著者
内田 太郎 小杉 賢一朗 大手 信人 水山 高久
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.330-339, 1996-07-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
39
被引用文献数
14 8

山腹斜面土層内には地表面とほぼ平行にパイプと呼ばれる連続した空洞が存在することが広く確認されている.こうしたパイプによる水移動が斜面安定に与える影響について,研究の現状を検討し,解明すべき問題を提示する.本稿ではパイプ流の斜面安定に与える影響を通常の降雨時の現象と大きな降雨時の現象に分類した.通常の降雨時にはパイプは良好な排水システムとして働き,斜面安定に寄与すると考えられる.しかし,パイプは下流端が閉塞していることも考えられ,このようなパイプは排水システムとしては不完全であるため,崩壊の要因となることが考えられている.一方,大きな降雨時においては,浸透水量の排水システムの許容量の超過および地下侵食による排水システムの破壊が水の集中を引き起こし,パイプが崩壊の要因となることが考えられている.パイプが斜面安定に与える影響を解明するために検討すべき事項として,1)観察される現象が空間的・時間的に普遍的か否かを検討する,2)パイプの降雨流出過程に及ぼす影響を定量的に評価する,3)パイプの構造の動的変化を評価する,の3点が考えられる.
著者
近藤 純正
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.1-13, 1990-12-01 (Released:2009-07-23)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1
著者
中桐 貴生 安藤 大一 平山 周作 石川 重雄 丸山 利輔
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.242-249, 1999-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
3

西日本をおそった平成6年の(非超過確率年1000年を超えるほどの厳しい)大渇水時の農業用水管理の実態を整理・分析した.まず,供給サイドの問題として渇水調整協議会の構成,工業用水,生活用水,農業用水の節水率,渇水に伴う節水率の時間的経過,農業用ダムの節水率,ダムの貯水率と節水率の推移,節水に対する土地改良区の意向を示した.次に,取水施設サイドの対応を述べ,さらに土地改良区・農家の渇水対策として,水管理による節水と反復利用・井戸(地下水)による用水補給が行われたことを紹介するとともに,これらの対策状況に基づいて,いくつかの水系を5段階の渇水程度に分類した.最後に,要約としてこの年の農業用水と他種用水との対応について総括し,今後の農業用水のあり方やそれの持つ地域生態系の維持・保全の役割,管理用水の役割について述べた.
著者
北 祐樹 ⼭崎 ⼤
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
pp.35.1743, (Released:2022-05-13)
参考文献数
32
被引用文献数
3

国や自治体が整備する洪水ハザードマップは広く利用される一方で,水系ごとに洪水ハザードマップを個別作成することの大きな時間とコストが課題である.本研究では,グローバル河川氾濫モデルCaMa-Floodによる広域シミュレーション出力から日本の1000年確率規模の想定浸水域を作成し,公的なハザードマップと比較することで,モデル出力をハザードマップとして活用する可能性を議論する.再解析流出量を入力としてCaMa-Floodで計算した水位を極値解析して1000年確率規模の水位を得,高解像度の地形データでダウンスケールして想定浸水域図を作成した.得られた想定浸水域を公的ハザードマップと比較すると,バックウォーターによる浸水や分岐河道での浸水域が概ね表現されていた.一方で,上流からの越水や集水域境界を跨いだ流れで生じる浸水が一部表現されないという課題が確認され,CaMa-Floodで作成した想定浸水域内に含まれる人口は公的なハザードマップに比べ29%少なかった.グローバル河川氾濫モデル出力が洪水ハザードマップとして一定の精度を持つことを確認し,ローカルな洪水リスク評価への活用などの可能性を示した.
著者
平林 由希子 山田 果林 山崎 大 石川 悠生 新井 茉莉 犬塚 俊之 久松 力人 小川田 大吉
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.175-191, 2022-05-05 (Released:2022-05-06)
参考文献数
23
被引用文献数
2

アジアやアフリカの途上国などの洪水リスク情報の整備が不十分な地域で企業が事業展開する際は,グローバル洪水モデル(GFM)で作成した広域洪水ハザードマップが活用される.本報では企業実務で活用されている既存の広域洪水ハザードマップを比較し,それぞれ浸水域や浸水深の差異の要因をモデル構造や入力データに着目して分析した.その結果,低平地の浸水パターンは標高データの精度に左右されること,洪水防御情報の反映方法がGFM 間で大きく異なることが判明した.また,大きな湖に接する河川区間では背水効果,デルタ域では河道分岐の考慮が,それぞれ現実的な浸水域分布を得るのに必要なことが示唆された.これらの特徴を踏まえてハザードマップ選択のフローを用途ごとに整理した.全ての業種や目的に共通して利用を推奨できるマップは存在しない一方で,各マップの長所短所を一覧にすることで,ある程度客観的に使用すべきマップの優先順位を決められることが分かった.この知見は有償プロダクトを含む他リスクマップ使用を検討する場合にも拡張可能であり,企業実務において説明性の高い適切な浸水リスク評価を実施する上での基礎的な情報となりうる.
著者
ムルング デオグラティアス 椎葉 充晴 市川 温
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.555-568, 2002
被引用文献数
3

降雨遮断に対する三種類のモデル(Deardorffのべき関数式を用いたRutterのモデル,Deardorffのモデル,修正近藤モデル)に気象外力を与えて一年間のシミュレーションを行い,その結果を比較した.それぞれの降雨遮断のモデルには,ペンマンーモンティース式を組み合わせた.修正近藤モデルは,水収支を構成する種々の要素を考慮したものであり,降雨イベント間の蒸発散機構も取り入れられている.この蒸発散の計算には,Deardorffのべき関数式,キャノピーでの貯留量の変化,キャノピーからの流出が考慮されている.ペンマンーモンティース式は蒸発散量を決定するうえで核となる部分である.この式は日本あるいは試験流域で広く適用されており,本研究においても,降雨遮断モデルの比較の基礎として用いることにした.本研究では有効降雨に着目していることから,水収支のコントロールボリュームはキャノピーの上端から地表面までの間としており,水収支の計算には土壌水分量や蒸散量は含まれていない.モデルの計算結果から,森林キャノピーからの蒸発量は全降水量の22%から29%となることが明らかとなり,また,モデル間の差異は冬季の計算で大きくなることも明らかとなった.冬季は降水量が少なく,キャノピーの貯留量や降水量がポテンシャル蒸発量を満たさなくなるために,モデル間の違いがはっきり現れたものと考えられる.年間の有効降水量は総降水量の71%から78%,年間の蒸散量は727mmから733mm程度と算定された.また,修正近藤モデルにべき関数式を適用したところ,蒸散量の値には大きな影響が,蒸発量の値には若干の影響が見られた.修正近藤モデルによる計算結果は他の二つのモデルの結果とほぼ同等であり,水文モデルに対する時間単位の入力を算出するために使用できると考えられる.モデル間の蒸発散量の違いは,主として樹冠通過率と貯留量流出量関係の定式化の違いから生じている.
著者
仲吉 信人
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.238-250, 2016-07-05 (Released:2016-08-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本解説は,個人の動線に沿った微気象変化,およびそれに伴う人体生理応答を計測・評価する都市生気象学の新たな研究手法について紹介するものであり,本手法の根幹技術であるウェアラブルな気象・生理計測システム,およびそれを用いた都市街区での被験者実験に焦点を当て報告する.ウェアラブル計測システムは,微気象因子として全ての熱環境因子(気温,湿度,風速,短波・長波放射),生理因子では皮膚温度,脈拍,活動量指標,温熱感覚を計測する.微気象因子のうち,風速,短波・長波放射量は本手法のために開発した新センサ,グローブ風速・放射センサを用い評価する.本手法の応用例として,2011年8月22-24日にかけ岐阜県多治見市の都市街区にて温熱生理実験を実施した.本計測システムにより,AMeDASなどのルーチン観測網では評価できない街区微気象の局所性が可視化され,また微気象に対する生理応答に性差・体格差といった明確な個人属性の影響が見られることが確認された.都市の微気象評価や生気象研究における本手法の有用性が示された.
著者
天野 健作
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.77-83, 2014-05-05 (Released:2014-12-27)
参考文献数
46
被引用文献数
2

国際河川であるメコン川の流域に超大国である米国が急速に接近し始めている.オバマ政権発足後,米国の外交政策が「アジア回帰」に転換したことの一環だが,その目的の一つは,東南アジアに多大な影響力を及ぼす中国を牽制する意図がある.非流域国である米国の関与は,ミャンマーの民政化の進展でさらに拍車がかかった.こうした中,中国は相次いでダムを建設するなどメコン川の一方的な水資源の利用により,下流国が批判の声を強めつつあることで,メコン川流域では緊張の度合いが増しつつある.国際社会は依然として「力の政治」が一面で支配しており,国際河川の利用をめぐっても,こうした超大国の動向は,国際機関を軸とする国際的協力枠組みを分析する以上に重要な要因である.
著者
勝山 正則
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.3-5, 2020-01-05 (Released:2020-02-06)
参考文献数
3

森林流域に形成された湿地における水文生物地球化学的過程について検討した論文「勝山正則, 伊藤雅之, 大手信人, 谷誠 (2018) 森林流域に存在する渓畔湿地内の水文生物地球化学的過程とその表流水質に与える影響, 水文・水資源学会誌, 31, 178-189. DOI: 10.3178/jjshwr.31.178.」に2019年水文・水資源学会論文賞が与えられた.本稿は当該論文の背景や経緯とその後を記述するものである.
著者
山中 大学
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.189-200, 2019-07-05 (Released:2019-08-09)
参考文献数
63

インドネシア「海大陸」は真の大陸に比べ遥かに長い海岸線をもち,これに沿って日周期海陸風と共に生じる世界最強の雨雲が解放する潜熱は,日射(-日傘効果)と赤外放射(-温室効果)の差を埋めている.この地球保温機構は,同時に保水機構であり,それらと共に陸海空三重境界の不連続を回避する仕組の一つとして作られた生物圏や,その内部に派生した人類圏の生命維持機構でもある.特にスマトラ・カリマンタン両島の海岸の低湿地林とその遺骸蓄積が作る泥炭地は多量の炭素を固定しており,それらの輸出用農作物プランテーション化に伴う乾燥やエルニーニョ・ダイポールモード期に多発する火災延焼は地球温暖化の要因となっている.如何にして気候・生物・人類を共存させていくかを国際的・学際的に考えねばならない.
著者
近藤 純正 桑形 恒男
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.13-27, 1992
被引用文献数
9

全国66地点の気象官署のデータを用いて, 放射量および浅い水面からの蒸発量の季節的地理的分布を計算した.年蒸発量は緯度が高くなるほど減少し, 北日本・北陸地方では500mmy<SUP>-1</SUP>前後, 関東以南では700mmy<SUP>-1</SUP>前後となった.これは年降水量の30~50%にあたる。<BR>一方, 日本各地における年平均日射量はほぼ130~160Wm<SUP>-2</SUP>, 有効長波射出量は50~70Wm<SUP>-2</SUP>の間に分布している.
著者
五名 美江 蔵治 光一郎
出版者
水文・水資源学会編集出版委員会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.212-216, 2013-07-05 (Released:2014-04-07)
参考文献数
16

限られた数の地点のデータから,地域の年降水量のトレンドを知るためには,対象とする地域内で複数地点の長期観測データを用いて,トレンドの年数依存性と地域代表性との相互関係を調べておくことが有益である.事例として名古屋とその周辺域の5地点の79年間の年降水量データを取り上げ,年降水量のトレンドの年数依存性と地域代表性との相互関係について調べた.年数45年間未満の場合,トレンドは5地点でそれぞれ異なり,年数45年以上70年未満では,岐阜を除く4地点について共通のトレンドがみられ,年数70年以上では5地点で共通のトレンドがみられた.この地域では,日本海側の気候の影響が無視できない河川流域において,流域全体の降水量のトレンドを知るために,少なくとも70年以上の年数のデータが必要であることが示唆された.
著者
森脇 亮
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.57-67, 2016-01-05 (Released:2016-04-15)
参考文献数
52

渦相関法を用いた地表面フラックスに関する研究は平原・海上・森林といったフィールドにおいて先行して行われてきたが,1990年代以降,都市域においても渦相関法を用いたフラックスの観測事例が増えてきた.フラックス観測データの蓄積により都市-大気間のエネルギー収支の定量的な把握が進んでいるが,一方,都市における熱収支は裸地や植生におけるそれとは異なる取り扱いが必要であることも明らかになっている.本稿では都市接地層で行われるフラックス観測について,適切な観測サイトの選定方法,観測高度の設定,観測を行う際に留意すべき事項,熱収支の考え方について解説する.また熱収支・CO2 フラックスの時間・季節変化の特徴,発生/吸収源などについて,これまで得られている知見を,著者らの研究を中心にまとめた.最後に,都市版のフラックスネットとして立ち上げられたUrban Flux Networkについて紹介しながら,近年の研究動向などを解説する.
著者
松井 宏之
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.496-502, 2006 (Released:2006-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

JMA-80型地上気象観測装置(以下,JMA-80)からJMA-95型地上気象観測装置(以下,JMA-95)への測器の更新に着目し,測器の更新により生じた観測気温の差を試算し,以下のような知見を得た.1)測器更新前後での地上気象観測値とアメダス観測値の差を用いて,測器更新時に生じた極値の差を概算することができる.2)JMA-80からJMA-95への更新により,月平均最高気温は+0.14±0.04℃(平均±標準偏差),月平均最低気温は-0.04±0.01℃(同)程度ジャンプしている.3)月平均最高気温,月平均最低気温の変化により,月平均較差も+0.18±0.04℃(同)程度ジャンプしており,ジャンプ幅の約7割は月平均最高気温のジャンプが寄与している.
著者
北 祐樹 山崎 大
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.267-278, 2022-07-05 (Released:2022-07-07)
参考文献数
32
被引用文献数
1 3

国や自治体が整備する洪水ハザードマップは広く利用される一方で,水系ごとに洪水ハザードマップを個別作成することの大きな時間とコストが課題である.本研究では,グローバル河川氾濫モデルCaMa-Floodによる広域シミュレーション出力から日本の1,000年確率規模の想定浸水域を作成し,公的なハザードマップと比較することで,モデル出力をハザードマップとして活用する可能性を議論する.再解析流出量を入力としてCaMa-Floodで計算した水位を極値解析して1,000年確率規模の水位を得,高解像度の地形データでダウンスケールして想定浸水域図を作成した.得られた想定浸水域を公的ハザードマップと比較すると,バックウォーターによる浸水や分岐河道での浸水域が概ね表現されていた.一方で,上流からの越水や集水域境界を跨いだ流れで生じる浸水が一部表現されないという課題が確認され,CaMa-Floodで作成した想定浸水域内に含まれる人口は公的なハザードマップに比べ29 %少なかった.グローバル河川氾濫モデル出力が洪水ハザードマップとして一定の精度を持つことを確認し,ローカルな洪水リスク評価への活用などの可能性を示した.
著者
稲岡 諄
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.166, 2023-05-05 (Released:2023-06-08)
参考文献数
2
著者
鈴木 啓助
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.6, pp.568-573, 1995-11-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
15
被引用文献数
4 5

福島県会津地方の温暖積雪流域において,3水年にわたり渓流水質を継続的に調査した.降水量の極大は夏季に観測されるが,流出高は融雪期に最大となる.融雪時には,渓流水中のHCO3-濃度が減少し,Cl-, NO3-, SO42-濃度は増加する.そのために,渓流水のpHが一時的に低下する.暖候季の洪水時にも一時的に渓流水のpH低下が観測されるが,融雪期には比較的長い期間pH低下が持続する.夏季の渓流水中では,陰イオンでHCO3-が優先するが,融雪時にはHCO3-の比率が低下し,Cl-+NO3-+SO42-の割合が多くなる.
著者
越田 智喜 沖 大幹
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.233-244, 2014-09-05 (Released:2014-12-11)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

本研究では,従来よりも多くの要素が観測できるXバンドMPレーダ(XMP)を用いて,降水量の定量観測に重要な「融解層」を調査した.XMPでは5分ごとに12仰角で上空の3次元観測を完了する仰角運用を行っている.東京大学生産技術研究所から18 km離れた新横浜レーダを使い,高度6 kmに対応する最大仰角20°のデータを用いた.解析対象期間は2010年8月から2011年10月の約1年間のうち,東京大学生産技術研究所において日雨量が10 mmを超えた日とした.レーダの地上に相当する高度でレーダ反射強度因子が25dBZを超えた時間について「融解層」の有無を調べたところ,偏波情報である偏波間相関係数ρHVから算出した「融解層」PMLは反射強度因子ZH から算出した「融解層」RMLに比べ低高度に出現しており,PMLの層厚はRMLより小さかった.PMLとRMLの高度差・層厚差は,レーダが観測する降水粒子の粒径分布に関連していると考え,ZR法の雨量変換係数をRMLとPMLの高度差により変化させてレーダ雨量を算出することを試みたところ,単一の雨量変換係数を用いる場合に比べて雨量推定精度が向上する可能性が示唆された.
著者
中山 幹康
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.238-247, 1997-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
37
被引用文献数
4 4

アスワン・ハイ・ダムは, 環境へ多くの悪影響を与えたと認識されている. しかし, 1960年代末から1970年代初めにおいて為された, 同ダムが環境へ与える影響の予測の幾つかは, 今日ではその妥当性が疑問視される結果となっている. 環境問題についての初期の予測には, 環境影響評価の方法論上の問題によって不正確な予測が行われたと思われる局面が存在する. 当初に予想あるいは観察された環境への影響の内, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる地中海沿岸における漁獲量の減少, ナセル湖における淡水漁業の不振, 導水路の増加による住血吸虫病の蔓延, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる化学肥料の使用量の増大, の4項目については, 正確な予想が行われていないか, あるいは事実が誤認されている. その原因としては, ダム建設の直前に得られた指標値をプロジェクト前の状態における代表値としたこと, 「類似の事例からの類推」に問題が有ったこと, プロジェクトの実施前の状態についての理解の不足, および, プロジェクト後に観察された変化は全てがプロジェクトに起因するという誤った認識, などが挙げられる.