- 著者
-
伊藤 潤
- 出版者
- 一般社団法人 芸術工学会
- 雑誌
- 芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, pp.92-99, 2017 (Released:2018-12-25)
本稿は20 世紀の日本における主要な工業製品の色の変遷についての研究の第一報である。日本の製品色に対する嗜好の特性を示す好例と考えられる「白物家電」と呼ばれる冷蔵庫や洗濯機などの家電製品群を研究対象とし,その成立過程を考察した。
日本の新聞記事ならびに各種辞典の比較調査により,「白物家電」という語は1970 年代後半には新聞記事でも使われる程度に普及したが,元は「白もの」あるいは「白モノ」と綴られていたこと,また英語の“white goods” の訳から生まれた語であることが明らかとなった。
次に,『Oxford English Dictionary』(Oxford University Press)をはじめとする各種英英辞典の比較調査により,家電製品を表す“white goods” は英国語というよりも米国語であることが明らかとなった。
また,Oxford University Press 刊行の『Oxford Dictionary』シリーズのフランス語,ドイツ語,イタリア語,スペイン語辞典の比較により,生活家電各種を“white goods” と表現するのは英語特有の表現であると考えられた。
日本では第二次世界大戦前より家電製品の国産化が始まっていたが,その色彩は必ずしも白くはなかった.第二次世界大戦後「DH 住宅(Dependents Housing)」と呼ばれる連合軍住宅向けの什器として,「白い」製品が大量にGHQ から要求されたが,その中には冷蔵庫や洗濯機等の家電製品も含まれていた。GHQ のデザインブランチの責任者である陸軍少佐クルーゼ(Heeren S. Krusé)は,自身の嗜好よりも入居者となる一般的なアメリカ人の嗜好を優先してデザインを監修していたため,「白い」空間や製品の要求は当時の一般的なアメリカ人の嗜好を反映した結果だと考えられた。GHQからの要求が終了した後,各企業が納入品を民生用に転用した結果,白い家電製品が日本に普及することとなった。
以上より,「白物家電」という語ならびに概念は日本の生活環境の中で自然発生的に成立したものではなく,外来の,特に米国より持ち込まれた概念が元となり成立したものと考えられた。