著者
神 一敬 加藤 量広 鈴木 菜摘 中里 信和
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.585-590, 2018-12-01 (Released:2018-12-06)
参考文献数
25

自律神経の最高中枢は大脳にあるため, てんかんと自律神経は密接な関係がある。発作活動が自律神経に関わる領域に及ぶと, 頻脈・徐脈, 上腹部不快感, 流涎など様々な自律神経症状を呈する。発作時頻脈は側頭葉てんかんの約90%でみられる。我々は内側側頭葉てんかん患者において, 右起始の発作時は左起始に比べ有意に早いタイミングで心拍数が増加し始めることを明らかにした。一方, 発作間欠時にも心臓自律神経障害を呈することが報告されている。その評価法として心拍変動解析があり, 低周波成分 (LF) は交感・副交感神経系, 高周波成分 (HF) は副交感神経系の指標と考えられている。てんかん患者ではHF低値を示すことが報告されている。我々は右半球性焦点てんかんのノンレム睡眠時HF, 左半球性のノンレム睡眠時LF・覚醒時HFが異常であることを示した。発作時の心拍変化パターンや発作間欠時の心拍変動異常が焦点発作の側方診断に有用である可能性がある。
著者
神 一敬 板橋 泉 中村 美輝 中里 信和
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.40-44, 2020-02-01 (Released:2020-02-06)
参考文献数
22

焦点てんかんは, 焦点の局在により, 発作に対する睡眠の影響という点でそれぞれ異なった特徴がある。後頭葉てんかんは覚醒中の発作が多いのに対して, 前頭葉てんかんは睡眠中の発作が半数以上を占める睡眠てんかんの代表的疾患である。前頭葉てんかんでは, 焦点性間代発作, 非対称性強直発作, 過運動発作 (運動亢進発作) といった運動症状をきたす発作がみられる。睡眠中に異常運動・行動をきたすため, ノンレムパラソムニア (ノンレム睡眠からの覚醒障害群) との鑑別が問題となる場合があるが, 発作が一晩に複数回群発することがある, 運動症状がステレオタイプで無目的である, といった点が鑑別点として重要である。終夜睡眠ポリグラフ中にイベントが記録されれば, 前頭葉てんかんの発作はノンレム睡眠stage N2に起きることが最も多いのに対して, ノンレムパラソムニアはノンレム睡眠stage N3に起きる点が特徴である。

3 0 0 0 OA ICUAWの診断

著者
畑中 裕己
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.128-135, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)
参考文献数
37
著者
関口 兼司
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.190-197, 2017-08-01 (Released:2018-02-24)
参考文献数
16

首下がり症候群は日常的によく遭遇し, 錐体外路性疾患のみならず神経筋疾患が原因のことがあるため診断のために筋電図が必要とされることが多い。診察や表面筋電図などから後頸部筋の筋力低下が原因と疑われた場合は神経筋接合部疾患, 神経原性疾患, 筋原性疾患を鑑別していくために反復刺激試験, 神経伝導検査, 針筋電図を行っていく。四肢で異常が見つからない場合は体幹部の検査が決め手になるので, 呼吸筋を含めた体幹部の筋電図検査に日常的に触れておくことが望ましい。

2 0 0 0 OA 脳波の賦活法

著者
石郷 景子
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.371-377, 2014-12-01 (Released:2016-02-25)
参考文献数
4

脳波検査を実施するためには, 電極が正しい位置で装着され, 接触抵抗を下げて電極間の抵抗にばらつきをなくすことが重要である。脳波記録は覚醒安静時および賦活時脳波と睡眠時の記録が必要であり, そのうち賦活法は安静覚醒時の閉眼状態で明らかでない異常波の検出や生理的変化の観察を目的としている。そのためには被検者の協力が必要であり, 検査前に目的や方法を分かりやすく説明し, 被検者の協力を求めるようにする。また, 検査情報を事前にチェックすることは必要である。被検者自身から聞き出すことも検査がスムーズに進行するために必要となる場合もある。
著者
山口 亮祐 宮本 礼子
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.567-577, 2018-12-01 (Released:2018-12-06)
参考文献数
36

共感は, 認知的共感と情動的共感に分類され, それぞれが補足し合って共感機能を担っている。本研究では, 同一刺激だが異なる教示条件を用いて, 認知的共感と情動的共感の神経基盤の相違点を明らかにすることを目的とした。右利きの健常成人女性16名を対象に快感情が喚起される顔写真を見る条件 (情動的共感) と, 提示された人の感情を想像する条件 (認知的共感) を施行中の脳活動を, 機能的磁気共鳴画像法を用いて検討した。その結果, 情動的共感に特有の活動として両側下頭頂小葉が賦活し, 感覚情報を基にした感情面のミラーリングの関与が示唆された。一方, 認知的共感に特有の活動として左下前頭回が賦活し, 表情の意図を推測する活動の関与が示唆された。下頭頂小葉, 下前頭回ともにミラーニューロンシステムの一部であり, それぞれの共感には同システム上の異なる部位が関与し, 共感機能を担っている可能性が示唆された。

2 0 0 0 OA P300基礎

著者
加賀 佳美 相原 正男
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.80-85, 2013-04-01 (Released:2015-02-25)
参考文献数
41
被引用文献数
2

事象関連電位P300は刺激提示後, 潜時約300 ms付近に生じる陽性波で, 刺激に対する比較, 評価, 判断, 選択的注意, 認知文脈の更新に関与しているといわれている。1965年Suttonによって発見され, オドボール課題がP300の測定法としてよく知られている。いわゆるP300は頭皮上Pzで最大振幅が記録され, 刺激の種類, 刺激間隔, 提示数, 頻度, 強度, 類似度で振幅や潜時が変化する。その発生源は大脳皮質説と皮質下説など諸説がある。性差はないという報告もあるが, 女性で振幅が大きく潜時が短いという報告が多い。その年齢変化については, 聴覚P300では年齢とともに潜時が短縮し, 15∼18歳で最短縮年齢に達し, 以後加齢とともに潜時は延長する。視覚P300では, 課題の種類に依存し, 比較的難しい文字の課題では20代後半から30代で最短潜時となる。P300の測定法, 性差, 年齢変化を中心に解説した。
著者
野寺 裕之
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.203-211, 2016-08-01 (Released:2017-08-09)
参考文献数
24

脱髄性末梢神経疾患は免疫療法による治療が可能であるため, 見逃し無く診断することが重要である。神経伝導検査をはじめとする神経生理検査は多くの末梢神経の病態をベッドサイドで明らかにできるため特に重要な検査であるが, 診断基準が複雑であることから, 項目を丸覚えするのではなく, 検査異常を示す電気生理学的メカニズムを理解することが正確な診断と病態の把握に必須である。さらに, 電気生理学的検査に加え, 末梢神経の画像検査が有用とされ, 脱髄を示唆する神経腫大を画像的に検出することができれば診断精度が向上する。MRIとエコーなどを用いた画像検査と神経生理検査を組み合わせた病態の把握が進んでいる。
著者
渕野 航平 黒部 正孝 松原 広幸 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.8-13, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)
参考文献数
28

短母指外転筋に対する圧刺激強度が脊髄前角細胞の興奮性に与える影響について検討した。右利きの健常成人25名を対象とした。右短母指外転筋上の皮膚面に対して垂直に30秒間圧刺激を与え, その前後に右手関節部で正中神経を電気刺激し右短母指外転筋の筋腹上からF波を記録した。圧刺激の強度は, 圧刺激により疼痛を訴えた強度である痛覚閾値強度 (平均14.7±7.2 N) および痛覚閾値の50%強度 (平均7.6±4.1 N) の2種類とした。F波の分析項目は, F波出現頻度および振幅F/M比とした。痛覚閾値強度での圧刺激後は, 圧刺激前と比較してF波出現頻度 (刺激前: 47.3±16.7%, 刺激後: 48.1±15.9%) および振幅F/M比 (刺激前: 1.13±0.49%, 刺激後: 1.11±0.51%) に変化を認めなかった。痛覚閾値の50%強度での圧刺激後は, 圧刺激前と比較してF波出現頻度 (刺激前: 50.8±18.5%, 刺激後: 41.6±17.1%) および振幅F/M比 (刺激前: 1.21±0.61%, 刺激後: 1.02±0.48%) が低下した (p<0.05) 。本研究から, 短母指外転筋に対して痛覚閾値強度の圧刺激では脊髄前角細胞の興奮性は変化しないが, 痛覚閾値の50%強度で圧刺激を行った後, 脊髄前角細胞の興奮性が低下することが示唆された。
著者
下竹 昭寛 松本 理器 人見 健文 池田 昭夫
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.40-46, 2019-02-01 (Released:2019-03-08)
参考文献数
21

意識障害の患者において代謝性脳症は比較的よく遭遇する病態であり, 脳波はその診断と病勢の把握に有用である。代謝性脳症の脳波所見は, 意識障害の程度と関係して, 基礎律動・後頭部優位律動の徐波化や消失, 間欠的律動性または持続性高振幅の全般性デルタ活動, 三相波 (Triphasic wave) を呈する場合もある。三相波は, 陰–陽–陰の三相性からなる特徴的な波形で, 肝性脳症を含む代謝性脳症で認めることが多い。中毒の脳波所見の中に両側同期性の全般性周期性放電 (Generalized Periodic Discharges (GPDs) ) を呈するものがある。薬物関連では, 炭酸リチウム, テオフィリンなどが挙げられ, セフェピム脳症によるものも知られる。三相波/GPDsにおいては, 非けいれん性てんかん重積 (NCSE) の可能性についても常に念頭に置く必要がある。代謝性・中毒性脳症の脳波は原因検索に必ずしも特異的な所見を示すわけではないが, 特徴的な脳波所見を示す場合があり, また非侵襲的に早期から病態の客観的な評価が可能であり, 積極的に活用すべきである。
著者
宮内 哲
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.15-22, 2020-02-01 (Released:2020-02-06)
参考文献数
54

その3では, Loomisが最初に発見, 命名したK-complexについて, その歴史的な経緯と, K-complexの“K”の由来を説明する。さらにSteriadeとAmzicaによるslow oscillationの発見を端緒として, K-complexが脳の微小神経回路と脳波の生成メカニズムの観点から, 再び脚光を浴びていることを解説する。
著者
宇城 研悟
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.393-398, 2014-12-01 (Released:2016-02-25)
参考文献数
7

臨床脳波の記録は, アーチファクトを最小限に抑えて判読のしやすい綺麗な脳波を記録することが, われわれ脳波記録者に課せられた業務の1つである。特に脳死判定の際にはアーチファクトを取り除くことが極めて重要な作業となり, 臨床検査技師として腕のみせ所である。確かに, 一般書籍によると, アーチファクトはその原因をつきとめて, 可能な限り除去することと述べられている。しかし, 時としてアーチファクトそのものが, 臨床脳波判読の際に大切な情報をもたらすこともあり, アーチファクトを注意深く観察しなくてはならない場合も存在する。臨床脳波の記録はアーチファクトとの闘いであり, 判読の敵となることが大半であるが, ときには結果を紐解く味方にもなりうるアーチファクトも存在する。一般的なアーチファクトの鑑別点や対処法, 臨床的意義のあるアーチファクトの鑑別を一部症例提示しながら述べる。
著者
馬場 正之 村上 千恵子 小川 吉司
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.497-501, 2016-12-01 (Released:2017-12-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

原因不明の突然死を来した糖尿病患者3例の神経伝導検査所見と突然死に至るまでの臨床経過を報告し, 糖尿病性神経障害が突然死の基盤となった可能性を論じる。いずれの患者も2007年~2009年に神経伝導検査によって重度~廃絶性神経障害と診断された41名中に属し, その後の足病変イベント発生の前向き調査中に突然死を来したもので, 死亡直前の血糖コントロールは安定し, 低血糖や致死的な心・脳血管障害を思わせる症状・徴候はなかった。同時期に神経障害なしあるいは軽度・中等度障害としてフォロー中の糖尿病患者189名に突然死は5年間全く出ていない。神経伝導検査による神経障害重症度の客観的評価法の有用性と, 神経伝導検査専門検査技師養成の意義についても述べた。
著者
中根 俊成 樋口 理 高松 孝太郎 松尾 秀徳 安東 由喜雄
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.95-100, 2018-04-01 (Released:2018-04-17)
参考文献数
35

2011年, 低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質4 (LRP4) の細胞外領域に対する自己抗体が一部のMG患者血清中に存在することが確認された。しかしその頻度については研究によってばらつきがあり, 国際的な枠組みでの疫学調査, 抗体測定方法間のvalidationを解決法として考慮すべきであろう。LRP4はアセチルコリン受容体, MuSK同様, 神経筋接合部形成に必須である。そして「アグリン仮説」を担い, 筋膜上でアグリン, MuSKと複合体を形成している。抗LRP4抗体の作用機序としては神経筋伝達機能を保持するためのシグナルの機能的阻害が推測される。病態の推測と受動・能動免疫による動物モデルが作製可能である点から病原性のある自己抗体として捉えられている。抗LRP4抗体については重要な問題が提起されている。それは筋萎縮性側索硬化症を筆頭とする他の神経筋疾患におけるLRP4抗体の陽性症例である。われわれが測定しているLRP4抗体とはいったい何か。最新の知見を交えて概説したい。

2 0 0 0 OA 小児脳波

著者
伊藤 進 小国 弘量
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.378-386, 2014-12-01 (Released:2016-02-25)
参考文献数
14

小児の脳波検査においては, 体動や啼泣などのアーチファクトが混入しやすく, 電極の装着や維持が困難であることも多々あるが, 十分な検査時間の確保と検査方法の工夫とにより, アーチファクトの混じらない睡眠期のみの“きれい”な脳波よりも, 覚醒期と睡眠期の両者を含む“十分”な脳波を記録することが重要である。また, 乳児期から幼児期, 小児期になるにつれ, 覚醒期の基礎律動や睡眠期の生理的な睡眠波が大幅に変化していくため, 各年齢における正常な脳波所見を理解する必要がある。さらに, 小児てんかんにおいては, てんかん症候群 (脳波・臨床症候群) が大きな割合を占めるため, ウエスト症候群, 早発良性小児後頭葉てんかん (パナイオトポロス) 症候群, 中心側頭部棘波を示す良性てんかん, レノックス・ガストー症候群, 小児欠神てんかん, 若年ミオクロニーてんかんなど, 代表的なてんかん症候群に特徴的な脳波所見を熟知しておくことも重要である。