著者
八賀 洋介
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.120-140, 2008-03-31 (Released:2017-06-28)

近年では変動的行動のスケジュール研究が盛んに行われている。興味深い現象として、変動性の高い行動は強化頻度減少や消去に対して変動性の変化を起こしにくいことが指摘されている。しかし、スケジュール効果を検討する以前に"変動性がオペラントである、条件づけられる、強化可能である"などといわれる場合、その抽象性のために何を言わんとしているのかが曖昧である。本稿では行動変動性を強化する際に実際に何が行われているのかを明らかにすることと、併せて最近の本領域の研究動向を展望することを目的とする。分析の軸を与えるために2つの予備的検討を行う。始めに行動分析学におけるオペラントと変動性の概念の用法を確認し、次に変動性強化で使用される手続きを検討する。それらの検討から本領域で使用される分化強化の対象を明確にする。そのもとで、オペラントとしての変動性をめぐる先行研究を概説し、行動変動性と分化強化の関係を論じる。変動的行動のスケジュール研究の下では、変動性次元が分化強化対象として存在するのではなく、むしろ、変動的行動の内部パラメータとして存在していることを指摘する。
著者
小田 史子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-24, 2004-02-29 (Released:2017-06-28)

In Japan, some dogs are kept indoors by their owners and never allowed outside. These "inside dogs" are trained to eliminate in a container like a cat's litter box, which is lined with a "pet sheet," i.e., specially treated absorbent paper. Study objective: to investigate whether if dogs were reinforced for eliminating on the pet sheet, they would learn to eliminate there without prior prompting. Design: After a baseline period, intervention was carried out, and than a follow up done. Setting: indoor locations, such as a home or workplace. Participants: 1 female and 3 male puppies and their owners. Intervention: when the dog eliminated on the pet sheet without prompting, or after having been taken to the pet sheet, the owner reinforced the dog's behavior. Measure: The percentage of eliminations that were on the pet sheet was measured. Results: 3 of the puppies learned to eliminate on the pet sheet, although one of those only used the sheet for urination. The remaining dog did not learn. Conclusion: Reinforcing eliminating on the pet sheet was effective for training "inside puppies". Owners should take their dog to a pet sheet when the dog seems about to eliminate, and reinforce the behavior of eliminating in the correct Location.
著者
青木 美和 山本 淳一
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.106-117, 1997-03-20
被引用文献数
1 7

4名の発達障害生徒が、家庭生活スキル(学校の持ち物の準備、登校前の身じたく、帰宅後の手洗い・うがい、家庭学習)を写真カードを用いて自発的に遂行できることを目的とした。研究は全て対象生徒の家庭で実施された。対象生徒が写真カード冊子を1枚ずつめくりながら、行動連鎖を遂行してゆくことが標的とされた。ベースライン期において4名の対象生徒とも、家庭生活スキルの自発的反応の生起率は安定しなかった。家庭介入期において母親に写真カードの呈示方法と、一定時間経過後に適切な反応が出現しなかったら言語指示・身体的介助を与えることなどを教示し、それを家庭で毎日実施してもらった。その結果、家庭介入期において家庭生活スキルの自発的反応の生起率が上昇した。また、これらの介入では効果がみられなかった生徒には、写真カードや強化刺激の変更といった操作を行うことによって自発的反応が安定して生起するようになった。これらの結果について、家庭生活スキルの形成に及ぼす視覚的プロンプトと親指導の効果の点から考察した。
著者
高砂 美樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.128-134, 2019

<p>John B. Watsonの条件性情動反応の研究(Watson & Rayner, 1920)に出てくるAlbert B.として知られるLittle Albertは本当は誰だったのだろうか。この9か月齢の子どものことは心理学史ではよく知られてきたが、Albertは実験の後に生後ずっと暮らしていた大学病院から連れていかれ、その後どうなったかについては何の手掛かりもなかった。近年になって、Beck et al. (2009)は、Little Albertは実際にはDouglas Merritteという名前の子どもで、1922年に水頭症を患い、1925年に亡くなっていると主張した。さらに2012年の研究でBeckのグループはAlbertの神経学的障害の徴候を見落としていたと報告し、もしそれが事実であったならばWatsonがこの子どもを虐待していたことになることを示唆した。しかしながら、2014年になると、もう一つのグループの心理学者らがAlbert Bargerという別の子どもをより適切なAlbert B.の候補として同定した。本論ではLittle Albertを探す一連の論争について概観する。</p>
著者
伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.156-161, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本特集は、2016年に開催された日本行動分析学会第34回年次大会(大阪市立大学)の公募企画シンポジウム「オペラント条件づけ研究事始め:スキナー研究室から送られた2組の実験装置」(企画 河嶋 孝・伊藤正人)に基づいている。このシンポジウムでは、2組の実験装置導入の経緯や実験装置をめぐる日米交流の一端を明らかにすることを目的としていた。このための基本資料として、当時の慶應義塾大学と東京大学の状況を知る関係者の方々から聞き取り調査を行い、関連年表を作成した。ここでは、関連年表(付表)の内容について紹介し、問題点を整理することにしたい。なお、年表作成にあたり、吉田俊郎、大山 正、大日向達子、故二木宏明の諸先生方から貴重な証言をいただいた。記して感謝申し上げる。年表は、慶應義塾大学と東京帝国大学および東京大学の文学部心理学研究室に関わる事項を中心に、国内外の出来事も記載してある。記載した事項は、戦前(1940年代)から現在(2010年代)までの両大学におけるオペラント条件づけ研究に関与した方々の活動や、オペラント条件づけ研究のインスツルメンテーションを総括する目的で行われた「実験的行動分析京都セミナー」(2012年~2015年)の開催などの活動にも広げてある。また、2組の実験装置の内、現存している慶應義塾大学のハト用実験装置、特に累積記録器についての考証と動作復元の試みが浅野ら(Asano & Lattal, 2012)によって行われており、実験箱についても坂上ら(Sakagami & Lattal, 2016)による論考が公刊されているので、これらについても記載してある。
著者
髙津 梓 奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.64-70, 2019-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
13

研究の目的 本研究では、特別支援学校の給食場面で、飲食物を飛ばす、吐き出す行動の見られるダウン症候群の児童について、教室環境を調整した上でエラーレス指導を行い、その効果を検討した。対象者 知的障害特別支援学校小学部4年に在籍する、知的障害のあるダウン症候群女児1名。他者への不適切な関わりが多く、給食時には食べ物や牛乳を前方に飛ばす、口に入れたものを吐き出す、皿をひっくり返して振る行動が見られた。場面 対象児の所属校の給食場面で介入を行った。介入 牛乳を途中でこぼしたり牛乳やおかずを向かいにいる人に向けて飛ばしたりする不適切な行動に対し、①前方に衝立を設置する、②牛乳を飲み込んだら小分けにしたおかず等を小皿で提示する、③おかずを口に入れた際に前方に手をかざす、エラーレスを目指した介入を行った。行動の指標 給食時間中における不適切な行動の生起率、牛乳の摂取量を指標とした。結果 12週目以降不適切な行動が生起しなくなり、介入終了後も維持された。また、摂食スキルも向上した。結論 行動の形成期に使われることが多いエラーレス指導が、食事中においてすでに起こってしまった誤学習を修正することにも役立てられた。
著者
中村 有里 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.54-58, 2010-01-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

研究の目的行動的コーチングがハンドボールの7mスローにおけるシュートフォームの改善に及ぼす効果を検討した。研究計画ABAデザインを用いて行った。参加者ハンドボール部に所属する女子大学生3名であった。介入的シュート場面と通常シュート場面の2場面を設けた。シュートフォームを12項目の下位スキルに課題分析したチェックリストを用い、行動的コーチングとしてシュートフォームの教示、モデリング、行動リハーサル、パフォーマンスフィードバックを行った。行動の指標シュートフォーム下位スキルの正反応率であった。結果的シュート場面及び通常シュート場面共に参加者全てのシュートフォーム正反応率は上昇した。考察行動的コーチングはハンドボールのシュートフォームの改善に有効であることが示唆された。シュート成功本数については一貫した向上が見られなかった。
著者
青木 康彦 龔 麗媛 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.87-102, 2019-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
41

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder, ASD)児の療育指導において社会的関わりによる強化は重要であると考えられるが、一部のASD児においては社会的関わりが強化子として機能していない可能性が指摘されており、社会的関わりを条件性強化子とする成立率が高い方法の検討が必要である。本研究では、ASD児、発達障害児や定型発達児を対象とした研究における年齢、診断、条件づけの方法、中性刺激の種類、強化子の種類、中性刺激の種類と強化子の種類の組み合わせごとに条件性強化子成立の差異を検討し、ASD児における条件性強化子成立の条件を検討することを目的とした。条件づけを実施した26篇の研究を対象に、「年齢」、「診断」、「条件づけの方法」、「中性刺激の種類」、「強化子の種類」ごとに条件性強化子の成立率を算出した。また、中性刺激の種類と強化子の種類の組み合わせにおける条件性強化子の成立率を算出した。その結果、年齢、診断、中性刺激、強化子の種類ごとに条件性強化子の成立率に差がみられた。また、中性刺激の種類と強化子の種類の組み合わせでは、ある中性刺激との組み合わせで条件性強化子成立率が高い強化子刺激であっても、別の中性刺激との組み合わせでは条件性強化子の成立率が低い場合がみられた。今後、ASD児にとって社会的関わりが強化子として機能するために、社会的関わりと組み合わせる強化子について検討する研究が多く実施されることが望まれる。
著者
赤根 昭英
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.49-60, 1995

知的障害を持つ2名の生徒に、1000円未満の買い物ができるように教授した。それまで、生徒らは、10円を超える金額の支払や、2桁の金額の読み書きができなかった。教師(筆者)の自作による「計数板」という教具を使用し、硬貨の計数を訓練した。さらに「計数板」を補助具として用いて、実際に買い物をさせた。その結果、スーパーマーケットのレジスターの金額表示を見て支払ったり、菓子屋の店主が言った金額を聞いて支払ったりすることができるようになった。また、彼らが買い物をしていることを、店の人や周りの買い物客に知らせるようにすることで、児童が買い物をしやすい環境ができただけでなく、障害児に対する周囲の人々の理解を促すこともできた。さらに、彼らが学校で買い物ができるようになると、親たちも家庭で彼らの買い物を試みるようになった。算数指導という教授の文脈からも、地域生活の為の準備としても、教室から出て現実の社会場面で実際に硬貨を使う事は有効であると考えられる。
著者
宮崎 光明 加藤 永歳 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.19-31, 2014-07-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

研究の目的 無発語または発声・発語が少なく、音声によるコミュニケーション行動が乏しい自閉症児を対象に、アイコンタクトおよび発声・発語を促進するために、PECSの要求場面において、対象児が絵カードをコミュニケーション・パートナーに渡した後に動作模倣を取り入れた際の介入効果を検討することを目的とした。研究計画 ベースライン期、PECSの訓練、PECSに動作模倣を取り入れた訓練、維持テストからなるABCAデザインを用いた。場面 プレイルームにて実施した。対象児 無発語または発声・発語が少なく、コミュニケーション行動が乏しい自閉症児4名であった。介入 訓練期1ではPECSのフェイズIの訓練を行い、訓練期2では、フェイズIに動作模倣を取り入れた訓練を行った。行動の指標 絵カードを用いた要求行動を構成する行動の正反応率、アイコンタクトおよび発声・発語の生起率、動作模倣の正反応率を行動の指標とした。結果 本研究に参加したすべての自閉症児において、絵カードを用いた要求行動を構成する行動の正反応率、アイコンタクトおよび発声・発語の生起率が増加した。また、3名の動作模倣の正反応率の増加が見られた。結論 PECSの訓練手続きに動作模倣を取り入れることで、アイコンタクトおよび発声・発語が促進されることが示唆された。
著者
清水 裕文 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.22-43, 1998
被引用文献数
1

本研究では4名の発達障害児を対象に、授与動詞や助詞を含む文の獲得に及ぼす条件の検討をおこなった。まず、高次条件性弁別の枠組みを用いて文法を分析した。実験Iでは2人の他者が物を受け渡ししている動画を提示し、"わたす""もらう"といった授与動詞を使用した文の構成を訓練した。文構成のために助詞選択条件と動詞選択条件を設定した。その結果、すべての対象児において適切な文構成が成立しなかった。実験IIでは対象児に実際動作を行ってもらい、それに対応する"わたしました""もらいました"という授与動詞を含む文を構成する反応の出現を分析した。動詞選択条件、名詞選択条件、助詞選択条件といった3つの条件性弁別場面を設定した。ベースラインでは動詞選択条件の正反応率が高く、他の条件の値はチャンスレベルであった。助詞選択条件の2つの事例を訓練することで、他の未訓練の文や名詞選択条件の正反応率も上昇した。実験IIIでは、対象児の実際動作に対応して、"あげました""くれました"という授与動詞を含む文を構成する反応を分析した。構成のために、実験IIと同じ条件性弁別手続きを設定した。その結果、ベースラインでは動詞選択条件の正反応率が高く、他の条件はチャンスレベルであった。助詞選択条件を訓練することで、名詞選択条件の正反応率も上昇した。本研究の結果から、自分自身の実際の行為を見本刺激とすることで、少数事例の訓練によって、発達障害児が適切な授与動詞や助詞を含む文を表出することが、可能となることが示された。また、授与動詞の獲得の困難さは、条件性弁別の階層性の高さに対応することが示唆された。
著者
島宗 理 中島 定彦 井上 雅彦 遠藤 清香 井澤 信三 奥田 健次 北川 公路 佐藤 隆弘 清水 裕文 霜田 浩信 高畑 庄蔵 田島 裕之 土屋 立 野呂 文行 服巻 繁 武藤 崇 山岸 直基 米山 直樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.174-208, 2003-09-05 (Released:2017-06-28)

行動分析士認定協会(Behavior Analyst Certification Board : BACB)は、国際行動分析学会(Association for Behavior Analysis : International)が公認し、支援している、行動分析学に基づいた臨床活動に携わる実践家を認定する非営利団体である。本資料ではBACBの資格認定システムを紹介し、実践家の職能を分析、定義したタスクリストの全訳を掲載する。タスクリストを検討することで行動分析家の専門性を明確にして、我が国における今後の人材育成やサービスの提供システムについて、検討を始めるきっかけをつくることが本資料の目的である。
著者
Judy L. Agnew 安生 祐治
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.133-141, 1994-12-25 (Released:2017-06-28)

行動分析学の企業への応用はここ数年の間にめざましい発展を遂げている。本論文では、行動分析学を利用しているビジネスコンサルティング会社、Aubrey Daniels & Associatesが提供するコンサルティングサービスを解説する。パフォーマンス・マネジメントと呼ばれるこのサービスは、標的行動と成果の特定、先行条件の特定、測定、フィードバック、ゴール設定、結果の操作の6つの基本的なステップから成り立っている。パフォーマンス・マネジメントによる成功事例を、クライアントが直面していた問題とその解決方法を含めて紹介する。
著者
中野 良顯
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.18-51, 2005-04-25 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

この論文では、臨床場面でサイエンスに徹し効果の実証された最善の技法を提供することが、行動分析家の倫理であることを主張する。サイコロジストが臨床場面でサイエンスに徹するべきであるという三張は、行動分析の内部より外部で強調された。主役となったのはより大きな時代精神としての「エビデンス・ベースの医学(evidence-based medicine, EBM)」の一環であるアメリカ心理学会第12部会特別委員会による「経験的に支持された治療(empirically supported treatment, EST)」運動だった。委員会の使命は経験的に支持された治療を同定する基準に無作為化比較試験(randomized controlled trial, RCT)を含め、それに合格した治療をリスト化し、その情報を普及促進することだった。ESTとして同定された児童版心理療法の数は少なく、自閉症などの領域でのESTは見出されていない。日本に行動分析の倫理を確立する上で考慮すべきEST運動の展望から得られた課題は、マニュアルとRCTを使った臨床研究を拡大すること、内外のEST文献の組織的展望を奨励すること、そして実践家がESTを提供しうるシステムを確立することである。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-105, 2002

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動についての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験.条件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をもたらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともその実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的アイデアを提供するからである。