著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.129, pp.177-194, 2014-01

『風流今平家』(元禄十六年三月刊)は、西沢一風の浮世草子で唯一副題簽をもつ。副題簽は当該巻の大意を内容とし、書式は「此巻は……のせたり(しるせり・うつせり)」で統一されている。この『風流今平家』の副題簽は、どこから着想を得たものであろうか。一風以前の浮世草子で副題簽をもつ作品といえば、西鶴『好色一代女』(貞享三年六月刊)が周知のところ。だが、『風流今平家』の副題簽と『好色一代女』のそれとは、明らかに書式が異なり、『好色一代女』にならったものとはいいがたい。本論文では、『風流今平家』の副題簽は、枕本型軍記の目録形式、とりわけ目録に備わる大意を模していると考えた。そこで、まず枕本型軍記の流行と特色について整理し、ついで浮世草子に及ぼした影響について述べる。
著者
福圓 容子
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.112, pp.253-285, 2007

本論では、William ShakespeareのKing Learにおける父娘関係をテクストから詳細に検討することにより、リアの秘められた欲望を前景化する。そこには娘に母親の役割を求める不自然に逆転した親子関係が認められるが、この欲望を追求することは既存の父権制秩序にとって大きな転覆要因となる。なぜなら父権社会とは父親が娘を他の男性に譲り渡すことで築かれる男性同士の絆を基盤とするからである。リアが求めているものは、自らの欲望と秩序維持を同時に追求することなのである。劇の冒頭で姉娘達がリアに追従するのに対し、末娘はリアの矛盾を突いて彼の要求に応じることを拒み勘当される。姉娘達に冷遇され裏切られたリアが行き着くのは女性全般、さらには大自然の生命を生み出す力そのものに対する烈しい嫌悪である。混乱した秩序を回復しリアの女性嫌悪を癒す役割を担うのは末娘だが、その志が遂げられることはなく、結局リアがその過ちを悟るのは彼女を失うことによってである。
著者
橋本 和孝
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.129-134, 2009-03

ハノイ(河内)のチュクバック湖(竹百湖)の近くに神光寺(●●●)という仏教寺院がある。その門柱に「国家有永山河固」という漢越語が書いてあった。小稿は、この漢越語の歴史的背景を検討する。神光寺はチュクバック湖の近くにあることから、チュクバック湖について概説し、神光寺が、18世紀初頭、鄭氏時代に建立されたことを指摘する。そこは五社寺院とも呼ばれ、五社通りに立地しており、近隣の5つの村からやってきた鋳物師達が住んでいた。かくして神光寺は、銅職人達の守護聖人を奉る。鄭氏時代は、北部の鄭氏と南部の阮氏という二つの国家に分裂した時代と見なされ、両者の抗争が頻発した。国家は無力化し、水利施設の建設・補修などの事業は行われなくなり、飢饉に見舞われた反面、鄭氏の諸候達は、遊興三昧で、寺や豪邸を建築した。ここから小稿では、神光寺の建立と維持に銅職人達が関わったと見なす観点と鄭氏の諸候達が建立したとする二つの観点を提示した。
著者
平坂 文男 ヒラサカ フミオ Hirasaka Fumio
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.127, pp.99-106, 2013-03

本論文は、平坂・御園(2003)で作成し、その後、本学の web サーバー上で公開している英語音声学のための音声教材を全面的に改訂し、それまで Internet Explorer のみにしか対応していなかったものを、2014年に最終勧告が予定されている HTML5.0を用いることで、複数の web ブラウザに対応させ、近年普及が著しいタブレット端末などで利用できるようにしたものである。
著者
大内 憲昭
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.109, pp.1-55, 2006

本稿は、2004年朝鮮民主主義人民共和国刑法の概説および条文の翻訳である。社会主義朝鮮の刑法は、1950年に初めて制定されている。刑法、刑事訴訟法という刑事法関係は民事法に比べて建国初期には整備されている。刑法は、その後大きくは3度、全面改正されており、最新の改正法が2004年刑法である。2004年刑法は、1990年代から現在までの朝鮮国内外の政治、経済、文化状況を反映している。また従来の刑法とは異なり、近代刑法の基本原則である「罪刑法定主義」が規定されることにより、「類推解釈」等の50年刑法以来の朝鮮刑法を特徴付ける規定が削除されている。また厳罰化傾向も現れている。本稿では、2004年刑法の特質を従来の刑法との比較において考察するとともに、2004年刑法の構造自体の特質も検討している。
著者
多ケ谷有子 タガヤ ユウコ Tagaya Yuko
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.123, pp.105-139, 2011-12

イングランド最古の叙事詩Beowulfと渡辺綱伝説のモチーフの類似については、島津久基の『羅生門の鬼』で詳細に論じられて以来、衆目を集め、両者の比較検討も行われるところとなった。本稿は、Beowulfと日本の古典文学における類似するモチーフの比較というテーマの一環として、『古事記』における「国譲り譚」と『出雲国風土記』の「安木郷猪麻呂説話」を取りあげ、類似するモチーフの比較検討を行った。前者については、新来の神/英雄が在来の神/怪物と素手で闘い、相手の手/腕を害し、その結果在来の神/怪物は湖に逃走し、新来の神/英雄に追われて完敗し、国譲りが完成する/斃される、という類似がみられる。後者については、娘/息子を害された父/母が復讐し、斃した相手から片脛/片腕を奪い返し、相手の死骸を曝す、という類似が見られる。本稿では、この類似についての考察を行い、加えて、話型の比較考察をすることの意味を見出し、今後の研究につなげる展望を模索した。
著者
岩佐 壮四郎 イワサ ソウシロウ Iwasa Soshiro
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.123, pp.259-282, 2011-12

本稿では、これまで「GBSの影」(本学『紀要』一〇五号、二〇〇五)「変容する笑い--益田太郎冠者と曾我廼家五郎」(本学『人文科学研究所報』二九号、二〇〇六)「冷笑のシーズン」(『KGU比較文化論集』二号、二〇一〇)「五九郎というキャラ」(「悲劇喜劇」二〇〇九・六)などの諸論で展開してきた、一九一〇年代を一つの画期とする近代日本における〈笑い〉の表象の変容についての考察を、主として三代目蝶花楼馬楽(一八六四-一九一四)の落語と、それに敏感に反応した志賀直哉との関係を俎上にしながら試みた。もともとは上方落語の演目の一つであった「長屋の花見」を「隅田の花見」として東京風に改作して注目され、独特の諧謔で喝采を浴びながらも精神疾患のために再度にわたって入院し、大正初めに逝った馬楽の面影については、吉井勇の戯曲「俳諧亭句楽の死」(一九一七)などによって知られているが、興津要氏等により、「ブラック」で「ナンセンス」とされるその語りの味わいを、残された口述速記に拠って検討、「濁つた頭」(一九一一)「正義派」(一九一一)のような作品に読み取ることのできるアモルフな情動とどのようにスパークしていったかを視界に収めながら、一九一〇年代における〈笑い〉の質の変容の様相に光をあてることが本稿の基本的課題である。
著者
多ヶ谷 有子
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.115, pp.51-78, 2008

本稿では英国最古の叙事詩『ベーオウルフ』に登場する寵臣アッシュヘレと、『太平記』巻第三十二が描く渡邊綱の話における話型の類似性を検証する。アッシュヘレは妖怪グレンデルの母女怪に連れ去られ、殺害される。綱との類似性が従来注目されなかったのは、該当部分の忍足欣四郎氏による英訳『太平記』をはじめ、一般に知られているのは流布本(岩波体系本)であり、綱の運命が曖昧だったからと思われる。本稿では永和本や玄玖本など、綱が鬼に運び去られると記す古態『太平記』諸本をも参照し、両者の類似性を明示する。あわせて『太平記』諸本、さらにお伽草子、絵巻における綱伝説の記述に見られる変遷を略述する。