著者
丹下 和彦 Kazuhiko Tange
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.87-99, 2012-03

小論はエウリピデスの悲劇『フェニキアの女たち』の作品論である。本篇の上演年代は不明であるが、作者晩年のものと見なされている。古代から人気作品として知られているが、それが作品の完成度と必ずしも一致しない。劇は冒頭から最後に至るまでテバイ攻防戦を巡る各場面が連続してパノラマ的に展開するが、それらを繋ぐ統一的なテーマが見つからない。同時上演の他の作品との関連から、息子たちに対するオイディプスの呪いをそのテーマに擬する説もあるが、小論はそれを採らない。また劇の初めと終わりに登場するアンティゴネ像に人間的成長を認めて、それを本篇の意義と捉える説も採らない。論者は、本篇は互いに内的関係に乏しい、そして統一的テーマに欠ける各場面のパノラマ的展開の劇であり、その展開の妙こそが人気の源であったとする。
著者
北野 剛 Go Kitano
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.131-149, 2020-03

本稿は満洲事変の背景をなしたとされる満蒙問題のなかでも、特に商租権問題に着目し、その概要を知るうえで必要な基礎的事項について明らかにするものである。商租権問題は1915年の対華21ヶ条要求の結果認められた、南満洲において土地を用益する権利であるが、設定当初より中国側の妨害を受け、外交問題化した。この問題について、これまでの研究では日中対立の側面に注目する一方で、商租行使の概況やその時期的展開については、十分に明らかにしてこなかった。また、商租権問題の事例についても、一部の争点化したもののみが取り上げられ、総体的な考察はなされてこなかった。そこで本稿では、そうした研究状況をふまえ、まず、基礎的事項を把握すべく、外務省記録にある毎年の領事報告をもとに、面積や件数などの統計を整理し、概況について分析した。また、その状況が日本国内および在満日本人にどのように認識されていたのかについても論及した。
著者
安井 寿枝 Kazue Yasui
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.116, pp.87-104, 2022-09

本稿は、高浜虚子の三作品「風流懺法」「斑鳩物語」「大内旅宿」にみられる京都府方言・奈良県方言・大阪府方言の特徴を確認し、虛子の各方言に対する意識を考察するものである。それぞれの方言が特徴的に用いられているのは、尊敬語表現・文末表現・接尾辞であった。尊敬語表現の助動詞では、京都府方言は「お~やす」が、大阪府方言は「やはる」が特徴であり、奈良県方言は両方言の特徴を併せ持っていた。また、「なはる」は京都府方言としては避けられる傾向にあり、大阪府方言としては命令表現で使われていることがわかった。文末表現では、京都府方言は「え」「おす」「どす」が、奈良県方言では「なー」「おます」「だす」が、大阪府方言では「おます」「だす」が特徴であった。一方で、「です」のように共通語と同じ語形は避けられていることが予想された。接尾辞では、大阪府方言の特徴として「どん」が使われていた。
著者
片岡 修 長岡 拓也 Osamu Kataoka Takuya Nagaoka
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.69-88, 2015-03

今夏の調査に基づき、(1)確認したシャウテレウル王朝期の遺跡を検討し、(2)ナン・マドール遺跡の調査成果とユネスコ世界文化遺産登録申請の進捗状況を紹介し、(3)今後の課題を明確にした。 ナン・マドール遺跡に隣接するテムエン島内で、3種の祭祀遺構を確認した。テムエン島だけでなくポーンペイ島各地に築かれた同類の遺構との比較研究から、ナン・マドールを基盤にポーンペイ全島を統一したシャウテレウル王朝の支配構造を理解する上で重要な考古学資料となった。 ナン・マドール遺跡については、ユネスコ世界文化遺産登録のために実施した2011年の現状調査に始まり、その後、現地政府の関係機関、土地所有者、観光や環境や文化財関連の専門家らによるワークショップが開催されてきた。2015年2月の申請に向けて書類作成のための協同作業が進行中である。本調査の採集情報が申請書の基礎資料となることは確実である。
著者
堀 素子 Motoko Hori
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.57-74, 2006-09

英語の法助動詞(modals)は日本では文法事項として指導されているが、語用論的機能については英会話の中で触れられる程度で終わることが多く、真にそれらがどのような使われ方をしているかにまでは及んでいないと思われる。 本論文ではブラウンとレビンソンのポライトネス理論に基づき、ネガティブ・ポライトネスの代表とされる「慣用的間接表現」に使われる法助動詞をコーパスのデータによって分析する。特に「依頼表現」に焦点を当てて、それらの表現がもつ意味と機能を日本語の敬語と比較しながら議論する。英語母語話者は「依頼」を「フェイス侵害行為」(FTA)と捉えているために、相手の「領土への侵害」を緩和することを第一の目標として、modalsを含む慣用的間接表現を使用している。日本語の敬語にも類似の表現があるが、それは対話者間の上下関係を明示するためで、行為自体を問題としない点で、英語の敬意表現とは鋭く対立する。
著者
平田 一郎 Ichiro Hirata
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.1-19, 2018-09

本稿はJ.J. ギブソンの生態学的知覚論と、相互関係的な過程存在論という点でギブソンと立場を同じくするホワイトヘッドの知覚論を比較して、知覚や自然についての見方を深めようとする。まずギブソンの知覚論において特徴的な直接知覚論やアフォーダンスを取り上げ、ホワイトヘッドの主張と通じるところがあることを示した。しかし神経生理学的な問題、アフォーダンスの特定化の問題では、ホワイトヘッドによって補える部分がある。さらにギブソンの知覚の問題点を示した。それは過去の知覚物が現在のものとして現前している時、何らかの「表象」を認めざるを得ないのでは、という問題である。その点でホワイトヘッドの知覚論では直接知覚を根底に置きながら、表象の可能性を残している。総じてホワイトヘッドの哲学は、ギブソンの生態学的知覚論の主張を包含しながらも、それを補える部分が多いということを示した。
著者
松田 健 Takeshi Matsuda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.181-198, 2013-03

19世紀の終わりに発明された録音技術は、音楽聴取を演奏現場から解放した。しかしその後100年ほどは「自宅に設置した装置で」再生するのが基本形であり続けた。その後音楽聴取デバイスのポータブル化と個別化が進み、CDに代表される音源のデジタル化は高品位の音源を簡便に入手できる環境をもたらした。 音楽の個別聴取化とデジタル化が進行した後に生まれた「デジタル世代」の大学生たちはどのように音楽行為(Christopher Smallの言葉を借りると"musicking")をしているのだろうか。筆者は2011年に118人の大学生に探索的な質問票調査を行った。 その結果、彼らの音楽聴取は個別形態をとる傾向が強く、スピーカーよりもイヤホンで音楽聴取をする時間が長いことがわかった。音楽聴取時間のうち「ながら聴取」が占める時間がおよそ4分の3に達することもわかった。またおよそ6割の回答者がパソコンを音楽聴取デバイスとして使用している状況もわかった。
著者
丹下 和彦 Kazuhiko Tange
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.103-116, 2009-03

他の悲劇作品同様、本篇もギリシアの古い伝承をその素材としている。しかしそこに描かれているのは、現代のわたしたちの周囲にもしばしば見られる日常風景、その中でも家庭内不和の物語である。ネオプトレモス家の正妻ヘルミオネと第二夫人アンドロマケとの女たちの葛藤が物語の筋をなすが、作者の意図は彼女らそれぞれの悲劇的人間像を構築することではない。題名となったアンドロマケも、またヘルミオネも劇の中途で舞台から姿を消してしまう。 一方、劇中に散見される激しいスパルタ批判は、この劇を政治色の濃いもの、時代背景を色濃く反映するものとの見方を生んだ。確かにそれは否定し難いけれども、本篇はしかし、いわゆるプロパガンタ劇でもない。これは、婚姻という最小の人間関係に端を発する日常次元の人間の家庭内悲劇を描いた作品である。
著者
平田 一郎 Ichiro Hirata
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.157-176, 2021-09

現在の心の哲学において主流となっているのは、世界の全ての物事は物理的であり、全ての現象は物理的な性質に還元されるという物理主義である。一方ホワイトヘッドのコスモロジーは無機的なものも含めたすべての生起が何らかの経験をしている経験の主体であるという汎経験論であるため、バークリー的な主観的観念論であるという印象さえ与えている。しかし興味深いことにホワイトヘッドは自然科学に敵対的どころかむしろ数学者出身で自然科学をも取り入れる形で、自らのコスモロジーを構想した。そのような彼のコスモロジーが物理主義とどのような関係にあるのか、むしろあえて経験という心的な出来事が遍在するということに何らかの意義はないのか。そういった問題意識によりながら、本稿ではホワイトヘッドのコスモロジーの持つ考え方を物理主義やそれを巡る諸々の主張と比較しながら、新たな自然観の可能性を考察したい。
著者
白崎 護 Mamoru Shirasaki
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.113, pp.169-187, 2021-03

2019年参議院議員選挙の公示期間前後におけるパネル世論調査に基づき、インターネットの利用が政治意識の分極化を導く過程と程度を解明する。自民党の党派性に偏るインターネット環境と、自民党以外の党派性(中立も含む)を含むインターネット環境を比較した場合、前者の環境に置かれる効果は以下の通りである。政党に対する感情温度では、立憲民主党に対する世間の注目に隠れる形となった立憲国民党、そして地域政党の性格が強い維新の会について公示期間前後の変化を認めた。また政策をめぐる意識では、第 1 回調査において大半の回答者より選挙での主要争点と見なされなかった「外国人労働者の受け入れ」・「沖縄県普天間基地の県内移設」について公示期間前後の変化を認めた。つまり、公示日前は全国の有権者にとって関心や知識が薄いために形成途上にあった類の意識が、インターネットでの公示期間の報道や情報検索を経て有意に変化する。
著者
小田桐 確 Tashika Odagiri
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.114, pp.207-226, 2021-09

同盟は、勢力均衡を実現する手段として規定される。確かに、ユトレヒト条約(1713年)で「勢力均衡」が欧州国際社会の原則として明文化されて以降、19世紀のウィーン体制までに形成された大国間の同盟は、欧州の勢力均衡の回復という同一の目的を掲げていた。その一方で、大国の行動様式や同盟の機能には差異が見られた。18世紀には、国益を一方的に追求する側面が強かったのに対して、19世紀前半には、欧州全体の安定という共通の利益を実現するために協調する側面が顕著に現れた。では、このような同盟行動の差異は、いかにして生じたのか。本稿では、まず、同盟と勢力均衡の関係について理論的に整理する。続いて、フランス革命の勃発(1789年)からエクス・ラ・シャペル会議(1818年)に至る期間の欧州を取り上げ、当時の五大国による同盟形成の論理とその変化を考察する。最後に、今日の国際政治の分析に対する含意に言及する。
著者
向山 毅 Takeshi Mukoyama
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.151-164, 2009-03

カール・シュピッツヴェークはドイツで最も愛されている国民的画家であるが、日本ではほとんど知られていない。シュピッツヴェークはビーダーマイヤーの画家といわれており、19世紀前半のドイツの古きよき時代の情景をユーモアとペーソスを持って描いている。彼の生涯と主な作品およびその世界について述べる。
著者
長谷川 晋 Susumu Hasegawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.112, pp.181-191, 2020-09

本稿では、近年めざましい勢いで進んでいる軍事における「ロボット」の活用(戦争の無人化)が、国際人道法や武力紛争法など既存の制度の中で示されている戦争倫理にどのような影響を及ぼしているのかを考察する。人間のように考え振る舞うロボットは、従来は SF 映画やアニメの世界での架空の存在に過ぎなかった。しかしながら、近年その存在が現実になりつつある。単に人間が戦場に行くことなく軍事活動が行なえる兵器というだけでなく、自律的に判断を行い、敵への攻撃を開始することができる兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems: LAWS=自律型致死性兵器システム)が登場しつつある。このような人間に近づいたロボットが兵器として戦場に現れた時、どのような新たな倫理上の問題(あるいは既存の問題の深刻化)が生じるのかを考え、論点を整理し分析する。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.285-303, 2021-03

本稿は、2019年 3 月に行ったイタリア・ヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。本稿(2)は、本研究論集112号に掲載した本稿(1)の後編である。まず、ヴェネツィア市のオーバーツーリズム問題への具体的対応を考察するとともに、近年新たに導入が決定された入島税等について検討を行う。また、SAVEグループ社によるヴェネツィア 2 空港の一体運営と、近接する 2 空港をさらに加えた 4 空港の機能別一体運営に言及した上で、更なる乗降客数増を目指す同社の新構想について検討する。次に、本調査の結果得られたオーバーツーリズム問題への示唆を明らかにした上で、訪日外国人旅行者のさらなる増加を目指す日本と、外国人観光客が急増し続けている京都において既に顕在化している同問題について考察を行う。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.233-252, 2020-09

本稿は、2019年 3 月に行ったヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。112号における本稿の主要なテーマは次の 2 点である。まず、オーバーツーリズムとは、近年になって用いられはじめた呼称であり論者により理解が錯綜していることから、先行研究の検討にもとづき当該呼称の由来と概念について私見の展開を試みることである。次に、京都市とヴェネツィア本島・歴史的地区それぞれの観光に関する現状を俯瞰した上で、ヴェネツィア本島における年間観光客数と日帰り観光客数について統計資料を用いて分析を行い、オーバーツーリズム問題の実態とヴェネツィア市の具体的対応を考察する。特に、日帰り観光客とクルーズ船乗降客に関わるヴェネツィア特有の問題を詳述する。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.112, pp.233-252, 2020-09

本稿は、2019年 3 月に行ったヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。112号における本稿の主要なテーマは次の 2 点である。まず、オーバーツーリズムとは、近年になって用いられはじめた呼称であり論者により理解が錯綜していることから、先行研究の検討にもとづき当該呼称の由来と概念について私見の展開を試みることである。次に、京都市とヴェネツィア本島・歴史的地区それぞれの観光に関する現状を俯瞰した上で、ヴェネツィア本島における年間観光客数と日帰り観光客数について統計資料を用いて分析を行い、オーバーツーリズム問題の実態とヴェネツィア市の具体的対応を考察する。特に、日帰り観光客とクルーズ船乗降客に関わるヴェネツィア特有の問題を詳述する。
著者
藤田 弘之 Hiroyuki Fujita
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.149-167, 2017-09

本稿はイギリス教育省に設置されている全国教師及び学校管理者支援機関(National College for Teaching and Leadership、以下NCTL)による不適格教師に対する規制措置とその運用状況を明らかにすることを目的とする。イングランドでは2000年に総合教職評議会(General Teaching Council for England)が設置され、これが不適格教師を規制する役割を遂行してきた。しかし、2011年教育法によってこの機関が廃止され、不適格教師の規制権限は教育大臣に移った。NCTLは2013年よりこの大臣の権限を実施しており、不法行為を行った教師を審査し、不適格者と判定したものには教職従事禁止命令を出している。本稿はこうした審査の組織、手続き、基準について述べ決定事案を分析するとともに実際の運用状況を明らかにした。そして、こうした措置が教育活動の公益性を担保し、教師の信頼性確保を最重要課題として行われていることを明らかにした。
著者
大庭 幸男 Yukio Oba
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.39-57, 2020-03

英語の動詞は他動詞と自動詞に分類され、さらに自動詞は非能格動詞と非対格動詞に分類される。自動詞にはこれらの非能格動詞と非対格動詞の他に、中間動詞がある。本論文は中間動詞を伴う文(中間構文)の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにし、それに基づいてその構文の統語構造を提案することを目的とする。まず、自動詞の種類と特性を考察し、中間動詞の特徴を明らかにする。その後、中間構文と非対格動詞を伴う文(非対格動詞文)を比較しながら、中間構文の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにする。その結果、中間構文は他動詞文と同様に動作主が意味的にも統語的にも存在する、と主張する。そして、その主張に基づいて、生成文法理論のミニマリスト・プログラムの枠組みで中間構文の構造を提案する。
著者
池田 遊魚 Yugyo Ikeda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.151-167, 2014-03

小説『マルテの手記』は、20世紀初頭のパリで不安と苦悩の日々を過ごしたリルケが、後の『ドゥイノの悲歌』の詩人へと自己形成を遂げていく転機にあって、手記という散文形式において自己省察を試みた特異な書物である。大都市の匿名性のなかで語り手は自己解体の危機に瀕しながら、自分を悩ませるさまざまな不安の形象を描き出し、記憶の断片をたどって生の再構築を試みる。そこに仄かに浮かび上がってくるのが、個人のアイデンティティを超える生の予感である。そして、それまで異郷を彷徨うように生きてきたマルテ=リルケは、詩人としての全的な生を手に入れるため、改めて自己の幼年時代との直面を要求されることになる。--本稿では以上のようなプログラムによって『マルテの手記』読解の可能性を探る。