著者
山中 大学
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.189-200, 2019-07-05 (Released:2019-08-09)
参考文献数
63

インドネシア「海大陸」は真の大陸に比べ遥かに長い海岸線をもち,これに沿って日周期海陸風と共に生じる世界最強の雨雲が解放する潜熱は,日射(-日傘効果)と赤外放射(-温室効果)の差を埋めている.この地球保温機構は,同時に保水機構であり,それらと共に陸海空三重境界の不連続を回避する仕組の一つとして作られた生物圏や,その内部に派生した人類圏の生命維持機構でもある.特にスマトラ・カリマンタン両島の海岸の低湿地林とその遺骸蓄積が作る泥炭地は多量の炭素を固定しており,それらの輸出用農作物プランテーション化に伴う乾燥やエルニーニョ・ダイポールモード期に多発する火災延焼は地球温暖化の要因となっている.如何にして気候・生物・人類を共存させていくかを国際的・学際的に考えねばならない.
著者
山中 大学 田中 浩
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-17, 1984 (Released:2007-10-19)
参考文献数
32
被引用文献数
22 25

中層大気中に存在する薄い乱流層の成因の一つという観点から, 対流圏起源の慣性内部重力波の臨界高度砕波を理論的に吟味してみた。Coriolis力による慣性効果は長周期または長波長の内部重力波については無視できないものである。基本場の鉛直シアーと Coriolis因子を一定とした慣用の非粘性線形方程式系から慣性内部重力波を表わす厳密解が導かれ, さらに Olver(1974)が拡張した Liouville-Green 法を用いて臨界高度近傍での正しい局所分散関係式を得た。この関係式から慣性内部重力波の重要な特徴として, Jones臨界高度の「弁効果」, および, 上下の臨界高度の内側の一対の「転移高度」の存在, の二つが見出された。類似の特徴は, 無限小シアーと水平方向の異方性とを仮定する系について過去に指摘されているが (Grimshaw, 1975, 1980), それらの仮定は弁効果と転移高度の存否に関する限り本質的なものではないと言元る。弁効果と転移高度との複合作用の結果として慣性内部重力波は Jones臨界高度近傍で波面の走向に依存した吸収また反射を受ける。すなわち吸収率および吸収に伴う砕波乱流層の厚さは波面の走向が東西に向うほど増大し, 一方波面が南北に沿うような波は実質的に反射される。基本場の Richardson 数が大きいと転移高度はそれぞれ臨界高度に近接するため, 両臨界高度の内側の乱流層は外側のそれよりもずっと薄くなる。以上のすべての特性は Jones 臨界高度近傍のある領域内でのみ起こり, その外部ではよく知られた非慣性内部重力波と本質的に同じ特性が得られる。この領域はCoriolis 因数に比例した厚さを持ち, 非慣性内部重力波では完全に消失してしまう。現実の成層圏乱流層との比較さらに中間圏以高まで達する重力波の定量的情報としての活用を考え, 慣性内部重力波とその砕波乱流層の厚さとの関係を表わす式を具体的に導いた。メソスケール領域の水平波長を仮定する場合, 慣性内部重力波のつくる乱流層は非慣性波のそれに比べて薄くなる。
著者
津田 敏隆 深尾 昌一郎 山本 衛 中村 卓司 山中 大学 足立 樹泰 橋口 浩之 藤岡 直人 堤 雅基 加藤 進 Harijono Sri Woro B. Sribimawati Tien Sitorus Baginda P. Yahya Rino B. Karmini Mimin Renggono Findy Parapat Bona L. Djojonegoro Wardiman Mardio Pramono Adikusumah Nurzaman Endi Hariadi Tatang Wiryosumarto Harsono
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.393-406, 1995-06-15
被引用文献数
20

日本とインドネシアの協力により1992年11月にジャカルタ近郊に赤道大気の観測所(6.4°S、106.7゜E)が開設され、流星レーダー(MWR)と境界層レーダー(BLR)が設置された。MWRにより高度75-100kmにおける水平風と温度変動が1時間と4kmの分解能で測定された。一方、BLRを用いて高度0.3-5kmの大気層の風速三成分を毎分100mの分解能で観測した。さらにBLRに音響発信器を併用したRASS(電波音響探査システム)技術により温度変動の微細構造をも測定した。これらのレーダーの運用は1992年11月のTOGA/COAREの強化観測期間に開始され、その後2年以上にわたって連続観測が続けられている。また、レーダー観測所から約100km東に位置するバンドン市のLAPAN(国立航空宇宙局、6.9°S、107.6゜E)において、1992年11月から1993年4月にかけて、ラジオゾンデを一日に4回放球し、高度約35kmまでの風速・温度変動を150mの高度分解能で測定した。その後、1993年10月から一日一回の定時観測(0GMT)も継続されている。この論文では観測所における研究活動の概要を紹介するとともに、観測結果の初期的な解析で分かった、TOGA/COARE期間中の熱帯惑星境界層の構造、対流圏内の積雲対流、ならびに赤道域中層大気における各種の大気波動の振る舞いについて速報する。
著者
山中 大学
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
no.20, pp.p43-59, 1987-08

1986年7月から実行段階に入った日中協同大洋横断気球実験に関連した, 盛夏季東支那海付近の気象学的知見(予測および実際)についてまとめる。鹿児島宇宙空間観測所(内之浦町)付近の地上気象は, 積雲対流や海陸分布に由来すると考えられる複雑な地上風と天候の日変化がある。上部対流圏の風向には大規模波動によると考えられる5-10日周期の時計回り回転がある。成層圏の風には, 東西波長200km 程度の重力波によると考えられる±5m/s 程度の風速変動がどの風向にも存在している。
著者
浜田 純一 松本 淳 ハルヨコ ウリップ シャムスディン ファドリ 山中 大学
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

「海大陸」と呼ばれ、モンスーンなど大規模大気循環の熱源と考えられるインドネシア域では、オランダ統治下の1860年代より、ジャカルタ(当時のバタビア)を始めとした地点で気象観測が実施されてきたが、社会的・経済的な理由によりデータが一般に公開されず、これまで気候学研究の「空白」領域となっていた。しかし、近年、「データレスキュー」活動など、現地の観測研究環境の変化を通して、インドネシアを含む東南アジア域においても、気候変動の解明に資する「日」単位の長期気象データが整備・公開されつつある(例えばSACA&D: Southeast Asia Climate Assessment & Datasetなど)。 <br><br>これらの長期気象データセットに基づき、ジャカルタの気象極端現象の長期変化や、降水極端現象の年々変動とENSOとの関連に関する研究などがインドネシア人研究者自身らにより活発に進められ始めている(Siswanto et al., 2015, &nbsp;Supari et al., 2016, Marjuki et al., 2016など)。また、我々自身も、日降水量データを中心としたインドネシアでの気象データベース構築を内外の研究者との協力の上で進め、海大陸域におけるモンスーン降水の年々変動の動態把握、ENSOや冬季アジアモンスーンとの関連について研究を進めてきている(Hamada et al., 2012, Lestari et al., 2016など)。<br><br>インドネシアの首都であるジャカルタにおいては、気象台が設置された1866年より定常的な観測が開始され(雨量観測は1864年より実施)、150年以上に及ぶ気象観測データが蓄積されている(K&ouml;nnen et al., 1998, Siswanto et al., 2015)。また、これらのデータのデータベース化も進められ、観測開始当初からの日単位の気象データがSACA&D、月降水量に関してもGlobal Historical Climatology Network (GHCN) などで公開されている一方、1990年代以降の近年のデータは、依然、十分に整理されていない状況にある。 従って、本発表においては、近年のインドネシアにおける気候変動研究の動向を概括し、最も長期間のデータが蓄積されたジャカルタに焦点を当て、気象観測資料のデータベース化状況、及びモンスーン降水長期変動に関する初期解析結果について報告する。
著者
森 修一 服部 美紀 山中 大学 橋口 浩之 高橋 幸弘 濱田 純一
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

落雷被害の社会的影響が大きいインドネシアのジャカルタ首都圏の雷雨を対象とし,長期現業地上観測データに基づく気候学的解析を行うと共に,レーダー等による特別観測を実施した.その結果,雷雨は対流季節内振動(MJO)の東進と共に大きく変動し,MJO活発域の到来直前(Phase 3)に最も激しくなる.また,雷雨の季節進行は多くの地点で雨季直前(4月,11月)に活発となるが,赤道越え北風モンスーンサージ(CENS)が影響し,ジャワ海沿岸のみ2月が最盛期となるなど地理的差異も大きい.さらに,雷雨はジャワ島南部の山岳域で発生し,北部沿岸のジャカルタ都市部へ移動する日周期移動が顕著であること等が明らかとなった.
著者
森 修一 橋口 浩之 伍 培明 服部 美紀 荻野 慎也 山中 大学 松本 淳
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

インドネシア・スマトラ島に災害をもたらす沿岸豪雨強風帯の形成過程について,観測的研究を行った.長期衛星観測からは,エルニーニョ現象など年々変動に伴う沿岸豪雨帯の盛衰ほか,その気候学的特徴が明らかになった.また,レーダー等による集中観測から,沿岸豪雨強風帯を構成するメソ降水系の発達には,インド洋を東進する大規模な対流季節内変動とスマトラ沿岸を西進する日周期対流の相互作用が重要であること等が示された.
著者
柴垣 佳明 山中 大学 清水 収司 上田 博 渡辺 明 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.69-91, 2000-02-25
参考文献数
34
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU(VHF帯)・気象(C・X・C / Ku帯)レーダーを用いた梅雨季対流圏の同時観測を行った。MU・C / Ku帯レーダーは風速の3成分と雨雲の鉛直分布をそれぞれ観測した。また、C・X帯レーダーはメソα, メソβスケールの雨雲の水平分布をそれぞれ調べた。この3週間の中で最も激しい降雨が観測された7月4〜5日の期間には、メソαスケール低気圧近傍でいくつかのメソβ, メソγスケールの雲システムが観測された。これらはi)温暖前線、ii)寒冷前線付近の対流雲およびiii)寒冷前線の北西側の層状雲として分類された。i)では、高度14km付近まで発達した降水雲内の顕著な上昇流は高度4〜5kmにおける前面・後面からの吹き込み成分の収束と中部対流圏の強い南風によって生成された。ii)では、寒冷前線の前面にガストフロントを持った狭いレインバンドがみられた。そのレインバンドの前方とその中では、メソγスケールのローター循環がそれぞれ発見された。iii)では、南東風(北西風)は高度9km付近まで延びた寒冷前線面の上側に沿って(その内部および真下で)上昇(下降)していた。その前線面下側には降雨を伴わない乾燥域が存在し、そこでは前線面に沿って下降した西風の一部が雲システムの後方へ吹き出していた。本研究では、晴天・降雨域の両方で観測された詳細な風速3成分を用いることで、上で述べたような特徴的なウインドフローをもったメソβ, メソγスケールの雲システムの鉛直構造を明らかにした。これらの構造は日本中部で観測されたメソαスケール低気圧近傍のクラウドクラスターの階層構造の中のより小さな雲システムとして示された。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 橋口 浩之 渡辺 明 上田 博 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.569-596, 1997-04-25
参考文献数
39
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU・気象(C・X・Ku帯)レーダーを用いた梅雨季3週間連続観測を行った. MUレーダーの観測データから, 下部対流圏の降雨エコーの影響を完全に除去して, 信頼性の高い高分解能の3次元風速のデータセットを作成した. 梅雨前線は最初の約1週間(6月17〜24日)はMUレーダー観測所の南方にあり, その後一旦(6月25〜28日)は北方に移動した. 6月29日以後は中間規模低気圧の地上の中心がレーダー観測所近傍を次々と通過し, その際の水平風の変化は, 下層から圏界面ジェット高度にかけて高度とともに遅れて強まる傾向がみられた. 次に, 中間規模低気圧との相対的位置関係に基づいた数時間スケールの鉛直流と降水雲との対応を(i)低気圧を伴った梅雨前線の北側, (ii)地上の低気圧中心付近, (iii)低気圧からかなり離れた梅雨前線南側の3領域について調べた. (i,(ii)のケースでは, 上昇流領域は対流圏界面付近の層状性乱流下端高度(LSTT)と前線面高度に大きく依存し, その後者のケースの上昇流は温暖前線北側では発達した降水雲を伴い, 寒冷前線北側では中規模スケールの領域にわたって卓越しているが, 降雨を伴わないことが多かった. さらに, (iii)の期間ではいくつかの上昇流領域はLSTTを突き抜けていた. これらの中規模変動は, 積雲規模擾乱に対応する上昇流領域のピークを含んでおり, またそれらのいくつかは地上降雨と一致していた. 以上の観測事実に基づき, 梅雨前線近傍の鉛直流変動の階層構造の概念図を作成した. この特徴は, よく知られている中間規模低気圧, 中規模クラウドクラスター, 積雲規模降水雲から成るマルチスケール構造と部分的には一致しているが, 本観測で得られた結果は過去の研究で主に用いられている気象レーダー・気象衛星では観測できない晴天領域についてもカバーしている.
著者
荻野 慎也 山中 大学 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.407-413, 1995-06-15
被引用文献数
4

J-COARE白鳳九航海のレーウィンゾンデ観測(1992年11月1日〜12月4日)より得られた温度・風速データをもとに、低緯度帯(13.78°S〜24.50゜N)の下部成層圏(14〜22km)における重力波活動度の南北変化を調べた。高度14〜22kmのデータを用いて鉛直波数スペクトル解析を行ない、全期間の平均をとると、卓越鉛直波長は温度・東西風については4km、南北風については2.7kmであった。高度プロファイルおよびホドグラフ解析結果をみると、赤道をはさんで南北約10゜の範囲では、鉛直波長が4km程度の比較的振幅の大きな(5〜10m/s)波動構造が、東西風にはしばしば認められるが南北風にはほとんど認められないことから、4kmの成分には主にケルビン波が、2.7kmの成分には主に重力波が寄与しているものと考えられる。鉛直波長4.0km,2.7m,2.0mの各成分について、パワースペクトル密度を緯度の関数として整理し、中緯度帯と較べると低緯度域の方が重力波活動度は大きいという結果を得た。重力波の振幅は波の周期や背景のブラントバイサラ振動数に関係すると考えられるが、今回得られた南北分布はこれらのパラメタだけでは説明できず、赤道付近で活発な積雲対流が重力波の励起と密接に関わっていることを示唆している。
著者
山中 大学 荻野 慎也 森 修一 はしもと じょーじ 岩山 隆寛
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシア「海大陸」域における観測的研究から,既知の海陸風など局地的な循環とも全球規模の大気潮汐とも異なる1000kmスケールの大規模な組織的日変化を見出した.類似のものは,チベット・ヒマラヤ域や北米大陸上にもほぼ同時に見つかっている.また,地球型惑星(金星・地球・火星)における日変化の出現の様相は様々である.このような大気中の日周期変動の形成メカニズムを大気力学・雲物理学の一般理論に基いて検討・解明するとともに,季節内・季節(年周期)・経年変動に及ぼす影響や,一般に地球型惑星大気の振舞を決めるにおいて自転や公転などが果たす役割を考えるため,観測データ解析と理論・モデリングの双方から研究を進めた.海大陸域においては,これまでの海陸風理論で取り扱われた晴天日あるいは乾季におけるものよりもむしろ顕著な,雨季における日変化について新たな仮説が得られた.日変化により午後〜夜間に発生する活発な対流性降水雲と降水により,翌朝までに大気はリセットされ(熱的不安定成層は解消して大気透明度も上がり),翌日正午前に最大限の(太陽定数に近い)日射陸面加熱が直後の午後に再び活発な対流雲を発生させる.日変化の生じ方の季節内・季節・経年変動に伴う差異,数1000kmにわたる組織的な日周期強制や領域により異なる日周期の強制があるときの全球大気のレスポンス,海大陸域とその東西の大洋(太平洋・印度洋)上とでの日変化の違いによる季節内変動の励起や変質・減衰,さらに他の地球型惑星(金星・火星)まで含めた日射不均一が起こす大気運動(水平対流)の一般論とその物質輸送や気候維持・変動への意義,太陽系内には存在しないが他の惑星系でなら存在する可能性があるようなケース,などについても考察を行なった.
著者
山中 大学 前川 泰之 深尾 昌一郎 橋口 浩之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は,中小規模(水平スケール10^1〜10^3km程度,時間スケール10^1〜10^3分程度)の大気擾乱のうち,最も大きな階層である中間規模温帯低気圧(梅雨・秋霖季の亜熱帯前線帯に卓越)や熱帯低気圧の力学的構造について,過去に蓄積されたMU・境界層・気象レーダー観測結果を総合的に解析するとともに,観測を継続的に実施することによって解明することであった.2年間における成果の概要は以下の通りである:1.梅雨・秋霖季中間規模温帯低気圧の研究1986年以来の梅雨季(6〜7月)・秋霖季(9〜10月)の対流圏〜下部成層圏領域におけるMUレーダー(VHF帯)による標準観測データ(風速3成分,成層度,乱流風速分散)を,雨滴エコーなどを入念に除去してデータベースとして整備した.特に1991年6月17日〜7月8日に行った梅雨季3週間連続観測については,同時に行ったラジオゾンデ・気象レーダー(X,C,Ku帯)・気象衛星・気象庁客観解析結果などとともに整理し,中間規模低気圧構造,地上低気圧中心に相対的な鉛直流変動(対流雲群)の水平分布(階層構造),個々の対流雲の構造と時間変化などのほか,下部対流圏の低気圧通過に伴う対流圏界面ジェット気流や下部成層圏慣性重力波,乱流の分布特性と強度(鉛直渦拡散係数)などの時間変化も得た.また1992年6〜7月に行なった境界層レーダー(UHF帯)・MUレーダー同時観測からは,中間規模低気圧の鉛直位相構造が対流圏下部(大気境界層)で逆転する例,中〜上部対流圏‘generating cell'の構造と降水粒子降下などを検出した.1995年6月上旬に実施した新たな観測では,約10年前に観測されたようなcold vortexの通過に遭遇し,今回は中心よりかなり南側の詳細な構造を得ることに成功した.3.台風およびその温帯低気圧化の研究秋霖季の観測結果のうち,強い台風の中心付近を観測した1991年9月19〜20日(台風9019号),1994年9月29〜30日(台風9426号)の2つのケースについて,MUレーダー水平風速を気象庁資料と組み合わせることにより,台風中心からの水平距離の関数としての接線・動径風速に換算し,全体的には典型的な熱帯低気圧の軸対称構造を確認したが,非対称構造や時間変化など温帯低気圧化も示唆された.特に台風9428号については,様々な中心通過経路および時刻について計算を繰り返して,15分程度の間隔で前後2回ある地上気圧低極の間の時刻に中心がレーダーのほぼ真上を通過したとの結論を得た.また角運動量,渦度,ヘリシティ(速度と渦度の内積)など準保存量の解析も行なった.さらに地上・気象レーダー・レ-ウィンゾンデ・衛星,関西電力堺火力発電所境界層レーダーなどの観測データも解析し,MUデータとの比較から,最盛期の熱帯低気圧の特徴であるwarm core構造を持つことを確認するとともに,中心部が竜巻に見られるような螺旋構造を持ち,そのため局所的に高気圧性回転しているように観測されることがわかった.1995〜96年には顕著な台風がMU観測所に接近することはなかったが,1996年7月17〜18日には台風9606号の中心付近を部分的に観測した通信総合研究所山川観測所(鹿児島県)境界線レーダーのデータを解析した.また過去にいくつか観測された台風崩れの梅雨・秋霖季中間規模低気圧についても,新たに解析を試みた.以上の研究を通じて,台風の中心付近や,梅雨前線帯の雲の階層構造に伴う3次元風速変動が初めて実測されたと言える.さらにVHF/UHF帯レーダーの中間規模低気圧・台風研究への有用性と具体的観測方法が確立され,メソ気象学の分野に新しい側面を切り開いたことも特筆すべきである.