著者
間嶋 健
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.1-14, 2016-11-30 (Released:2019-02-15)
参考文献数
28
被引用文献数
7

質的研究は事象の多様性を捉えられることからソーシャルワーク領域に用いやすいが,記述が主観的であるということや,一般性を欠くという点から科学的な研究とはみなさないという見方もある.したがって,ソーシャルワークの科学的実践を広く実施していくためには,質的研究の科学性を検討する必要がある.本研究では,近年医療・福祉領域において浸透しつつある認識論である構造構成主義に基づき,その一連の著作から質的研究の科学性確保への理路について,主客問題,科学の定義を中心に整理した.そして,その理路の視点からKJ法,M-GTAを検討し科学性を得るための手法上の修正を施した.その具体的方策として,M-GTAの分析ワークシートを,構造化に至る思考の軌跡の開示を図るためにカスタマイズし,統計学的には一般化しえない少数事例において一般性を付与しうる記述方法を検討した.さらに,質的研究による知見を用いた実践の可能性をSW実践の一例を通じ示した.
著者
藤江 慎二 松永 千惠子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.91-102, 2021-08-31 (Released:2021-10-29)
参考文献数
19

本研究では,障害者支援施設で発生した施設内虐待の要因を明らかにし,虐待予防について考察することを目的とした.方法としては,施設内虐待の事件の裁判調書を法律に基づき入手し,事件を詳細に把握・分析した.その結果,施設内虐待の事件には,①施設の人材育成の問題が虐待行為と関連していること,②職員間コミュニケーションの不足が虐待行為の慢性化に影響していたこと,③施設・法人の虐待問題を隠蔽しようとする考え方は職員間に広がり,職員の退職にも影響を及ぼしていたことが明らかになった.施設内虐待は構造的な問題であり,職員間コミュニケーションの改善や虐待予防のシステム構築をしていくことが今後の課題であることを指摘した.
著者
空閑 浩人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.44-54, 2001-08-31 (Released:2018-07-20)

今日,社会福祉施設における利用者への虐待の問題が表面化・深刻化している。本稿では,その要因の1つとして施設内における職員組織や集団のあり方に着目する。まず,施設における援助者は職員組織や集団の一員として働くことになるが,そのことにより周囲からのさまざまな影響(状況の圧力)が,結果的に援助者を専門職倫理に反する行為に至らしめるといった社会心理的な要因を「服従」「同調」「内面化」という現象を通じて明らかにする。次に,そのような状況の圧力に屈してしまう援助者の「弱さ」に着目して,その克服に向けての考察を行う。援助者には,いかなる状況であっても,専門職倫理や価値に基づき,利用者の人権と生活を護るという職業的責任を果たす「強さ」が求められる。そのような「強さ」は自らの「弱さ」を認め,それに向き合うことによってこそ得られると考える。
著者
滝島 真優
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.44-57, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
30

本研究は,きょうだい児に対する教員の認識を明らかにし,学校教育における組織的なきょうだい児支援のあり方について検討することを目的とした.教員を対象とした質問紙調査を実施し,320通の回答を有効とした.その結果,きょうだい児の多くが慢性疾患や障害のある兄弟姉妹や親に対する感情面のサポートを担っており,学校生活への直接的な影響は現れにくいことが考えられた.また,支援を必要としたきょうだい児への対応のほとんどが教員による課題解決型の対応となっていたことが示された.きょうだい児に対しては,課題背景を理解して対応する必要があることから,現状の対応では不十分であることが課題となっていた.以上の点から,学校が予防的観点できょうだい児の生活状況を把握する役割を担い,教員と学校専門職が専門性を発揮し,連携を図りながら,きょうだい児に対して必要な支援が行き届くシステムを整備する必要性について言及した.
著者
米倉 裕希子 山口 創生
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.26-36, 2016-02-29 (Released:2018-07-20)

本研究は,知的障害者のスティグマの特徴および今後の研究動向を明らかにするため,海外の研究をレビューした.PubMedで,「intellectual disability」および「stigma」をキーワードとし,2014年12月までの研究で検索された82研究のうち,関連のない研究を省いた25研究をレビューした.対象研究には,尺度研究,横断研究,介入研究が含まれており,横断研究の対象は知的障害者本人,家族,学生や市民だった.知的障害者の大半がスティグマを経験し,自尊感情や社会的比較と関連していた.家族も周囲からの差別を経験しており,被差別の経験はQOLや抑うつに影響する可能性があった,一般市民における大規模調査では短文事例と障害の認識がスティグマと関連し,介入研究では間接的な接触でも態度の改善に貢献できる可能性が示された.今後は,より効果的な介入プログラムの開発とその効果測定が望まれる.
著者
藤井 薫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-47, 2000-07-10 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

本研究は,1996年にA県において,知的障害者の家族を対象に行った社会調査によるものである。調査内容は,子どもの知的障害に関して,知的障害の告知と受容に関して,相談機関との関わり,相談機関を訪れる際に感じるスティグマ感について,知的障害をめぐる家族の社会観などについてであり,調査後相互の関連性について統計的に検討した。結果から,(1)知的障害の告知のあり方が知的障害者の家族のスティグマ化に大きく影響すること,(2)家族が子どもの知的障害を受容するには,家族の抱くスティグマ感を軽減すること,(3)障害の受容が出来ていないと,相談機関を訪ねる際にスティグマ感をもつ可能性が高い,といった問題点が明らかになった。以上の点から知的障害者の家族が抱くスティグマ感とスティグマ化の要因および障害受容との関係を分析し,スティグマ感を軽減し克服するための有効な社会的支援の方向性を論じた。
著者
岡田 忠克
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-32, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

ブレア政権の「第三の道」が指向する福祉国家は,サッチャー改革が残した遺産に取り組み,新たな福祉国家を創造しようとしている。ブレアの目指すものは,サッチャー政権が行った諸改革からの完全なる転換でもなく,また,労働党左派がいう社会主義でもない新たな福祉国家体制である。そこには過去との連続的側面と断絶的側面が存在している。サッチャーがいう福祉国家体制の「解体」ではなく,「変容」と「改革」を目指し,政府の役割を再考し,現代的諸問題の解消に向けて,市民の自立や経済の再生を目的とするものであった。本稿では,1980年代以降のイギリス福祉国家の変容についてサッチャリズムをとおして考察を行い,どのように1990年代のブレア政権の樹立に連動しているのか,また,「第三の道」がなにを目指し,どのような福祉国家像を措いているのかを明らかにする。本稿は,新世紀を迎え,ポスト福祉国家,ポスト市場主義を実践するイギリス福祉国家の変容を考察することによって,新たな福祉国家体制に関する議論に寄与することを目的としている。
著者
近藤 勉 鎌田 次郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.93-101, 2003-03-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
8

高齢者の精神生活に影響する生きがい感とは何なのか。またそれを測るスケールはどうあるべきか,驚くべきことに老年心理学はいまだにこれにこたえられていない。アメリカでつくられた他の概念を測るスケールを代用してきたのが現状である。そこでわが国の高齢者の生きがい感を調査し,その結果を基に生きがい感スケールを作成し,生きがい感を操作的に定義することを目的とした。まず162人の高齢者から生きがい感の範囲を定める概念調査を行い,仮の定義を作成した。さらにその仮の定義に基づいて項目を作成選定し,391人のセンター高齢者に対し本調査を行い,項目分析の結果,16項目によるスケールを作成した。そのスケールは信頼性と妥当性が高いスケールであることが分かった。このスケールの構造から高齢者の生きがい感を定義すると,なにごとにも目的をもって意欲的であり,人の役に立つ存在との自覚をもって生きていく張り合い意識である。また,なにか向上した,人に認めてもらっていると思えるときにも感じられる意識といえる。
著者
永野 咲 有村 大士
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.28-40, 2014-02-28 (Released:2018-07-20)

本研究では,社会的養護措置解除後の若者(以下,退所者)の生活実態とその困難さの数量的かつ正確な把握を目指し,4つの退所後実態調査の二次分析を行った.またこれらの調査の実態把握率の課題を克服するため,施設代表者に記入を依頼するアンケート調査を実施し一次データの収集・分析を行った.その結果,退所者は同年齢層(15〜24歳)の18〜19倍の生活保護受給率であり,司法や医療,福祉制度の介入を必要とする退所者も少なくないことが明らかとなった.この状況から,退所者はデプリベーションともいえる生活困難に陥っている可能性が示唆された.進学状況の格差,高い正規雇用率と高い生活保護受給率等相反する状況もみられ,困難が集積する層があると推測された.特に18歳未満での退所は住居・職業ともに不安定になる傾向が示唆された.社会的養護は退所後の生活実態を把握し,入・退所者のライフチャンス保障の方策を講じるべきである.
著者
松村 智史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-13, 2019-08-31 (Released:2020-01-29)
参考文献数
21
被引用文献数
6

本稿は,生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業の成立に関して,厚生労働省設置の検討会,社会保障審議会の部会の議論を分析した.まず,学習支援での学びは,単なる学力のみならず,将来の自立に資する生活力など,非認知能力を含む多元的能力と理解されるようになった.さらに,こうした能力を身につけるうえで,親の養育や家庭環境の改善の必要性が注目され,学習支援と世帯支援の一体化,学習支援から世帯支援につなげるという展開が形成されつつある.また,かかる展開をより実効的に行うために,支援の入り口としての子ども食堂など地域の取り組みや,継続的な進学・就学支援に欠かせない学校等,多様な機関との連携強化,情報共有が期待されている.今般成立した事業は,学習支援の変遷のなかで,学習支援と生活支援が結実した,総合的支援事業の意義を帯び,位置づけられるといえることが明らかになった.

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著者
平野 隆之 朴 兪美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.191-204, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
62
著者
牧田 俊樹
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.14-27, 2022-08-31 (Released:2022-10-13)
参考文献数
19

「障害とは何か」という問いがある.しかし,その問いに一義的に答えることはできない.これを前提とし,本稿は,障害者の苦悩・苦痛の軽減・除去等の目的に役立つという意味での「有用性」の観点から,障害定義が,個別の事例で,目的に合わせ,例えそれが矛盾したとしても,複数選択するという,「障害定義の戦略的・実践的使用」が可能なのではないかと考える.そこで,本稿の目的は,この「障害定義の戦略的・実践的使用」の可能性を,予想されるさまざまな批判に応答しながら,議論の俎上に載せることである.結果,「障害定義の戦略的・実践的使用」を,議論の俎上に載せるということを文字通り解釈するならば,本稿の目的は達成されたと考える.そのうえで,「障害定義の戦略的・実践的使用」は,障害に関する事例ごとに目的が異なる以上,その達成のためには,大きな利点を有することを示唆することができた.
著者
岡部 茜
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.70-84, 2022-08-31 (Released:2022-10-13)
参考文献数
24

2000年代以降,若者の「生きづらさ」への注目がなされ,代表的なものとしては就労支援や居場所づくり,アウトリーチなどいくつかの若者支援が行われてきた.若者の困窮状況の一つとして居住問題もまた指摘されてきたが,従来の若者支援のなかで,居住に焦点を当てる支援はわずかである.公的な支援もなく,一部の民間団体が支援をしている状況であるが,その実態は明らかになっていない.この調査報告は,全国でどのような若者への居住支援が行われているのかを明らかにすることを目指す.本調査は,若者への居住支援を行っている団体職員にインタビュー調査を実施しており,本報告は2021年3月までにインタビューを完了した団体の調査をもとに作成している.調査から,2010年以降多様な背景から若者への居住支援が開始されたことが明らかになった.また,利用者負担額の分布や居住場所の提供形態,職員の配置,入居した際の利用規則などが整理された.
著者
岩田 正美 平野 隆之
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-50, 1986-05-25 (Released:2018-07-20)

The number of the recipients of public assistance living in public housing has recently increased. There is a tendency to construct public housing in outskirts of big cities. Naturally, the recipients of public assistance concentrate in those areas. In this study we tried to investigate the background of this phenomena through analyzing 2014 case records of the recipients of public assistance in one particular city area. We have found out that the recipients of public assistance living in public housing have some characteristics which differ them from the recipients living in non-public housing. Their families are bigger, their housing situation has been secure for a comparatively long period of time, and they are "multi-problem families". If these families had not been provided with public housing, they wouldn't be able to live together ; the family structure would probably break down. Public assistance and public housing help consolidate the family, but don't solve their problems. Such families remain to be "multiproblem families" and conseqeuently they continue to receive public assistance for a very long time, sometimes through the next generation. We belive that concentration of such families in a certain city area creates "new slums".
著者
稲葉 美由紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.131-142, 2009-02-28 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

高齢者が身体の衰えからケアを受ける立場になることは,新たな「役割」を担うことになる.そのために新たな姿勢・知識・行動などの対処能力が必要になってくる.しかし,高齢者ケアに関する社会福祉分野での研究は,要介護側の視点に着目した研究は十分に行われていない現状にある.本研究では,介護高齢者がケアを受けることに対する思い,姿勢,言動,対処についてインタビュー調査を実施し「ケアを受ける側の役割」を明らかにするものである.調査対象者は,65歳以上で週8時間以上のケアを受けている高齢者15人と家族介護者5人へのインタビューを行い,質的データ分析を行った.今回の調査では,(1)ケアを受けることへの思い,(2)介護者への支援,(3)セルフケア,(4)FC-ICサービスの把握・利用,(5)ネットワーク構築,(6)社会参加,(7)老後生活の準備・計画の7つのカテゴリーが抽出された.今後の課題として,実践的な要介護者と介護者へのエンパワーメント志向のソーシャルワークモデルの構築を行うことが必要である.
著者
圓山 里子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.130-144, 1997-06-20 (Released:2018-07-20)

This paper deals with the care arrangement for people with disability, called"exclusive" care for their independent living. This was promoted through the public care assurance movement. First, it examines the resources that are needed for the care system from the point of financial and manpower arrangement and the way in which they are organized to provide "exclusive" care. Second, it discusses the development that has led to a more organized service structure. With these discussions, this paper suggests that this analytical framework can be utilized for studies of service organization based in the community.
著者
石井 洗二
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1-11, 2014-11-30 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

本稿は,19世紀の日本において慈善事業という語が用いられた社会的な文脈と,1950年代から慈善事業が歴史記述のための概念として用いられるようになった経緯を考察する.19世紀末に慈善の語はいくつかの文脈で用いられていた.そのようななか,近代国家として慈善事業の整備を必要と考える立場から1908年中央慈善協会が設立される.これを機に福祉実践は慈善,慈善事業の語によって語られることが一般化した.しかしその十数年後には,慈善事業は社会事業の前史として否定的に語られるようになった.そのような来歴に見られる二つの含意を踏まえて,1950年頃に吉田久一は,日本における慈善には「封建的慈恵性」と「近代性」という二つの性格が背負わされた,という慈善の「二重性」論を提起し,そのうえで慈善事業を歴史研究の概念として位置づけた.それは戦前の社会事業研究を継承しつつ,風早八十二らの議論を踏まえることであった.また,社会事業を社会福祉の前段階として説明しようとする風潮に抗する意図もあったと考えられる.
著者
坪井 良史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.44-54, 2018-11-30 (Released:2019-04-10)
参考文献数
31

本研究の目的は,訪問介護における介護報酬が公定価格として妥当性をもつのかについて考察することである.介護報酬は,基本部分と加算部分で構成されるが,本研究では,サービス提供において不可欠となる人件費や諸経費が含まれる基本部分に着目する.施設や通所系サービスの介護報酬設定(基本部分)をみると要介護度別の設定となっているのに対し,訪問介護の介護報酬は(要介護度別ではなく)1回当たりの設定になっている.この考え方によれば,要介護度が高くなればそれに比例してより多くのサービス提供時間が提供され,それが要介護度に応じた報酬となるということである.これをふまえ,本研究では訪問介護において介護の必要の程度がサービスの「時間」にあらわれているかについて考察を行った.この結果,「身体介護」については介護の必要の程度がサービスの「時間」にあらわれている一方,「生活援助」についてはそのようになっていないことが明らかとなった.ここからは,現在の1回あたりを基準に設定されている訪問介護の介護報酬は,必ずしも利用者の要介護状態に応じた評価となっていないということができる.