著者
山本 潔
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.111-133, 2009-12-24 (Released:2011-06-01)

資料紹介 Research Source Guide A労働組合調査No.11『戦後労働組合の実態』(1947/8)により, 大河内一男教授は, 戦後の労働組合は「新人」が「大勢に順応」して結成したと主張. しかし組合結成時期別に調査原票を再集計すると, 敗戦直後の結成組合は, 戦前「労働運動経歴」「有」る者が「要求を出す」ために結成している. B労働市場調査No.18『京浜工業地帯』(1951/9)の労働者の「生家の職業」(農業46%)により, 大河内教授は「出稼型論」を展開した. しかし同調査『第二次集計表』では, 「親兄弟との経済的援助関係」「無」い労働者(52%)が, 「有」る者(25%)の約2倍で, 調査資料は「出稼型論」と逆の事実を示していた. C賃金問題の基本資料は『賃金台帳』であり, 社会科学研究所は電器・造船・化学・印刷・炭鉱・土建業等の台帳を保存している. D産業構造調査No.50『京浜工業地帯企業連関調査』(1959/9)は, 高度成長期に中小企業は大企業からの「独立性」を強化したとする. しかし各中小企業売上高中の特定親企業への納入比率を計算すれば異なる結論となろう.
著者
郭 舜
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.121-151, 2007-03

昨今の地域主義の動きの中では,「共同体」という言葉が頻繁に登場する.しかし,そのような政治的な言説の盛り上がりに比して,地域主義における共同体概念の理論的検討はいまだ不十分であるように思われる.本稿は,そのような理論状況に鑑み,地域主義に焦点を当てつつ,社会理論における共同体概念の理論的な位置付けを探る試みである.それは,ロバート・マッキーヴァーの重層多元的な共同体観の一つの応用例を示すものであり,欧州連合(EU),北米自由貿易協定(NAFTA),東南アジア諸国連合(ASEAN)の3つの地域的な枠組みを具体的に取り上げて比較検討することで,理論の含意を明らかにするとともに,個人と社会の相互的な発展過程において地域主義の果たす役割について一定の展望を提示することを目指す.
著者
角松 生史
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3/4, pp.139-159, 2010-03-10

都市空間は, 「多数の人々の諸活動と居住と生活の『場』」であるにもかかわらず, その法的理解にあっては, 被規制者の財産権と「公益」的規制という二面的な関係が視野の中心に置かれている. これに対して都市計画を「当該地域の空間形成に関する権限と利害についての, 地権者相互, あるいは地権者と非地権者住民との間における, 調整・分配ルール」とみなす立場からは, 被規制地権者以外の当該空間に対するステークホルダーの利害をどのように法的に構成し, 実体法的・訴訟法的にどのような位置づけを与えるかが, 理論的課題となってくる. 本稿は, 上のような問題意識を念頭に置きつつ, 行政事件訴訟法10条1項の主張制限「自己の法律上の利益に関係のない違法」に関する解釈論を分析したものである. 同条については, 行政処分の名宛人と第三者とを区別し, 前者は公益に関わる要件も主張できるが, 後者は個別的利益を保護し原告適格の基礎となる根拠規定違反に限り主張できるとする立場が裁判例上有力である. 他方, 近時の学説は, 名宛人-第三者のかかる二元論を相対化し, 第三者に対しても, 「公益上の理由による受忍」という構成をとることが可能な場合があることを指摘する. 都市空間に関わるステークホルダーの立場を法的に構成していく上で, この発想は有益である.
著者
高橋 陽子 玄田 有史
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.29-49, 2004-01-31

20万人に達する高校中退者および中学卒非進学者の労働市場には,高校卒以上に就業環境の悪化が予想されるものの,その実像は明らかでない.本稿では35歳以下の無業者に関する調査を用いて実証分析し,高校中退者は卒業者に比べて,明らかに学校をやめた直後に正社員となる確率が低いことを確認した.ただしそれと同時に,中退だから正社員になりにくいという傾向は,年齢を経るに従って解消されていくこともわかった.さらに中退者は学校をやめた直後に正社員となりにくいが,正社員となった後の就業継続でみれば,高校や中学の卒業者との違いは存在しないことも発見された.中退者が正社員としての就業が困難なのも,継続志向の弱さや認知能力といった資質のせいではなく,高卒以上に本人能力や志向に適った就業機会に出会いにくいことの結果である.
著者
伊藤 洋一
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.39-66, 2006-01-31

EU憲法条約は,2005年5月29日のフランス国民投票による批准否決により,殆ど「死んだも同然」の状況になった.しかしながら,憲法条約に関するフランス国民投票論議は,ヨーロッパレヴェルにおける基本権保障につき,若干の教訓を残した.国民投票論議の中では,Convention方式の民主的正統性が,批准反対派により争われた.EU基本権憲章の「憲法化」は,憲法条約におけるEU法の優越規定新設と相まって,フランス憲法院に対して深刻な憲法問題を提起することとなった.一般論としては,ヨーロッパレヴェルでの基本権保障の強化は歓迎すべきことであるものの,加盟国の憲法裁判所にとっては,EU法と国内憲法規範との抵触の可能性ゆえに,常にそうであるとは限らないからである.本稿は,加盟国が各国の「憲法制定権力」を援用できる限り,たとえEU憲法条約が発効したとしても,基本権保障問題に関して,EU法の絶対的優越が達成され得ないであろうことを論じるものである.
著者
氏原 正治郎
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.1-9, 1959-03-24
著者
齋藤 民徒
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.41-80, 2003-03-31 (Released:2008-09-19)

冷戦終結後,国際政治学・国際関係論において規範の重要性が見直されてきた.これとともに,北米を中心に国際政治学・国際関係論と国際法学の相互接近が試みられ,一定の研究成果が出されてきている.そのような研究動向の中,従来,国際法学において「ソフト・ロー」と呼ばれてきた各種の「非法」規範についても,新たに研究が進められてきた.本稿は,このような国際規範研究の最新動向の現状と課題について,国際法学の見地から,「遵守」研究の問題点,「法」と「非法」の区別の問題等を論じる近時の諸業績に検討を加えたうえ,大沼保昭の提唱する「行為規範/裁判規範」概念の国際規範の基礎理論としての可能性を探究し,「法」と「非法」の区別の実態を分析するための理念型として,「適用」/「援用」/「参照」という規範使用・作用の三類型を提案するものである. This article reviews current interdisciplinary research on international norms by international lawyers and international relations scholars, focusing especially on how "non-legal" norms should be dealt with in international legal studies. Major issues discussed include the problems of "compliance analysis" for studying international norms and the distinctions made by various actors between law and non-law. Having examined the notions of "norms of conduct" and "norms of adjudication" as a potential basis for the future research on how various actors distinguish legal and non-legal norms, the author proposes additional subcategories to analyze different types of law-related behavior ; "application", "invocation", and "reference".
著者
齋藤 民徒
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.41-80, 2003-03-31

冷戦終結後,国際政治学・国際関係論において規範の重要性が見直されてきた.これとともに,北米を中心に国際政治学・国際関係論と国際法学の相互接近が試みられ,一定の研究成果が出されてきている.そのような研究動向の中,従来,国際法学において「ソフト・ロー」と呼ばれてきた各種の「非法」規範についても,新たに研究が進められてきた.本稿は,このような国際規範研究の最新動向の現状と課題について,国際法学の見地から,「遵守」研究の問題点,「法」と「非法」の区別の問題等を論じる近時の諸業績に検討を加えたうえ,大沼保昭の提唱する「行為規範/裁判規範」概念の国際規範の基礎理論としての可能性を探究し,「法」と「非法」の区別の実態を分析するための理念型として,「適用」/「援用」/「参照」という規範使用・作用の三類型を提案するものである.
著者
中村 圭介 前浦 穂高
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.113-136, 2004-11-12

地方公務員(非現業)の労働基本権は制約されている.まず争議権は否認されている.団体交渉権は認められているものの,交渉事項は労働条件などに限られており,また団体協約を締結することは認められていない.しかし,法解釈によれば,組織,政策など管理運営事項について,当局側が任意に労働組合と意見交換を行い,それによって得られる情報を行政の円滑な運営に役立てることはさしつかえないとされている.本稿ではある県と市で生じた組織再編-農業改良普及センターの再編統廃合とワンストップサービス実現のためのグループ制の導入-をめぐる労使協議の実態を探った.主要な発見は次の点である.第1に,労働組合はいずれのケースでも,関係職場の組合員の声を吸い上げ,当局側と協議を行っている.第2に,労働組合のスタンスは建設的である.農業改良普及センターの事例では,自らの普段の仕事を冷静にみつめなおし,独自の組合案を作成し,グループ制導入の事例では,それによる組織機構の歪み,非効率を指摘している.第3に,こうした労働組合の真しな意見を当局側が聞き入れるかどうかが労使協議の成果を左右する.組織再編は組合の意見を聞き入れ当初案を修正した県では成功し,そうすることのなかった市では失敗に終わっている.
著者
間淵 領吾
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.45-84, 2004-11-12

日本における労働者の労働組合離れに関わる意識の諸側面について,その時系列的推移を既存の世論調査や主要単産の労働組合員意識調査の結果により検討した.その結果,意識の上での労働組合離れは,極めて長期的に継続して進行してきたことが判明した.組合満足感については近年増加傾向にある労働組合もあるが,労働組合に対する有効性感覚,意見反映感,必要性感覚,信頼感や,労働組合の存在感は,いずれも概ね低下傾向にあることを明らかにした.また,職場における労働者の連帯感は喪失される趨勢にあり,同僚との理想とする人間関係も部分化・形式化が進行してきた.特に,職場における連帯感や人間関係の希薄化は,労働者の労働組合離れに大きく影響するものと考えられるが,近年の成果主義的人事制度の強調は,職場における労働者の利害共有感覚を失わせることに繋がり,連帯感や人間関係の希薄化を促進したものと考えられ,結果的に労働組合離れを加連させたのではないかと推測した.
著者
大賀 哲
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.37-55, 2006-03-28

本稿の趣旨は,実証主義とポスト実証主義の認識論的差異,国際関係論における理論と歴史の方法論的な差異を踏まえながら,国際関係論における歴史社会学の用法を考察していくことにある.歴史社会学の用法や,理論と歴史の差異,言説分析の可能性とその限界等は既に社会学で広範に議論されているが,国際関係論において,歴史社会学のもつ可能性についての研究は少なく,未だ十分に議論されていないというのが現状である.本稿の意図するところはまさに国際関係論における歴史社会学の展開を掘り下げ,その研究上の可能性を考察する事にある.具体的には二つの歴史社会学(ウェーバー型とフーコー型)を比較検討し,とりわけフーコー型の歴史社会学にどのような特徴・妥当性があるのかを吟味していく.換言すれば,歴史社会学における先進的な研究動向を取り入れ,ポスト構造主義の概念を援用して歴史・思想要因を考察する.そして,ポスト国際関係史(或いはポスト国際関係論)を再構成した場合にそこにどのような可能性があるのかを検証する.
著者
赤川 学
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.81-95, 2006-03-28

読売新聞「人生案内」欄を素材として,「資料に向かい合う作法」としてのセクシュアリティの歴史社会学を実践する.第一に,1935~95年に掲載された身上相談を,見田宗介が用いた分類を修正しつつ,10年おきに量的分布の変遷を調べた.恋愛と結婚に関する悩みは漸減する一方,自己の性格や心に関する悩みが増加していた.第二に,性に関する悩み(身下相談)は,どの時期にもみられる「普遍的な悩み」,処女・純潔のように,ある時期以降消失する「可変的な悩み」,親密なパートナーとの関係に発生する「関係性の悩み」,自己の身体や性的欲望に関連する「個体性の悩み」等に分類される.第三に,身下相談では女性投稿者の比率が漸増しており,そこでは,「関係性の悩み」が突出して語られやすい.逆にいえば性を,自己の身体や欲望に関連づけるような語りが,隠蔽される傾向が確認された.