著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.719-729, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
31

小児期のマルトリートメント(不適切な養育)経験は高頻度に精神疾患の発症を招き, 脳の器質的・機能的な変化を伴うことがわかってきた。たとえば, 暴言虐待による聴覚野容積の拡大や両親のDV目撃による視覚野容積の縮小をもたらし, うつ病や PTSD, 認知機能の低下を引き起こす。他の被虐待経験によるヒトの脳に与える影響も明らかになってきた。単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが, より多くのタイプの虐待を一度に受けるともっと古い皮質である大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす。さらに反応性アタッチメント障害を持つ青少年たちには線条体におけるドパミン機能異常が明らかになってきた。不適切な養育体験と子どもの依存リスクが脳科学的にも密接に関連している可能性が示唆される。
著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-7, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
23

近年,児童虐待と「傷つく脳」との関連が脳画像研究からわかってきた.例えば,暴言虐待による「聴覚野の肥大」,性的虐待や両親のDV目撃による「視覚野の萎縮」,厳格な体罰による「前頭前野の萎縮」などである.虐待を受けて育ち,養育者との間に愛着がうまく形成できなかった愛着障害の子どもは,報酬の感受性にかかわる脳の「腹側線条体」の働きが弱いことも突き止められた.こうした脳の傷は「後遺症」となり,将来にわたって子どもに影響を与える.トラウマ体験からくるPTSD,記憶が欠落する解離など,その影響は計り知れない.しかし,子どもの脳は発達途上であり,可塑性という柔らかさをもっている.そのためには,専門家によるトラウマ治療や愛着の再形成を,慎重に時間をかけて行っていく必要がある.一連のエビデンスについて社会全体の理解が深まることで,大人が責任をもって子どもと接することができ,子どもたちの未来に光を当てる社会を築くことに少しでもつながればと願っている.
著者
友田 明美
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-39, 2017 (Released:2020-12-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年,欧米では,チャイルド・マルトリートメント,日本語で「不適切な養育」という考え方が一般化してきた.身体的虐待,性的虐待だけではなく,ネグレクト,心理的虐待を包括した呼称であり,大人の子どもに対する不適切な関わりを意味したより広い観念である.この考え方では,加害の意図の有無は関係なく,子どもにとって有害かどうかだけで判断される.また,明らかに心身に問題が生じていなくても,つまり目立った外傷が無くても,行為自体が不適切であればマルトリートメントと考えられる.こうしたマルトリートメントにより命を落とす子どもがいるという痛ましい事実を,多くの人が知っているだろう.しかし何とか虐待環境を生き延びた子どもたちであっても,他者と愛着を形成するうえで大きな障害を負い,身体的および精神的発達に様々な問題を抱えている. 我々は日々の臨床の中で,不適切な養育経験に起因する愛着障害がその他の小児精神疾患と複雑に絡み合うことを知っている.さらに一見,複雑な様相を呈する愛着障害が皮質下構造の一部である報酬系の破綻によって引き起こされていること,加えてその破綻には感受性期があることを著者らは突き止めた.ヒトの発達段階における,環境要因に依存して形成される回路形成およびその障害は未解明であり,その病態メカニズムを明らかにし,生物学的エビデンスを有する新規診断法や治療法を見出すことは,精神医療費の削減に繋がる可能性がある.
著者
友田 明美
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-18, 2017 (Released:2018-10-31)

近年の脳科学研究の進展により,ヒトの脳の成熟のプロセスが緩徐に進行することがわかってきた. 例えば,前頭前皮質の成熟は20代後半まで進行する.一方で,感情と報酬感を制御している大脳辺縁 系の発達は,まだ前頭前皮質が未熟な10歳頃に始まる思春期にホルモン量が増えて成熟が促される. ヒトの脳は胎児期,乳幼児期,思春期に爆発的に成長するが,その時期は脆弱な時期でもある.とく に10代の若者では感情を司る大脳辺縁系と衝動的行動を抑制する前頭前皮質の成熟がミスマッチして いるからだ.すなわち,この不均衡のために前頭前皮質が未熟な10代の少年たちは危険な行動に走り がちだが,一方で環境が適切に整えられれば,それに素早く適応することも十分に可能な「脳の可塑 性(脳領域間のネットワークを変更することによって環境に応じて変化できる)」も考慮できる.現代 では,思春期の開始年齢は世界的に早まる傾向にあることが知られており,世界的に長くなってきて いる不均衡期間にある少年の脳を理解することは脳の可塑性の視点からも重要で,今後の脳科学研究 の大きな課題でもある.
著者
友田 明美
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.345-351, 2011-09-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

児童虐待は, 日本の少子化社会の中でも近年増加の一途をたどっている. 小児期に様々な虐待経験のある被虐待者脳MRI形態の検討により, 虐待や育児放棄による幼少期母子関係の破綻 (愛着形成の障害) が社会性の発達障害を引き起こすこと, さらにその障害が脳の構造機能の変容に起因することが示唆された. 「性的虐待」では, 最初に目に映った情報を処理する脳の視覚野で脳の容積が減ったり, 「暴言虐待」では, コミュニケーション能力に重要な役割を持つ聴覚野で大脳白質髄鞘化が異常をきたしたりすることが明らかになった. 被虐待児に認められる "社会性発達障害" という観点から, こころに負った傷は容易には癒やされないことが予想される. 被虐待児たちの精神発達を慎重に見守ることの重要性を強調したい. しかしながら, 被虐待児たちの脳変成も多様な治療で改善される可能性があると考えられる.
著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.345-351, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
22

児童虐待は, 日本の少子化社会の中でも近年増加の一途をたどっている. 小児期に様々な虐待経験のある被虐待者脳MRI形態の検討により, 虐待や育児放棄による幼少期母子関係の破綻 (愛着形成の障害) が社会性の発達障害を引き起こすこと, さらにその障害が脳の構造機能の変容に起因することが示唆された. 「性的虐待」では, 最初に目に映った情報を処理する脳の視覚野で脳の容積が減ったり, 「暴言虐待」では, コミュニケーション能力に重要な役割を持つ聴覚野で大脳白質髄鞘化が異常をきたしたりすることが明らかになった. 被虐待児に認められる “社会性発達障害” という観点から, こころに負った傷は容易には癒やされないことが予想される. 被虐待児たちの精神発達を慎重に見守ることの重要性を強調したい. しかしながら, 被虐待児たちの脳変成も多様な治療で改善される可能性があると考えられる.
著者
友田 明美
出版者
特定非営利活動法人和歌山子どもの虐待防止協会
雑誌
ビッグ愛りいぶる会議室A
巻号頁・発行日
pp.1-9, 2011-06-19

私は1987小児発達学講座に入局し、すぐに鹿児島市立病院に研修医として赴任しました。救命救急センターで働いていたある晩、3歳の男の子が瀕死の状態で運ばれてきました。親からの虐待を受けて脳内出血を起こしており、身体には火傷の痕がたくさんありました。3日間集中治療室で不眠不休で頑張ったのですが亡くなってしまいました。今でもあの子が助かってくれていたら、と思います。その子との出会いは非常にインパクトの強いものでした。その後、熊本市民病院の新生児医療センター、北九州市立総合療育センターを経て熊本大学に戻り小児神経学を勉強してきましたが、2003年に思い切って二人の子どもを連れてボストンのハーバード大学に留学し、子ども虐待ストレスが脳へおよぼす影響を研究しました。研究はその数年間では終わらず、ライフワークになりました。 虐待は死に至らなくても深刻な影響、後遺症を子どもに残します。脳に変化が起きてしまうという点からも、やはり虐待を防止しなければなりません。
著者
友田 明美
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.136, no.5, pp.711-714, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
13
被引用文献数
9 8

Childhood maltreatment, which markedly increases risks for psychopathology, is associated with structural and functional brain differences. Especially, exposure to parental verbal abuse (PVA) or interparental violence during childhood is associated with negative outcomes such as depression, posttraumatic stress disorder (PTSD), and reduced cognitive abilities. Other forms of childhood maltreatment have been associated with brain structure or developmental alteration. Our earlier studies elucidated potential discernible effects of PVA and witnessing domestic violence during childhood on brain morphology, including gray matter volume or cortical thickness. Brain regions that process and convey the adverse sensory input of the abuse might be modified specifically by such experiences, particularly in subjects exposed to a single type of maltreatment. Exposure to multiple types of maltreatment is more commonly associated with morphological alterations in the corticolimbic regions. These findings fit with preclinical studies showing that sensory cortices are highly plastic structures. Using tasks with high and low monetary rewards while subjects underwent functional MRI, we also examined whether neural activity during reward processing was altered, or not, in children and adolescents with reactive attachment disorder (RAD). Significantly reduced activity in the caudate and nucleus accumbens was observed during a high monetary reward condition in the RAD group compared to the typically developed group. The striatal neural reward activity in the RAD group was also markedly decreased. The present results suggest that dopaminergic dysfunction occurred in the striatum in children and adolescents with RAD, potentially leading to a future risk of psychiatric disorders such as dependence.
著者
友田 明美
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.181-185, 2014 (Released:2017-02-16)
参考文献数
15

注意欠陥 / 多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)は,年齢あるいは発達に不釣り合いな不注意,多動性 / 衝動性を特徴とする神経行動障害で,社会的な活動や学校生活への適応に困難をきたす。特に学童では 3 ~ 5%と非常に高い疾病率であり,早期の診断,適正な治療,および教育や医療面での専門的な支援が課題となっている。近年のいくつかの研究から,ADHD にはさまざまな疾患,例えば双極性障害(BPD),躁病などが併存することが指摘されている。しかし,児童青年精神科領域では,併存疾患の診断や,その病態把握,治療法のための客観的なエビデンスがまだ少ない。そのような中で,ドイツ,韓国,そして日本の研究者らが発表を行った。
著者
友田 明美 藤澤 隆史 島田 浩二 小坂 浩隆
出版者
福井大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

自閉スペクトラム症(ASD)の発症リスク因子である環境ストレスとしてのミクログリア活性化分子ネットワークに着目し、ASDのバイオマーカー候補としてmiRNA(micro-RNA)解析を行った。福井県A町で出生した子の発達に関する前向きコホート調査参加者の母子に対し、視線計測検出装置による社会性の評価を行った。その結果、母のメンタルヘルスは乳児期における子の社会性発達へ影響することが示唆された。また、月齢により異なる側面の社会性が発達するが、その発達の程度はOXTR遺伝子多型によって異なる可能性が示唆された。本成果は、ASDの病態解明を目指した臨床応用への足掛かりになりうる。