著者
日本集中治療医学会理事会 日本集中治療医学会レジリエンスの高い医療提供体制構築タスクフォース
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.485-492, 2022-09-01 (Released:2023-02-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1

我が国の集中治療医療提供体制を強靭化するために,以下の6つの項目について提言する。①有事の際に速やかに集中治療医療提供体制を確立できるように,診療報酬や人員配置の取り決めを事前に計画し,ICU使用状況のモニタリングデータに基づいた集中治療医療提供体制の弾力的な運用を行う。それには国家・行政による的確かつ迅速な対応と専門家との連携が必須である。②国家の危機管理として,集中治療医療の担い手の分布および整備の実態を把握することは,極めて重要であり,集中治療科を診療科として認め,政府による医療施設調査の対象科とすべきである。③平時より質の高い集中治療医療を提供し,有事における医療崩壊を防ぐためには,集中治療科専門医を国が認める専門医として計画的に養成することが重要である。また,いざという時の予備役として,平時には一般診療科医として働きながらも,一定レベルの人工呼吸管理などを含む重症患者管理を行うことができる医師を養成するシステム(認定制度など)の確立が必要である。④看護師および臨床工学技士の育成・認定プログラムを制定し,急激な集中治療医療の需要増加に備えるべきである。⑤集中治療科医による集中治療医療提供を効率的に行うため,平時より広域集中治療搬送システムとIT技術を駆使した遠隔ICUによる診療支援を推進する。⑥集中治療医療は,救急・周術期管理・重症病態の管理など守備範囲が広く,集中治療医療提供体制の充実と維持は,医療提供体制全般に関わる問題である。「集中治療医療対策室」を独立した組織として厚生労働省内に設置し,集中治療医療提供体制を充実させるための,ハコ・ヒト・モノに関わる様々な問題に対応し,計画的な整備を行っていく必要がある。
著者
竹本 正明 岡本 健 福田 健太郎 盧 尚志 井本 成昭 中澤 武司 松田 繁 田中 裕
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.231-235, 2012-04-01 (Released:2012-10-01)
参考文献数
9
被引用文献数
2 4

動物の常在菌Pasteurellaが,ヒトへの全身感染を引き起こすことは稀である。今回,軽微な猫掻傷後に敗血症性ショックに至った症例を経験した。症例は68歳男性。胸部打撲後のショックとして搬送されたが,来院時の炎症反応が強く,左肘・左前腕・左側胸部に軽度腫脹・発赤を認めた。外傷は胸部打撲痕と11日前に受傷した左前腕の猫掻傷のみであった。全ての発赤部を切開したところ,壊疽性筋膜炎は否定的であったが,同部浸出液および血液培養よりPasteurella multocidaが同定され,同菌による敗血症性ショックと診断した。来院日より広域抗菌薬投与を含む集中治療を行ったが,第2病日にdisseminated intravascular coagulation(DIC)を合併した。DICは一時改善したものの,耐性菌による混合感染を併発し,第24病日に死亡した。
著者
板垣 大雅 大藤 純
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.510-517, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
56

人工呼吸は肺のみならず横隔膜を傷害し,横隔膜機能障害は不良な転帰に関係する。 人工呼吸による横隔膜傷害の機序には,①過剰な補助による低活動,②不十分な補助による過剰活動,③呼気相における奇異性収縮,④高い呼気終末陽圧の急激な減量,が挙げられる。 人工呼吸中の横隔膜傷害を予防するためには,適切なレベルの横隔膜活動を維持することが重要であり,吸気努力のモニタリングと注意深い人工呼吸器設定,患者-人工呼吸器非同調の回避がこれを可能にする。敗血症などの重症病態は横隔膜傷害を加速させるため,横隔膜保護を意識した人工呼吸戦略はICU患者の予後改善のために考慮されるべきである。本稿では,横隔膜の基礎知識,人工呼吸に関連した横隔膜機能障害の臨床エビデンスと発生機序,横隔膜保護戦略の要点を概説する。
著者
ICU 機能評価委員会 今中 雄一 林田 賢史 村上 玄樹 松田 晋哉
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.227-232, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2 8

ICU入室患者の治療成績を向上させるには,患者の重症度評価と予後に関するデータ蓄積が必要不可欠である。そこで,全国のICUの実態・治療等に関する松田班調査が2006,2007,2008年度に行われた。各年度の10月の1ヵ月間にICUに入室した患者を対象に,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアを用いた重症度評価と予後,各施設のICU運用状況等を調査した。今回は2007年度の調査結果を検討した。ベッド数は6床が最も多く,中央値は8床であった。午前10時に専任の医師がいない施設が21%あり,夜間にはさらに増加した。APACHE II スコアは11,12点が最も多く,実死亡率はAPACHE II スコアから予測される死亡率より低かった。今後は治療に関与する因子を特定し,わが国ICUの治療成績向上を目指す必要がある。そのためには,恒常的なデータ収集システムの構築が必須である。
著者
原田 大 内野 滋彦 瀧浪 將典
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2014-03-01 (Released:2014-03-19)
参考文献数
29

ICUでは一般病棟以上に積極的なチーム医療活動が必要不可欠であり,その一員を担う薬剤師の役割も重要となっている。また厚生労働省も,薬剤師は医薬品の管理責任者としてのみならず,処方内容を含めた治療計画への積極的な関与を行うよう指針を発表している。このような背景より,現在報告されている文献から情報収集し,ICUに薬剤師を常駐させる必要性について考察した。ICUにおける薬剤師の介入によって,医療費削減,薬剤関連エラーの減少,死亡率の減少などの効果が多くの文献において報告されており,薬剤師は医療経済への貢献だけでなく,安全な医療の提供や患者転帰にも大きな影響を与える可能性が示唆された。本邦においても,ICUに薬剤師を常駐させ,日々の診療に積極的に介入を行えば,その臨床的意義は大きいと考えられる。
著者
江木 盛時 西村 匡司 森田 潔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.25-32, 2011-01-01 (Released:2011-07-20)
参考文献数
50
被引用文献数
2

【背景】重症患者の発熱は頻繁に生じ,外表クーリングや薬物による解熱処置が日々行われている。しかし,発熱を解熱すべきか否かに関する治療指針は存在しない。【方法】発熱と解熱処置が患者予後に与える影響に関してsystematic reviewを行った。【結果】発熱あるいは解熱処置が患者予後に与える影響を検討した研究は,27文献存在した。これらの文献から,以下のような見解を得た。(1)発熱の発生は,重症患者の死亡率増加に関与する。(2)感染症合併患者では,発熱が死亡率低下に関与する可能性がある。(3)発熱に関する観察研究で解熱処置の情報を含めて解析したものはない。(4)積極的に解熱処置を行うことで,患者予後が悪化する可能性がある。【結語】重症患者の発熱を解熱すべきであることを示す根拠は乏しく,一概に解熱処置を行うことは推奨されない。この分野の知見を深めるために,十分なpowerの大規模多施設前向き観察研究を実施する必要がある。
著者
黒澤 茶茶 清水 直樹 宮嵜 治 中川 温子 阪井 裕一 宮坂 勝之
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.27-31, 2009-01-01 (Released:2009-07-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

【目的】小児心肺蘇生での至適な胸骨圧迫の深さ(強さ)について検討した。【対象】1歳以上8歳未満の小児で,胸部CT検査を行った66例と,蘇生後に死亡し,病理解剖された10例。【方法】CT画像から胸郭前後径と胸骨後面-椎体前面間距離を計測し,胸骨圧迫時に残存する胸骨後面-椎体前面間距離を推計した。病理解剖所見から,胸骨圧迫による有害事象の有無を検討した。【結果】胸郭前後径の2分の1ならびに3分の1で胸骨圧迫したと仮定した際の残存距離は,各々1.5±3.4 mm,22.6±4.4 mmであり,2分の1で胸骨圧迫した際には98%で10 mm未満,30%でマイナス値となった。病理解剖所見上,有害事象は皆無であった。【結論】小児心肺蘇生での適切かつ安全な胸骨圧迫の深さは,「胸郭前後径の3分の1」と考えられた。小児の心肺蘇生法の指導にあたっては,この結果を正しく理解し,至適指標に準じた充分な強さ(深さ)の胸骨圧迫が実施される指導が肝要である。
著者
渡邊 圭祐 宮崎 貴志 片山 哲治 菊田 浩一 中村 夏樹 田中 秀幸 木村 龍範 矢埜 正実
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.375-378, 2012-07-01 (Released:2013-01-16)
参考文献数
15

症例は62歳,男性。下肢静脈瘤に関連した蜂窩織炎にて過去8回の入院歴があり,今回も蜂窩織炎で入院した。入院後まもなく看護師の目の前で突然意識消失するも短時間で意識が回復し,その後1時間あまりの間に6回の心室細動が出現した。ICUに入室し鎮静薬投与および気管挿管後からは心室細動の出現がなく,第2病日に抜管した。ICU入室時の体温は41℃であり,V1,V2誘導で特徴的なcoved型ST上昇を認めた。その後ST上昇は改善するも,Brugada症候群と診断し,埋め込み型除細動器埋め込み術を行った。平常時の心電図はBrugada型の所見は認めず,過去の発熱時の心電図においても軽度ST上昇が認められたが,Brugada症候群と診断するのは不可能であった。発熱を契機に診断されるBrugada症候群の報告は散見され,発熱患者を診る機会の多い集中治療医も銘記しておくべき病態である。
著者
中道 園子 高田 幸治 福光 一夫 木内 恵子 北村 征治 山本 勝輔 里村 憲一 澤竹 正浩
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.141-148, 1998-04-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
18

1996年7月の大阪府堺市における大腸菌O-157感染症症例のうち,重症脳症を伴う多臓器不全症例を経験した。症例は7歳,女児。発熱・腹痛・血便を認めO-157感染症と診断された。第5病日より溶血性尿毒症症候群の発症と同時に急性脳症を合併し,意識レベルが低下した。2,3日で多発性脳梗塞が急激に悪化,また,血管透過性の亢進した活動性病変が長期にわたって持続し,経過中,心筋炎・血管透過性肺水腫などを合併した。血液透析・血漿交換・エンドトキシン吸着などの治療にもかかわらず,救命不可能であった。他臓器に比べ脳障害はとくに不可逆性で,進行が急速かつ重篤なためその早期診断と治療が最優先されるべきである。
著者
半井 悦朗 釘宮 豊城 稲田 英一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.49-56, 2008-01-01 (Released:2008-08-15)
参考文献数
12

大気中と血中とのガスの移動は,呼吸生理学において重要な部分を占めている。今回は,主に呼吸管理に必要な理論と重要な数式,およびその誘導法について,臨床に即して解説した。ほとんどの数式は,気体の状態方程式とドルトンの法則を適用すれば誘導できる。本稿では,理解しやすい肺胞気式の新しい誘導法も紹介する。
著者
仲村 佳彦 中野 実 町田 浩志 鈴木 裕之 蓮池 俊和 畠山 淳司 村松 英之 新井 基展
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.379-383, 2012-07-01 (Released:2013-01-16)
参考文献数
17

症例は32歳,男性。水酸化カリウム水溶液の水槽に転落し,当院に搬入となった。肉眼的観察法ではII度熱傷と診断し,熱傷面積は約85%であった。流水洗浄を約2時間15分行い,保存的加療の方針とし集中治療管理を行った。第7病日に敗血症性ショック,acute respiratory distress syndrome(ARDS)を認めた。抗菌薬投与にて一旦は全身状態改善傾向であったが,ARDSが進行し,第14病日に死亡退院となった。剖検を行い,肺の病理にてdiffuse alveolar damageを認め,ARDSと矛盾しない所見であった。ARDSの原因は熱傷および感染症が考えられた。皮膚病理では一部III度熱傷を認め,肉眼的観察法による評価よりも深達度は深く,初診時または保存的加療継続中に深達度評価を誤っていた可能性が考えられた。外科的治療のタイミングを逃していたため,他の深達度評価法も検討すべきであった。
著者
篠原 史都 水谷 公司 加賀谷 斉 幸村 英文 尾崎 祐輔 河合 佑亮 西田 修
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.521-526, 2021-11-01 (Released:2021-11-01)
参考文献数
21
被引用文献数
2

【目的】術後管理目的にICUへ入室した患者を対象にし,抜管直前の呼吸機能検査における再挿管の関連因子を検討した。【方法】2016年6月から2018年7月の間に術後管理目的で人工呼吸器装着のままICUへ入室した症例のうち,抜管直前に呼吸機能検査を行えた症例を対象とした。対象者を抜管後72時間以内の再挿管の有無で再挿管群と非再挿管群に分けた。 APACHE Ⅱscore,性別,術式にて1:2でマッチングし,背景因子と抜管直前の呼吸機能検査値を比較検討した。【結果】全324例中再挿管群は9例(2.8%)であった。背景因子はマッチングした非再挿管群の18例との間に差を認めなかった。呼吸機能検査値では最大呼気圧(maximal expiratory pressure, MEP)のみ再挿管群で有意に低値であった。再挿管理由の半数以上が痰の喀出困難であった。【結論】MEPが低値であると再挿管に至る可能性が高いことが示唆された。
著者
安田 英人 讃井 將満 日本集中治療教育研究会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.217-226, 2013-04-01 (Released:2013-05-14)
参考文献数
51
被引用文献数
1

近年,米国のカテーテル関連血流感染症予防ガイドラインでは,皮膚消毒薬として0.5%を超える濃度のグルコン酸クロルヘキシジンを含有するエタノール溶液〔クロルヘキシジンアルコール溶液(chlorhexidine alcohol solution, CH-AL)〕の使用が推奨されるようになった。しかしながら本邦では,依然として10%ポビドンヨードを使用する施設が多い。CH-ALのポビドンヨードに対する優位性を示す研究結果が多いが,エビデンスレベルは必ずしも高くなく,CH-AL濃度による予防効果の違いも明確ではない。CH-ALの妥当性を評価するためには,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)およびカテーテルコロニゼーション予防における0.5%を含めた複数のCH-ALとポビドンヨードの効果を比較検討する質の高い研究を行う必要がある。
著者
柴田 雅士 上嶋 健治 平盛 勝彦 遠藤 重厚 佐藤 紀夫 鈴木 知己 青木 英彦 鈴木 智之
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.25-31, 1998-01-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
38

マグネシウム(Mg)は細胞内へのカルシウム(Ca)流入を抑制するCa拮抗物質で,インターロイキン6(IL-6)は臓器の侵襲程度を反映するサイトカインである。心筋梗塞症(AMI)急性期に硫酸Mgを投与し,再灌流障害を示唆する現象の抑制効果を検討した。再灌流療法施行患者連続22例を,再灌流療法前に硫酸Mg0.27mmol・kg-1を静脈内投与する群11例(Mg群)と非投与群11例(C群)とに無作為に割り付け,血中Mg2+濃度とIL-6を測定した。再灌流時の現象は再灌流不整脈,12誘導心電図上のST再上昇および胸痛の増悪とした。再灌流成功は20例(Mg群9例,C群11例)で,Mg群の平均血中Mg2+濃度は投与前0.39mmol・l-1から投与後1.04mmol・l-1に上昇した。再灌流不整脈の出現率はMg群がC群より有意に低く,ST再上昇度はMg群がC群より低い傾向にあった。血中IL-6ピーク値はMg群がC群より低かった。AMI急性期再灌流療法時の硫酸Mg投与は,虚血再灌流障害から心筋細胞を保護する可能性がある。