著者
田口 豊恵
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.429-432, 2011-07-01 (Released:2012-01-15)
参考文献数
5

【目的】本研究の目的は,ICUに入室した患者の死亡月と時刻に関する法則性を明らかにすることである。【方法】本研究のデザインは回顧的研究である。対象は,京都府下にある総合病院ICU入室中に死亡した患者。5年間の入院診療録をもとに,患者の死亡年月日,死亡時刻および死に至った直接的な原因について調査した。死亡時刻に関しては,日周期変動を三角関数あてはめによる最小自乗法を用いて解析し,時間的法則性について評価した。【結果】患者の死亡月には夏季および冬季にピークがあり,一方,死亡時刻は15時前後にピークがあることが示された。【結論】患者の死亡月や死亡時刻が示すリズム性を考慮した上で,ICUのシフトワークや管理体制の強化をはかる必要がある。
著者
江木 盛時 森田 潔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.17-25, 2012-01-01 (Released:2012-07-10)
参考文献数
30

【背景】重症患者に施行される解熱処置について,その有益性は明らかでない。【方法】解熱処置が重症患者に与える影響に関して系統的レビューを行う。【結果】解熱処置が重症患者に与える影響を検討した研究は16文献あった。これらの文献から以下の見解を得た。(1)解熱効果は大きくばらついている。(2)解熱処置開始体温は統一されていないが, 半数の文献で38.5℃としている。(3)解熱処置で体温が低下すれば,心拍数・分時換気量・酸素消費量が減少する。(4)薬物を使用した解熱処置により血圧が低下する。(5)解熱薬による生理学的パラメータの改善が,患者予後の改善をもたらすかを十分な検出力で検討した介入試験は存在しない。【結語】解熱処置により呼吸・循環・代謝負荷が軽減されるが,解熱処置の臨床的予後改善効果を示した研究は存在しない。解熱処置の有益性・有害性について結論を出すためには,異なる解熱戦略を比較した無作為化比較試験が必要である。
著者
板垣 大雅 西村 匡司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.605-612, 2017-11-01 (Released:2017-11-01)
参考文献数
39
被引用文献数
1

患者-人工呼吸器非同調(以下,非同調)は,人工呼吸中に見られる頻度の高い事象である。人工呼吸器のガス供給パターンと,患者の呼吸パターンにずれがある場合,非同調が生じる。非同調は,ガス交換障害,肺過膨張,呼吸仕事量の増大,人工呼吸期間やICU滞在期間の延長をきたし,患者予後への影響も指摘されているが,その認識は高いとは言えない。非同調は,(1)患者の吸気努力に一致して人工呼吸器の送気が開始しない不適切なトリガー(オートトリガー,ミストリガー,二重トリガー,逆行性トリガー),(2)吸気から呼気へ転じるタイミングのずれ(送気の早期終了,送気の終了遅延),(3)人工呼吸器の送気流量と患者の吸気流量の過不足,の3つに大別される。ベッドサイドの医療者には,これら非同調の原因,グラフィックモニタ波形上の特徴,対処方法について深い理解が求められる。
著者
堀田 国元
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.97-105, 2000-04-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
31
被引用文献数
5 4

0.1%以下の薄い食塩水を陽極と陰極が隔膜で仕切られた電解槽で電気分解すると,陽極側に低pH(2.2~2.7)で有効塩素濃度20~60ppmの電解水を生成する装置が開発されている。強酸性電解水と呼ばれるこの電解水は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や薬剤耐性緑膿菌など耐性菌を含む広範な病原細菌に著効を示す。主たる殺菌基盤は次亜塩素酸で,その殺菌機構にはヒドロキシラジカルが主役的に関与すると考えられている。強酸性電解水は,活性は高いが不安定なために市販されておらず,電解装置を現場に設置してユーザーが必要なときに作製し,新鮮なうちに使用する。すなわち,次亜塩素酸の良さを活かし,欠点を克服した新技術といえる。厚生省が手指や内視鏡の洗浄消毒を認めているほか,環境や血液透析機,さらに褥瘡や創部などの洗浄消毒に使用されている。手荒れが少なく,毒性や濃度も低いので,人にも環境にもやさしいなど利点が多い。タンパク性有機物に弱いが,使用対象を考慮した使い方により洗浄消毒の実効を上げられるので,今後利用が拡大すると思われる。
著者
日本集中治療医学会感染管理委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.60-67, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

重症患者や腎代替療法を取り扱うICUにおける抗菌薬適正使用は特に重要であり,抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship, AS)活動の推進が要求される。ICUにおいては,一般病棟とは別に抗菌薬使用状況調査が必要であり,AS活動の指標となるベンチマークの設定も望まれるが,日本においてそのような報告はない。そこで,多施設のICUにおける2017および2018年度の注射用抗菌薬の使用日数(days of therapy, DOT)による調査とAS活動に関するアンケート調査を実施した。参加施設は48ユニット(43施設)で,DOTs/100患者日は98.8,中央値97.5[四分位範囲(interquartile range, IQR)76.5〜114.3]であった。各抗菌薬別使用量は,カルバペネム系薬は中央値14.7(IQR 11.0〜19.5),タゾバクタム/ピペラシリン9.2(IQR 5.5〜12.5),抗methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)薬8.3(IQR 6.4〜13.3)であった。ASチームのICUへの介入は,ほぼ毎日が41.7%,介入タイミングは抗菌薬投与開始後が62.5%であり,改善の余地がある。本調査で得たデータは,日本のICUにおけるベンチマークとして活用できると考える。
著者
瀬尾 勝弘
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.130-131, 2014-03-01 (Released:2014-03-19)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
伊藤 隆史 垣花 泰之
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.499-504, 2015-11-01 (Released:2015-11-06)
参考文献数
32

敗血症の際には,血管内血栓形成が進行し,しばしば播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)を合併する。血管内血栓形成は,血流を悪化させ,臓器障害の原因となりうることから有害事象と考えられているが,感染を局所に封じ込めるうえで重要な役割を果たしている可能性が指摘され,“immunothrombosis”という概念で注目されている。しかしながら,感染を局所に封じ込めることができずにimmunothrombosisが全身に拡散した場合,多臓器が障害され,生体防御機構であったはずの血栓形成が宿主にとってむしろ有害なものになってしまう。このように,immunothrombosisが全身に拡散して制御不能に陥った状況が,敗血症性DICの病態基盤であると考えられる。本稿では,immunothrombosisで重要な役割を果たしている好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)の放出機序や意義について概説し,NETsから遊離してくると考えられている細胞外ヒストンが敗血症性DICの病態に及ぼす影響について考察する。
著者
今井 孝祐
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.503-504, 2009-10-01 (Released:2010-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
崎尾 秀彰
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.276-278, 2008-07-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1
著者
矢野 隆郎 山内 弘一郎 丸田 豊明 丸田 望 窪田 悦二 竹智 義臣 恒吉 勇男
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.375-380, 2011-07-01 (Released:2012-01-15)
参考文献数
9

【症例】34歳,男性。【病歴と経過】化学工場で深さ2 mの35%塩酸タンクに転落し,約10分間全身が塩酸に浸り,転落から10分後(転落の目撃者なく最長予測時間)に発見され,約18分後に当院に搬送された。来院時,意識清明で発語も認めたが,顔面・頭部を含む全身熱傷のため気管挿管した。動脈血液ガス検査で,pH 6.76,PaCO2 26.3 mmHg,PaO2 268 mmHg,BE -27.8 mmol/l,乳酸値124 mg/dl,P50 98 mmHgと高度な代謝性アシドーシス,高乳酸血症,P50の上昇を認めた。重炭酸ナトリウム250 mlを投与したところ,PaO2 492 mmHg,P50 34 mmHgと一時的な改善を認めたが,多臓器不全が進行し2日目に死亡した。【結語】塩酸が皮膚から大量に吸収され,高度な代謝性アシドーシスとP50の上昇を合併した症例を経験した。症状の進行が急速かつ重篤であり,救命には至らなかった。文献上同様な報告は見当たらなかった。
著者
小竹 良文 佐藤 暢一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.263-272, 2009-07-01 (Released:2010-01-20)
参考文献数
45
被引用文献数
11

重症患者管理において心拍出量測定による酸素供給量の評価は有用であるとされてきた。これまで心拍出量の標準的な測定方法は肺動脈カテーテルを用いた熱希釈法であったが,最近,低侵襲心拍出量モニタが注目されている。これらのモニタの評価にあたっては,精度の評価が重要となる。異なるモニタから得られる結果の一致度を検討する手段としては,相関分析や回帰分析よりも,Bland-Altman分析が適切である。Bland-Altman分析を適切に解釈するためにはいくつかの注意点が存在する。特に一致度の許容範囲をあらかじめ定義しておくことが望ましいとされているが,基準は確立されておらず,モニタの特徴に合わせた評価が必要である。また,繰り返し測定によって1人の対象から複数のデータを収集することが一般的になりつつあるが,この場合は特殊な統計学的処理を必要とする。本稿では自験例を示しながら,これらの点に関して解説を加えた。
著者
河野 崇
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-19, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)
参考文献数
57
被引用文献数
2

高齢手術患者の増加に伴い,術後神経認知障害への対策が重要課題となっている。術後神経認知障害として,術後せん妄と術後認知機能障害が挙げられる。術後せん妄と術後認知機能障害はそれぞれ異なる疾患単位と考えられているが,共通する病態として脳内炎症が注目されている。脳内炎症は,活性化したミクログリアから過剰に炎症性サイトカインが産生・放出された状態である。特に,海馬ミクログリアは加齢により炎症性反応性が増加することが知られており,高齢者に術後神経認知障害が生じやすい原因と考えられる。また,全身麻酔,手術侵襲に伴う全身炎症,痛み,急性ストレス反応,神経障害などは脳内炎症を誘発する。したがって,これらの要因を最小化することが術後神経認知障害の予防・治療に重要である。本稿では術後神経認知障害の病態に関する最新の研究動向を示すとともに,脳内炎症を標的とした予防・治療戦略を考察したい。