いていた。中毒に関わる農薬曝露状況は, 自殺が71%を占め, 誤飲誤食 (13%), 散布中等 (12%) が続いていた。月別に見ると, 5月が16%で最も多かった。 診断名としては, 急性中毒 (83%) が大部分で, 皮膚障害 (6%), 眼障害 (5%) もあった。散布中などの曝露では, 急性中毒の割合が42%に低下し, 皮膚障害 (47%) が上回った。 原因農薬としては, アミノ酸系除草剤 (29%) が最も多く, 有機リン系殺虫剤 (25%), ビピリジリウム系除草剤 (8%) が続いていた。成分別にみると, グリホサート (38例) が多く, スミチオン (18例), パラコート (12例) が続いていた。 死亡例が23例報告された。うち8例がパラコートによるものであり, 3例がスミチオンによるものであった。 パラコートは, 致死率 (80%) において, 他の農薬成分を大きく引き離していた。死亡数は減少の傾向にあるが, このことは同剤の国内流通量の減少と相関していた。
著者
岡田 晴恵 田代 眞人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.775-782, 2005 (Released:2005-04-05)

2004年1, 2月には山口県や京都府などの養鶏場を高病原性鳥インフルエンザの流行が襲い, 夥しい鶏が死に, また周囲の多くの鳥が殺処分された。感染の拡大を防止するために, 感染死した鳥や感染の疑いのある鳥を殺処分し, 半径30キロメートル以内でのニワトリや卵の移動禁止措置がひかれた。白い作業着にゴーグル, マスク, 長靴, 手袋を装着した作業員が, 大きな穴に多くの鶏を埋め立て, 養鶏場を徹底的に消毒する姿は未だに印象に強く残っていることであろう。この鳥インフルエンザ問題はとかくマスコミ等では, 食の安全という観点から取り上げられる傾向にあった。もちろん, 食生活において, 鶏卵や鶏肉の需要は大きく, 日本の食文化や食生活を担う上でも非常に重要である。また, 通年の人のインフルエンザワクチンも鶏卵を使って, 種ウイルスを増殖させて製造される。インフルエンザワクチンの安定的供給を得るためにも, 鳥インフルエンザの流行は是が非にもくい止めなければならない。 しかしながら鳥インフルエンザの問題の核心的部分は, 鳥インフルエンザウイルスが遺伝子変異や遺伝子交雑を起こして, 人のインフルエンザウイルスに変身して, 人の世界で流行する新しいインフルエンザウイルスとなって大流行を起こすことにある。 過去における, スペインかぜやアジアかぜ, 香港かぜ等の新型インフルエンザウイルスは, このように鳥インフルエンザウイルスが基となり, 遺伝子交雑や変異を起こして人の新型ウイルスとなって人の世界に侵入してきたのである。このため, 多くの人々が犠牲となり, 社会に大きな影響を与えてきたのだ。これらの新型インフルエンザはいままで平均して27年の周期で起こり, 世界的流行を起こしてきた。前回の新型インフルエンザ出現は1968年の香港かぜにさかのぼる。 さらに現在では火種となる鳥インフルエンザが, 東南アジアではすでに蔓延の様相を見せている。昨年の春以来, 一旦は流行の終息宣言が出されたタイやベトナムでも, 今年に入って鳥インフルエンザの再流行の報告がなされ, 人への感染も報告されている。しかも人に感染すれば7割にもおよぶ高い致死率を示している。さらに悪いことに, 現在流行中の鳥インフルエンザは鶏に全身感染を起こし, 1, 2日で死に到らしめる高病原性鳥インフルエンザとされる強毒型のウイルスである。このH5N1という高病原性鳥インフルエンザウイルスが, 人の世界に入ってくる可能性は高く, さらに時間の問題であると多くのインフルエンザウイルスの専門家は心配している。 このような背景の中で, 今回の鳥インフルエンザウイルス問題の本質は, なんであろうか, 新型インフルエンザはどうやって鳥インフルエンザウイルスから誕生するのであろうか, 新型インフルエンザウイルスが発生した場合にはどのようなことが想定されるのであろうか, という内容を解説したい。新型インフルエンザを正しく理解することによって, 過去に猖獗を極め, 多くの被害を残した新型インフルエンザの事例を教訓とし, 被害を最小限度に抑えることを目的としたい。
著者
森本 直樹 倉田 秀一 沖津 恒一郎 砂田 富美子 赤池 康
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.146-150, 2013 (Released:2013-10-09)
参考文献数
22

Collagenous colitis (CC) は,従来比較的まれな疾患と考えられてきたが,疾患概念の浸透とともに報告例が増加している。本邦では特にランソプラゾール (LPZ) に関連した症例の報告が多く,当院でも直近の1年間で3例を経験した。代表的な1例を提示する。症例は84歳,女性。他院処方のLPZを内服中。3か月間持続する水様性下痢の精査のために全大腸内視鏡検査を施行した。大腸粘膜は下行結腸近位部にわずかな毛細血管増生を認める以外に異常所見は認められなかったが,大腸各部位から生検を施行しCCと診断した。LPZを中止したところ2週間後には下痢は改善した。他の2例も慢性下痢症で受診され,内視鏡を施行して組織学的にCCと診断,内服中のLPZを中止することで比較的速やかに症状の改善が得られた。慢性下痢症の鑑別診断においては,本疾患も念頭にいれて,薬剤服用歴など詳細な病歴の聴取や,生検検査を含めた内視鏡精査を行なうことが重要と考えられた。
著者
中田 実 渡部 真也
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.1023-1029, 1990-01-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
14

1983年, 滋賀県草津市内で水田作業を行なった農民のなかから, 作業後の手や足に今まで経験したことのない痒みの強い皮疹の発症する者が多発した。皮疹の症状, 発症の経過などから鳥類住血吸虫性セルカリア皮膚炎が強く疑われたので, 草津市内の全農家の1,621名および近江八幡・能登川地区の農民174名を対象としてアンケート調査を実施した。裸足あるいは短靴で水田作業を行なった農民のうち, 192名の四肢に水田作業後, 皮疹発症がみられ, その皮疹の症状, 発症の経過などから108名(58.1%)の皮疹は鳥類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎が疑われた。このうち草津市内の発症者に対して電話による聴き取り調査を行ない詳細に確認したところ, 電話で回答した83名中の約90%はほぼセルカリア皮膚炎に間違いないものと考えられた。またこれらのセルカリア皮膚炎と考えられた者のうち6名について間接蛍光抗体法による血中抗体価測定を行なった結果, いずれもセルカリア皮膚炎と診断された。問題になった水田に棲息する貝類の99.3%はカモ類住血吸虫の中間宿主になりうるヒメモノアラガイで, 貝類からはセルカリアは検出されなかったが, この地区の水田にはカモの飛来が確認されている。以上より今回草津市の水田作業者に多発した皮疹はカモ類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎であろうと考えられた。
著者
後藤 亮吉 佐々木 ゆき 花井 望佐子 永井 雄太 田上 裕記 中井 智博
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.836-842, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

自主グループの発足要因と自主グループへの参加及び継続に関連する要因を明らかにすることを目的とした。対象は設楽町の自主グループ参加者とし,自主グループへ参加したきっかけ(以下:参加要因),自主グループを発足した要因(以下:発足要因),自主グループを継続している要因(以下:継続要因)を調査した。自記式質問紙法にて行い自由記述の内容をKJ法に準じて整理した。類似した内容のラベルをまとめ,サブカテゴリーを生成し,類似したサブカテゴリーからカテゴリーを生成した。 96名(男性7名,女性89名)から回答を得た結果,自主グループの参加要因は,6つのカテゴリーが得られ「他者からの勧め」が最も多かった。次に,自主グループの発足要因として,7つのカテゴリーが得られ「仲間の存在」が最も多かった。自主グループの継続要因としては,7つのカテゴリーが得られ「自身の健康」が最も多かった。自主グループの参加・発足要因として「仲間の存在」など他者の存在が大きく影響していると考えられた。また,継続要因は「自身の健康」であり,主体的に参加することにより,さらに参加継続に繋がっていると考えられた。以上のことから,地域の実情と人々のつながりを考慮し,住民の健康意識を高め,住民を主体とした自助・共助の関係性を築くことが重要であると考えられた。
著者
北川 寛 古谷 元康 王 正貫 櫛渕 大策
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.933-936, 1987-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11

当院においては農協検診を推進しており, この際, しばしば子宮筋腫がみつかり, これに対して子宮全摘出術が行なわれているが, 女性にとって特有な臓器である子宮を摘出することは, 肉体的, 精神的苦痛が大きいと考えられる。そこで子宮摘出を受けた128名の婦人に対し, 手術前後に性生活において, どのような影響を受けているかを, アンケート調査するとともに考察を行なった。1) 子宮筋腫の診断を受けると, 46.1%の人が性生活に変化を来たすが, 手術後は23.5%が手術前の性生活に戻る。2) 術後の性生活開始時期は, 31~61日が最も多く44.5%, 次いで61日以後27.3%, 30日以内22.7%であった。3) 性交時の症状として, 疹痛9.4%, 出血5.5%, 分泌物減少19.5%があり, 30%に性欲低下がみられた。日常生活では月経が無くなり, 快適になった者が多いが (57.8%), 術後頭重感, 疲労感, 体力低下を訴える者もみられた。4) 術後の性障害を軽減するために, 心因的なものには術前術後に, 患者および夫への指導を十分行ない, 時には漢方療法やバリ治療も試みるべきである。5) 今後高令化社会を迎え, 子宮全摘女性も増加することから, 心身医学的カウンセリングや一般社会への啓蒙的なアプローチも必要である。
著者
平松 靖史 品川 晃二 高畑 統臣 佐藤 俊雄 水田 玲美 権守 邦夫 宮崎 哲次 小嶋 亨
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.145-149, 1998-07-20 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

アマニタトキシン (キノコ毒) 中毒による劇症肝炎を報告する。71歳, 男性, 下痢を主訴にして来院。入院時の血液生化学検査でGOT518U/L, GPT333IU/L, BUN77.3mg, Cre 7.0mgと急性の肝腎障害を認めた。意識レベルは清明であったが, 入院後, 劇症肝炎を来たし血漿交換等の治療に抵抗し死亡した。又一緒に毒キノコ中毒になり死亡した妻は司法解剖され, 採取された血液, 脳, 肝臓の組織からキノコ毒であるα-amanitinが検出された。司法解剖でキノコ毒を証明しキノコ中毒死を証明した法医学的報告は今までなく, その検査結果も合わせ報告する。本例も死後肝生検で致命的劇症肝炎像を証明した。
著者
松尾 光浩
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.617, 2020 (Released:2020-03-06)
参考文献数
6

薬剤師による疑義照会は医薬品の適正使用や安全性の確保に貢献する。近年,臨床知識を持ち合わせた薬剤師の育成が行なわれているにもかかわらず,実臨床において医師側がどのような疑義照会を求めているのか明らかにした報告はない。そこで本研究では,糸魚川総合病院に在籍する医師(62名)を対象に文部科学省が定める薬学教育コアカリキュラムを参考に作成したアンケート調査を行なった。選択肢を「是非指摘してほしい」,「指摘されても良い」,「分からない」および「指摘してほしくない」の順番で順位付けを行ない,各項目について平均順位を求めた。その結果,全32項目における平均順位は989.5±98.5であった。平均順位が有意に低かった項目は「医薬品の安全性(副作用,有害事象)」(711.3位,P=0.040)と「薬の作用(薬理作用,薬物相互作用)」(754.8位,P=0.035)であった。一方,平均順位が最も高かったのは「薬物治療,治療方針」(1,194.7位,P>0.05)であった。次に,糸魚川市内の調剤薬局にこれらの結果を開示し,薬剤師に対するアンケート調査を実施した(回収率65%)。その結果,「本研究結果は今後の疑義照会に活用できる」に対して「非常に当てはまる」または「少し当てはまる」を選択した薬剤師は28名(87.5%)と多かった。本研究から,医師は医薬品の安全性や薬理作用に関わる疑義照会を強く望んでいることが明らかとなった。今回得られた結果により薬剤師による疑義照会が促進され,医療安全の向上に貢献することが期待される。
著者
重田 匡利 久我 貴之 工藤 淳一 山下 晃正 藤井 康宏
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.61-67, 2007 (Released:2007-09-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1

マムシは琉球列島を除く日本の全土に分布している毒蛇であり春から秋にかけて多くみられる。本邦では年間,約10名前後が死亡する1)。田畑や山中での被害報告が多く農村医療では重視される。平成11年から平成18年においてマムシ咬傷35例を経験し臨床像および治療とその経過について検討した。患者は7歳から80歳 (平均60歳) 男性17名,女性18名であった。全例に咬傷部の腫脹と疼痛を認めたが,全身症状は16例 (46%) に認め眼症状が高率であった。血液検査上の異常はCPK高値を24例 (69%) で認め重症度と相関していた。治療は切開排毒処置のうえ原則全例入院とし,独自のマニュアルを初期治療に活用した。治療の結果,症状改善傾向が認められるまでの中央値は3日であった。入院日数の中央値は7日であった。腫脹などの局所症状の消失には時間がかかり治療期間の中央値は31日間であった。受傷から受診までの時間により重症度に差を認め重症化した1症例では集中治療を必要とした。マムシ咬傷では迅速かつ適切な初期治療が必要であると思われた。
著者
小林 史岳 唐澤 忠宏 松下 智人 小松 修 安達 亙
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.499-503, 2017-11-30 (Released:2017-12-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

ツキヨタケ中毒の6 例を報告する。ある住民が採取してきたキノコを,バター焼きにして近隣住民6 人で食べた。食事開始1 時間から1 時間30分で嘔気が出現し,全員が当院救急外来を受診した。救急隊により,摂取したキノコがツキヨタケである可能性が示された。入院し対症的,保存的加療を行ない,全員翌日に退院した。しかしながら, 1 名が退院翌日からの腹痛,食思不振のため,もう1 名が退院当日からの嘔吐,下血のため,退院翌々日に再入院となり,後者はCT で十二指腸から空腸に強い壁肥厚を認めた。 ツキヨタケ(Lampteromyces japonicus)による典型的な症状は,摂取後30分から3時間での嘔吐,下痢,腹痛だが,重症例では数日後に腸管の浮腫をきたすことがあるため,注意が必要である。
著者
藤田 紘一郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.777-781, 2002-03-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
13
著者
松岡 悟 庄司 亮 阿部 元 田村 芳一 齊藤 崇
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.437-447, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
23

急性冠症候群(ACS)において回復期(第Ⅱ相)リハビリテーションの脂質プロファイルに対する効果と運動耐容能に対する効果との関連を明らかにするため,PCIに成功し回復期リハビリテーションを実施したスタチン服用中のACS連続104例(62±8歳,男性86例)に対し,リハビリテーション前後のCPXと同時期の脂質データについて後ろ向きに検討した。4か月間のリハビリテーションにより,予測値に対する%ATは67±11%から76±12%へ有意に増加(p<0.001),HDLCは41.5±11.8mg/dLから51.4±12.6mg/dLへ有意に増加(p<0.001),LDLC/HDLC比は2.3±0.8から1.8±0.6へ有意に低下した(p<0.001)。HDLC変化量と%AT変化量との間に正の相関を(r=0.463),HDLC変化率と%AT変化率との間にも正の相関を(r=0.485)認めた。またLDLC/HDLC比変化量と%AT変化量との間に負の相関を(r=-0.379),LDLC/HDLC比変化率と%AT変化率との間にも負の相関を(r=-0.374)認めた。重回帰分析の結果,HDL変化量およびLDLC/HDLC比変化量の関連要因として%AT変化量が,HDL変化率およびLDLC/HDLC比変化率の関連要因として%AT変化率が抽出された。以上により,ACS患者に対するスタチン服用下の回復期リハビリテーションにおいて,脂質プロファイルの改善と%ATの改善とが関連することが示された。