著者
間嶋 健
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.1-14, 2016

<p>質的研究は事象の多様性を捉えられることからソーシャルワーク領域に用いやすいが,記述が主観的であるということや,一般性を欠くという点から科学的な研究とはみなさないという見方もある.したがって,ソーシャルワークの科学的実践を広く実施していくためには,質的研究の科学性を検討する必要がある.本研究では,近年医療・福祉領域において浸透しつつある認識論である構造構成主義に基づき,その一連の著作から質的研究の科学性確保への理路について,主客問題,科学の定義を中心に整理した.そして,その理路の視点からKJ法,M-GTAを検討し科学性を得るための手法上の修正を施した.その具体的方策として,M-GTAの分析ワークシートを,構造化に至る思考の軌跡の開示を図るためにカスタマイズし,統計学的には一般化しえない少数事例において一般性を付与しうる記述方法を検討した.さらに,質的研究による知見を用いた実践の可能性をSW実践の一例を通じ示した.</p>
著者
高田 明子 佐藤 久夫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.94-107, 2012

地域で生活する視覚障害者の社会参加の促進を目的に,ある地方都市の視覚障害による身体障害者手帳取得全数(201人)に郵送アンケート調査を実施した(有効回答49.3%).結果は,視覚障害の程度にかかわらず「危険な外出」状況が70.4%あり,33.7%は転倒・衝突によるけがを経験していた.「閉じこもり」者は42.4%であり,年間を通してほとんど外出していない者が21.2%いた.「閉じこもり」には障害等級,移動能力,外出形態が強く関連していた.多くの視覚障害者は「危険な外出」を繰り返し,視機能が重度に低下した場合「閉じこもり」生活へと移行していた.「閉じこもり」者の59.5%は精神的健康が低かった.視覚障害者の8割は中途視覚障害であったが,福祉サービスの対象になることは少なくそのニーズは潜在していた.家族介助も安全な外出への促進因子というわけではなかった.地域における視覚障害者への外出支援の必要性が示唆された.
著者
渡部 克哉
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.18-28, 2010-05-31 (Released:2018-07-20)

本論文では,国会会議録や官庁の資料を中心に新聞記事や雑誌記事などで補いながら,寡婦(寡夫)控除の変遷をたどり,寡婦と寡夫の要件の差異および寡夫控除の是非に関する議論におけるジェンダー観を考察した.寡婦(寡夫)控除は寡婦については1951年,寡夫についても要望が高まるなかで1981年に創設された.要件の差異は,寡夫は寡婦に比べ,配偶者との死別や離別によって経済的な影響を被ることは少なく,収入も多いという想定から設けられたと推測された.つまり,寡婦(寡夫)控除の要件の差異,さらには寡夫控除の是非に関する議論も,「男は仕事,女は家庭」というジェンダー観を反映していたといえる.最後に,寡婦(寡夫)控除が廃止されたとしても,ひとり親家庭に対する所得保障は依然として必要であり.また「男女の役割の平等」を促進することも重要であると論じた.
著者
伊藤 美智予 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.153-166, 2007
被引用文献数
2

本調査では,次の2点を明らかにする目的で現地ヒアリング調査を実施した.第1に,アメリカの質マネジメントシステムへのナーシングホーム側からみた評価を明らかにする.第2に,アメリカの経験から日本への示唆について検討する.対象は,3つのナーシングホームのマネジャーら12人とした.本調査結果に基づけば,同システムがケアの質向上へつながるとの積極的評価が過半数を占めた.同システムがケアの質向上に寄与している理由には,(1)データ提出義務化,(2)現場が納得する評価すべき要素の抽出,(3)利用者レベルでのケアのプロセス改善につなげる方法の開発,(4)他施設との比較可能な量的指標群の開発,(5)評価結果の監査での活用,(6)評価結果の公表,の6点が考えられた.ただし,評価指標のリスク調整など課題もあった.日本への示唆として,データの入手方法の検討,他施設と比較可能な量的指標群の開発,監査方法の再検討の3点が挙げられた.
著者
鈴木 良
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.16-29, 2019

<p>本研究は,知的障害者入所施設の解体を実施した法人Aを取り上げ,職員が1)施設解体を実施したのはなぜなのか,2)小規模分散型の地域生活への移行を目指した計画を修正したのはなぜなのかを質的調査によって明らかにした.この結果,第一に,施設解体を実施したのはまず,「無力化による受容の重視」と「虐待構造への自覚」によって,職員・入居者間の上下関係を可能な限り解消することを目指したからであった.次に,施設内改革や地域移行を実施しても職員・入居者間に生じる上下関係は解消しえないという構造的限界を認識したからであった.第二に,計画を修正したのはまず,補助金や法人運営の観点から町との協力関係を重視したからであった.次に,施設解体を実現させることが重視され,残る施設の解体を視野に入れて,地域に出ることを優先する意識があったからである.本研究は外発的政策誘導と内発的意識改革による脱施設化政策の必要性を示唆する.</p>
著者
鈴木 浩之
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.112-127, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
11

本研究では,子ども虐待の危機介入において,不本意な一時保護をされた保護者と児童相談所の協働関係の構築についてのプロセスとその構造を検討することを目的とする.研究においては,児童相談所の支援者12人の研究協力者にインタビューを実施し,グレイザー派グラウンデッド・セオリーによりデータを分析した.その結果,32のコンセプトと14のカテゴリーが創出された.中核的なコンセプトは「つなげる」である.さらに,これらのカテゴリーは三つのステージに分類された.すなわち,「対話を創る」「つなげていく」「寄り添う」である.支援者はこれらの「つなげる支援」を通じて,保護者に働きかけることで協働関係を構築していくことがわかった.
著者
福田 真清
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.42-54, 2017-08-31 (Released:2017-09-27)
参考文献数
20

本研究は,老障介護家庭において知的障害のある子どもを自立へと導いた母親の経験について,母親の行動や認識とそれらに影響した要因の可視化を目的とした.60歳を過ぎてから子どもが自立した母親11名を対象に半構造化面接を実施した.分析には,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた.母親の経験は【違和感に気付く】から始まっていた.[理屈ではない「あの」暗黙の仲間意識]と[子離れ・親離れの成功体験]がせめぎ合うなか,【窮地に追い込まれ焦燥し決断に踏み切】った母親は,子どもを【グループホーム送り出】していた.その後も自立にまつわる経験は続き,{肩の荷が降りホッとする}と{二重生活で大変さは変わらない}の2類型に分かれ,【将来を再考する】ことが明らかになった.子どもの将来が思い描ける機会や情報の提供,時機を見計らいながら子どもの自立への意識が高まる支援,子どもが自立した後も母親と子どもへの継続的な支援の必要性が示唆された.
著者
山本 真知子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.69-81, 2013-02-28 (Released:2018-07-20)

本稿は,日本においてこれまで研究されることがほとんどなかった里親家庭の実子に焦点をあて,里親家庭で里親(両親)や委託児童とともに生活する実子がどのような意識をもち生活を送ってきたかを明らかにすることを目的とした.里親家庭で生活したことのある成人に達した実子11人へのインタビュー調査を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析を行った.その結果,実子は委託児童と中途の関係から生活が始まり,委託児童の措置の状況によりたびたび里親家庭の構成員の変化を経験する.里親家庭でのさまざまな経験は実子に大きな影響を与えるが,実子の存在は里親養育から見落とされる傾向が高いことが明らかになった.実子は里親家庭だけではなく学校や地域などの社会においても多様な葛藤をもちながら生活を送ることが示唆された.
著者
鈴木 良
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.66-78, 2018

<p>本研究では,スウェーデン政府による障害者のパーソナルアシスタンス抑制政策に抵抗する運動団体の主張とは何かということについて質的調査によって検討してきた.まず,LSSは1)理念を堅持しながらニーズは市民権の観点から捉えられ,2)社会モデルに基づいて現代化すべきだと主張された.次に,費用の決定方法は1)社会保険事務所の尺度によるアセスメントはプライバシーや当事者性を侵害していること,2)給付金の支払いは生活に柔軟に応じた方式にすべきことが指摘された.さらに,1)利益追求型企業は利用者が管理・選定でき,2)家族がパーソナルアシスタントを担うことは子の自立を阻害する危険性を認識しつつも容認すべきことが指摘された.最後に,費用は1)権利意識の高まりや支援の質との関係,2)費用対効果,3)労働市場や国内需要への効果,4)人権やジェンダー平等,5)国の責務という観点で検討すべきことが指摘された.</p>
著者
崔 允姫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.40-55, 2018

<p>本研究の目的は,組織マネジメントが介護職の人材定着に影響を及ぼす要因について介護人材が定着しなかった要因と定着要因を明らかにし,その構造とプロセスを提示することである.本研究では,組織経営管理者によるインタビュー調査を行い,分析方法は定性的コーディングを用いた.分析の結果介護人材が定着しなかった要因について,経営者の「経営能力の不足」が「職員からの不満を浮上」させ,介護人材を定着させない主な要因として明らかになった.一方,介護人材を定着させるための組織マネジメントは,「経営意識による仕組みづくりと職員を大事に育てるための人づくりを基盤に,上下をつなぎ合わせる管理体制をつくったうえで,管理職を中心にみんなが経営に参画できる環境をつくること」と定義できた.</p>
著者
山田 雅穂
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.139-152, 2011

2007年のコムスン事件後,介護サービス提供主体の多様化が今後機能および継続するための具体的な条件については,社会保障政策および福祉政策研究における規制緩和論,規制強化論,準市場の概念のいずれもが提示し得ていない.本稿では,全国の利用者へのサービス承継が問題となったコムスン事件の事例検討を通して,利用者の多様な介護ニーズを充足するサービスの継続的かつ安定的な提供が可能であれば,提供主体は営利・非営利を問わないと論証した.そして提供主体の多様化が機能および継続するための条件は,準市場の示す条件に加え,第1に多様なサービスの継続的かつ安定的な提供という要素をサービスの公共性の性質として加えること,第2に事業者の不正防止の法整備と介護報酬の適正な設定による提供主体の経営基盤の安定および育成である.すなわち公的責任による条件整備により市場機能を活用し,サービスの量と質を確保する政策が求められる.
著者
鈴木 弥生
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.44-63, 2018-07-20

本稿は,バングラデシュ農村の貧困女性を対象とするグラミン銀行の活動に焦点をあて,その基本となるショミティ組織化の過程と融資を活用している貧困女性および家族構成員の変化を明らかにすることを目的とする.そのために,われわれは,1997〜2010年にかけて,先行研究の分析および現地調査を実施している.グラミン銀行が,S村に居住する貧困女性に対して,ショミティ(≒小グループ)を組織化して融資を有効活用することを勧めたのは1991年である.それまで多くの貧困女性は,農村はもとより,バリ(家屋とその中庭)の外に出たこともなかった.そのうえ,家族や親族以外の人と関わる機会もなかったため,ショミティ組織化の過程は容易ではなかった.また,多くの貧困女性は,経済的にも社会的にも家庭内で夫に依存することを余儀なくされていた.その後,融資を活用して経済活動に参加するようになった女性たちは,徐々にではあるが,自己雇用のスキルや収入,そして意識を向上させ,活動範囲を拡大している.このような貧困女性のエンパワメントは,家庭内での決定権や子どもの生活,識字や教育に重要な影響を及ぼしている.また,ショミティ組織化および貧困女性のエンパワメントには,グラミン銀行の介入のみならず,農村内の相互扶助関係が不可欠であったとみることができる.
著者
風間 朋子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.30-41, 2007-11-30 (Released:2018-07-20)

本研究は,精神障害者の障害年金受給状況における,(1)精神障害者本人のケアを中心となって担う家族の続柄,(2)続柄別の世帯収入,の影響を明らかにすることを目的とした.全国精神障害者家族会連合会の会員2,844人から自記式質問用紙による回答を得た(有効回収率30.8%).その結果,以下のことが明らかとなった.(1)精神障害者本人の加齢に従い,ケアを担う家族の続柄が「親」から「きょうだい」へと世代交代する.(2)「きょうだい」では他の続柄と比較して障害年金受給者の割合が高い.(3)世帯収入が低いほど,障害年金受給者の割合が高い.(4)続柄と世帯収入の増減は障害年金受給状況に影響を与える.分析対象は障害年金の認知度が比較的高い集団であると推定されるが,続柄やその世帯収入により,障害年金受給状況に差が生じている.家族のもつ固有の背景を考慮し,その状況に合わせた支援施策を整備する必要があろう.