著者
矢嶋 尚生 鮫島 雄祐 松島 純也 坪内 陽平 金指 秀明 櫻井 馨士 長島 義宣 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.121-125, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
16

甲状腺クリーゼの誘引として感染や虚血性心疾患などが知られている。甲状腺クリーゼの背景にある甲状腺中毒症の原因にはバセドウ病が多いが,無自覚・未診断のバセドウ病も存在する。近年,コロナワクチン接種後にバセドウ病を発症したという報告が増えている。今回我々は,新型コロナワクチン初回接種後に甲状腺クリーゼを発症した患者がその後バセドウ病と診断された症例を経験した。症例は既往のない67歳男性で,新型コロナワクチン接種後の翌朝に発症した倦怠感と呼吸困難により救急要請した。心電図検査,心臓カテーテル検査で虚血による急性心不全と診断され,治療後にICUへ入室した。来院時より頻脈が継続し,入院後に発熱も認めたため,甲状腺ホルモンなどを調べたところ,甲状腺クリーゼおよびバセドウ病と診断された。甲状腺クリーゼは,急病や外傷だけによらず,ワクチン接種後にも発症することがある。
著者
柏木 友太 鈴木 昭広 丹保 亜希仁 川田 大輔 西浦 猛 小北 直宏 藤田 智
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.43-47, 2016-01-01 (Released:2016-01-08)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

Ia群抗不整脈薬シベンゾリンを含む処方薬を過量服用し,心停止を来した症例を経験したので報告する。症例は10歳代後半,男性。家族に処方されていたシベンゾリン100 mg 30錠,バルプロ酸200 mg 118錠,ブロチゾラム0.25 mg 28錠,イブプロフェン100 mg 34錠を自宅で服用した。内服から70分後に当院救命センターへ搬送された。心電図は完全右脚ブロック波形であったが当初循環は保たれていた。しかし,来院15分後より心室頻拍(ventricular tachycardia, VT)となり,やがてpulseless electrical activity(PEA)となった。心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation, CPR)に反応しないため経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)を導入した。ICU入室後,血漿交換を行い加療したところ徐々に心拍出量が増加し,第10病日に後遺症を残さず独歩退院となった。過量服薬によるIa群抗不整脈薬中毒は稀であるが,作用機序に基づく治療法を知っておく必要がある。重症例では急激な循環不全に至る可能性があり,機械的補助循環の導入を考慮した初療対応や適切な血液浄化法の選択が求められる。
著者
吉田 知由 早川 峰司 本間 多恵子 小野 雄一 和田 剛志 柳田 雄一郎 澤村 淳 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.519-522, 2015-11-01 (Released:2015-11-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1

抗痙攣薬であるゾニサミドは,副作用として発汗障害を認めることが知られており,小児てんかんの分野での報告は散在するが,成人症例での報告は少ない。今回,頭部外傷の急性期から亜急性期にゾニサミドを使用した成人症例で,発汗障害からの高体温を来し,感染症などとの鑑別に苦慮した症例を2例経験した。症例1は21歳の男性,自動車事故で受傷し,入院22日目からゾニサミド300 mg/dayの使用を開始した。その後39℃の高体温を認めたが感染徴候はなく,ゾニサミドを減量したところ3日後に解熱した。症例2は25歳の男性,自動車事故で受傷し,入院3日目からゾニサミド300 mg/dayを使用していた。40℃近い高体温の持続を認めたためゾニサミドを中止したところ,3日後に解熱した。今回,ゾニサミドが原因と思われる高体温症例を経験したが,成人症例と言えどもゾニサミドによる発汗障害からの高体温を来しうるため,高体温時の鑑別として忘れてはならない。
著者
金子 尚樹 西澤 英雄 藤本 潤一 七尾 大観 木村 康宏 大和田 玄 森村 太一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.271-274, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
8

低カリウム血症では近位尿細管でのアンモニア産生が増加するため,肝性脳症患者では高アンモニア血症の増悪因子となり得る。ただし,肝不全や門脈体循環シャントがないにもかかわらず低カリウム血症により高アンモニア血症をきたした報告例は非常にまれである。本症例は77歳の脂肪肝患者で,常用薬であった芍薬甘草湯の偽性アルドステロン症による低カリウム血症と,意識障害を伴う高アンモニア血症を認めたが,血清カリウム値の上昇に伴い高アンモニア血症と意識障害も改善した。①低カリウム血症による近位尿細管でのアンモニア産生増加や,②アルカローシスによるアンモニアの血中への移行増加,③慢性低カリウム血症による尿素合成能低下や④脂肪肝による尿素合成能低下によって高アンモニア血症をきたしたと考えられた。したがって,肝機能障害の程度にかかわらず,低カリウム血症と意識障害を認めた際は高アンモニア血症を鑑別する必要がある。
著者
卯野木 健 櫻本 秀明 花島 彩子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.145-154, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
79
被引用文献数
1 1

集中治療の最終的な目的は,原疾患や合併する臓器不全を治療し,それに伴う生理学的な安定を達成することのみではなく,身体的,精神的に回復し,低下した生活の質(quality of life, QOL)を取り戻すことも含まれる。近年,ICU退室患者の中に,外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder, PTSD)や長期にわたる認知機能障害が残る例が明らかになっている。これらの障害に関しては十分な検討が行われていないものの,PTSDはICU在室中の鎮静管理,特にそれに関連する妄想的記憶が要因の一つだと考えられている。また,認知機能障害は低酸素血症などのほか,ICU在室中のせん妄が要因の一つであると考えられている。いずれも,ICU在室中の鎮静管理が関与していることが示唆され,適切な鎮静管理を考える上でこれらの長期的な予後を視野に入れた対応も必要となる。
著者
鶴田 良介 山本 隆裕 藤田 基
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.389-397, 2017-07-01 (Released:2017-07-05)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

睡眠は睡眠ポリグラフィによりレム睡眠とノンレム睡眠に分類される。睡眠-覚醒リズムは概日リズム機構とホメオスタシス機構の2本立てでコントロールされている。その調節にあたっては,視床下部前部に睡眠の,後部に覚醒の中枢があり,GABA(γ-aminobutyric acid),ヒスタミン,オレキシン,アセチルコリン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの神経伝達物質とアデノシンが関与している。免疫-内分泌系も睡眠調節に関わっており,炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインはそれぞれノンレム睡眠を促進,抑制する。重症患者の睡眠の特徴は,睡眠潜時の延長,睡眠効率の低下,徐波睡眠とレム睡眠の減少,睡眠の断片化などである。環境要因も含めたICUでの治療・ケア,基礎疾患,重篤な病態が睡眠障害を引き起こす。このような睡眠障害はICU環境とケアの改善により患者の睡眠に関する満足度が上がり,せん妄の発症率が低下することが報告されている。
著者
茶園 美香
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.431-435, 2006-10-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

心理学における「ニード論」,「ストレス-コーピング理論」について紹介し,看護での捉え方や使い方について述べる。患者は,病気によるさまざまな制約により自分でニードを充足することが困難で,人間としての営みを続けることが妨げられている。看護では,病気を持った患者のニードに焦点を当て,基本的なニードが充足するための援助を行なっている。今回は,ニードに焦点を当てた看護論の中から,ヘンダーソンのニード論を紹介し,ニードに対する看護の進め方を論述する。また,患者は病気によって,さまざまなストレスに遭遇している。ストレスの持続は,身体的・心理的に患者を脅かし,病気の回復を遅らせるだけではなく,身体的・心理的に危機的な状況を引き起こす。看護では,患者がストレスに対して効果的なコーピングができるように援助している。今回は,ラザルスらのストレス-コーピング理論を紹介し,看護の進め方を論述する。
著者
日本集中治療医学会J-PADガイドライン検討委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.150-158, 2020-03-01 (Released:2020-03-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(2014年)」公表後のわが国の集中治療領域における痛み・不穏・せん妄管理の現状を明らかにすることを目的として,2016年1月に日本集中治療医学会会員を対象にアンケート調査を実施し,今回,2019年3月に2回目の実態調査を実施した。調査の結果,ガイドラインの認知度・活用度は高かったが,同職種内での周知度は低迷していた。ガイドラインの推奨項目については,実施率の増加が確認できたが,さらに周知度や遵守率を高めるため,ガイドラインの周知活動の継続,組織内でガイドラインの教育・普及を推進できる人材への支援活動の充実が今後の課題である。
著者
山本 浩 澤村 淳 向井 信貴 菅野 正寛 久保田 信彦 上垣 慎二 早川 峰司 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.401-404, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

過去10年間において男性2名,女性4名の計6例の急性リチウム中毒を経験した。炭酸リチウムの服薬量は,全症例において中毒域に達するとされる40 mg/kg以上であった。血清リチウム濃度が判明した症例は2例であり,ともに致死濃度である4 mmol/lを超えていたが,1症例に持続的血液濾過透析を施行した。輸液療法主体の症例では血清リチウム濃度の減少勾配は比較的緩やかであり36時間後でも有効治療域を超えていたが,continuous hemodiafiltration(CHDF)症例では速やかに血清リチウム濃度は治療域に減少し,CHDF離脱後の再上昇も認められなかった。血清リチウム濃度の測定ができない施設があり,臨床症状では中毒症状の判断ができないことが指摘されている。血清リチウム濃度が中毒域を超えている場合,あるいは中毒域に達するとされる40 mg/kg以上の服用例では急性血液浄化法導入を考慮すべきと考えられた。
著者
野村 哲也 西良 雅夫 中筋 加恵 澤井 克彦 吉川 範子 立川 茂樹 安宅 啓二
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.223-226, 2004-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10

急性の肺血栓塞栓症を来し心停止となったが,3時間の心肺蘇生法の後に心拍が再開し,ほとんど神経学的欠損なしに回復した症例を経験した。症例は57歳,女性。左股関節再置換術を受けるため,深夜の長距離バスを利用して翌朝に来院,直後に心停止となった。乗車中ほとんど動いていなかった。3時間の胸骨圧迫による心肺蘇生法の後,心拍が再開し意識が回復した。肺動脈近位部の血栓が心臓マッサージにより破砕され,心拍が再開した可能性が考えられた。長時間の心肺蘇生法を行ったが出血所見を認めなかった。肺動脈の血栓を破砕吸引し,血栓溶解療法を行った。その後肺水腫となり,循環も不安定であったが,徐々に改善し人工呼吸器からも離脱できた。上肢にわずかに振戦を認めたのみで独歩退院できた。心肺蘇生法をいつまで行うかについては明確な基準はないが,長時間の心肺蘇生法にもかかわらず神経学的後遺症をほとんど認めなかった症例を経験した。