著者
髙橋 純一 安村 明 中川 栄二 稲垣 真澄
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3+4, pp.179-187, 2015 (Released:2017-09-26)
参考文献数
20

【要旨】ADHD児に対する新規治療法としてニューロフィードバック (NF) 訓練の中でSCP (slow cortical potential) 訓練を中心に研究紹介を行なった。ADHD児10名のSCP訓練の有効性の検証を行ない、そのうち9名 (ERP指標では8名) が最終的な分析対象となった。訓練前後における神経生理学的指標として、事象関連電位 (ERP) 指標では注意の持続能力に関するCNV振幅を用いた。行動指標では、ADHD傾向を測定できるSNAP-Jが保護者によって評定された。脳波 (EEG) 指標では、SCP訓練におけるセッションごとの陰性方向および陽性方向のEEG振幅の変化を分析した。ERP指標の結果から、SCP訓練前後でCNV振幅の有意な上昇が見られた。一方、行動指標では、SCP訓練前後の評定得点に関する変化は見られなかった。SCP訓練中のEEG振幅については、セッションを経るにつれて陰性方向および陽性方向のEEG振幅の上昇が見られた。CNV振幅は注意の持続を反映することから、SCP訓練によって、対象児の注意の持続に関する能力が上昇したと推測した。以上から、本研究で実施したADHD児へのSCP訓練は一定の効果があったと考えた。また、SCP訓練中のEEG振幅が変容したことから、SCP訓練前後のCNV振幅の変化と訓練中のEEG振幅の上昇との間に何らかの関連が示唆された。
著者
相原 正男
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.44-47, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

前頭葉機能を理解する神経心理学的理論として、行動抑制(behavior inhibition)とワーキングメモリ(working memory)、そして実行機能(executive function)が提唱されている。このような前頭葉機能を簡便で短時間に試行可能な検査法としてfrontal assessment battery at bedside (FAB)、cognitive bias task(CBT)が成人を対象に報告されている。我々は、健常小児とADHD児を対象にFAB、CBTを小児用に修正し施行した。FAB総合点数は、健常児において年齢依存性に増加し、10歳以降で急激な上昇を認めた。ADHD児では有意に低かった。CBTは、健常児において15歳頃成人レベルに達した。年齢に伴い右前頭葉機能である文脈非依存性理論から左前頭葉機能である文脈依存性理論へシフトしていくものと考えられる。ADHD児は健常児の同年齢に比して文脈非依存性論理であった。長期的報酬予測における情動の影響を検討するため、強化学習課題であるMarkov decision task施行中の交感神経皮膚反応(SSR)を測定したところ、適切な行動選択を学習するためには事象に伴う情動表出が不可欠であることが確認された。
著者
植村 研一
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-29, 2009

8年間も英語を学習した大学卒業生のほとんどが英語を駆使できないのは日本における英語教育の失敗である。短期間に役立つ外国語教育に成功している外国の例は驚異的である。人間の脳は言葉を聞いて自然に理解でき、話せるようになる。Bilingualの脳にはそれぞれ独立した言語野が形成されるが、これはlistening practiceから入った教育の成果であって、単語と文法を使った直訳を通した外国語学習では、何年続けても独立した言語野は形成されないし、駆使できない。日本の外国語教育の失敗の原因は脳の言語習得機構を無視した結果である。著者の効果的教授学習法を紹介する。
著者
三村 將
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-13, 2012 (Released:2017-04-12)

脳血管病変による血管性失語症と、変性性認知症疾患による変性性失語症については、さまざまな観点から臨床像の相違を指摘できる。本稿では特に、横断面の失語症症候学として、血管性失語症と変性性失語症の異同について論じた。変性性失語症のなかには従来の血管性失語症の臨床分類で十分説明可能な症例もある。その一方、血管性失語症による失語症分類の根幹をなす流暢―非流暢の分類が当てはまらない症例にも少なからず遭遇する。変性性認知症による原発性進行性失語症に関しては、今日、nonfluent/agrammatic型、semantic型、logopenic型の3 亜型に臨床分類することが提唱されている。しかし、最近見い出されてきたlogopenic 型についてもさらなる問題がすでに指摘されてきている。このように、これまで血管性失語症を通じて蓄積されてきた失語症に関する伝統的理解に、変性性失語症の詳細な検討による新たな知見が付加されることにより、ひいては血管性失語症の病像理解もさらに深まってきている。今後は失語症の生じる神経基盤を組織レベルで解明し、背景病理別の好発部位や臨床像の差異を検討していくことも重要であろう。

1 0 0 0 OA Dementia and Art

著者
Shunichiro Shinagawa Bruce L. Miller
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.171-174, 2014 (Released:2017-04-12)

Some subjects withprimary progressive aphasia(PPA), which is defined by a progressive loss of language ability, develop new artistic behaviors in the course of their disease. We had reported increased creativity in visual art, music and mechanical design in patients with PPA as they lose verbal language abilities. We believe that it reflects their underlying brain mechanism ; left-sided and frontal activities would inhibit right-sided and posterior functions, and new artistic ability was most notable in patients who had left-frontal disease withintact right-posterior and dorsolateral-medial frontal cortex. Our models of neurodegenerative disease may reflect premorbid developmental differences possibly predisposing subjects towards different ways of expression. Subjects showing relative strengths in some network reveal a relative vulnerability to unique neurodegenerative disease.
著者
越部 裕子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.24-29, 2016 (Released:2016-12-06)
参考文献数
4

【要旨】前頭側頭葉変性症(FTLD)は、臨床的に前頭側頭型認知症(FTD)、進行性非流暢性失語(NPFA)、意味性認知症(SD)、に分類されるが、いずれのタイプも病初期の症状は捉えにくく、診断が遅れがちな現状がある。そこで本報告では、前頭側頭葉変性症の特徴的な言語症状に注目して、実際の画像や音声を用いて症例を提示した。症例1は呼称障害と共に行動面で被影響性の亢進がみられ典型的なFTDの症状を呈している。症例2は発語失行の他、軽度の失語症、構音障害を呈していることからPNFAと考えられた。症例3の自発話は流暢で、「○○ってなんですか?」と特徴的な発話をはじめ、単語の理解力低下、呼称障害、漢字の表層失読を認め、典型的なSDの症状を呈している。FTLDの特徴的な症状を動画、音声で示すことは、的確な早期診断、症状の理解、家族指導、リハビリ的な対応を考える上で、有益な手段と考える。
著者
古本 英晴
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.70-79, 2005 (Released:2011-07-05)
参考文献数
48

【要約】明確な超皮質性失語を伴わずに反響言語・補完現象を呈した3症例を呈示した。2例は両側前頭葉内側面病変で、検査状況の下でのみ、主治医によってのみ誘発される状況依存性のimitation behavior(IB)とutilization behavior(UB)を伴った。もう1例は右側頭葉・左前頭葉内側面皮質下白質病変で、前2例に比して反響言語・補完現象は軽度であり、IB・UBも軽度で、その傾向を示すに留まった。反響言語・補完現象が失語症状と独立して発現することから、反響言語・補完現象は言語行為におけるIB・UBの表現型であり、単純な自動言語ではないと考えられた。また単なる環境ではなく状況に依存して反響言語・補完現象・IB・UBが変化する点から、意味機能の歪みが反響言語・補完現象を含む全ての反響行為の基礎にあると考えた。反響言語・補完現象が失語症と分離して生じる点は、言語機能が一般的な情報処理過程(制御過程)の集合である可能性を示唆し、また観察された状況依存性と意味機能の歪みは意味の階層構造の一端を示すと考える。
著者
守口 善也
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.262-268, 2007 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20

【要旨】自己の情動の同定・表象困難であるアレキシサイミア群(ALEX:n=16)とコントロール群(NALEX:n=14)を対象に、他者理解に関わる課題(心の理論、痛みに対する共感、ミラーニューロン)を用いて脳機能画像研究を行った。心の理論に関わる課題においては、アニメーションの三角形の意図のくみ取りのスコアがALEX群の方が有意に低く、内側前頭前野の賦活低下がみられた。さらにこの部位の脳活動は視点取得能力と正の関係を認めた。ミラーニューロン課題においては、前運動野、あるいは頭頂葉をはじめとする領域が、ALEXではむしろより賦活しており、その脳活動は視点取得能力とは負の相関を示していた。他者の痛み画像に対する認知的評価の課題に関しては、ALEXは、痛みを低く評価しており、pain matrixの中でも、前帯状回、背外側前頭前野などのより認知的で実行的な情動処理の領域における機能低下が認められた。自己/他者の心を表象することは、自分とは一端離れた視点を持つ必要がある点は共通しており、ALEXにおける自己の客体化(メタ認知)の障害が示唆された。さらに、認知的な、とりわけ実行機能・感情の制御など、神経学的にも種々の他者の認知障害の関与が示唆された。このことは、自己・他者の理解の障害は相互に密接に関係していることを示しており、その共通項は心身症や精神障害にも重要な意味を持っていると考えられた。
著者
岡田 英史
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.44-51, 2010 (Released:2011-07-14)
参考文献数
8

生体組織内のヘモグロビンによる吸収と赤血球による散乱が、近赤外分光法(NIRS)の検出信号に及ぼす影響をシミュレーションによって解析した。細い単一血管を模擬したモデルでは、flow effectと呼ばれるNIRS信号に対する赤血球の散乱変化の影響が大きくなった。これに対して、血液と周囲の組織からなる生体組織モデルでは、散乱変化のNIRS信号への寄与は小さく、NIRS信号が主としてヘモグロビンなどの吸収変化に依存することが明らかになった。NIRSによる脳機能計測は生体組織モデルを対象としたものに近いため、NIRS信号を脳機能賦活によるヘモグロビン濃度変化に起因するものと近似して解析を行う方法は妥当であると考えられる。
著者
内田 亮子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.9-15, 2010 (Released:2011-07-14)
参考文献数
33

言語能力の起源と進化を考察する際、現在の機能とメカニズムとともにその歴史性の解明も重視されなくてはならない。他の生物現象同様、ヒトの脳とそれが可能にする言語能力も妥協の産物である。言語が現れるにいたった過程と、言語獲得によって失ったものや新たに対処しなければならなくなった課題の解明は、言語のより深い理解につがなるはずである。本稿では、言語獲得と関連が高いと考えられる現代人的な脳の使い方と生き方が、人類進化の歴史の中で、いつごろ、どのように現れてきたのかについて生物人類学的知見をもとに概観する。
著者
蜂須賀 研二
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.269-273, 2007 (Released:2011-07-05)
参考文献数
8
被引用文献数
2

【要旨】高次脳機能障害があり自動車運転をして自損事故を生じた2症例を報告する。症例1は脳出血後の左片麻痺で半側空間無視を有する患者であり、医師の運転禁止の助言を守らず自動車運転を再開し自損事故を起こした。症例2は外傷性脳損傷患者であり、症例1の経験を踏まえ自動車運転適性評価と再開手順を定め、これに準拠して運転再開したが自損事故を生じた。安全運転助言検査を用いて外傷性脳損傷者の自動車運転特性を分析すると、外傷性脳損傷患者は健常者よりも認知反応時間のばらつきが大きいことが判明した。高次脳機能障害者の自動車運転は社会的にも重要な問題であり、今後の学際的臨床研究が必要である。
著者
絹川 直子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.196-201, 2007

いざデータを統計学的に解析しようとするとき、どのようにして解析手法を選んでいますか?参考にした論文や先輩が使用していたものと同じもの?その手法を用いた解析結果の数値をどのように読み取って解釈していますか?検証したいことは言えているのでしょうか?本稿では、神経科学分野の医師からの相談によく出てくる分散分析を中心に、統計解析でよく目にする数値の意味や手法毎に対象としている状況をみていきます。そもそも、検定すると出力されるp値って何?2群の数値を比較するときはt検定。それなら、2群ではなくA、B、C3群のときに、C群はA、B群に比べて値が大きいことが言えそうですが、このときt検定でA群とC群、B群とC群でそれぞれ2群比較して、どちらもp<0.05となればしめたもの、…でいいですよね?高齢者の多い疾患群と身近な病院関係者から選んだ健常者群の比較をするとき、群間で少し年齢が異なっているような気もしますが、このまま群間比較をしてしまいましょう…?分散分析をすると結果にたくさんのp値が出て来て、どのp値が何を表わしているのかはよく分からないけれど、0.05より小さいp値があるので自分が検出したい有意差はあるのでしょう?このようなことを考えたことがある方は本文を読んでみて下さい。ほんの入り口部分だけではありますが、統計学的仮説検定の基礎と分散分析周辺のことに触れていきたいと思います。
著者
羽生 春夫
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.222-226, 2006 (Released:2011-07-05)
参考文献数
7

【要旨】老年期の代表的な認知症といわれるアルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、血管性認知症(VaD)の早期診断と鑑別における画像検査の役割について概説する。MRIは脳の微細構造を含む形態学的変化の描出に優れ、ADの主病変となる海馬や海馬傍回(内嗅野皮質)を明瞭に識別できる。視覚的にも萎縮の評価は可能であるが、voxel-based morphometryによって客観的な形態学的変化の評価が容易となってきた。最近登場したVSRADという解析ソフトを用いると、早期ADやMCI患者で内嗅野皮質を含む側頭葉内側部の萎縮が検出でき、その他の認知症と比べてより高度な萎縮を確認できることからADの早期診断や鑑別に期待される。SPECT画像を3D-SSPなどから統計学的に解析すると、ADの病初期やMCIのrapid converter群では後部帯状回や楔前部の有意な血流低下が認められ、早期診断に活用できる。また、DLBでは後頭葉内側の血流低下が、VaDでは前頭葉や帯状回前部の血流低下がみられるなど、それぞれ特徴的な脳血流低下パターンを示すことから鑑別診断にも役立つ。形態画像や機能画像の統計学的解析によって、ADを代表とした認知症の早期診断や鑑別がいっそう容易となり、今後の薬物治療にも大きな貢献をもたらすものと期待される。
著者
松田 実
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.191-195, 2007 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1
著者
高橋 英彦
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.19-22, 2008 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20

【要旨】統合失調症の脳体積研究で、上側頭回と扁桃体を含む内側側頭葉はもっとも体積減少が認められる部位とされる。fMRIを用いて統合失調症におけるこれらの部位の機能異常を検討した。我々は、患者において不快な写真に対する右扁桃体の低活動を報告した。右の扁桃体は、瞬時の自動的な情報処理にかかわっているとされ、外的刺激に対するとっさの処理の障害を示唆すると考えられた。統合失調症の言語に関する研究は広くなされているが、統合失調症にはヒトの声の認知にも障害があるとされ、我々は統合失調症の声の認知時にヒトの声認知に関わる右の上側頭回の低賦活が見出し、言語理解だけでなく、ヒトの声に対する脳内処理の障害が示唆された。
著者
佐藤 正之
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.36-40, 2004 (Released:2011-07-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1