著者
佐藤 美幸 佐藤 寛
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.72-81, 2014-02-14

研究の目的 本研究では、大学生を対象として阻止による弱化を用いて授業中の私語を低減する介入を実施し、その効果を検証すると同時に、介入効果が介入終了後も維持するかどうかを検討することを目的とした。研究計画 介入クラスと統制クラスを設定し、ベースライン、介入、フォローアップからなるAB+フォローアップデザインを用いた。場面 大学の授業場面(同一科目2クラス)において実施した。参加者 介入クラスの学生数は123名(男性35名、女性88名)、統制クラスの学生は121名(男性38名、女性83名)であった。介入 授業協力点を用いた好子出現阻止による弱化を実施した。行動の指標 授業中の私語の有無を記録した。また、従属変数として授業評価アンケートの評価点を用いた。結果 介入クラスにおいてベースライン期よりも介入期に私語が低減していたが、統制クラスでは私語が増加していた。しかし、介入の維持効果は確認できなかった。結論 本研究で実施した介入は私語の低減に一定の効果が見られた。今後の研究において、即時フィードバックの効果について検討する必要があることが示唆された。
著者
庭山 和貴 松見 淳子
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.42-50, 2012-07-25

研究の目的 応用行動分析の技法を組み合わせた訓練パッケージが紋付袴の着付けの改善に及ぼす効果を検証した。研究計画 ABCAデザインを用いた。場面 大学の能楽部部室において行われた。参加者 大学能楽部に所属する男子大学生3名であった。介入 正確な紋付袴姿の10条件からなるチェックリストを作成した。ベースライン(A)後の介入1期(B)では正確な紋付袴姿および着付け行動の言語的教示とモデル呈示、身体的ガイダンス、行動リハーサル、フィードバックを行った。介入2期(C)では訓練者によるフィードバックを自己記録へ部分的に移行させた。介入2期の後、ポストテスト(A)を実施した。行動の指標 正確な紋付袴姿の10条件からなるチェックリストの得点率を、正確な紋付袴姿の正確性として定義し、従属変数として用いた。結果 介入の結果、すべての参加者の紋付袴姿の正確性が改善し、第三者による評定においても参加者らの紋付袴姿がよりきれいになったとの評定が得られた。また、介入から約10ヶ月後のフォローアップにおいて介入効果の維持が確認された。考察 応用行動分析の技法を組み合わせた訓練パッケージは和服の着付けの改善に対しても有効であることが示された。今後は本研究で対象とした紋付袴の着付けの正確性の改善だけでなく、流暢性の改善も目指した研究を行うことが考えられる。
著者
森元 良太
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.165-176, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
33

心理学は心的概念を量産し続けている。その一方で、行動分析学は心を行動の原因として想定しない方略を採っている。心を想定する研究プログラムと心を想定しない研究プログラムはどちらがよいだろうか。哲学や科学では古くから、「オッカムのかみそり」と呼ばれる原理を用いて知的活動に邁進してきた。オッカムのかみそりは、対象を不必要に増やすべきではないという注意喚起であり、哲学や科学で使用され、多くの発見をもたらしてきた。人間の知的活動はその正当性にまでおよび、対象を不必要に増やすべきでない根拠を解き明かそうともしてきた。そして、20世紀の近代統計学の台頭により、その正当化の役割は統計学が担うことになる。本稿ではとくに統計的な検定理論に注目し、科学哲学の観点からその論理を分析し、心を想定しない研究プログラムは心を想定する研究プログラムよりもよいことを示す。そして、科学的方法論として、行動分析学がましであることを主張する。
著者
井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.173-183, 2009-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本論文では我が国の自閉症支援における行動論研究のエビデンスに基づく実践を確立するための諸条件について提言を行った。研究基盤を作る上では国際研究のゴールデンスタンダードである評価尺度の標準化推進、研究組織の体制整備、マニュアルの整備、セラピストの養成と専門性の基準策定をあげた。またエビデンス研究の効果を伝える仕組みとして、単一被験体法の普及・発展による他の学問分野との交流促進、行政機関の発信行動を促進するためのシンポジウム開催などの諸条件を指摘した。そして最後にエビデンス研究の効果を生かせる環境作りのために、人材養成と教育分野におけるエビデンス研究の推進を取り上げた。自閉症に対する臨床・教育的研究のエビデンスが臨床サービスとして定着するための戦略について考察した。
著者
渡辺 太郎 金山 好美 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-48, 2008-03-30 (Released:2017-06-28)

研究の目的 特別支援のために活動する教員補助者と担任教師とのコミュニケーションを促進・改善することを目的とした。研究計画 参加者(教員補助者)間マルチベースラインデザインを用いた。場面 公立の小学校の通常学級において行われた。参加者 小学校通常学級の5名の担任教師と教員補助者として活動する4名の学生(大学生1名、大学院生3名)が参加した。介入 教師と教員補助者の間で使用していた「コミュニケーション・カード」を、教師の使用コスト低減に配慮して改良した。具体的には、1)教員補助者の報告内容を項目立て、2)記号を用いることによって教師の返答を簡略化した。行動の指標 カードにおける教師からの1)コメントの生起頻度、2)下位コメントの生起頻度とした。結果 介入期では、教師からのコメントの生起頻度が高まり、教師による「要望」や「共感」コメントの生起頻度も高くなった。また、教師から記述コメントが付加されたことにより、教師の教員補助者に対するコメントの情報量が全体的に向上した。結論 記号による返答方法は、教師からのコメントの増大に効果があることが示唆された。また、教師からのコメントの中でも、特に「共感」と「要望」コメントの生起頻度の増加が、教師と教員補助者のコミュニケーションに互恵的な強化関係を生じさせた可能性が考えられた。そして、その結果、介入後では、担任教師からカードの書式に対するアイディアの提案や対象児以外の児童へのサポートの要望が出されるなど、教師と教員補助者のコミュニケーションをさらに発展させる可能性が考えられた。
著者
島宗 理
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.46-57, 1996-08-05 (Released:2017-06-28)

どんなテクノロジーでもそれが活用されるためには、まず採用されなければならない。スキナーは行動分析学の基本的枠組みと、それを社会問題の解決に役立てるための指針を示した。これを21世紀に活かすためには、テクノロジー普及に関する研究と実践が欠かせない。本論文では普及に成功した行動的プログラムの例と失敗した例を分析し、普及に関する実験的・理論的研究と、さらなる実践についての提言を行う。
著者
奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.2-12, 2006-08-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
5

研究の目的:高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童の保護者に対して登校行動を形成するための行動コンサルテーションによるサービスの効果を検討した。研究計画:被験者間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面:大学附属の心理相談室とプレイルームにて実施した。対象者:2名の高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童とその保護者を対象とした。介入:それぞれの不登校児童について直接的な行動観察と、保護者や学校からの聞き取りによる生態学的アセスメントに基づいて、トークン・エコノミー法と強化基準を段階的に変更していく支援を実施した。行動の指標:登校から下校までの学校活動への参加を、学校参加率として測定した。結果:介入後、両名とも学校参加率が増加し、介入2以降、100%の学校参加率が続いた。結論:トークン・エコノミー法を利用した行動コンサルテーションによる支援において、対象児童や対象児童の母親、学校場面の生態学的アセスメントに基づく支援プログラムの作成と実施が重要であることが示された。
著者
石井 拓
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Suppl, pp.188-199, 2015-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
4

まず、シングルケース実験デザインの基本的な特徴や、その基本的な種類である反転デザイン、基準変更デザイン、多層ベースラインデザイン、処遇交替デザインを紹介した。次に、それらのデザインを用いて得られた実験結果がエビデンスとしていかなる資格をもつかを検討するために、研究の内的妥当性と外的妥当性の問題をどのように取扱うかを解説した。それらの取扱いを群間比較法の場合と比較すると、シングルケースデザインでは実験参加者の選択やその選択と処遇の交絡の影響、および処遇間の干渉に伴う各種の影響を外的妥当性の問題として反復実験で検討しなくてはならないことを指摘した。さらに、反復実験を通してある実験結果のエビデンスを強めていく方略に、現状では問題があることも指摘した。それらの問題に対処するために、今後はシングルケースデザインを用いた複数の研究結果を効率よくまとめることを可能にするようなガイドラインの整備や、実践に基づいた研究ネットワークの仕組みを活用できる可能性を提案した。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.44-58, 1999-02-25 (Released:2017-06-28)

単一事例実1験計画(シングルケース研究法)で得られたデータの評価方法として、いくつがの統計的方法が提案されている。ランダマイゼーション検定は、(1) データの系列依存性を問題としない、(2) 時系列分析ほど多くのデータポイン1・を必要としない、(3) 様々なデザインに適した方法が考案されている、といった理由からシングルケースデータの分析方法として近年注目されてきている。本稿では、これまで多くの研究者によって提案されてきた、様々な単一事例実験データ分析のためのランダマイゼーション検定の方法を、(1) 測定時期への処理のランダム振り分け、(2) 介入ポイントのランダム振り分け、(3) フェーズへの処理のランダム振り分け、とランダム振り分けの方法の違いにより大別し、さらにそのカテゴリ下に分類される種々のランダマイゼーション検定の方法について概説するとともに、この検定を実際のデータに適用する際の問題点に関しての検討を行う。
著者
内田 一成
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.124-136, 2005-04-30 (Released:2017-06-28)

本論文の目的は、1知的障害者入所施設に導入した、職員のニーズ関連行動の増加とニーズ解決技能の習熟ならびにそれらの組織的結果を強化する6つの行動パッケージからなる、組織的援助システムについての臨床実験の成績を報告し、今後の入所施設サービスについての方法論的枠組みと応用行動分析の役割について議論することである。3ヵ年にわたる研究結果は、この組織的援助システムが施設の専門的援助機能を有意に高め、知的障害や発達障害を有する入所者の適応行動と不適応行動に劇的な改善をもたらすことを示していた。本知見は、この新たなシステムが施設サービスにおいて知的障害や発達障害をもつ人々に最適なQOLを提供するうえで本質的な役割を演じるとともに、地域社会に根ざしたサービスや他の対人援助場面でも適用可能であることを示唆している。
著者
高畑 庄蔵 武蔵 博文
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.2-16, 1999-02-25 (Released:2017-06-28)

本研究の目的は、地域で生活する肥満の知的障害者を対象として、8か月にわたる食生活・運動プログラムを実施し、障害者本人力川常場面において適度な食生活・運動習慣の形成を長期的に維持することである。日常場面での標的行動の自発を促進するための支援システムとして次の二つを導入した。"生活技能支援ツール"は、障害者本人が現有する能力を発揮して標的スキルの習得や実施を容易にする手がかりとなるものと、自己の行動を記録管理して障害者本人と保護者とが評価し合う機会を提供するものとで構成される。"地域生活支援教室"は、標的行動が定着するまでの定期的支援を行うものである。結果、対象者8名のうち4名について標的行動の実施が確認され、約2kgから5kgの体重の減少と指導終了1年3か月後のフォローアップでも体重の維持が確認された。また、プログラム消費者となり得る人々の社会的妥当性でも肯定的な評価を得た。日常場面での標的行動の自発・長期的な維持の方略、家庭への支援システムの観点から考察がなされた。
著者
井上 雅彦 中谷 啓太 東野 正幸
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.78-86, 2019-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

自閉症や知的障害のある人々の問題行動に関する機能分析的アプローチは多くの研究でそのエビデンスが示されている。近年これらの治療研究は、家庭、学校、施設などコミュニティで実施されるものが増加しており、非専門家による行動記録の収集と評価が課題となっている。本研究の目的は、日常場面において非専門家が行う行動記録を援助するアプリケーションを開発することであった。本アプリケーションは、Android(アンドロイド機器用)とiOS(iPhone, iPad用)の2つのOS版を各OSの配布サイトからダウンロードし、スマートフォンやタブレットなどのデバイスで利用可能である。記録者は観察時間や標的行動などを設定し、行動の出現に合わせてカテゴリーをタップすることで記録される。入力された行動観察データは即時にグラフ化して表示させることが可能である。データは各デバイス内に格納蓄積され、必要に応じてcsv形式でメール送信可能なため、パソコンなどでのデータの編集加工が可能となっている。家庭と事業所での試用から、本アプリケーションの有効性と課題について考察した。
著者
松山 康成 沖原 総太 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.139-148, 2022-03-18 (Released:2023-03-18)
参考文献数
8

研究の目的 本研究では、授業開始時に授業準備行動を行う児童が少ない小学4年生の通常の学級に対して、授業開始時の授業準備行動(話の聞き方と準備物の用意)を対象として、集団随伴性を含む介入パッケージを実施し、その効果を検討した。研究計画 ABCDデザインを用いた。ベースライン期(A条件)に続いて、3つの介入(B条件、C条件、D条件)を実施した。場面 公立小学校通常の学級の授業開始時に介入を行った。対象者 公立小学校4年生1学級の31名(男児16名、女児15名)の児童であった。介入 B条件では話の聞き方の授業とステキな聞き方のルールの掲示を、C条件ではB条件に加えて準備物の授業と集団随伴性の手続き(「グーチャレンジ」),さらに担任の対応を、D条件ではC条件に加えてタイマーの表示を実施した。行動の指標 授業準備行動の指標として授業開始時の静かになるまでの時間を連続記録法によって、授業開始時の準備物の用意を産物記録法によって測定した。結果 静かになるまでの時間はB条件及びD条件の実施によって減少し、準備物の用意はC条件の実施によって増加した。結論 授業開始時の授業準備行動に対する集団随伴性を含む介入パッケージの効果が示された。
著者
田中 善大
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.211-228, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
47
被引用文献数
7

管理職への規律指導に関する照会(Office Discipline Referral: ODR)は、学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)を支えるデータシステムとして、米国の多くの学校で活用されている。ODRは、問題行動を管理、監督するための方法として、米国の学校で一般的に実施されている手続きであるが、日本ではほとんど馴染みがない。本論文では、SWPBSの実践を支えるデータシステムとしてのODRの特徴とODRのデータを活用したデータに基づく意思決定について解説する。解説に続いて、SWPBSに関連するODRの研究をレビューする。ここでは、ODRデータに基づく意思決定、SWPBSの効果指標としての活用、ODRデータの妥当性及び信頼性に関する研究をレビューする。ODRデータの研究をレビューした後、SWPBSにおけるODRデータの刺激機能について分析する。最後に、日本におけるSWPBSを支えるデータシステムについて考察する。