著者
河村 優詞
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-109, 2019

<p><b>研究の目的</b> 知的障害特別支援学級在籍児童において、漢字学習への選好に及ぼす要因を検討することを目的とした。研究Ⅰでは低選好課題の後に高選好課題を行う場合の選好傾向を、研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会がある場合の選好傾向を検討した。<b>研究計画</b> 学習課題間の選好査定を実施した。研究Ⅰでは低選好課題のみを行うプリントと低選好課題の後に高選好課題を行うプリントを児童に選ばせた。研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会のあるプリントと選択機会の無いプリントを児童に選ばせた。<b>場面</b> 小学校の教室で実施した。<b>参加児</b> 特別支援学級に在籍する4名の児童であった。<b>独立変数の操作</b> 高選好課題の有無(研究Ⅰ)および選択機会の有無(研究Ⅱ)であった。<b>行動の指標</b> 各プリントに対する参加児の選択を指標とした。<b>結果</b> 研究Ⅰでは低選好課題の学習量が多くても、高選好課題を含むプリントが選好された。研究Ⅱにおいて一部の参加児では、低選好課題の学習量が多くても選択機会のあるプリントが選好された。<b>結論</b> 課題選択の傾向から高選好課題や選択機会が強化子として機能した可能性のあるケースが存在した。しかし、厳密に強化子として機能したか否かは検証できておらず、今後の課題として残された。</p>
著者
畔上 恭彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.154-164, 1996

臨床において、コミュニケーション場面での子どもの行動の変化を捉えると同時に、その行動の意図、例えば、人に視線を向けたという行動だけなく、子どもの視線の奥の「まなざし」の意図を理解するということが重要な意味を持つ。このような観点からINREALでは、コミュニケーション分析を行い、これを通して、話し手・聞き手はどのように『会話の原則』に従ったかを検討する。今回、自閉的傾向のある発達遅滞児とのプレイ場面において、INREALの『会話の原則』に従ったコミュニケーション指導を行ったところ固執と思われていた行動が、人との関わりの接点となり、大人と子どもとのやり取りへと変化していった。大人が意味のあるコミュニケーションを行うために『会話の原則』を守ることの重要性が示唆された。この『会話の原則』を守っているかどうかは、臨床場面の録画ビデオを検討することで確認できる。
著者
菅佐原 洋
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.24-34, 2018

<p>発達障害児の発話指導では、対象児の発声が有意味語や見本音声に近づくことが求められる。従来は指導者や第三者による印象評定が用いられることが多かったが、効果的な支援や訓練者の技術向上のためには、より客観的で定量的な指標を用いる必要がある。そこで、本稿ではフリーウェアであるPraatを用いた音声解析を利用した定量的評価の手法について紹介する。</p>
著者
小野 浩一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.174-183, 2008-03-31 (Released:2017-06-28)

(1)研究の目的 ヒトにおけるFRスケジュールとVRスケジュール間の選好が特定のスケジュール履歴によって変化するかを検討した。(2)研究計画 実験操作の前後に従属変数としての選好を観察する事前事後実験デザインを用いた。選好は並立連鎖スケジュールによって測定した。(3)場面 大学施設内の小実験室において個別に実施した。(4)実験参加者 募集に応じた大学生27名(男性13名、女性14名)。(5)独立変数の操作 前後のテストフェイズの間に履歴フェイズとして、14名の参加者には左右のターミナルリンクにFRスケジュールを配置したFR履歴を、13名の参加者には左右のターミナルリンクにVRスケジュールを配置したVR履歴を加えた。(6)行動の指標 両テストフェイズにおけるFRスケジュールとVRスケジュール間の選択において、FR側イニシャルリンクの相対反応率とFRターミナルリンクの選択数を選好の指標とした。(7)結果 FR履歴とVR履歴は異なる結果をもたらした。FR履歴の参加者は総じてVRスケジュールへの選好を増加させ、異種選好を示した。一方、VR履歴の参加者の選好の変化は多方向的でその変化値も大きかった。(8)結論 先行履歴はヒトの選択行動に対して、(1)異種選好のような一般的変化、そして、(2)履歴内容によって異なる特異的変化、をもたらす可能性がある。
著者
瀬島 順一郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.91-114, 1992-03-31 (Released:2017-06-28)

Philosophy of science which underlies in Behavior Analysis is pragmatism. Pierce, C.S. who was a founder of pragmatism said that "Consider what effects, that might conceivably have practical bearings, we conceive the object of our conception to have. Then, our conception of these effects is the whole of our conception of the object." They say this is the maxim or the rule of pragmatism. So this maxim of pragmatism implies the same meaning of contingencies of reinforcement in Behavior Analysis. In Behavior Analysis consequences of reinforcememt shape behavior and then change consciousness and belief. Magician's selection system has been adopted in order to understand the pragmatic feature of Behavior Analysis. Magician's selection system contains a serial verbal reinforcement sequences. One who experienced magician's selection thinks that he selected by his free will, but in fact he was completely controlled by magician. In this paper it is concidered that sequence of reinforcement effects the selection behavior and belief of free will.
著者
佐伯 大輔
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.154-169, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

これまで、経済学と心理学は、遅延時間の経過に伴う報酬の価値の減衰を、時間選好または遅延による報酬の価値割引と呼び、この現象の説明を異なる学問的立場から異なる方法論を用いて行ってきた。経済学における初期の研究は、公理的アプローチにより、財消費の現在と未来への合理的配分を表すことのできる指数関数モデルを提案した。しかし、最近の経済学研究は、経済学や心理学における実証的研究の結果から、指数関数モデルでは記述できない逸脱現象を見出し、これらを記述できる新たな割引モデルを提案している。一方、心理学では、ヒトや動物の遅延による価値割引が、指数関数モデルよりも双曲線関数モデルによってうまく記述できることや、収入水準やインフレーションなどの経済学的変数が割引率に関係する事実が明らかになった。今後、仮想報酬間での選択場面を用いてきた経済学の時間選好研究には、実際の選択場面を用いた割引率の測定が求められる。一方、心理学の価値割引研究には、経済学が報告した逸脱現象が、実際の選択場面においても生起するか否かを検討することが求められる。2つの価値割引研究の融合により、この現象のさらなる理解を可能にする学際的研究領域の確立が期待される。
著者
杉原 聡子 米山 直樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.13-23, 2015

研究の目的 自閉スペクトラム症児への運筆訓練における親の指導行動の改善に対して未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックの効果について検討した。研究計画 研究デザインはABC+フォローアップデザインであった。場面 大学内の観察室であった。参加者 自閉スペクトラム症のある双子の男児をもつ母親1名であった。介入 母親の指導スキルは、把持修正、環境調整、トークンエコノミー、プロンプト、強化の5項目で構成した。ベースライン(A)ではビデオ撮影の方法のみ教示した。介入I期(B)では支援者と母親でビデオを視聴し、適宜ビデオ映像を停止して5項目についてその実施と未実施を母親に示しコメントした。介入II期(C)では介入Iに加え、支援者が子どもの標的行動を強化するためのトークンボードを用意し、母親に手渡した。行動の指標 指導台本の実施率を指導行動の正確率と定義し、従属変数とした。また、併せて子どもの行動変容について、図形における運筆逸脱率を測定した。介入後に、母親より社会的妥当性アンケートへの回答を得た。結果 介入後に母親の指導行動の正確率が改善し、子どもの運筆逸脱率が減少した。結論 未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックによる支援は母親の運筆指導行動の正確性を改善するのに有効であることが示された。
著者
小野 浩一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-44, 1990-09-30 (Released:2017-06-28)

Four types of research on superstitious behavior in humans and nonhumans were reviewed and discussed from the perspective of recent developments in this area. The first type explains the effects of periodic delivery of food on pigeons' superstitious responding in terms of stimulus substitution or species-specific appetitive behavior. Though this type of research is sometimes said to replicate Skinner (1948)'s experiment, this statement may not be accurate because the experiments emphasize the effects of contingencies in steady-state performance. The second type examines whether or not idiosyncratic and stereotyped patterns of behavior develop under response-independent contingencies with attention to accidental response-reinforcer contiguities. The third type includes a variety of studies examining the effects of response independence, such as delay of reinforcement. The fourth type studies superstitious behavior under response-dependent contingencies. It is suggested that further studies should be designed to examine more precisely the effects of response-reinforcer contiguity, aversive control, accidental reinforcement under response-dependent schedules, and verbal control over human superstitious behavior.
著者
Agnew Judy L. 安生 祐治
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.133-141, 1994

行動分析学の企業への応用はここ数年の間にめざましい発展を遂げている。本論文では、行動分析学を利用しているビジネスコンサルティング会社、Aubrey Daniels & Associatesが提供するコンサルティングサービスを解説する。パフォーマンス・マネジメントと呼ばれるこのサービスは、標的行動と成果の特定、先行条件の特定、測定、フィードバック、ゴール設定、結果の操作の6つの基本的なステップから成り立っている。パフォーマンス・マネジメントによる成功事例を、クライアントが直面していた問題とその解決方法を含めて紹介する。
著者
山下 裕史朗 向笠 章子 松石 豊次郎 WILLIAM E. PELHAM
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-81, 2009-03-30 (Released:2017-06-28)

われわれは、米国BuffaloのPelham教授によって確立され、ADHDをもつ子どもへの治療モデルプログラムとして全米で行われているSummer Treatment Program(STP)を2005年から久留米市でスタートし、3年間継続してきた。STPは、デイキャンプ方式のプログラムで、ポイントシステム、正の強化子、デイリーレポートカード、タイムアウトなどのエビデンスに基づく手法を用いた。2005年は2週間、2006から2007年は3週間、のべ89名(年齢6〜12歳)が参加した。タイムアウト頻発のため個別プログラムを要する子どもが毎年1名いたが、ドロップアウトしたものはいなかった。行動改善はすべての子どもに認められ、ADHDや反抗挑戦性障害の症状も有意に改善した。保護者の満足度はきわめて高い。米国のSTPは、日本人ADHDをもつ子どもにも有効であるだけでなく、医療・心理・教育の各専門家のコラボレーションを高め、学生の臨床教育、臨床研究に役立つプログラムである。
著者
若林 上総 中野 聡 加藤 哲文
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.145-156, 2016-03-25 (Released:2017-06-22)
参考文献数
15

研究の目的 定時制課程の高等学校において、生徒の課題遂行を高めることを目的とした行動コンサルテーションを実施し、介入厳密性(treatment integrity)を保つのに必要となる支援の検討を行った。研究計画 2学級を対象としてA-B-C-CD-CDEデザインで実施した。場面 定時制高等学校の数学Iの授業に介入した。参加者 コンサルタントとして特別支援教育コーディネーター、コンサルティとして教職経験4年目の数学Iの教科担当、クライエントとして教科担当が指導する2つの学級に在籍する生徒35名が参加した。介入 教科担当の介入厳密性を高めるために、2度の打ち合わせ、遂行する教授行動の毎朝の確認、パフォーマンス・フィードバック、台本の提示を行った。行動の指標 授業ごとの生徒の課題遂行率および教師の教授行動の遂行率を測定した。結果 介入とともに発達障害の生徒を含む各学級の生徒の期間ごとの課題遂行率が上昇の傾向を示した。それに応じて教師の介入厳密性も高まった。結論 コーディネーターの働きかけが教師の教授行動に与えた影響が示唆された。考察 コンサルテーションで生じた教師の教授行動の変容の要因、生徒の課題遂行率の上昇との関連を議論した。研究の限界として厳密な場面の統制ができなかった。
著者
D. L. Chambless T. H. Ollendick
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.81-105, 2005-04-25 (Released:2017-06-28)

アメリカ合衆国における、証拠に基づく心理療法(evidence-based psychology)の実践を増加させようとする努力の結果、経験的に支持された心理的介入についての情報を明らかにし、同定し、普及させるための特別委員会が組織されるに至った。この論文ではアメリカ合衆国やイギリスなどにおける、経験的に支持された処遇(empirically supported treatment, EST)を展望した特別委員会や他のグループの活動成果と、ESTとして同定された処遇のリストを要約して示すことにする。研究方法論や、外的妥当性や、研究の有用性、そしてEST展望過程の信頼性と透明性を含めた、ESTの同定と普及をめぐる論争についても、展望することにする。
著者
Spates C. Richard 瀧本 靖子 鷲尾 幸子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.161-173, 2003

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、生死に関わるような恐ろしい体験をした人に見られる事の多い、行動的、情動的な反応のことである。全人口のおよそ7%の人がこの障害を持つと言われている。この障害は戦争、火事、交通事故、自然災害、暴力、テロ、などから引き起こされることが多い。この発表では、PTSDにみられる行動や情動などを行動分析の視点から解釈する。行動分析学からの解釈によって、発症のメカニズム、PTSDに対する正しい理解、より優れた治療方法についての幅広い発展が期待できる。治療方法について各種の方法を比較分析したデータも紹介する。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.88-108, 1997
被引用文献数
2

実験的行動分析における行動経済学の成立過程とその代表的実験を挙げながらこのアプローチの考え方を述べ、選択行動の研究をめぐるこの学の貢献と今後の問題を検討する。行動経済学は心理学と経済学の共同領域として生まれた。しかし、この学がミクロ経済学が蓄積してきた経済理論とその予測を、実験的行動分析における選択行動の実験結果に適用して理論の実証を行ってきたこと、経済学が培っていた諸概念を新しい行動指標として活用していったことから、それまであった伝統的な経済心理学とは異なる道を歩んだ。ミクロ経済学には、最適化と均衡化という2つの考え方がある。それぞれの主要な分析道具である無差別曲線分析と需要・供給分析から導出される予測や概念、例えば効用最大化・代替効果・労働供給曲線・弾力性は、個体の選択行動の様々なケース、例えば対応法則、反応遮断化理論、実験環境の経済的性質などへの行動経済学からの視点を提供してきた。今後、行動生態学、行動薬理学、実験経済学といった諸領域との連携をとりながら、実験的行動分析における独自の枠組みの中での均衡化と最適化の原理が検討されていく必要がある。
著者
山口 哲生 伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.185-196, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

本稿では、単位価格、需要曲線、価格弾力性といった行動経済学の基礎的な概念が、喫煙・飲酒・薬物摂取行動を理解する上でいかに有効であるかを述べる。また、消費者行動に影響を及ぼす経済学的要因として価格、代替性、所得、遅延による価値割引を取り上げ、こうした要因が喫煙・飲酒・薬物摂取行動にどのように影響するかを明らかにする。現在までに、行動経済学的概念が依存症治療へ応用可能であることが多くの研究より示されているが、行動経済学的な枠組みでは、薬物摂取行動以外の他行動の強化により、薬物摂取行動を減少させることができる。こうした治療を行う際は、問題行動を強化している強化子と代替強化子との機能的等価性、望ましい強化子に対する補完強化子の有無を考慮する必要がある。行動経済学的研究は、また、薬物摂取に関する社会政策にも有効な方法を提言することができる。
著者
M.Mason Matthew 水野 圭郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.117-131, 1994-12-25 (Released:2017-06-28)

行動分析家にとって、行動科学は、行動を説明・予測するためのアプローチとして、他の様々な科学的または疑似科学的アプローチより優れているものである。したがって、行動分析家がこれまで人間社会の多種多様な場面に行動的な方法論を応用してきたことは当然のことといえよう。近年では、行動的な方法論の応用が、単に学術的な世界にはとどまらず、産業界でもポピュラーなものになりつつある。この論文では、産業界での行動分析学の発展について概観すると共に、企業という環境で、行動マネジメントプログラムを計画・実行するさいの問題点を指摘する。また、行動分析学が組織の中で効果をあげるための戦略についても述べていく。