著者
向井 利明 牛山 素行
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-178, 2018 (Released:2021-04-01)
参考文献数
21

気象庁の記録的短時間大雨情報は、大雨警報発表中に、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨を観測又は解析したときに市区町村名等を示して発表されるもので、1983年に運用が始まった。その発表基準や運用等はたびたび見直されているが、気象庁はこの情報について一貫して、「現在の降雨がその地域にとって災害の発生につながるような稀にしか観測しない雨量であることを知らせるもの。」と説明している。一方、「避難勧告等に関するガイドライン」(内閣府)では、土砂災害に対する避難勧告等の判断に活用する情報の1つとしてこの情報が位置付けられている。しかし、記録的短時間大雨情報の業務的な変遷を纏めたものやこの情報が発表された際の災害発生率等について定量的に調査されたものはない。本稿では、記録的短時間大雨情報の業務的な変遷を振り返るとともに、記録的短時間大雨情報が発表された事例について、市町村ごとの災害発生率等を調査し、防災情報としての役割等を考察した。記録的短時間大雨情報の対象となった市町村の61.6%で浸水害又は土砂災害が、大雨警報(土砂災害)と記録的短時間大雨情報が発表された市町村の43.5%、土砂災害警戒情報と記録的短時間大雨情報が発表された市町村の49.8%で土砂災害が発生していた。記録的短時間大雨情報は雨量の実況を知らせるものであるが、大雨警報を補足する防災情報としての一定の役割を果たしていると考えられる。
著者
牛山 素行 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 第18回(2005年度)水文・水資源学会総会・研究発表会
巻号頁・発行日
pp.13, 2005 (Released:2005-07-25)

降水量極値更新の情報は,豪雨時に,豪雨の激しさを伝える情報としてわかりやすく,有用な豪雨防災情報である.近年のデータ蓄積により,多くの観測地点について,極値更新情報が得られるようになったため,その基礎的な統計的性質を検討した.AMeDASデータ(観測所数1109,統計期間1979_から_2003)を用いた検討では,極値が更新されるまでの平均期間,すなわち平均記録保持年数は,各統計量とも経年的に線形で増加する傾向が認められた.おおむね統計期間が2年増えると,平均記録保持年数が1年長くなる.極値更新観測所出現率は,観測開始後10年で約10%,20年で約5%となった.SDPデータ(観測所数141,統計期間1961_から_2002)による検討結果もほぼ同様であった.
著者
牛山 素行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.44, 2020 (Released:2020-03-30)

台風2019年19号および10月25日の発達した低気圧による大雨(以下「台風19号等」)による死者・行方不明者101人を対象に,筆者が整理している最近約20年間の風水害(以下「1999-2018」)による死者・行方不明者(「犠牲者」)1259人の発生状況と比較し,主にその発生場所に関する特徴を速報する.「洪水」(河川からあふれた水に起因する犠牲者),「河川」(増水した河川等に接近して転落など)犠牲者で,発生位置が推定できた者について,国土交通省「重ねるハザードマップ」を元にその場所が浸水想定区域(計画規模)または浸水想定区域(想定最大)の「範囲内」か検討すると,1999-2018(集計対象270人)では「範囲内」または「範囲近傍」(図上で30m以内)が4割程度だが,台風19号等(同68人)では7割程度だった.「重ねるハザードマップ」に示された「地形分類(自然地形)」,「土地分類調査」等により地形分類との関係を見ると,1999-2018,台風19号等ともに犠牲者のほぼ全員が「低地」で発生した.中小河川では浸水想定区域の指定が進んでおらず「範囲外」となりやすいが,地形分類図を用いれば補完が可能と示唆された.しかし,地形分類図は複数の作成体系があり,地域により凡例も異なるなど,広く一般に利用は薦められないのも現状であり,さらなる工夫が必要だろう.
著者
牛山 素行 本間 基寛 横幕 早季 杉村 晃一
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-102, 2021 (Released:2021-11-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

筆頭著者らは近年の日本の風水害による死者・行方不明者(以下「犠牲者」)に関するデータ ベースを構築しており,これまでに1999~2018年の1259人について分類している(以下「1999- 2018」)。本報告では,2019年台風19号(令和元年東日本台風)による犠牲者(以下「台風19号)と 1999-2018の特徴を比較することを目的とする。台風19号では,東日本一帯で犠牲者88人(関連 死を除く)が生じた。台風19号による犠牲者の特徴としては以下が挙げられる。1 )犠牲者の 72%は洪水など水関連の犠牲者だった。水関連犠牲者の比率は,1999年以降の主な風水害事例 中では最も高くなった。2 )犠牲者の58%は屋外で生じ,その54%は自動車で移動中の遭難だっ た。この比率も1999年以降の主な風水害事例中では最も高い。3 )水関連犠牲者の66 %は浸水 想定区域付近で発生した。これは,1999-2018に比べ高い比率だった。水関連犠牲者の93%は低 地で発生し,これは1999-2018の結果と整合的だった。犠牲者軽減にはハザードマップ的情報が 重要であることがあらためて示された。
著者
牛山 素行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.I_1369-I_1374, 2017 (Released:2018-02-28)
参考文献数
7
被引用文献数
5

一般的に公開されている消防庁などの統計を利用して,日本の自然災害による死者・行方不明者などの経年傾向を検討した.1949~2014年の自然災害全体の死者・行方不明者数,1968~2014年の風水害による死者・行方不明者数は,いずれも統計的に有意な減少傾向が見られる.1970年代以降は増減傾向が不明瞭だが,10年移動平均値は小さくなっている.全壊,半壊,床上浸水家屋数についても傾向は同様である.「近年災害(被害)が激増している」という認識は適切でない.同じ期間における「不慮の事故」(火災,交通事故,山岳遭難,水難)による死者数の変化傾向は一様でなかった.時代の進歩に伴うハード面,ソフト面の対策の充実とともに,死者等が単純に減少していくものではないことが示唆される.
著者
牛山 素行 今村 文彦 片田 敏孝 吉田 健一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.150-158, 2004 (Released:2004-06-01)
参考文献数
12
被引用文献数
4 8

近年急速に整備されつつある豪雨防災情報の実災害時における効果を評価する観点から,現地調査を行った.調査は2007年7月に台風6号および前線によって,最近30年で最大規模の被害(浸水家屋約700棟など)を生じた岩手県東山町・川崎村を対象とし,水文データの収集,現地でのヒアリング,アンケート調査(有効回答700)などを行った.災害時に,インターネットなどのリアルタイム雨量・水位情報を参照した回答者は5%程度であり,24%の回答者はシステムの存在を知っていたが利用していなかった.川崎村では74%の回答者が,避難などの判断に際して「雨量・水位などの情報を参考にした」と答えた.同村では防災行政無線を通じて国土交通省観測の水位情報などをリアルタイムに伝達しており,この情報が参考にされたものと思われる.車の移動,畳上げなどの家財保全行動の成功・失敗と,雨量・水位情報の取得成功・失敗の相関を見たところ,情報取得に成功した回答者は,家財保全行動に失敗した率が低いという関係が認められた.リアルタイム情報に対する関心自体は高く,情報が的確に伝われば,避災行動の成功につながる可能性が示唆された.しかし,災害時の情報伝達手段としてインターネット等は一般化しておらず,最新技術に過度な依存をせず,複数の情報伝達手段を活用することが効果的と思われる.
著者
牛山 素行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000185, 2018 (Released:2018-06-27)

2004~2017年の日本の土砂災害,洪水災害による死者・行方不明者の発生位置と,ハザードマップによる土砂災害危険箇所・浸水想定区域,地形分類図から読み取った地形との関係を解析した.土砂災害犠牲者の約9割が土砂災害危険箇所で遭難しているが,洪水災害犠牲者で浸水想定区域内での遭難者は4割弱にとどまる.2016年台風10号,2017年7月九州北部豪雨では,こうしたハザードマップから危険性が読み取りにくい箇所での犠牲者が目立った.一方,地形との関係を見ると,洪水災害犠牲者の8割以上が低地で遭難していることがわかり,地形分類図が基本的なハザードマップとして有効であることが示唆されるが,利用上の課題も考えられる.
著者
牛山 素行 北澤 秋司
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.147-159, 1995-10-01
参考文献数
3
被引用文献数
2

Temporary BBS(Bulletin Board System) was opened on major personal computer network, NIFTY-Serve in September 1993. This BBS aimed to exchange informations about Typhoon 9313. In three days about 200 messages were submitted to this BBS from all of Japan. Reference numbers of messages submitted at the time of landing of typhoon. Their main topics were about member's surroundings, the location and power of typhoon and traffic information. This BBS had never been advertised enough, nevertheless many messages were submitted in a few days from wide area. BBS is available in collecting disastrous informations. We propose opening a BBS on disaster by its specialists.
著者
牛山 素行 松山 洋
出版者
水文・水資源学会編集出版委員会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.492-498, 1995-09-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
4
被引用文献数
1 6

身近で得られる清涼飲料水のペットボトル,ポリ製ロートなどを用いて軽量・安価な簡易雨量計を作成した.最も一般的に利用されている転倒ます式雨量計との比較観測を行ったところ,降水量10mm以上で観測精度は±10%程度であった.受水部への雨滴飛び出し防止板の取り付けの有無では,取り付けない方が安定した観測値を得た.今回試作した簡易雨量計は10mm以上のまとまった降水量を把握するには十分実用的なものといえる.
著者
牛山 素行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_505-I_510, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

"Guerilla heavy rainfall" is a newly-coined word by mass media of Japan. The four major newspaper publishing companies began to use this word frequently from the beginning of August, 2008. The definition of "Guerilla heavy rainfall" is not clear. It was found from the result of newspaper article analysis from 2008 to 2009 that short-time very heavy rainfall events are called "Guerilla heavy rainfall". In this study, the rainfall event of 80mm or more of rainfalls of 1 hour and 149mm or less of rainfalls was defined as "Guerilla heavy rainfall". 104 events of "Guerilla heavy rainfall" were extracted from AMeDAS precipitation data from 1979 to 2008. There were two victims of these heavy rainfall events in total. They killed at basement or underpass. Although inundation above the floor level occurred in 38% of event, the damage of 100 or more buildings was 9%. We may say that "Guerilla heavy rainfall" does not cause large-scale damage. However, it is necessary to keep in mind that damage caused by "Guerilla heavy rainfall" is generated well in high-risk area of flood, such as basement, underpass, low land and river park.
著者
牛山 素行
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.293-302, 2004-08-31
参考文献数
11
被引用文献数
5 8

Heavy rainfall caused by a baiu-front (stationary front) occurred in Niigata prefecture from July 12 to 13, 2004. The Japan Meteorological Agency called this event the "Niigata and Fukushima heavy rainfall of July 2004". In Tochio city, Niigata prefecture, an hourly precipitation of 58 mm was recorded on July 13, with the precipitation in a 48-hour period amounting to 427 mm. This constitutes the highest amount of rainfall in this period since that recorded in 1936 at Tochio observatory. The highest 1-hour precipitation records in the last 25 years were revised at 3 observatories, and the highest 24-hour precipitation rate was revised at 10 observatories based on the data of the Japan Meteorological Agency. During this heavy rainfall, 16 persons were killed, 476 houses were destroyed, and about 13,500 houses were inundated. Eleven levee breaches occurred in class-A rivers, causing serious inundation damage in Niigata prefecture. Most of the inundation damage occurred in Sanjo city, Mitsuke city, and Nakanoshima town. In particular, 23% of the households in Sanjo sustained over floor inundation. The deaths of 12 persons were due to drowning. This is the largest number of drownings by heavy rainfall since the Nagasaki heavy rainfall disaster on July 1982. Moreover, 14 victims were elderly persons more than 60 years old. Evacuation counsels were issued from 4 hours to 20 minutes before the levee breaches. We could say that as compared with past rainfall disasters, these responses were quick. However, many persons were lost their lives and much property was inundated. The development of a disaster information dissemination system is necessary in local communities.
著者
牛山 素行
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

(1)2005年豪雨災害の特徴解析2005年に発生した豪雨災害のうち,特に台風14号による災害(9/4-8)に注目し,被害の大きかった宮崎県を中心に現地調査,資料解析を行った.豪雨災害が多発した2004年の事例と比較しても,大きな被害を生じた事例であり,数年に1回程度発生する規模の事例と判断された.宮崎県日之影町においては,長年の地域の取り組みにより早期の避難が行われ,20世帯以上が全壊する洪水・土砂災害にもかかわらず人的被害を生じなかった事例を確認した.また,宮崎市においては市による電子掲示板上で市民・市役所間の災害時における迅速な情報交換が行われ,わが国におけるほぼ初めての形態であることを示した.これらの成果は災害後1週間以内にweb公開し,数万ページビュー/日の参照があり,報道機関からも多くの問い合わせを受けた.(2)台風0514号災害時の死者の死因に関する検討台風0514号による人的被害(29名)に関し,台風0423号の際に開発した手法を適用して,死亡状況に関する解析を行い,そのほとんどが,「土砂災害により,高齢者が,屋内で死亡」であったことを指摘した.これは,洪水による青壮年の死者が目立った台風0423号の事例とは異なり,近年整備されている災害情報の活用による救命の可能性がある犠牲者が中心であったことを指摘した.また,この解析手法の有効性を示した.(3)豪雨時の自治体の対応に関する調査2004年度末に調査票を配布した,2004年の豪雨災害時および災害後の被災,非被災自治体における災害対応状況についての調査を解析した.その結果として,(a)豪雨災害の頻発は防災担当者の豪雨災害に対する関心を高める事は確かである。たとえば,リアルタイム豪雨情報の参照頻度が高まる,豪雨災害による避難勧告の可能性を予想する市町村が増加するなどの変化が見られる.(b)関心の高まりは具体的な対策にはつながらない.たとえば,災害前39%の市町村が指定避難場所の選定に浸水の影響を考慮していなかったが,災害後,見直しを行ったのはそのうち12%にすぎない.(c)2003年水俣市土石流災害の教訓は,ほとんど他の市町村に波及していない,(d)防災ワークショップが1割程度の自治体で実施されているが,その半数程度が住民だけで行われている,などを指摘した.
著者
本間 基寛 牛山 素行
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.40, no.S08, pp.157-174, 2021 (Released:2022-03-30)
参考文献数
33
被引用文献数
1

台風等の豪雨災害において,予想される雨量の規模から災害対応の必要性を呼び掛けるにあたり,降雨規模と想定される人的被害規模の関係性を明らかにしておくことは重要である。本研究では,平成30年7 月豪雨,令和元年台風19号,令和2 年7 月豪雨における犠牲者の位置データと1 km メッシュでの降雨観測データを分析することにより,降雨に関する各種指標から「推計犠牲者発生数」を算出する可能性について検討を行った。3 , 6 ,12,24,48,72時間の降雨継続時間雨量や土壌雨量指数といった7 つの降雨指標について,犠牲者発生数との関係性を分析した結果,降雨指標そのものではなく過去の観測最大値との比である「既往最大比」が犠牲者発生との関係性が高いことがわかった。豪雨事例によって災害犠牲者発生との対応がよい降雨指標が異なることから, 7 指標の既往最大比最大値を算出することで,豪雨災害における犠牲者の発生数を大局的に推計できる可能性があることを示した。一方で,球磨川での氾濫のような極めて局所的な豪雨による大規模洪水での犠牲者に関しては,犠牲者発生地点の降雨指標だけではなく,上流域も考慮した雨量指標による評価関数へと改良する必要がある。
著者
森山 聡之 武藏 泰雄 西山 浩司 渡辺 亮一 和泉 信生 森下 功啓 山口 弘誠 中北 英一 島谷 幸宏 河村 明 牛山 素行 松尾 憲親
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

分散型多目的市民ダムをスマート化し、水資源確保と洪水制御を行う雨水グリッドとするために、(1)降雨量測定装置としての雨水タンクの検証を行い、雨量計としては利用可能なものの、雨水タンクが砕石充填方式の場合は圧力センサーを水位計として使用しない方が良いことを示した。(2)防災クラウドによる雨水の見える化として、センサーノードとゲートウエイの安定化を計った。(3)豪雨発生診断をSOMを用いて行ったが、予測精度はあまり高くないことが判明した。セキュリティー向上として、 OpenVPNを用い暗号化となりすまし防止を行った。(4)無線回線の安定化を図るためにLoRaWANを検証、良好な結果を得た。
著者
牛山 素行 宮崎 敏孝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.47-54, 1993-01-31
被引用文献数
6

1991年3月23日未明,長野県中部の山岳地帯で発生した雨氷現象について,発生時間中の移動調査や直後に実施した聞き取り調査などによって,発生の状況を詳しく調べた.今回の雨氷現象は,長野県中部の山脈の北側斜面のほぼ標高1200〜1800mの範囲内で確認できた.総観規模の気象データでは,雨氷発生の条件とされる0℃前後の気温逆転層は確認できなかったが,発生地付近の地上気温データからは,現象発生時に標高2000m付近に暖気が入ってできた0℃前後の気温逆転層が解析された.しかし,同時間帯に山脈の南側斜面では気温逆転は見られず,山脈の存在が現象発生に影響を及ほすものと考えられた.雨氷発生域内では,発生中の気温変化がほとんど無く,ほぼ0〜-1℃の範囲で安定していた.雨氷発生中の降水量は1〜3mm/hと少なく,このため森林等への被害には至らなかった.