著者
加藤 久美
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.45-49, 2020-02-01 (Released:2020-02-06)
参考文献数
7

パラソムニア (睡眠随伴症) とは, 睡眠開始時, 睡眠中, あるいは睡眠からの覚醒時に生じる望ましくない身体現象であり, ノンレムパラソムニア, レムパラソムニア, その他のパラソムニアに分類されている。ノンレムパラソムニアには小児期に多い錯乱性覚醒, 睡眠時遊行症, 睡眠時驚愕症, 成人女性に多い睡眠関連摂食異常症が含まれる。錯乱性覚醒, 睡眠時遊行症, 睡眠時驚愕症は小児期に最初のエピソードが出現し, 小児期に多く成人では少ない。徐波睡眠からの覚醒で出現しやすいため, 徐波睡眠の多い夜間睡眠の最初の1/3–1/2に発現する。遺伝性が高く, 小児のノンレムパラソムニアの有病率は両親の有病率と関連することが報告されている。睡眠不足, 不規則な睡眠習慣, ストレス, 閉塞性睡眠時無呼吸, アルコール, カフェイン, 発熱疾患が誘因となりうる。近年, 注意欠如・多動症児にノンレムパラソムニアが多いとの報告がある。
著者
藤岡 真生 切原 賢治 越山 太輔 多田 真理子 臼井 香 荒木 剛 笠井 清登
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.662-669, 2020-12-01 (Released:2020-12-14)
参考文献数
49

事象関連電位の一成分であるミスマッチ陰性電位 (MMN, mismatch negativity) の振幅が慢性期の統合失調症で減衰することはよく知られている。その神経基盤はまだ十分に明らかではないが, 統合失調症の早期段階でもMMN振幅が減衰することや, 認知機能および機能的アウトカムとの関係や予後予測における特性が刺激提示条件によって異なることなどがわかってきている。MMNはヒト以外の動物でも測定できるトランスレータブルなバイオマーカーであるため, 統合失調症早期段階におけるMMN研究は, 病態生理の解明と早期支援に寄与すると期待される。そこで本稿では, 精神病発症ハイリスク (UHR, ultra-high risk for psychosis) や初回エピソード精神病/統合失調症といった統合失調症早期段階のMMN研究について, MMNの進行性変化, 認知機能や機能的アウトカムとの関連, 病態生理, UHRの予後予測という視点から, さらには刺激条件の違いに着目して概説した。
著者
宇川 義一 生駒 一憲 魚住 武則 鬼頭 伸輔 齋藤 洋一 谷 俊一 寺尾 安生 飛松 省三 中村 元昭 藤木 稔
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.513-515, 2016-12-01 (Released:2017-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

最近, 国際臨床神経学会のホームページで, 経頭蓋直流電気刺激, 経頭蓋交流電気刺激の個人的な使用に関する勧告が出された。そこで, 日本臨床神経生理学会では, その日本語訳を以下に示すことにした。最終的結論に, 本学会の脳刺激委員会としても賛成である。
著者
堤 涼介 代田 悠一郎 宇川 義一
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.227-233, 2012-08-01 (Released:2014-08-30)
参考文献数
57

経頭蓋磁気刺激法における2つのコイルを用いたpaired pulse stimulationの例として, 大脳半球間抑制 (interhemispheric inhibition: IHI) と小脳抑制 (cerebellar inhibition: CBI) について概説する。IHIは左右のM1にコイルをおき, 片側からの条件刺激を対側からの試験刺激より6 ms以上先行させる条件で刺激を行った場合のMEP振幅が, 試験刺激単独によるMEP振幅に比べ減少するもので, M1間の脳梁を介した抑制機能を評価することができる。CBIは小脳半球と対側M1にコイルをおき, 小脳刺激をM1刺激に5–8 ms先行させる条件で刺激を行った場合のMEP振幅が, M1刺激単独によるMEP振幅に比べ減少するもので, 小脳プルキンエ細胞から歯状核視床皮質路を通る小脳遠心路系の機能を評価することができる。これらの機能は運動制御に重要な役割を果たしており, 様々な神経疾患における病態生理の解明や臨床応用が期待される。
著者
福本 悠樹 鈴木 俊明 岩月 宏泰
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.82-92, 2019-04-01 (Released:2019-04-11)
参考文献数
27
被引用文献数
7

運動練習後の運動イメージが運動の正確さと脊髄前角細胞の興奮性の関連性にどう影響するか検討した。健常者44名 (平均年齢20.8歳) を無作為に10秒間, 30秒間, 1分間, 2分間の練習時間群に振り分け比較した。安静のF波測定後, ピンチ力を50%MVCに調節する練習を与えた。練習後, ピンチ課題を与え, 規定値と実測値の誤差を算出した。運動イメージにてF波測定後, 再度ピンチ課題を与えた。イメージから安静の振幅F/M比と出現頻度を引いて振幅F/M比と出現頻度変化量を, イメージ後からイメージ前の誤差を引いて誤差変化量を算出した。誤差変化量と振幅F/M比変化量, 出現頻度変化量は, 30秒間・1分間の群で10秒間・2分間の群より減少した。運動イメージの実施が運動の正確さを向上させる場合は, 脊髄前角細胞の興奮性が増大するがその程度が過剰とはならない可能性が示唆された。
著者
前田 剛伸 嘉戸 直樹 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.10-13, 2015-02-01 (Released:2016-02-25)
参考文献数
18
被引用文献数
9

健常者を対象に複雑性の異なる手指対立運動の運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響についてF波を指標として検討した。対象は健常者15名とした。F波測定は背臥位で安静時 (安静試行), 右母指と示指による対立運動のイメージ (課題1), 右母指と他指の対立運動を示指, 中指, 環指, 小指の順でイメージ (課題2), 示指, 環指, 中指, 小指の順でイメージ (課題3) した状態で行った。また, 各課題をどの程度想起できていたかを知る目的でアンケート調査を実施した。その結果, 振幅F/M比は安静試行に比べて課題2で有意に増加し, F波出現頻度は安静試行に比べて課題1と課題2で有意に増加した。また, アンケートの点数は課題1と課題2に比べ課題3で有意に低下した。本結果より, 複雑な運動イメージでは上肢脊髄神経機能の興奮性がより増加するものの, 運動イメージの想起が難しければ上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しない可能性が考えられた。
著者
福本 悠樹 鈴木 佑有可 伊藤 浩平 才野 茜音 細尾 菜月 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.54-61, 2021-04-01 (Released:2021-04-02)
参考文献数
31

運動イメージの実施対象と同側で運動練習を行わせると, 運動イメージが運動の正確度を維持させると分かった。本研究では同側での運動練習が困難な場合を想定し, 運動イメージの実施対象と対側で運動練習を行わせていた場合でも同等の効果が得られるかについて検証することを目的とした。健常者20名に対し安静のF波測定後 (安静1回目), ピンチ力を目標値に調節する練習を右手で行わせた。次に, 運動練習したことをあたかも左手で行っているかのようにイメージさせF波を測定した (運動イメージ試行) 。運動イメージ後, 目標値へピンチ力を調節するよう指示し運動の正確度を評価した (ピンチ課題) 。別日には, 運動イメージ試行を再度の安静 (安静2回目) に入れ替えたコントロール課題も設定した。運動の正確度の指標は, 目標値からの発揮ピンチ力誤差を絶対値に変換した値 (絶対誤差) を採用した。結果, イメージ課題とコントロール課題間で絶対誤差に差はなかったが, 安静と比較した運動イメージ試行でF波出現頻度が増大した。
著者
門脇 誠一 岡本 秀彦
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.143-147, 2022-08-01 (Released:2022-08-02)
参考文献数
18

音声刺激において音圧は一定ではなく変化している。時間分解能とは音圧の包絡線の変化を検出する能力であり, 言葉の知覚において重要であると考えられている。時間分解能は一般的な聴力検査では測定しておらず, 現在主に使用されている検査法は, 広帯域雑音の中に無音を挿入し, どの程度の短さまで無音を知覚できるかを示すギャップ検出閾値 (gap detection threshold, GDT) を測定するGap-in-Noise testである。検査に応答できない乳幼児や, 集中力の続かない小児など, 自覚的検査では限界があり, 脳波を用いた時間分解能の他覚的検査が現在研究されている。ミスマッチ陰性反応 (MMN) や頭頂部緩反応, 聴性定常反応 (ASSR) 等の誘発脳波を利用した研究があり, 本報ではそれらの内容をまとめて報告する。現段階では, 広く臨床の場で使用するのはまだ難しく, 今後の研究の発展が期待されている。
著者
水野(松本) 由子 小室 寛子 小縣 拓也 浅川 徹也 林 拓世
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.61-72, 2012-04-01 (Released:2014-08-20)
参考文献数
34
被引用文献数
2

情動ストレス刺激直後における脳波の経時的変化を定量的に評価した。被験者は健常成人22名で, 心身状態をCornell Medical Index (以降, CMI) を用いて評価し, 領域I を健常群, 領域II, III, IVをCMI 高値群に分類した。被験者には, 安静, 快, 不快の視聴覚動画像刺激を提示し, 180 秒間にわたって脳波を測定した。十分な休息を挟みながら, 各刺激提示を3試行, ランダムな順序で実施した。1試行180 秒間のうち, アーチファクトを除いた152 秒間について, α帯域の平均スケログラム値 (ウェーブレットスペクトル値) を求め, 3試行分の平均値について, 測定部位ごとに, 刺激間, 被験者間の比較を行った。さらに, 実験開始前の安静閉眼の無負荷状態を基準値とし, 4 秒ごとの相対平均スケログラム値を求め, 刺激後の経時的変化を回帰分析を用いて定量化した。その結果, 健常群ではCMI 高値群と比較して, 情動刺激に対する反応が大きく鋭敏であった。健常群のスケログラム値は, 安静刺激では無負荷状態と同値に近づき, 不快刺激では増加した。心身状態の違いにより, 情動ストレス負荷後の脳波の経時的変化に違いがみられた。
著者
鴨 宏一 村松 歩 多屋 優人 横山 浩之 浅川 徹也 林 拓世 水野(松本) 由子
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.193-201, 2013-08-01 (Released:2013-11-01)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では携帯端末による情動刺激下での脳波を用いた脳機能の評価を目的とした。被験者は健常成人24 名で,Cornell Medical Index(CMI),日本版State-Trait Anxiety Inventory(STAI),簡易ストレス度チェックリスト(SCL)によって心身状態を評価し,心理検査低値群と心理検査高値群に分類した。情動刺激は,情動的視聴覚セッション(安静,快,不快)と情動的文章セッション(快文章,不快文章)を用意し,携帯端末からの視聴覚刺激として被験者に提示し,脳波を計測した。脳波は離散フーリエ変換を行い,パワースペクトル値を算出した。α2 帯域の結果から,心理検査高値群は不快刺激および不快文章刺激時に側頭部でスペクトル値が高値を示した。以上より,携帯端末による情動刺激が精神安定度と関連して,脳機能の反応に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
山田 崇史
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.136-140, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)
参考文献数
27

医療技術の進歩による救命救急率の増大に伴い, 近年, 集中治療室 (ICU) に入室する患者数は増加の一途を辿っている。一方, ICU関連筋力低下 (ICUAW) と呼ばれる全身性の急激な筋力低下を呈するICU入室患者の数が増加し, 深刻な問題となっている。ICUAWは, 重症疾患ミオパチー (CIM) とポリニューロパチーに大別され, 敗血症, 人工呼吸管理の長期化, 不活動, ステロイド投与など, 様々な要因が関与する複雑な病態を有している。これまで, CIM患者では, 筋量の減少に加え, 単位断面積当たりの張力 (固有張力) の著しい低下が生じ, そのメカニズムには, 1) 細胞膜の興奮性低下とそれに伴う筋小胞体からのCa2+放出量低下, 2) クロスブリッジの張力産生能力の低下が関与すること, また, それらの要因として, 炎症性因子や不活動性因子により誘引される酸化ストレスが重要な役割を果たすことが示されている。
著者
樋口 悠子 住吉 太幹 立野 貴大 中島 英 西山 志満子 高橋 努 鈴木 道雄
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.650-655, 2020-12-01 (Released:2020-12-14)
参考文献数
21

ミスマッチ陰性電位 (MMN; mismatch negativity) の振幅は統合失調症などの精神病性障害およびその発症リスクが高い状態 (ARMS; at-risk mental state) で低下していることが報告されている。我々は初発, 慢性期統合失調症およびARMSの患者において持続長MMN (duration MMN; dMMN) を測定した。その結果, 初発, 慢性期統合失調症でdMMNおよびそれに引き続いて出現するreorienting negativity (RON) の振幅低下が見られた。更に, ARMSで後に統合失調症に移行した群については, 非移行群に比べdMMN振幅が有意に低かった。近年MMNの機能的転帰を予測するツールとしての応用について検討する報告も増えてきており, MMNはARMSの転帰予測因子としての期待が高まっている。
著者
久保田 雅也 木村 育美
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.124-131, 2018-06-01 (Released:2018-06-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ヒトの顔, 表情は豊富な意味を内包し, (1) 個体の識別と存在の象徴であり, (2) 感情の表出の場としても機能し, (3) 社会的交通の窓口でもある。アスペルガー症候群 (AS) の顔認知に関しては相対的に顔の同定・記憶・表情判断力において劣ること, 特に「眼」の表情のよみとり障害が顕著であることが知られる。また, 6歳以降の小児で顕著になる倒立顔効果が, 自閉症児では乏しいこと等が知られている。これはASの認知特性としての全体よりも細部にこだわるweak central coherence (弱い中央統合性) 仮説で説明される。今回顔認知課題を脳波–脳磁図測定およびアイトラッキングを用いて解析し, ASでは定型発達の「顔認知に特化されたシステム」とは異なる領域を用いていた。すなわちAS小児は顔という豊富な意味を有する対象を同定・理解するのにholistic & configural processingを経ずに視覚認知における背側経路を主に用いて分析的に見ることで表情認知という論理的分析にはなじまない対象を了解しようとしている可能性がある。
著者
石井 佐綾香 反頭 智子 加賀 佳美 相原 正男
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.132-138, 2018-06-01 (Released:2018-06-01)
参考文献数
18

小児の前頭葉機能検査試行中の脳活動を, 非侵襲的で体の向きや位置に制約が少ない近赤外線スペクトロスコピー (near-infrared spectroscopy; NIRS) を用いて測定した。語の流暢性課題と後出し負けじゃんけん課題試行中の前頭部酸素化ヘモグロビン濃度 [oxy-Hb] を測定し, 前頭葉機能の発達変化について検討した。また, 後出し負けじゃんけん課題においては注意欠陥多動性障害 (Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD) について定型発達児と比較検討した。語の流暢性課題試行中の前頭部 [oxy-Hb] は, 年齢とともに有意に上昇した。後出し負けじゃんけん課題では, 成人は前頭前外側部に上昇が限局する傾向を認めたが, 低年齢群では広範な上昇を認めた。後出し負けじゃんけん課題試行中の前頭部[oxy-Hb]はADHDでは定型発達児より有意に低かった。NIRSは小児の前頭葉機能の評価において簡便で有用な検査法であると考えられる。
著者
馬場 正之
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.143-150, 2013-06-01 (Released:2015-02-25)
参考文献数
30
被引用文献数
3

進行した糖尿病性多発神経障害diabetic polyneuropathy (以下DPN) は生命予後を短縮し, 患者の生活の質を著しく損なう。DPNの客観的重症度判定法確立が世界中から切実に求められているのは, それゆえである。本稿では, 個々のDPN患者における各種伝導パラメータ異常が持つ意味をもとに, DPN進行に関わるNCS異常のとらえかた, および糖尿病性神経障害重症度判定の可能性を検証し, I度: 速度系パラメータ異常のみ, II度: 腓腹神経感覚電位低下, III度: 脛骨神経M波振幅低下, IV度: 脛骨M波高度低下の4段階評価基準がDPN重症度判定に有効であることを解説した。また, それをもとに筆者が作成した重症度アルゴリズムを提示し, 臨床現場での使用法をまとめた。神経伝導検査は世界的にDPNのgolden standardとされるほど客観性に優れるが, このような重症度判定アルゴリズムの導入が糖尿病患者管理の精度向上に寄与するとともに, DPN診療現場における神経伝導検査の重要性をより明確にできると期待される。
著者
栢森 良二
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.172-179, 2013-06-01 (Released:2015-02-25)
参考文献数
3

肘部尺骨神経障害 (ulnar neuropathy at the elbow: UNE) は手根管症候群についで頻度の高い絞扼障害である。同様に頻度の高いTh1神経根症, 手関節での尺骨管症候群との鑑別, あるいは神経根症を合併している二重挫滅症候群の診断には, 基本的な臨床所見が重要である。電気診断学はこれらの病歴や理学所見の延長線上にある。尺骨神経伝導のルーチン検査は, 健側と患側の尺骨神経を手関節, 肘下, 肘上で刺激して筋複合活動電位 (CMAP) と感覚神経活動電位 (SNAP) を導出して, これを比較することである。UNEでは患側SNAPは軸索変性の程度を反映して低振幅である。さらに肘下と肘上刺激によるCMAPの波形相違や, 肘分節間伝導遅延がある。上腕骨内上顆を挟んで4~6 cmほどの分節で, 5つの異なった主な病態がある。これを診断するために, 短分節刺激によるインチング法によって伝導遅延あるいは伝導ブロックの部位を特定する必要がある。
著者
田原 敬 久保 愛恵 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.179-183, 2021-08-01 (Released:2021-08-01)
参考文献数
33

本稿では主に注意機能の視点から雑音下聴取の神経生理学的機序について論じ, 雑音下のような聴取困難な状況で高まる心的な労力であるListening effortについて概説した。脳波や脳機能イメージングを用いた報告からは, 雑音下においてより効率的に音声を聴取するために注意機能が重要な役割を担っていることが確認された。あわせて, Listening effortについても, 注意機能や実行機能等の脳内ネットワークが関与していることが確認された。また, Listening effortを評価するための生理指標として瞳孔径や脳波が活用されていたが, それらの指標間には十分な一貫性がなく, その発生機序も含めさらなる検討が求められていた。以上より, 雑音下聴取やListening effortを扱う際には, 注意機能に代表されるような聴覚機能以外の視点からのアプローチも重要になると示唆された。
著者
西田 圭一郎 吉村 匡史 山根 倫也 加藤 正樹 木下 利彦
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.168-173, 2019-06-01 (Released:2019-06-20)
参考文献数
26

脳波は実臨床においては, てんかんの診断やせん妄の評価に使用される。研究においては時間分解能の高さ, 侵襲性の低さ, 安価なため臨床への応用の容易さ, といった点から, 脳機能測定のツールとして以前から用いられてきた。一方脳波の分野とは別に, 最近の画像研究の進歩に伴い, 脳の構造研究で精神疾患の正常からの逸脱が検出できるようになり, 精神疾患の発現型として関心を浴びている。近年, このような脳波以外の分野の研究の発展に伴い得られた新たな知見と, 上記特徴を有する脳波測定を組み合わせることで, 脳波解析の有用性が再び脚光を浴びるようになってきている。今回我々は, 脳波定量解析が実臨床への応用が可能であるか, 自施設におけるうつ病患者の脳波データの解析結果を元に, 治療予測の可能性について考察を行い, 将来の展望を述べたい。