著者
吉田 博則 脇山 真治
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.54, pp.121-128, 2010-11-10

TV-CMでは、その導入部分でストーリー展開の間に、商品ラベルデザインに関連する映像が挿入されることが多い。商品ラベルデザインは、生活者が他の商品と見分ける上で重要な要素であり、店頭で並んだときの商品の顔に当たる部分である。本研究は、TV-CMの商品ラベルデザインの映像において、商品想起を高める表現手法の要因を明らかにすることを目的とする。そのために第一段階として、既存のTV-CMにおける商品ラベルデザインに関連する表現手法を考察した。その結果、商品想起を高める表現手法には、次のような4つのタイプの傾向がみられた。(1)商品ラベル部分を実写で紹介する。(2)商品ラベルから連想するイメージを合成エフェクトで強調する。(3)商品名ロゴタイプをタイトル文字としてレイアウトする。(4)商品デザインの一部を登場人物の日常空間に展開する。次に第二段階として、それらの中で最も基本的な(1)商品ラベル部分を実写で紹介する映像、つまり商品ラベル映像の効果について、認知心理学に基づく記憶実験を実施した。本実験では、既存のTV-CM映像ではなく、要素を簡略化した商品ラベル映像を3タイプ用意した。動きが全くない(1)フィックスタイプ、ラベル部分が序々に大写しになる(2)ズームインタイプ、カメラを振り込んで正面にラベルを捉える(3)パンニングタイプである。無意味なカタカナ2文字がデザインされた商品ラベル映像にこれらの表現手法を割り振り、どの表現が商品想起に優位であるか再認実験を行なった。その結果、パンニングは、フィックスよりも、商品想起において劣っていた。パンニングは被験者に対して左右に動くため、商品名の識別に支障をきたしたと考えられる。一方、ズームインは商品ラベル部分が序々に迫ってくる前後の動きである。これは商品ラベルを強調する表現手法であり、フィックスより有効であると予測したが、その逆の傾向であった。商品想起を基準に表現手法を評価すると、商品ラベル映像においては、最もシンプルなフィックスが効果的であることがわかった。
著者
李 知恩 林 美都子 野坂 政司
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.53-62, 2011

本研究では、キネティック・タイポグラフィの感性に着目し、キネティック・タイポグラフィの感性を理解するために一つの方法としてその感性値を統制する尺度が必要であると考え、音楽用感性評定尺度(AVSM)によるキネティック・タイポグラフィ測定を試みることで、キネティック・タイポグラフィ用感性評定尺度としての使用可能性を検討した。本調査では、音楽用感性評定尺度の24項目の形容語によるキネティック・タイポグラフィの印象評価を行った。キネティック・タイポグラフィの調査は2010年5月から8月まで、北海道教育大学函館校の大学生1〜2年生を中心とした。1分の長さに統制した音楽を添えた場合(4種)・音楽を添えない場合(4種)の8種、ユーチューブにアップロードされている既存2種のキネティック・タイポグラフィの音楽を添えた場合(2種)・音楽を添えない場合(2種)の4種、総12種類(総736件)のデータを収集した。キネティック・タイポグラフィのKMOの測度とBartlettの検定を行った結果、総736件の独立変数の要因分析結果に対する解析KMOの標本妥当性の測度は0.862,Bartlettの球面性検定有意確率は0.01以下であった。また、因子数に5を指定して主因子法・プロマックス回転による因子分析を行ったところ、固有値は、6.88,3.78,2.82,2.26,1.56,0.97…というものであり、固有値1以上を採用して5因子構造による分析が妥当であると考えられた。因子負荷パターンはAVSMの24項目の因子分析結果と一致する明確な5つの因子と因子間相関が得られた。なお、回転前の5因子で24項目の全分散を説明する割合は、65.10%であった。また、各尺度の内的整合性を検討した結果、「高揚」下位尺度でα=.92、「強さ」下位尺度でα=.89、「荘重」下位尺度でα=.90、「親和」下位尺度でα=.80、「軽さ」下位尺度でα=.79といずれの尺度においても高い内的整合性を有していることが確認された。さらに、キネティック・タイポグラフィの音楽有無及び、時間の長さ(1分、2分)による相違を分析した結果、いずれもAVSMの24項目の因子分析結果と一致する明確な5つの因子が得られ、いずれの尺度においても比較的高い内的整合性を有していることが確認された。したがって以降の研究において、キネティック・タイポグラフィの感性評価をAVSMで行うことに大きな問題はないと考えられる。
著者
畑中 久美子 木村 博昭 村本 真 加藤 亜矢子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.113-120, 2016 (Released:2018-12-24)

本論文では、「団子積み」と「練り土積み」と呼ぶ古来から日本にある、湿った土を積み上げる土壁構法に焦点を当てる。本論文の目的は、建築における土壁構法の選択肢を増やす事や、2つの構法の活用可能性を広げることを最終目標と捉え、その第一歩として、今後の建築のための記録を残すことと、2つの構法の違いおよび、版築や2つの構法に類似する土を積み上げる土壁構法に対する位置付けを明確にすることである。「団子積み」と「練り土積み」の施工特性を把握するため、以下の方法で研究を進めた。 1)「団子積み」と「練り土積み」構法の定義 2)「団子積み」と「練り土積み」の検証実験 2つの構法のいずれか、もしくは両方を用いた3つの建築や工作物によるプロジェクトの検証実験について、計画と概要、材料、道具、施工の要領をまとめ、工程、施工日数、人数等を比較、考察する。 3)1)〜2)を総合して、「団子積み」と「練り土積み」を用いた土壁構法の施工特性をまとめる。3つのプロジェクトと使用構法は下記のとおりである。 1.「公園灰屋」における「団子積み」 2.「藁葺き泥小屋」における「練り土積み」 3.「かまど」における「団子積み」と「練り土積み」の混合 検証実験の結果 「団子積み」と「練り土積み」の施工特性をまとめると、①施工速度が「団子積み」より「練り土積み」の方が速かったこと。②土に混ぜる水の量の目安が、「団子積み」の方が「練り土積み」より多かったこと、③土を練る際の藁は、「団子積み」では加え、「練り土積み」は加えなかったこと。などが挙げられた。本研究をとおして明らかになったことは、①「団子積み」「練り土積み」共、建物平面に曲面が多用されている場合は、型枠コストと、造形のしやすさの面で、型枠を必要とする版築よりも優位である。②「団子積み」より、「練り土積み」の方が施工速度が速く、乾燥期間も短いため、総工期を短かくすることができる。③ 1 日の壁の施工可能高さは「団子積み」「練り土積み」共600㎜程度である。さらに、版築や、2つの構法に類似する湿った土を積み上げる土壁構法に対する関係性を図示した。
著者
林 東煥
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.45-52, 2023 (Released:2023-03-31)

本研究は19世紀に流行した宮廷チェッコリ絵と民画チェッコリ絵における造形性をグラフィクデザインの観点から比較分析を行うことを目的にし、類似性、相違点の究明に焦点を当て、 視覚的特性を究明し、 その特性に関する要因を探求した。なお、美術史の視点ではなく、造形性と生活文化からの視点を採用する。作品は朝鮮時代後期である18世紀~1897年までの作品を網羅している『韓国の彩色画3』『韓国の彩色画6』『CHAEKGEORI』の3編で選定した。比較分析の対象とした作品数は、宮廷チェッコリ絵は11点、民画チェッコリ絵は25点となった。2つの絵における理論的背景より書物の表現、視点及び構図、装飾的要素を中心として探究し、当時の生活文化に基づき、要因を考察した。このような造形的特性の考察を通し、宮廷チェッコリ絵では韓国美術史における正統性があり、民画チェッコリ絵では大衆的な伝統性があることを明らかにした。なお、造形的共通性の中にも差異が明らかになり、伝統チェッコリ絵の様式を継承するデザイン作品の可能性が広がると考える。
著者
伊藤 潤
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.92-99, 2017 (Released:2018-12-25)

本稿は20 世紀の日本における主要な工業製品の色の変遷についての研究の第一報である。日本の製品色に対する嗜好の特性を示す好例と考えられる「白物家電」と呼ばれる冷蔵庫や洗濯機などの家電製品群を研究対象とし,その成立過程を考察した。 日本の新聞記事ならびに各種辞典の比較調査により,「白物家電」という語は1970 年代後半には新聞記事でも使われる程度に普及したが,元は「白もの」あるいは「白モノ」と綴られていたこと,また英語の“white goods” の訳から生まれた語であることが明らかとなった。 次に,『Oxford English Dictionary』(Oxford University Press)をはじめとする各種英英辞典の比較調査により,家電製品を表す“white goods” は英国語というよりも米国語であることが明らかとなった。 また,Oxford University Press 刊行の『Oxford Dictionary』シリーズのフランス語,ドイツ語,イタリア語,スペイン語辞典の比較により,生活家電各種を“white goods” と表現するのは英語特有の表現であると考えられた。 日本では第二次世界大戦前より家電製品の国産化が始まっていたが,その色彩は必ずしも白くはなかった.第二次世界大戦後「DH 住宅(Dependents Housing)」と呼ばれる連合軍住宅向けの什器として,「白い」製品が大量にGHQ から要求されたが,その中には冷蔵庫や洗濯機等の家電製品も含まれていた。GHQ のデザインブランチの責任者である陸軍少佐クルーゼ(Heeren S. Krusé)は,自身の嗜好よりも入居者となる一般的なアメリカ人の嗜好を優先してデザインを監修していたため,「白い」空間や製品の要求は当時の一般的なアメリカ人の嗜好を反映した結果だと考えられた。GHQからの要求が終了した後,各企業が納入品を民生用に転用した結果,白い家電製品が日本に普及することとなった。 以上より,「白物家電」という語ならびに概念は日本の生活環境の中で自然発生的に成立したものではなく,外来の,特に米国より持ち込まれた概念が元となり成立したものと考えられた。
著者
楊 寧 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.106-113, 2015 (Released:2018-12-19)

本研究は、日本語と中国語を併記した印刷物において、調和ある組版を実現するために必要な条件として、本文の読みやすさに着目し、両言語にとってそれぞれ読みやすい字間と行間の範囲を探り、その比較を行うことを目的とする。 まず、両言語の組版規則書それぞれ15冊を取り上げ、読みやすいとされる字間、行間の関係について整理した。その結果、中国語と日本語とでは、特に字間の設定に違いがあることがわかった。字間については、日本語ではほとんどがベタ組みを基本としているのに対し、中国語ではベタ組みの組み方以外に字間を若干開けるという考え方も見られた。行間については、半角アキから全角アキまでの範囲でほぼ一致していた。 次に、中国人と日本人それぞれを対象とした中国語と日本語の文字組で、字間と行間をインタラクティブに動かせる統一フォームをウェブ上で作成し、調査を行った。この比較調査から、両言語の読みやすい行間の設定範囲については、3/4アキから全角アキまでの範囲で一致しており、またこの範囲に対してより適していると想定される字間はベタ組みであった。日本語については予想される結果であったが、中国語については、字間を空けるほうが読みやすいとする経験則が必ずしも事実ではないことがあきらかとなった。 以上から、調和のある中国語と日本語を併記するうえで必要な条件としては、組版の読みやすさについては字間をベタ組み、行間を3/4アキから全角アキまでの範囲で適宜調整することで対応可能であることがわかった。また、この結果に基づいて、最後に両国語を併記したレイアウトサンプルを提示した。
著者
脇山 真治
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.30-37, 2021 (Released:2021-05-01)

展示映像とは見本市や博覧会等のイベント、博物館等の文化施設などに使われる映像の総称である。映画は世界共通の技術仕様があり、その限りでは後年のオリジナル上映も可能である。社会的評価も確立しており、研究対象としても多くの保存資料が活用されている。しかし展示映像には世界標準が存在せず、イベントで使われる一回性の映像という認識が強く、ほとんど保存されることはない。展示映像は映画とほぼ同じような歴史をもち、また同時代の展示手法や表現技術の最先端を擁していながらこれらがなぜ保存されていないのか。その理由を明らかにすることが本研究の目的である。さらに将来的には展示映像のアーカイブの実現へ向けた課題の抽出を遠望して本研究をスタートさせた。 展示映像は映画の発明の直後、1900年のパリ万国博覧会から登場している。映画が登場の当初から今日に至るまで国際的にアーカイブが進んでいるのと対照的に、展示映像はほとんど残されずにきた。それは展示映像が映像と音響だけでなく、スクリーンデザイン、上映空間の形状、特殊効果などのビジュアルデザインの総合として存在しており、そのすべての構成要素を何らかの方法で残さない限り、アーカイブとして完結しないという困難な対象でもある。本研究では日本万国博覧会(1970年:以降日本万博)、国際科学技術博覧会(1985年:以降つくば科学万博)、東京国際フォーラム等で制作された作品の追跡調査から、その理由を明らかにした。その着目点は上映システムが複雑であること、一つの作品の中に複数の素材・仕様が混在していること、保存のための推進組織がないこと、作品ごとに独自のシステムが計画されており標準化したアーカイブシステムが構築できないことなど、8つの側面である。 展示映像は同時代の最も先端的なコンテンツと技術を統合した作品だが、ことに「イベント映像」の側面が強いという特徴から、再演・再現は当初から前提にない。しかしながら、一方では、優れた作品が博覧会の期間を超えて保存され、擬似的な再演でも可能ならば、博覧会に参加できない多くの人々に、作品のコンセプトやメッセージを継続的に配信することができ、何よりも将来の展示映像の研究者、制作者にとって有益な資料となると思われる。
著者
平子 元
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.20-27, 2022 (Released:2022-03-31)

本稿は、複雑な操作を伴うタスクをわかりやすく視覚化する試みについて述べる。本研究の目的は、情報機器におけるユーザーインタフェースデザイナー(以降、UIデザイナー)が複雑な操作を伴うタスクを理解しやすくなるための知見を得ることである。タスクの視覚化方法の先行研究より、複雑な操作が伴うタスクを視覚化の対象とした場合2つの課題があると考えた。2つの課題を解決するタスクをわかりやすく視覚化する方法として先行研究の「Operational sequence diagrams」を改良したタスクの視覚化方法を提案した。提案したタスクの視覚化方法を用いて、複雑な操作を伴うタスクである航空管制卓を対象にタスクの視覚化を試みた。試みでは、UIデザイナーにタスクの視覚化をするために観察調査を実施していただき、観察調査で得た情報を基にタスクの視覚化とタスクの分析を実施していただいた。試みより、UIデザイナーにタスクの視覚化に関して所感を得た。所感より、UIデザイナーは複雑な操作を伴うタスクを理解しやすくするために、タスクの前後関係をわかりやすくすることと事後インタビューの内容をタスクと合わせて確認しやすくすること、また、観察調査の段階よりUIデザイナーが参加する必要があるという知見を得ることができた。
著者
金 鍾其
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.88-95, 2010-09-30 (Released:2017-11-30)

本研究では、チタン金属の発色法である陽極酸法を発展させ、化学酸化法と組み合わせた新しい発色法を試みた。従来の陽極酸化法で発色した色は全般的に鮮やかで原色に近い色が多い。そのため色彩設計上色彩バランスに欠けるきらいがあった。したがって陽極酸化法で発色できる色の数をさらに増やすため、特に様々な中間色を発色できるように試みた。従来の陽極酸化法が赤-緑および黄-青色に関するより鮮やかな原色であるのに比べ、化学酸化法と組み合わせた新しい陽極酸化法では、中間色に近い淡い色味の色彩が得やすい。原色も中間色のどちらも色彩設計上必要であり、陽極酸化法と化学酸化法を組み合わせた新しい発色法は共に必須である。具体的な中間色の発色法として、従来黒色を得るためのみに実施されてきた化学酸化法を発展させ、一旦形成した黒色層を脱色し、引き続いて陽極酸化法を実施することで中間色に近い色相や低明度、低彩度の色が得られた。すなわち黒色を脱色する度合が重要である。また、本研究では目視による色彩判定だけでなく、測色計による定量的な比較を行いプロセスの再現性が容易になった。最後に、マグネットホルダーとしてチタン金属板に従来法と本研究で検討した発色法の両者で試作した例を示した。両者に測色計では計測不可能な色味の違いが存在し、従来法ではギラギラした光沢感が、また後者ではマット面からの反射のくすんだ色調が得られることが判った。
著者
佐々木 宏幸 齊木 崇人
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.53, pp.72-79, 2010-09-30

本研究は、1990年代の異なる二つの時点において、ニューアーバニズム理論の目的と基本原則を明文化した文書であるアワニー原則(1991年)とニューアーバニズム憲章(1996年)の比較・考察を通して、ニューアーバニズム理論の特徴と変容を明らかにすることを目的とする。本研究では、まず、ニューアーバニズムの誕生から現在に至るまでの発展の経緯を振り返り、アワニー原則とニューアーバニズム憲章のニューアーバニズム理論における位置づけを確認した。その上で両者の目的と基本原則を比較することによりその共通点と相違点を明確にし、ニューアーバニズム理論の特徴と変容を明らかにすることを試みた。両者の比較の結果、アワニー原則とニューアーバニズム憲章は、歩いて暮らせるコンパクトでミックストユースのネイバフッドを公共交通機関でネットワークすることにより、自然と共存する環境にやさしい都市の創造を目指している点において共通していることが確認された。一方、アワニー原則の5年後に策定されたニューアーバニズム憲章では、社会・経済・文化・政治・環境・空間などの総合的な扱い、都市と自然環境とのバランスある共存、地域から建築までのあらゆるスケールへの対応、公共空間の重視、建物の形態コントロールを重視する開発規定の有用性の認識などの点において、アワニー原則より包括的かつ多角的に進化していることが明らかとなった。これらの分析により、本研究ではニューアーバニズム理論が、総合的なアプローチ、学際的推進団体の存在、多様な居住環境の肯定と既存の都市の重視、公共空間創造の重視、理論と実践手法の一体的取り組みによるプランニングの変革などの点において、多くの意義を持つ都市デザイン・都市計画理論であると結論づけた。そのうえで今後は、ニューアーバニズム理論の実現のための道具としてスマートコードの研究、そして実際に策定されたフォーム・ベースト・コードの検証を通したその有用性の研究を行い、ニューアーバニズムの理論とその実践手法の体系的な探究を行う必要性を認識した。
著者
中牟田 麻弥 佐藤 優
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.34-41, 2017 (Released:2019-02-01)

屋外広告物による景観の悪化を阻止する方法のひとつとして規制や誘導が進んでいるが、派手に突出する屋外広告物は後を絶たない。さらに、屋外広告物の規制を受けた店舗では、規制対象外ののぼり旗や貼り紙等を大量に掲出するなど新たな課題も生じている。このような状況の要因として、景観を視点とした屋外広告物の表示や色彩、大きさ等の視覚効果による規制や誘導に限界があるのではないか。また、広告主の広告媒体としての屋外広告物に対する認識や景観に対する理解が不足しているのではないかと考えた。 そこで、受け手が期待する受容効果に着目し、広告効果が高い屋外広告物のデザイン要素を明らかにすることで、広告主の自主的な屋外広告物の改善につながるのではないかと仮説をたて、本研究において、見る人が期待する屋外広告物のデザイン要素を明らかにし、広告主にとっての屋外広告物のデザインのあり方をまとめる。 本論文は、見る人が期待する屋外広告物のデザイン要素を明らかにすることを目的としている。研究の方法としては、 屋外広告物を見る人が期待する屋外広告物のデザイン要素の抽出を目的として、SD 法による印象評価を行った。まず、見る人に受け入れられる広告要素を分析し、受け入れられる広告の要素を抽出した。次いで、抽出された要素について、イラストや写真等の絵や文字、色彩、面積量等のデザイン要素を分析し、最終的に調査を通して明らかになった見る人が屋外広告物に期待するデザイン要素の考察を行った。 その結果、見る人は「上品で趣があり、興味を引かれる面白さ=interest」のイメージを持つ広告で、モノトーンや寒色系の落ち着いた色彩、文字は控えめでありながら独自性が高いものを期待していることが分かった。一方、「楽しくユーモアがある面白さ= fun」のイメージを持つ広告で、安全や安心、親しみやすさを伝える緑や、元気さや楽しさを伝えるオレンジ、可愛さを伝える黄色などの明るい色彩を、単色画法に限り使用することは好まれ、立体的な表現や、広告物形態に個性がある広告を期待することが確認できた。反対に、情報過多で一瞬では焦点が定まらない広告や、業態や商品以外を表現した曖昧な絵などの表示は期待していない。店主の絵の掲載は、見る人に不快な印象を与える可能性が高いことが確認できた。
著者
長野 真紀 齊木 崇人
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.96-103, 2009-10-24 (Released:2017-11-30)

本研究は、台湾の山間部に居住する10種族の台湾原住民を対象に、現地調査と日治時期の文献を通して集落移動と立地選定を明らかにし、持続と変容のプロセスを探究することを目的とする。台湾原住民に関する研究は1945年以降困難な状況にあり、そのため約半世紀外部に対して閉ざされてきたが1994年以降、原住民の認定に伴い現地での許可を得た調査が可能になった。固有の文化や習俗を持つ原住民は、現在までの台湾史の視点から見ても非常に重要な課題であると考えられる。新竹縣、苗栗縣、嘉義縣、南投縣、屏東縣、台東縣、花蓮縣に居住する原住民を研究対象に選定し、場所選定とその地理位置及び自然環境からみた特性把握調査として、10民族の概要と訪地した10集落の歴史、立地状況、集落規模、集落移動の時期について現地調査で得られた資料と文献により、その内容を明らかとした。また、日冶時期の台湾地形図と当時の写真から、現在の集落との比較を行い、更に文献から明らかとなった各集落の移動経緯から各族の集落立地の変遷を辿り、移動前・後の集落空間の変容を明らかにした。その結果、各集落の移動要因は災害(1集落)、災害と国民政府時期の還村計画(1集落)、日治時期の番社移住計画(4集落)、生業による焼畑(1集落)、不明(3集落)であることが分かった。対象集落の日治時期以降の集落移動は、災害と還村計画による1集落のみであり、その他の集落はほぼ定住化し、集落形態や規模、立地は約60年間変化することなく現在に至っている。また、原住民集落を立地環境と生業別に、(1)標高500〜1,200mの山腹斜面地・テラス・鞍部に立地する狩猟・採集型、(2)標高500m以下の山裾または平地に立地する農耕・畜産型、(3)標高100m以下の島嶼に立地する半漁半農型、(4)山裾の湖畔に立地する漁業型の4つに分類し、原住民集落を体系的に捉えた。そして、集落移動と立地環境から持続型、変容型、変容持続型、順応型、発展型、融合型の6つに分類し、各集落の環境構築要素を明らかにした。
著者
永野 克己 増成 和敏
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.76-83, 2017

1987(昭和62)年に発売された携帯電話初号機は、通話用途中心の機器で重量は約900g である。以降、携帯電話は小型化と多機能化が並行して進む。通話に加え、メール、ウェブ、カメラ、テレビ、電子マネーなど用途が拡大し、ユーザ・インタフェースが変化する。 本研究は、携帯電話のユーザ・インタフェースデザインの変遷を明らかにすることを目的とし、操作キーの変容に着目する。調査対象は1987(昭和62)年から2015(平成27)年に発売された528 機種とする。初号機TZ-802B と2015(平成27)年モデルP-01H を比較し、削除された操作キー(電源キー、リダイヤルキー、音量調節キー、ロックキー)を抽出、その変容を調査した。電源キーは終了キーに統合され電源/ 終了キーとなった。リダイヤルキーは単独キーが削除され、カーソルキーに割り当てられた。音量調節キーとロックキーは削除された。これらの変化はP-01H で起きたのではなく、TZ-802B からP-01H に至る過程で起きた。音量調節キー削除を除き、いずれも標準的なユーザ・インタフェースとなりP-01H に至ることが確認できた。電源/ 終了キーの初出は1996(平成8)年で、2001(平成13)年以降はノキア端末を除き全機種電源/ 終了キーとなる。要因は、待受時間増加に伴う電源キー操作頻度の低下による電源キー削減と、誤操作時のリスク軽減の観点からの終了キー統合であると推測する。リダイヤルキーのカーソルキー割当の初出は1997(平成9)年で、2009 年以降は全機種カーソルキー割当となる。要因は、リダイヤル機能と対称的な着信履歴機能の追加に伴い、両機能の操作キーを対称的に配置し、かつワンタッチアクセス可能となる要件を満たすため、カーソルキー割当となったと推測する。ロックキー削除の初出は1989(平成元)年で、以降、二つ折り型やフリップ型など誤操作が起きにくい形状の端末においてロックキーが非搭載となる。また、音量調節キーに関しては通話中の音量調節操作のユーザビリティの観点から搭載も継続しており、P-01H における音量調節キー非搭載は標準的なUI ではないと推測する。
著者
竹下 秋雄
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.25-31, 2020

雅楽は、中国から朝鮮半島経由で日本に伝来し、宮廷音楽として根付いた日本の伝統音楽である。雅楽の旋律は多数の旋律型の組み合わせで構成されているが、先行研究における旋律型は雅楽すべての旋律の中のごく一部を示しているに過ぎず、すべての旋律の中での旋律型の位置付けを示す必要がある。 雅楽の旋律型は仮名譜を通じて楽譜中に読み取ることができる。しかし雅楽の楽譜は奏法譜であること、「塩梅」が楽譜上に記述がないことから、その読解は非経験者には困難である。読解は経験的に行われており明文化されたルールがないため、雅楽習得の敷居を高くしてしまっている。 そこで、本研究の目的は、雅楽の標準的楽譜でありもっとも広く普及している楽譜である『明治撰定譜』から雅楽の主旋律を担当する楽器「篳篥」の旋律型を抽出すること、とりわけ、これまで経験的無自覚に行われてきた旋律型の認識を統計手法を以って行うこととした。 まず、『明治撰定譜・篳篥譜』全72曲をデータ化し、その内68曲を分析対象とした。データ化の際にセルという形式を筆者が策定した。セルとはパターンの最小単位であり「仮名譜」における唱歌の大きい仮名ひとつを中心にした唱歌の仮名、運指などの楽譜データの複合体である。 次に、データ化した楽曲群を「六調子」を基に分析対象群と背景群に分けた。 次に、『明治撰定譜』に存在するすべてのセルタイプを抽出し、1~8セルタイプによるパターンを総当たりで生成した。次に、生成したパターンそれぞれについて統計的評価尺度であるFスコアを求め、パターンの特徴性を数値化した。次に、Fスコアの高い順に各「調子」ごとの特徴的パターンを抽出した。最後に、抽出したパターンと演奏音源を照合することで、各「調子」ごとの特徴的な旋律型を抽出した。演奏音源は宮内庁式部職楽部、東京楽所、天理大学雅楽部のものを使用した。 本稿では代表的なパターンと対応する旋律型について、出現頻度や前後の文脈を示すことで、「篳篥」の特徴的な旋律型を可視化し、雅楽の旋律の中での旋律型の位置付けを示した。また、既往研究で挙げられなかった旋律型を得ることができた。
著者
楊 寧 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.76-83, 2014 (Released:2018-12-04)

国際交流の盛んな現代において、多言語タイポグラフィの必要性が増しているが、複数の言語が併存する印刷紙面では、それぞれの言語の特性を理解しつつ調和を図ることが重要なデザイン課題となる。本研究では特に中国語と日本語の調和のとれたタイポグラフィのあり方を探る。日本語と中国語は、漢字という共通した文字言語を持っていることから、その組み合わせは容易なようだが、実際にはそれぞれ独自の組版ルールを有し、書体デザインも同じものはほとんどない。したがって、両国語の文字の組版ルールの比較検討によって共通化できる組版の範囲をあきらかにし、書体についても調和すると判断可能な書体の対照関係を求め、その根拠を示す必要がある。本研究では、このうち書体―本文用の標準的な書体―に着目し、中国語と日本語フォントの調和のとれた対照関係を探るために、共通文字種の漢字のみに着目し、日本語、中国語それぞれの書体デザインを同一基準で評価する方法を探った。終端処理など中国語と日本語の漢字には、細部の処理に違いがあるが、本研究では、予備調査での観察結果に基づいて、計量可能な属性である字幅と字高、字面率、フトコロ率を取り上げ、計測を行うことで、類似性を評価することにした。 書体は、中国語では宋体と方黒体、日本語ではそれに対応する明朝体と角ゴシック体から選び、計測結果をクラスター分析したところ、宋体と明朝体、方黒体と角ゴシック体それぞれを大きく3つのグループに分類でき、それぞれ字幅と字面率の数値が小さい特徴のグループ(A)、字幅と字面率の数値が中間的なグループ(B)、字幅と字高、字面率の数値が大きなグループ(C)の3つとなった。同じグループの書体では属性データが近似しており、類似性の高い書体デザインと判断できることから、これらの組み合わせが調和ある混植の条件となると仮定できた。実施した検証実験においてもグループ同士の照応性は比較的高かった。 以上から、本研究で提案する書体の類似性評価は中国語と日本語の調和ある混植を容易に実現する方法として有効であることがわかった。