著者
三島 亜紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.141-152, 2018-07-20

イギリス・ケンブリッジ大学の障害資源センター(Disability Resource Centre :DRC)主催の教職員・学生を対象にした研修に参加する機会に恵まれた.同大学における全学生に占める障害学生の割合は9%(イギリス全体では8.6%),発達障害の学生の割合は4.69%であり,日本の大学で支援を受けている障害学生の割合を大きく上回っている.全障害学生のうち過半数が発達障害のある学生である点に注目しつつ,本稿では同センターにおける障害学生支援の概要およびそこで得た知見を紹介する.今後日本の大学で障害学生支援を行っていく際には,支援する学生数の目安をつけるために数値を意識すること,小規模大学であっても障害学生支援が行いやすい環境づくりの推進,差別意識の撤廃や障害学生支援に対する正しい理解を促すことの重要性を指摘した.
著者
野口 友紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.14-23, 2003-11-30 (Released:2018-07-20)

社会事業成立期に防貧事業が多くなされるようになる・これは主として経済保護事業のことを指しており,その対象となるのは従来の研究では低所得者といわれている.しかし,防貧概念が導入された当初は,防貧の対象者は「所得」ではなく「労働能力」でとらえられていた.さらに社会事業成立期には「低所得」という見方だけでなく,「生活」という視点でも把握されていた.その背景には時間の経過によって救済行政当局者が貧困という問題をどのように理解し,そのような問題のうちどの範囲を救済行政の対象としていくのかということを把握する視点の変化がある.防貧という考え方は所得だけでなく,多様なとらえ方があり,救済行政に防貧という枠でこれまでの救貧以外の新たな対象を取り入れる際に,防貧は変容しながらその形を整えていったといえる.
著者
村社 卓
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.32-45, 2018-02-28 (Released:2018-06-22)
参考文献数
29

本稿の研究目的は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアの継続特性について,実証的,構造的に明らかにすることである.特に,ボランティアの「楽しさ」に焦点を当てている.研究方法は定性的研究法である.データ収集は3年以上にわたる参与観察とインタビューにより行った.データ分析には定性的コーディングを用いた.分析の結果,ボランティアの継続は推進と維持の2機能によって可能となり,両者は相補的な関係にあった.継続の推進は「双方向の体験によって生じる活動への没頭と意欲的な試み」,継続の維持は「無理のない姿勢によって生じる活動での気楽さと自己管理による改善」と定義できた.推進と維持の内容は,「要因」「感情」「行動」の視点からそれぞれ明らかにした.さらに,「フロー理論」との比較検討による継続特性も提示した.本研究の成果は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアへの支援内容の提示および研修プログラム作成に貢献するものである.
著者
佐草 智久
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-12, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
29

本稿の目的は,家庭奉仕員制度と家政婦の対象領域の変化から日本のホームヘルプの歴史を再検討することである.国際ホームヘルプ協会の国際的定義によれば本来ホームヘルプは供給主体・対象に限定はなく,家庭奉仕員制度も家政婦も共にホームヘルプの構成要素の一つである.しかし先行研究が論じているホームヘルプは家庭奉仕員制度に限定されてきた.そこで本稿は,同協会の定義に準拠し両者の対象領域の変化に着目して,戦後から2000年までの日本のホームヘルプの歴史を検討した.その結果,日本のホームヘルプは,①1960年代初頭までは両者の対象領域は不明確であったが,②1960年代中頃より家庭奉仕員制度の法制度整備によって名実ともに分化し,③1970年代中頃以降になると高齢化社会などの社会背景の変化に伴い家政婦が在宅高齢者へ対象領域を拡大させたことに端を発し,各々が次第に再接近・同化するという3点の時代区分が存在することが明らかになった.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2015-08-31 (Released:2018-07-20)

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.
著者
田中 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.82-94, 2009-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,<重度知的障害者>を包摂する連帯規範の理論的探究に向かうため,(1)福祉国家の理論的基礎を支えてきたリベラリズムの規範理論において,<重度知的障害者>がなぜ,どのように,その理論的射程から放逐されてきたのかを,リベラリズムにおける市民概念の検討を通して考察し,(2)連帯規範の再検討における<重度知的障害者>という視座の意義について検討を加え,(3)<重度知的障害者>という視座における連帯規範の再検討によって,どのような理論的課題が浮上するのか,を検討した.リベラリズムがその理論的射程から放逐してきた<重度知的障害者>を連帯規範の再検討のための視座におくことには,それがリベラリズムの規範理論の限界点と課題を照射しつつ,連帯規範をめぐる新たな公共的討議の可能性を開示する,等の意義を見いだすことができる.また,この<重度知的障害者>という視座による連帯規範の問い直しの作業は,リベラリズムの市民資格の限定解除を求めつつ,現代の政治哲学における「ケアと正義」の接合,併存をめぐる理論的課題に逢着することになるだろう.
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
石島 健太郎 伊藤 史人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.82-93, 2016

本研究は,意思伝達装置を用いるALS患者204人を対象に,複雑な条件組み合わせと結果の関連を明らかにすることができるファジィセット質的比較分析(fsQCA)を用いて,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が意思伝達装置を用いる際,どのような条件がそろえば満足度が高まるのかを明らかにするとともに,社会福祉学でのfsQCAの有効性を示すことを目的とする.分析の結果,重度障害者でも意思伝達装置を満足度の高い利用方法が複数示唆され,かつ年齢や同居する家族の有無に応じて支援すべき方向性も異なってくることが明らかとなった.こうした知見は,ケースワークにおける個別性の原則を経験的に確かめるものであるとともに,実践的には支援者が患者の属性を踏まえた意志伝達装置の利用促進に示唆を与えるものである.また,無作為抽出が困難で,さまざまな条件が複雑に関連した事例の多い社会福祉学でfsQCAを用いる意義も示された.
著者
山下 幸子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.227-236, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
3

本稿では,質的調査をとおして,重度心身障害者の介助者がどのような過程を経てコミュニケーションをはかるのか,そしてコミュニケーションの様相が介助への姿勢にどのような影響を与えるのかということを考察した。調査では非構造化面接法を採用し,10名の介助者にインタビューを行った。分析の視点は,(1)初めての介助時に感じた思い,(2)現在の介助から感じる思い,(3)障害者観の変化や障害者と介助者との関係の変化の3点である。調査結果ではコミュニケーションの様相を明らかにし,障害者の意思について介助者の解釈が広がっていくと,介助者は両者の関係性や障害をその人固有のものとみなしていくことを明らかにした。また解釈についての不安,わかりあえないことの辛さの継続により,介助者は障害を絶対化してしまいうることも明らかにし,その辛さを継続化させないための試みとしてセルフヘルプグループの可能性を示唆した。
著者
深谷 裕
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.36-48, 2014-05-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

本研究の目的は,シンボリック相互作用論における役割アイデンティティを鍵に,犯罪を契機として,加害者家族の生活全般における自己や状況に対するコントロール感がいかに変容するのかを明らかにすることである.本研究を通して,加害者家族の多様な経験を捉える視座として,役割アイデンティティ概念がもつ可能性を提示した.具体的な方法として,まず,二つの事例について,対象者が自らのライフストーリーを語る際に採用している役割アイデンティティに注目した.次に,各役割アイデンティティにおけるコントロール感の変化を考察した.さらに,コントロール感の変化を左右する心理的および社会的要因を検討した.情報の非対称性を背景に,対象者が使い分けるどの役割アイデンティティにおいても,事件発覚後のコントロール感は弱まる傾向にあった.しかし対象者は困難な経験をしながらも,他者との相互行為を通して,お互いに理解を深めたり生活の質を上げていた.
著者
伊藤 新一郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.71-84, 2022-11-30 (Released:2023-03-01)
参考文献数
20
著者
鄭 煕聖
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.56-69, 2018-05-31 (Released:2018-06-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究の目的は,高齢者がなぜセルフ・ネグレクト状態に陥ったか,その発生要因とプロセスを明らかにすることである.そのため,セルフ・ネグレクトの状態にある65歳以上の在宅独居高齢者9名を対象に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによるデータ分析を行った.その結果,セルフ・ネグレクトの発生要因として20カテゴリーが抽出され,それらを次の四つの上位カテゴリーにまとめることができた.また,セルフ・ネグレクトは,【素因(個人的特性)】+【危機的ライフイベント】⇒{【社会・環境要因】⇔【無気力・生活機能低下】}という一連のプロセスのなかで生じることが明らかになった.考察では,セルフ・ネグレクトとは,個人の意図性に関係なく,誰にでも起こりうる出来事であり,今後の課題として予防的視点を重視した多機関多職種の協働と連携とともに,社会的包摂志向のアプローチの必要性が示唆された.
著者
戸石 輝 大西 次郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.46-60, 2023-05-31 (Released:2023-07-06)
参考文献数
20

本研究の目的は,管理職のMSWが日常的に行う管理・マネジメントプロセスを明確化することと,そうした管理・マネジメントのなかで管理職のMSWが抱える困難や,管理職としてのMSWの独自性を明らかにすることである.特定の公的団体が運営する病院に勤務する,部下を持つ課長職であるMSW10名に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した.その結果,管理職としての権限の発生を起点に,【MSWの組織の維持】に向かってスキルや資源を活用し困難を乗り越えようとする円環構造のプロセスが明らかになった.さらに,管理・マネジメントにおける困難を乗り越えるために部下や院内の管理職・元上司,院外に相談する工夫が認められた.これらは管理職のMSWにおける職責や役割の曖昧さを転用した独自の取り組みの可能性がある.一方で,管理・マネジメントの学習機会や資料の提供不足といった課題も示された.