著者
直井 道子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.191-203,266, 1986-09-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
8
被引用文献数
2

フロムやアドルノによる権威主義的性格の研究は、戦後日本にとって重要な問題提起であった。とくに、家族の権威構造と権威主義的性格の関連性というテーマは、川島武宜の問題提起以来注目を集めたが、実証研究はほとんど発展してこなかった。本稿は、このテーマに関連して、夫の親と同居する主婦 (直系家族における、いわゆる嫁) が、別居している主婦より、より権威主義的か否か、をデータ分析によって追究したものである。夫の親と同居する主婦は、別居している主婦より平均的に有意に権威主義的であることがデータから立証された。さらに、その差は、同居の主婦と別居の主婦の年齢の差によるものではないことも確認された。最後に、一五歳時の居住地、夫の学歴、夫の職業、妻の学歴、ライフ・サイクル等の説明変数をコントロールしても、なお、夫の親との同居は主婦をより権威主義的たらしめる方向に対して直接効果をもつことが、パス解析によって立証された。夫の親との同居は、主婦の権威主義的性格の維持あるいは再生産に対して一定の機能を果していると結論できる。
著者
山本 泰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.262-281,363*, 1993-12-30
被引用文献数
1

一九九二年四月のロサンゼルス事件は、現代アメリカのマイノリティ問題の深刻さを改めて浮き彫りにした.この事件が黒人青年を暴行した警察官に対する無罪判決に端を発している以上、これは差別に対するマイノリティの大衆的抗議である.しかし、その背景についていえば、この事件は、 (1) 現代のマイノリティ問題の焦点は人種 (黒人) 問題ではなく、大規模な《都市アンダークラス》の問題であること、 (2) 都市貧困層=黒人ではもはやなく、そこには、きわめて多様な人種・民族が含まれること、 (3) 都市最下層の貧困は、六〇年代の公民権運動以来、少しも改善されていないこと、を劇的な形で示したのである.このような複合的な抑圧・葛藤関係はどのような構造のなかで、いかにして生み出されるのか、本論では、人種や民族に中立であるはずの自由主義的多元主義体制のもとにある現代のアメリカに、何故、人種や民族間の葛藤・反目がかくも顕在的にあらわれるのかを考察する.人種や民族の線に沿った集団形成やエスニシティの主張は下層の人々が上位者の資源独占に対抗する社会戦略であるが、この戦略は逆に、ルール指向・個人主義・手段主義といった基準になじまないが故に、中産階級が下層に対しておこなう差別に識別標識と正当化根拠を与えてしまうことになる.階層間葛藤は、自由主義的多元主義体制を仲立ちに人種間葛藤へと転態されるのである.
著者
遠藤 英樹
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.133-146, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
34
被引用文献数
3

現代社会において, 観光はますます重要な事象となっている.とくに, それはイメージを媒介することではじめて成立するという点で, 近代のありようと共鳴しあっていると考えられる.観光パンフレット, テレビ, 雑誌, 映画といったようなメディアを通じ, 観光地に対するイメージはたえず再生産されつづけており, こうしたメディアによるイメージの再生産に関する分析は, 観光という事象を語るうえで不可欠のものとなっている.本稿は奈良を事例とする意義について述べるとともに, 観光地・奈良のイメージを再生産するうえでメディアが重要な役割を果たしていることを指摘する.こうしたことについては, かつてD.J.ブーアスティンが指摘した問題圏にかさなるものであるが, ここではブーアスティンの指摘よりもさらに議論をすすめ, イメージの消費者たるべきツーリストたちが奈良という観光地をいかに読み解いているのかまでも考察する.それにより最後には, ツーリストたちが 「ブリコラージュ」の方法を用いつつ, 観光という「イメージの織物 (text-ile) 」を主体的に読み解いている姿を浮き彫りにする.
著者
稲津 秀樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-36, 2010

本稿では,非集住地域に居住する日系ペルー人の生活世界への参与観察に基づいた,彼・彼女らの「監視の経験」を取り上げ,そこに存在する権力の構成を示す視座を提供することを目的とするものである.これまで監視に関する彼らの言明は,精神医学的な知見から「妄想」とみなされてきた故に,移民と監視を巡る研究は国境管理政策の分析に終始していた.そこでは都市における監視社会化の流れも含めた,移民にとっての監視社会の展開を日常的な視点から捉えかえす視点に欠けていたと言える.従って本稿では,監視の経験=関係妄想とする主張をまず批判した上で,調査に基づく彼らの経験を,ガッサン・ハージが説く「空間の管理者」概念を援用しながら分析する方法を採った.空間の管理者とは,移民を空間的に管理する意識をもち,かつそうした態度を取る権利を有する者のことを指している.日系ペルー人への個々の聞き取りから浮かび上がるのは,過去/近い将来における空間の管理者との出会いを想起/予期する経験,更には,空間の管理者として振る舞う日本人との関係を築く過程で自らも管理者として他者と接する経験であった.そして,ある語りの中で,それらの経験が重層的にあらわれている点に着目し,日系ペルー人にとっての権力作動の要諦を,彼らの意識における空間の管理者が,時間/民族間を2つの意味で〈転移〉している点にあることを指摘した.
著者
鳥越 皓之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.482-495, 2016

<p>沖縄は地域を研究する社会学的研究にとって見過ごすことができない2つの特徴をもっている. 1つは, そこはながらく独立国であって, 日本併合に対する不信が存在する. それは政治的イデオロギーを超えて, 小さな村の住民にも, 「沖縄世」への憧れとして存在している. それが現在の米軍基地反対につながっている.</p><p>もう1つは日本民俗学を中心にした南島研究の研究者たちが沖縄を日本の原郷として位置づけ, 膨大な資料を蓄積し, 数多くの注目すべき論文を発表しつづけてきた. それは日本民俗学の巨人, 柳田国男と折口信夫が沖縄研究に多くの労力を割いたことが大きい.</p><p>このような事実をふまえて, 社会学が沖縄にどのような貢献をし, どのような限界をもたざるをえなかったのかを本稿では示した. 基本的には, 社会学を狭義に位置づけて, 歴史的・政治的課題および南島論に示された文化的課題をとりあげないようにしたこと. そのように自己の課題を狭めたことによって, かろうじて社会学を成立させてきた経緯がある.</p>
著者
上野 加代子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.70-86, 2018-06-30

<p>福祉の領域における社会構築主義の研究は多様であるが, この領域に特有の姿勢を見て取ることができる. それは, 自分たちがクライエントを抑圧してきたという「自身の加害性の認識」と, 「研究結果の実践への反映」である. 本稿では, 福祉の領域に特有のこれらの姿勢に着目し, それに関連する文献を中心にレビューする. 具体的に, ひとつはソーシャルワーカーとクライエントを拘束しているドミナント・ストーリーをクライエントと共同で脱構築しようとするナラティヴ・アプローチの研究の流れである. 本稿で取り上げるもうひとつの構築主義的研究の流れは, ソーシャルワークが専門職として確立, 再確立される過程で, 「トラブルをもつ個人」がどのように創りあげられてきたのかを, 外在的に分析するものである. なお, 「自身の加害性の認識」という点は, 英語圏の文献には顕著であるが, 日本語の文献では弱い. そこで, 英語圏の文献をレビューした後, 日本における構築主義研究ではどうして「自身の加害性の認識」という観点が乏しいのかについて考察する. そして最後には, 近年の英語圏の文献では自身の加害性のみならず, 「被害者性」についても議論されていることを踏まえ, 自分自身の知識や実践に対する構築主義研究が, 「自分は加害者たることを強制された被害者だ」という自己弁護に陥る危険をはらみつつも, 社会制度変革へのコミットにつながることに触れておきたい.</p>
著者
文屋 俊子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.443-460,502, 1987-03-31
被引用文献数
1

地域を単位とする近隣関係については、先行研究が乏しく、ある程度探索的なものとならざるを得ない。本稿で取扱った大都市周辺地域は、都市の膨張過程において都市人口の流入をうけ、都市化が進行した地域である.こうした地域では、地付住民と来住民との混住が地域社会レベルでのさまざまの問題を起こしていることが多く、近隣関係を取扱う上で地付-来住間の関係に注目しないわけにはいかない。このため地域社会の統合、いいかえれば地付住民と来住民の融和が問題とされるのであり、どういった場合に統合促進され、また阻害されるのか、これをふたつの集団の人口流入による規模の変化との関係でとらえようとするのがここでの目的である。<BR>調査は、東京五〇キロ圏に位置する千葉県市原市の一町会の範域において実施した。まず、この地域における社会過程としての都市化の特徴をとらえるために、旧村の部落会を中心とする相互扶助システムの変貌過程についてコミュニティ史的観点からの事例研究をおこなった。近隣関係の標準化調査は、調査規模の関係で、この町会の中心部を占める二町内の一二四世帯を対象におこなった。<BR>本論にはいるまえに、都市化をめぐる概念について検討する。
著者
妻木 進吾
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.489-503, 2012
被引用文献数
4

本稿の目的は, 大阪市の被差別部落A地区で実施した調査に基づき, この地域の再不安定化プロセスとその要因について検討することを通して, 貧困や社会的排除現象の解明と対応策の構想に, 地域という変数が欠かせないことを示すことである.<br>貧困と社会的排除が極端に集中していたA地区の状況は, 長期にわたる公的な社会的包摂事業によって大きく改善した. しかし, 事業終結後, アファーマティブ・アクションとしての公務員就労ルートが廃止され, その時期が日本社会の雇用不安定化の時期と重なっていたこともあり, 若者の就業状態はふたたび不安定化した. 安定層の地区外流出と不安定層の流入という貧困のポンプ現象がこうした傾向に拍車をかけた.<br>貧困層の集積は, それ自体がさらなる機会の制約となる. 被差別部落では, かねてから貧困が地域的に集積していたことによる履歴効果, そして当事者運動が引き出した公的事業の意図せざる帰結として, 個的な生活向上・維持戦略の定着を阻む生活文化が存在し, 達成モデルも限定されてきた. 地区内の「なんとかやり過ごす」ネットワークは事業終結と担い手の流出によりその機能を弱体化させている. 貧困・社会的排除は地域的に集積し, 地域的に集積したそれらはマクロな社会変動や政策, さらには階層・階級文化などには回収されない固有の機制として, 貧困のさらなる集積や深化をもたらしていく.
著者
塩原 勉
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.17-36, 1975-03-31 (Released:2009-11-11)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

1) On Methodology. We have many differentiated sociological perspectives in the conflicting directions. In order to innovate the functionalist paradigm characterized as a normal science, we propose to combine dual counteracting perspectives : functionalism and interactionism.2) On Structure. A social system can be defined as a living system of resource-processing controlled through information-processing. Its structure is consisted of several structural components : values, norms, decision-making structure, operation structure, and resources, which are not only hierarchically arranged, but also cybernetically controlled to satisfy requisites of the system. The requisites can be classified into three layers : basic, mediating, and specific requisites. But there are inherently structural strains both within and among those components. 3) On Social Change. Three major variables (strains, external requests, and system's ability to satisfy its requisites) will determine the changes in system structure. And the changes will be facilitated by the means of multiplytyped innovations against the structural components under strains. An effort to remodel Smelser's “logic of value-added process” has lead us to a more comprehensive analytical-scheme, which can described as “a total movement process” with a series of seven phases.
著者
元森 絵里子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.124-135, 2012-06-30 (Released:2013-11-22)
参考文献数
11

本稿は, 教育制度内部の教育史記述の古典である『明治以降教育制度発達史』を読み直し, 「子ども」が実体であるのか構築であるのかというアリエスインパクト以降繰り返される問題を考えるものである.「子ども」という観念の歴史的構築性を示した研究に対し, しばしば, 直観的に, 目の前の発達途上の身体や生理学的に捉えられる身体という「実体」があるという批判・反証がされる. 史料から見えてきたのは, 「発達する身体」をもち将来的には「国民」や「労働者」になる「児童」が発見され, 教育的論理と教育制度が定着する際に, それに包摂されない実態との折り合いが模索されたということであり, 身体測定や統計が「実体的根拠」として要請されたということである. したがって, よくある批判が根拠とする「実体としての子ども」なるものも, 多くは年少者を教育の対象として見出すまなざしが全域化していったことの効果として立ち現れている観念であると言える.と同時に, その論理の外部に年少者・小さい人が事実として存在し, それを「児童」や「子ども」と見なさない世界があることが, 教育的論理では扱いにくいものとして, まさにその論理の中に書き込まれていることにも目を向ける必要がある. 子どもと教育の社会学は, その構築性についてより深く考察すると同時に, 自身の言葉の外にあった (ある) かもしれない世界の存在に自覚的であり続けていく必要があろう.
著者
田中 重人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.130-142, 1997-09-30
被引用文献数
1

女性のフルタイム継続就業に対して学校教育が持つ影響力について論じる。近代型の性別分業に関心を限定するため, 家族経営型の自営業に属する女性はのぞいて分析する。まず戦後日本社会における急激な高学歴化にもかかわらずフルタイム女性の比率が一定水準を保ってきた事実を, 1955-95年のセンサス・データから確認する。ついで1985年, 95年の全国調査による女性個人経歴データを分析する。<BR>大卒女性は一見フルタイム継続率が高いようにみえるが, 教員をのぞいた分析ではこの関連は消える。上の関連は, 教員というフルタイム継続しやすい特別な職業と大卒学歴とがむすびついているための擬似的なものにすぎない。大卒者数と教員数が独立だということから考えて, 高学歴化と女性フルタイム継続率の変化とは無関係と結論できる。女性本人の職業的地位と結婚相手の職業的地位を統制したロジスティック回帰分析でも, 学歴の効果はみられない。<BR>分析結果から, 学校教育はフルタイム継続就業に影響しないといえる。
著者
鈴木 努
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.564-581, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

山岸俊男は『信頼の構造』 (1998) において, 見知らぬ他者を信頼する人は単なる「お人好し」ではなく, 相手を信頼することで, 社会的不確実性と機会コストに対処しているのであるという信頼の解き放ち理論を展開した.その論証には主に実験心理学的方法が用いられたが, その後の社会調査による検証では必ずしも理論を支持する結果は得られていない.その原因として, 信頼の解き放ち理論は実験室状況を越えた実際の社会状況に適用するにはいまだ理論的整理が不十分であること, また実証研究において用いられたモデルが理論を適切に形式化しえていないことが考えられる.本稿では, 社会ネットワーク分析とカタストロフ理論を用いた数理モデルによって個人の社会環境とその個人が示す不特定の他者への一般的信頼の関係を形式化し, 信頼の解き放ち理論とそれに向けられた諸批判を総合した理論仮説を提示する.本稿のモデルは, 個人のエゴ・ネットワークとその属するホール・ネットワークの特性により個人の一般的信頼がどのように変化するかを示すカスプ・カタストロフ・モデルである.そこでは個人のもつ多層的なネットワーク領域を想定することで, 高い一般的信頼と緊密なコミットメント関係の両立が可能となっており, それにより実験的方法と社会調査から得られた対立的な知見を総合的に理論化する1つの枠組が提出される.

1 0 0 0 OA 書評

著者
佐藤 毅
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.86-89, 1978-02-28 (Released:2009-10-13)