著者
吉川 元
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.53-77, 2004-03-19

冷戦の終結後,国際干渉を正当化する国際規範が確立された.そもそも冷戦期には,国際人権規範が確立されていたが,実際には,多くの国でその規範は履行されず,受容されなかった.それは,内政不干渉規範を優先するような国際政治状況があったからである.ところが冷戦が終結すると,国内統治の在り方を問い,途上国への民主化支援,予防外交,人道的干渉,紛争後平和構築,グッドガヴァナンス促進に向けた干渉など,国際干渉かにわかに始まる.その背景には,旧来の国際規範の変容または組み替え,それに新たな平和・安全保障観の形成がある.国連と欧州安全保障協力機構(OSCE)を中心に,民主主義および法の支配の実現を国際規範化する動きが生じて,またグッドガヴァナンスを国家基準とする動きが生じ,そして民主主義や人権尊重を国際平和・国際安全保障の条件とするような新しい国際平和・安全保障観が主として欧州で形成された.こうした国際規範および国際安全保障観に基づいて国際干渉が正当化されるようになる.
著者
池元 有一
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.3-32, 2003-03-31

初期の日本のコンピュータ産業は,急成長する内需に依存して発展した.そこで,本稿ではその内需をいかに国産機が獲得したかを,コンピュータ利用の変化とメーカーの対応に着目し,(超)小型機を対象として明らかにした.1960年代,日本のユーザーの一部は,コンピュータ導入に対する不安から廉価な小型機を望み,国産メーカーは,PCSや会計機並の低価格でより高機能の小型機で新市場を開拓する.ここには,ライバルとなる外国機が存在せず,また,小型機ユーザーは経済成長に伴い上位機種へ移行する例も見られ,国産メーカーにとって有利な市場であった.富士通は,この小型機で売上を伸ばし,それを上位機種につなげコンピュータ市場全体のシェアを拡大した.日本電気は,超小型機で成功したが,提携先(ハネウェル)や販売店の都合で,それを上位機種につなげることができなかった.目立製作所は,小型機の自主開発も試みたが,提携先(RCA)や上層部の判断で,製品投入のタイミングを左右され,思うようにシェアを拡大できなかった.
著者
新谷 周平
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.51-78, 2004-01-31

フリーターやフリーター希望者に特徴的な意識として現在志向や「やりたいこと」志向が指摘され,それに対して,職業や将来への意識を高めるための施策が提起されている.しかし,それらの志向の内実は何であり,彼らはなぜそうした志向性を持つのだろうか.本稿では,フリーター選択プロセスを把握することにより,「やりたいこと」志向とされてきたものの内実を明らかにすることを目的とする.インタビューの分折からは,フリーターを選択し,その状態を維持する要因として,生活手段を獲得するための道具性だけではなく,情緒的安定を可能にする表出性が充足されていることを指摘することができる.「やりたいこと」志向とは,さしあたり表出性を求めながら,道具性の獲得を求めていることを対外的に示す言葉だと解釈することができる.それゆえ,彼らの表出性に配慮しない政策は,その有効性を主張することができないであろう.
著者
苅部 直
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-46, 2006-09-30

天皇論という視角から見た場合, 日本社会の1990年代は, その前代との変化が大きいのに比べて, そのあと, 2000年以降との違いはあまりなく, 90年代における特徴が, いまも持続していると言ってよい.言論界においては, かたやナショナリズムの復活を声高に唱える声, そして他方ではそうした動向を警戒する議論が盛んで, 天皇論も対立点の一つとなっている.だが論壇での議論の熱さに比べ, 社会一般の皇室に対する感情は, むしろ希薄なものと言ってよく, そのことがかえって.ナショナリズムと政治意識との関係に, ある不安定性をもたらしているのである.
著者
馬場 靖雄
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.27-48, 2005-03-30

ニクラス・ルーマンの社会システム理論を踏まえて,近代社会を機能的に分化した社会ととらえ,そこにおける「法の支配」の意味について論じる.法を初めとする機能分化したシステムは,それぞれ独自の二分コードを用いて,社会内のあらゆる事象をテーマとして扱う.システムの外にある社会的環境(法にとっての道徳など)もまた,コードを通して,システム内において扱われる.この意味で機能システムはそれぞれ閉じられており,法が扱いうるのは法から見た社会的環境のみである.したがって法の支配が及ぶのは,法自身が投影した社会の範囲内でしかない.しかしこのように閉じられたシステムが相互に影響しあうなかで,いくつかの制度は改変され難いものとして固定されるに至る.基本権はそのひとつである.
著者
塙 武郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5/6, pp.163-184, 2008-03-21

本稿は,ニューヨーク市(以下,市教育局)を事例としてアメリカの初等中等教育の財政構造と特質について「州・地方財政」の視点から検討する.初等中等教育行政に専門特化する学校区は,財政面で州から独立性をもつ地方政府であり,地方財産税の自主管理により教育費を賄っている.市教育局の場合,市の行政組織の一部であるため,教員給与や学校施設費等の経常的経費(一般基金)だけを主に管理し,その一般基金には市の自主財源と州運営費交付金(Flex Aid)が投入されている.州運営費交付金は,学校区の「財政力指数」(CWR)を用いて算定・配分され学校区間の所得再分配を担っている.教育財政の特質を象徴する同補助金は,第1に財源格差の「平準化」ではなく,「縮小」を目的とし,第2に貧困学校区には手厚いが,富裕学校区にも少額ながら配分することによって州・地方政府間の公平なパートナーシップを図り,第3に富裕学校区から余剰財源を削ぎ取って貧困学校区に分配するものではないと論じる.
著者
林 秀弥
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.157-185, 2004-03-18

本稿は,独占禁止法上の企業結合規制における「有効な牽制力ある競争者」概念の再構成を目的とするものである.「有効な牽制力ある競争者」概念は,八幡・富士合併事件同意審決以来,実務上重要な問題であるとされながら,型どおりの批判が多く,理論的な分析が本格的になされることはあまりなかったように思われる.そこで,本稿は,「有効な牽制力ある競争者」概念について,立法史,判審決,経済理論および比較法という4つの観点から多角的に理論的研究を試みようとする.そもそも,競い合いは一人でできるものではなく,競争者がいてはじめて行われるものである以上,競争者の存在とその行動様式に関する評価は,競争効果分析において本来無視できないはずである.問題は,いかなる基本的考え方の下に,いかなる要件を立てて,どのように評価するか,であると考えられる.本稿は,独禁法の素人が抱くであろうこのような素朴な疑問に立ち返って,「有効な牽制力ある競争者」の概念に関して上記4つの視点から総合的に法学的検討を行うものである.
著者
石黒 馨
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.29-51, 2004-03-19

本稿は,国内紛争への国際社会の介入について簡単な戦略モデルを構成し,国内紛争を回避する条件,特に国際社会の介入のコミットメントやクレディビリティについて検討する。本稿の主要な結論は,国際社会が国内紛争への介入に関して必ずしもコミットできない場合でも,国際介入のクレディビリティを十分に確立することができれば,国内紛争を回避することができるというものである.国際社会には国家主権と内政不干渉の原則があり,国際介入は人道的理由であっても確立された国際的な原則や規範ではない.したがって,国際社会は国内紛争に対して必ずしも介入するとは限らない.しかし,国際社会が介入に関してコミットできない場合でも,その介入に十分なクレディビリティがあれば,国内紛争を回避できる場合がある.
著者
有田 伸
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.77-97, 2011-03-15

非正規雇用という概念の具体的な意味内容は, 社会によって大きく異なり得る. 本稿は, 韓国社会にこの概念がどのように適用され, 何が「非正規雇用」とされてきたのかを現実の雇用構造と照らし合わせながら検討することで, 韓国労働市場における「格差」の性格を明らかにしていく. 韓国においてこれまで非正規雇用として読み替えられることが多かった経済活動人口調査の臨時・日雇カテゴリーは, 確かに労働市場における雇用の安定性や報酬等の格差をすくいとっているが, 分類基準の「土着化」故に, これらの格差は韓国に根強く存在する企業規模間格差の反映ともなってしまっている. これらを考慮すれば, 韓国では正規/非正規雇用の区分が日本ほどには自明でなく, その影響もそこまで独立的なものではない可能性が高い. 以上の韓国の事例と比較すると, 日本の非正規雇用は自明性/標準性と独立性が強く, それが非正規雇用の認識・分析枠組にも影響を及ぼしているという点で特徴的といえる.
著者
藤田 弘夫
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.117-135, 2006-03-28

日本の社会学者は都市社会学者にかぎらず,何よりも「現代」社会の研究者であることに意義を見出してきた.したがって,都市の歴史社会学的な研究は多くはなかった.もっとも,これも都市の定義や歴史社会学をどう考えるかでかなりの違いがある.日本は都市社会学をアメリカから導入した.アメリカの都市社会学はアメリカ社会の非歴史的性格を反映して,歴史への関心が欠如している.このため日本の都市社会学は最近までほとんど歴史に関心を持ってこなかった.現在,都市社会学者は歴史家の研究に影響を受けながら研究を進めている.これに対して,都市社会学者の歴史家への影響は少ない.矢崎武夫の統合機関理論による日本都市の発展史,中川清の生活構造論による近代化論,藤田弘夫の権力論による都市の発生論や飢餓論などわずかしかない.とはいえ,最近の佐藤香の社会的移動論,中筋直哉の身体の本源的対他相関性論などにもとづく研究は,新しい歴史社会学的研究の可能性を拓いている.この意味では,都市の歴史社会学的研究はようやく,はじまったばかりである.
著者
加瀬 和俊
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:3873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.125-155, 2006-09-30

戦前日本に失業保険制度は存在しなかったが, そのための諸構想は存在し, その一部は法案として議会に提出された.また, 失業保険形態の給付制度は小規模なものではあれ大都市自治体によって実施された.本稿は, それらの諸構想・諸制度を比較し, 諸構想が英独等の制度を参考にしながらも日本資本主義に許容可能な種々の制度的工夫を案出していたことを確認した.実施された日雇共済制度については, 保険形態をとりつつも実質的には公的扶助であり, 赤字削減のための制度的工夫が制度の利用減と休眠化を招いたプロセスを示した.また1920年代には貯蓄奨励制度的な失業給付を容認していた資本家団体が, 1930年代には失業保険形態をとる全制度に反対するにいたった経過を明らかにした.
著者
大賀 哲
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.127-152, 2003-03-31

本稿は日本外交とアイデンティティの関係をディスコース分析(Discourse Analysis)を基軸に分析し,外交上のアイデンティティが「アジア太平洋」から「東アジア」へと,どのように変容してきたのかを考察したものである.リアリズム・コンストラクティヴィズムといった国際政治学における既存のフレームワークは「利益」および「規範」といった分析変数を用いて外交分析を行うが,本稿はこうした既存のフレームワークからでは見えにくかったアイデンティティの問題をディスコース分析によって日本外交という枠組みの中で再検討しようという試みである.主に吉田茂・岸信介・福田赳夫・中曽根康弘・90年代の「開かれた地域主義」・アジア通貨危機以降のアジア地域主義といった外交言説に着目し,「アジア」が日本外交の中でどのように定義され,「アジア太平洋」という帰属意識がどのように「東アジア」へと変遷してきたのかを分析した.これは,外交をアイデンティティの構築作業として捉えることであり,ディスコース分析が既存の理論的フレームワークの欠点を補完する,若しくは代替的な枠組みとして一定の役割を担いうるのではないかと考えられる.
著者
田中 悟 林 秀弥
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.135-162, 2010-01-27

本稿では, わが国のパテントプールに対して競争政策上問題とされたリーディングケースである「パチンコ機特許プール事件」(平成9年8月6日公正取引委員会勧告審決)についての法と経済学的接近が行われる. そこでは, この事件に対する公正取引委員会勧告審決が認定した事実そのものに遡って, パテントプールがもたらした競争上の効果についての検討が加えられる. 本パテントプールが形成された歴史的経過とその変遷が吟味された後, パテントプールに集積された特許権をめぐる特許引用関係を用いたネットワーク分析を通じて, これらの特許権の性格が検討される. こうした分析を通じて, パテントプールに集積された特許権がパチンコ機製造にとって必要不可欠なものであり, 公取委審決で問題とされたパテントプールを通じた参入排除が実効性を有していたことが明らかとされる.これらの帰結をベースにして, 本パテントプールに関して行われた審決の独占禁止法および競争政策上の意味についての考察が行われる.
著者
河村 弘祐
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.207-237, 2004-03-19

フィアロンはゲーム理論のモデルを用いて,コミットメント問題を定式化し,国内紛争の勃発する論理構造の一つを明確化した.しかし,このモデルでは緊張は生じるが大規模な暴力化に発展しないような紛争回避の論理を考えるには不十分である.本論文ではいかにコミットメント問題は解消されるのか,すなわち,暴力化がいかに回避されるのか,という問題関心も含めて国内紛争の勃発と回避の過程について考察する.初めに,外部褒賞という変数を加えた修正モデルを提示し,その働きによりコミットメントの信頼性が担保され,紛争が回避されるという論理構造を示す.次に,ともに旧ユーゴスラヴィア連邦から独立したクロアチアとマケドニアという二つの事例にモデルを当てはめ,比較,分析する.独立に伴い両国とも深刻な民族問題を抱えていたが,クロアチアでは国内紛争に発展し,マケドニアでは大規模な暴力化を免れてきた.同様にコミットメント問題を抱えていた両国に差異をもたらした一つの説明として,外部褒賞の効果に注目する.
著者
根岸 毅宏
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.67-99, 2009

アメリカの福祉再編は, 福祉受給者を就労させることで福祉から脱却させる1990年代の政策から, 経済的な自立のためにフルタイム雇用とキャリア向上を促す2000年代の政策へと, 就労を重視する方向にさらに一歩進むことになった. 本稿は, こうしたアメリカの福祉再編を州政府の側に重点を置いて検討することにより, 次の3点を明確にする. 第1に, 1990年代の福祉再編が, グローバリゼーションのもとで, 労働技能を高める方向での労働編成の再編を大枠とする政策体系の一環として行われたことである. 第2に, 1996年連邦福祉改革は, それ以前に州政府がウェイバー条項を活用して導入した施策への, 連邦政府の側の対応であったことである. 第3に, 2006年の連邦福祉改革法の再承認で, 就労を重視する方向にさらに一歩進んだ背景としては, フロリダ州のように, 福祉受給者や低所得者のキャリアの向上に成果を上げつつあるプログラムもあったことである.The priority of U.S. welfare policy in the 1990's was for recipients to leave welfare through employment. The priority of the current decade is for welfare leavers and recipients to achieve independence by getting a full-time job and climbing the career ladder. Consequently, U.S. welfare policy has advanced further in the direction of putting an emphasis on work. This paper discusses U.S. welfare policy from the viewpoint of state governments. In this paper I focus on the followlng three points. First, state governments implemented welfare reform as part of a policy framework based on a high productivity work model to fit with the global economy. Second, the 1996 Federal welfare reform responded in a favorable and complementary fashion to State welfare policies introduced around 1990. Third, state-based job trainlng programs that encouraged welfare recipients to climb the career ladder had an impact on the 2006 Federal welfare reform reauthorization.
著者
堤 英敬 上神 貴佳
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.33-48, 2007-03

本論文は,2003年総選挙の公約データを用いて,「政党・政策中心の選挙」の現状と政党内における政策的な分散を説明する「選挙制度不均一モデル」を検証する.前者については,自民党と民主党,二大政党間の政策的な違いは大きいといえず,両党内の政策的な凝集性も低いことを示した.また,「選挙制度不均一モデル」が予測する衆議院と都道府県議会において異なる選挙制度の効果については,系列関係の程度や地方議会選挙における競合のあり方に応じて,国政レベルの政策対立が末端まで浸透しないことを部分的に確認した.
著者
大賀 哲
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.37-55, 2006-03-28 (Released:2008-09-19)

本稿の趣旨は,実証主義とポスト実証主義の認識論的差異,国際関係論における理論と歴史の方法論的な差異を踏まえながら,国際関係論における歴史社会学の用法を考察していくことにある.歴史社会学の用法や,理論と歴史の差異,言説分析の可能性とその限界等は既に社会学で広範に議論されているが,国際関係論において,歴史社会学のもつ可能性についての研究は少なく,未だ十分に議論されていないというのが現状である.本稿の意図するところはまさに国際関係論における歴史社会学の展開を掘り下げ,その研究上の可能性を考察する事にある.具体的には二つの歴史社会学(ウェーバー型とフーコー型)を比較検討し,とりわけフーコー型の歴史社会学にどのような特徴・妥当性があるのかを吟味していく.換言すれば,歴史社会学における先進的な研究動向を取り入れ,ポスト構造主義の概念を援用して歴史・思想要因を考察する.そして,ポスト国際関係史(或いはポスト国際関係論)を再構成した場合にそこにどのような可能性があるのかを検証する. The aim of this paper is, through considering an epistemological difference between positivism and post-positivism, and a methodological difference between theory and history within the study of international relations, to examine uses of historical sociologies in international relations. While issues like an application of historical sociology, a difference between theory and history, and potentials and limits of discourse analysis, have been already and widely discussed in sociology, there are, in the discipline of international relations, few works that examine an effectiveness of historical sociology and the discussion has been still insufficient. Therefore, this paper tries to explore the positive potentials of historical sociology by widely investigating the development of historical sociology in international relations. The contention of this paper compares Weberian and Foucauldian versions of historical sociology and uncovers features and potentials of the latter. In other words, this paper harmonizes post-structuralism and the well-developed researches of historical sociology in order to examine historical and ideological factors. And this paper finally constructs post-international relations (history), as a unification of post-structuralism and historical sociology, and evaluates its potentials.
著者
中村 圭介
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.57-75, 2011-03-15

1994年に日本の労働組合員数は1,270万人と戦後最高を記録した. しかし, それ以降, 組合員数は減り続けた. この縮小トレンドは2007年に止まった. それをもたらしたのは, 1つには企業別組合による非正規労働者の組織化である. 非正規に職場を侵食された企業別組合は, 経営不安などをきっかけに, 集団的発言メカニズムの危機, 代表性の危機を察知し, 自らを守るために非正規の組織化に乗り出した. 他方で, 縮小トレンドのストップにはさほど貢献しているわけではないが, 地域に根を張り, 一般組合主義に基づいて, 企業, 産業, 職業, 雇用形態に関わらずに, 小零細企業で働く未組織労働者を組織化する「新しい主体」の活躍が目立つようになってきた. コミュニティ・ユニオン, 地域ユニオン, ローカル・ユニオンなどである. これらのユニオンは, 地域で暮らし働く労働者たちに労働組合というセイフティネットを提供している. そこに重要な機能がある. この2つの新しい動きを推進していくことが, 企業の外への関心の弱きと非正規労働者への配慮の少なさという企業別組合が持つ2つの短所を克服し, 日本の労働組合を再生させる契機となるかもしれない.