- 著者
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氷見山 幸夫
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.124-134, 1984-10-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 11
任意の事象の分布に対して格子系(grid system)を測定や表現の基準として用いる場合,可変単位の問題 (modifiable unit problem) として知られる一群の問題に遭遇する。これらは格子単位 (unit cell) の大きさや形に関するものと,格子系をかぶせる際の位置に関するものに大別されるが,このうち後者に対する取り組みはこれまで遅れていた。空間単位としての格子系の利用が一般化している今日,これを単に経験的判断により処理するのではなく,統計学的に検討することが急がれている。そこで,格子系の位置に関わる諸々の問題を「格子変位の問題」 (problem of the shifted grid) と呼ぶことにし,体系的解明をはかってゆきたい。今回はその一つとして,格子図 (grid map) のパターンに内在する不確定性の問題を取り上げる。 ある単一の事象の分布を,2種の格子単位からなる格子図で表現する場合を想定する。ここで,事象の見出される格子単位を正の格子単位,残りを負の格子単位とする。この正の格子単位の分布のパターンが,格子系の置き方によって変化する度合いをそのパターンの不確定性の指標とし,簡単な事例について検討する。 いま格子図上に,縦方向に勉個,横方向にn個の,正の格子単位m×n個からなる箱型コロニー・があるとする。このパターンが格子系を横方向に半格子長ずらすときに変化しない確率をP (m, n, p) とする。ただし,ここでpは,考えている格子系のそれぞれの格子単位を横に2等分した半格子単位のうち,正のものの比率(密北海道教育大学地理学教室度)である。このように,半格子変位の場合,変位後のパターンを決定するには,格子単位のレベルよりも詳細な,半格子単位のレベルでの正,負の情報が必要である。そこで正の半格子単位の分布として,ランダム分布を想定すると, P (m, n, p) は次のように表わされることが明らかとなった。 P (m, n, p)=2(1-p)m+2{(1-p)/(2-p)nfn}m=2(1-p)2m+2/(2-p)mn(fn)m ここでf1=1, f2=1, f3==1+p-p2, f4=1+3p-4p2+p3, f5=1+6p-9p2+3p3, ……である。しかしfnの一般形の導出には至らなかった。 上の式の意味するところを明らかにするため,まず最も単純なm=1, n=1の場合を考えてみると, P (m=1, n=1, p)=2(1-p)4/(2-p)である。すなわち,周囲を負の格子単位で囲まれた1個の孤立した正の格子単位が存在するとき,そのパターンが格子系の半格子変位により変化しない確率は2(1-p)4/(2-p)である。これはp→Oの極限で1であるが, p=0.5で0.083, p→1の極限で0というように, 0<p<1で単調かつ急速に減少する。つまりこの最も単純なパターンの場合, pが非常に小さいならば,そのパターンの不確定性は0%近くまで下がるものの,通常はかなり高いことがわかる。同様にして,m,nが増大すればP (m, n, p) は急速に小さくなること,そして一般にpが大きくなれば, P (m, n, p) が小さくなることが,はじめの式から導かれる。 以上のことから,格子単位の大きさの程度のパターンの不確定性が問題となるような場合には,格子図の使用は不適当であると結論される。なおここでは正の半格子単位の分布をランダムと仮定したが,種々のタイプの分布について同様の考察を行なうならば,分布の状況に対応して格子系の選択をすることに関して,より正確な判断をすることができるよう.になることが期待される。