著者
松原 平
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-36, 1995-06-15

施設に居住している32名の知的障害を持つ人々の要求言語行動の表出に関して、彼らの要求言語行動に影響を及ぼす環境要因との関係について検討を行った。当研究では、要求言語行動を促進する環境要因の一つとして、「集会」という要求の窓口を設定し、その効果について日常場面と集会場面を比較しながら、以下の検討を行った : (1)居住者らの要求言語行動の頻度は増加するのか?、(2)居住者らの要求言語行動の内容が変化するのか?、(3)居住者らの要求を実現させようとする職員の行動の生起率は変化するのか? その結果、集会場面では日常場面に比べて要求言語行動の生起頻度が明らかに高く、要求の内容についても質的に多様で、これまで要求したことのないような新しい要求内容が含まれていた。また、居住者らの要求言語行動の増加とともに、職員による要求の実現行動も増加したことが確認された。自己権利擁護の文脈からみた要求言語行動の実現においては、ここで紹介した「集会」のような明瞭な要求の場を呈示する事が有効であると考えられた。
著者
熊 仁美 竹内 弓乃 原 由子 直井 望 山本 淳一 高橋 甲介 飯島 啓太 齊藤 宇開 渡邊 倫 服巻 繁 ボンディ アンディ
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.85-105, 2010-01-30

本論文は、2008年7月12日に法政大学で行われた公開講座『自閉症とコミュニケーション』におけるシンポジウムを収録したものである。慶應義塾大学における自閉症児のコミュニケーションをのばす包括的支援プログラム、筑波大学におけるPECSを日常的に使うための家庭支援プログラム、民間療育機関たすくにおける機能的コミュニケーション指導が紹介され、ボンディ博士による指定討論が行われた。
著者
山本 淳一
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2-21, 1987-03-31
被引用文献数
3

本実験の結果, 一対構成課題による忽意的見本合わせを訓練することで, 自閉児においても, 視覚刺激間の対称性および等価性が成立し, それは5つのメンバーを持つ刺激クラスにまで拡張しうることが明らかになった。Sidman et al(1982)が定義した, 対称性を含む推移性も, 3名中2名の自閉児において, 訓練後即座に成立した。等価性テストの成績が低下した場合でも, テスト試行そのものは操作しなくとも, その成立の必要条件を構成する訓練手続きを操作するだけで, 成績が上昇することがわかった。特に, 等価性の成立を促進するには, (1)同一のテスト・ブロックをくり返し施行する, (2)各刺激セットについて, 設置刺激または移動刺激のいずれか一方に固定した訓練だけでなく, 双方の役割を持たせるよう訓練すること, などが有効であることが示唆された。すべての被験児について, テスト施行中においても, 終了後においても, 成立した各刺激クラスに共通の名づけ反応はなされなかった。このことから, 外的な音声反応は, 等価性成立のための必要条件ではないことが示唆された。特定刺激セットの3種の刺激のうち2種のみが, 各試行においてランダムな組み合わせで, 設置刺激として呈示された場合でも, 3種のメンバーを持つ刺激クラスが成立することが示された。
著者
青塚 徹
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.32-41, 2003-04-20
被引用文献数
1

刺激等価性研究においては、例えば、まず被験者に対し、見本刺激Aに対し比較刺激B、見本刺激Bに対し比較刺激Cを選択することを訓練する。この見本合わせ訓練の後、テストにおいて、Aに対してA、Bに対してB、Cに対してC(反射律)、Bに対してA、Cに対してB(対称律)、Aに対してC(推移律)を被験者が選択できた場合、刺激等価性が成立したとする。そして、等価クラス(すなわち、A・B・C)内の刺激間関係(例えば、A→C)を、自然言語における語とその指示対象の関係、また、語と語の関係のモデルとみなしてきた。さらに、刺激等価性と刺激般化を組み合わせた研究では、語が表す自然カテゴリーのモデルが示されてきた。また、等価クラス内の刺激間における刺激機能の転移について検討を行った研究では、例えば、語を通じた情動反応の転移のモデルが示されてきた。今後、これら般化と転移の研究パラダイムにより、自然言語の基礎的構造と機能をより明確にモデル化できる可能性が考えられる。
著者
本田 智寛 村中 智彦
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.42-64, 2010

研究の目的 自閉症児を対象に、学校の朝の会場面で報告言語行動(タクト)と聞き手への接近行動のシミュレーション指導を行い、直接指導を行わない自由場面でのタクトと接近行動の形成を目指した。その中で、タクトの指導手続きやシミュレーション指導場面の役割について検討した。研究計画 ベースライン、介入1期、介入2期で構成した。場面 対象児の在籍する小学校の特別支援学級の朝の会をシミュレーション指導場面とした。登校時、20分休憩と昼休みの開始時および終了時の5場面を自由場面とした。対象児 小学校の特別支援学級に在籍する自閉症男児2名であった。介入 介入1期では、各自由場面の「○○に行ってきました」などのタクトと接近行動のシミュレーション指導を朝の会で行った。介入2期では、朝の会場面でのシミュレーション指導の中で、タクトに先行する聞き手への接近行動を高めた手続きを分析し、「行ってきましたカード」などの手続きを自由場面に導入した。行動の指標 タクトの正反応と単語反応の生起を測定した。接近行動をプロンプトレベルで評価した。結果 介入1期では、タクトは生起したが、接近行動の遂行は高まらなかった。介入2期では、接近行動の遂行レベルの向上が認められた。結論タクトにおける接近行動の重要性とシミュレーション指導を行う授業場面の生起条件の分析としての役割が示された。
著者
井上 雅彦
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.173-183, 2009
被引用文献数
1

本論文では我が国の自閉症支援における行動論研究のエビデンスに基づく実践を確立するための諸条件について提言を行った。研究基盤を作る上では国際研究のゴールデンスタンダードである評価尺度の標準化推進、研究組織の体制整備、マニュアルの整備、セラピストの養成と専門性の基準策定をあげた。またエビデンス研究の効果を伝える仕組みとして、単一被験体法の普及・発展による他の学問分野との交流促進、行政機関の発信行動を促進するためのシンポジウム開催などの諸条件を指摘した。そして最後にエビデンス研究の効果を生かせる環境作りのために、人材養成と教育分野におけるエビデンス研究の推進を取り上げた。自閉症に対する臨床・教育的研究のエビデンスが臨床サービスとして定着するための戦略について考察した。
著者
平澤 紀子 藤原 義博
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.4-24, 2000-09-25
被引用文献数
5

研究の目的 養護学校高等部生徒の他生徒への攻撃行動に対する機能的アセスメントに基づく指導をpositive behavioral supportをcontextual fitの観点から、(1)仲間に向けた攻撃行動に対するO'Neill et al.の機能的アセスメントに基づく支援計画の立案様式を検討し、(2)学級担任が現在の学校体制に適合させる過程を明示した。研究計画 形成評価と事前・事後評価を用いた。場面 養護学校高等部において攻撃行動が頻繁に生起する登校場面と昼休み場面と生起しない学級場面で実施した。対象 攻撃行動を起こす高等部1年の男子生徒1名と攻撃の相手となる生徒及び学級の生徒を対象とした。全般的手続き 攻撃行動の生起を防止しながら、学校体制のアセスメントから学級担任の実効可能な条件を明確化し、それに基づいて、機能的アセスメント、指導計画の立案、指導手続きを決定した。指導手続きは、学校場面では、対象生徒と学級の生徒に対して機能的アセスメントで選定された適切なかかわりや活動スキルを形成する一方で、登校・昼休み場面では、これらの標的行動を対象生徒と相手の生徒の双方に指導した。行動の指標 登校・昼休み場面における対象生徒の攻撃行動、適切なかかわり、相手の生徒との接触、対象生徒と相手の生徒とのかかわりのパターンを測定した。結果 対象生徒の攻撃行動は低減し、相手の生徒との適切なかかわりのパターンが増加した。結論 仲間に向けた攻撃行動には、機能的アセスメントに生徒同士のかかわりの分析を加え、O'Neill et al.の様式を修正することは有効であった。また、高等部体制において、学級担任が行う機能的アセスメントやそれに基づく指導の実行過程が明示された。
著者
長谷川 芳典
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-18, 1990-03-31

全語法により漢字単熟語の読みを発声させる訓練を1名の被験児(開始時26ヶ月齢)に実施した。3歳になった時点で、読む力や熟語を生成する力について検討した。(a)単語や熟語を読む速度は、それらが漢字あるいは平仮名まじり漢字で書かれていた場合のほうが、すべて平仮名で書かれていた場合より速かった。(b)習得した漢字で書かれた文の64%は、初回提示から読むことができた。(c)100個の単漢字から57の熟語を作ることができた。日本では、一般に、平仮名を完全に習得してから漢字を教えるべきであると考えられている。しかし、今回の結果は、2歳2ヶ月からでも漢字の読み学習が始められること、そうした早期の学習はのちのより複雑な読み技能の土台となるものであることを示している。従来の漢字教育は再検討が必要である。
著者
高橋 雅治
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.9-28, 1997-06-30

本論文では、選択行動に関するオペラント研究における最近の展開が概観される。特に、対応法則、遅延低減仮説、セルフ・コントロール、および、リスク選択に関連する研究に重点が置かれる。これまでに提案された選択行動のモデルのいくつかは、人間以外の動物(ほとんどの場合、ハト)を被験体として行われた研究から得られたデータをうまく記述することができるように思われる。だが、人間を被験者として行われた研究から得られたデータのなかには、それらのモデルによって説明することができないものもある。従って、選択行動の定量的なモデル化に関する今後の研究は、人間と人間以外の動物の差異の説明に取り組んでいかなければならないことが示唆される。