- 著者
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伊藤 洋一
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 社會科學研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.39-66, 2006-01-31
EU憲法条約は,2005年5月29日のフランス国民投票による批准否決により,殆ど「死んだも同然」の状況になった.しかしながら,憲法条約に関するフランス国民投票論議は,ヨーロッパレヴェルにおける基本権保障につき,若干の教訓を残した.国民投票論議の中では,Convention方式の民主的正統性が,批准反対派により争われた.EU基本権憲章の「憲法化」は,憲法条約におけるEU法の優越規定新設と相まって,フランス憲法院に対して深刻な憲法問題を提起することとなった.一般論としては,ヨーロッパレヴェルでの基本権保障の強化は歓迎すべきことであるものの,加盟国の憲法裁判所にとっては,EU法と国内憲法規範との抵触の可能性ゆえに,常にそうであるとは限らないからである.本稿は,加盟国が各国の「憲法制定権力」を援用できる限り,たとえEU憲法条約が発効したとしても,基本権保障問題に関して,EU法の絶対的優越が達成され得ないであろうことを論じるものである.