著者
山東 愛美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.39-51, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
43

本研究は,変容や多様化が指摘されている日本のソーシャルアクションをめぐる現状を整理するとともに,その背景要因を理論面から明らかにする.まず先行研究からソーシャルアクションのプロセスに関する記述を抜粋して類型化を行った.その結果,署名,陳情,裁判等の行動を伴うダイレクトアクションと,交渉や調整等を特徴とするインダイレクトアクションの二つの類型があることを確認した.また,ソーシャルアクションの概念が日本に導入された当初はダイレクトアクションとして理解されていたが,近年は,インダイレクトアクションが主流となり,両者が併存していることが明らかとなった.その理論的な背景要因として,ソーシャルワークの統合化とエンパワメントについての日本的な捉え方がある.今後は,ソーシャルアクションの2類型をふまえたさらなる研究の蓄積や,ソーシャルワーカーの役割分担を念頭においた実践モデルの構築が求められる.
著者
寺田 千栄子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.67-79, 2019-02-28 (Released:2019-04-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本研究は,わが国のLGBTQの児童生徒の支援において,学校ソーシャルワークにおける有効な支援のあり方を検討することを目的とする.そのために,LGBTQ児童生徒の支援において重要な役割を担っていると考えられる養護教諭を対象としたアンケート調査を行い,わが国の学校教育現場の支援状況を分析した.その結果,学校教育現場にはスティグマをはじめとした子ども達を抑圧する構造が存在し,これらがパワーの減退につながっていることを示した.また学校教育現場の課題として,①早期支援が行われていない,②学校教育現場は当事者にとって相談しやすい環境にない,③養護教諭は学校全体への働きかけを積極的にできていないことを明らかとした.ソーシャルワークの専門的価値基盤である人権,社会正義,多様性の尊重の観点から学校ソーシャルワーク実践が必要であり,とりわけパワーの減退についてはエンパワメント理論の導入が有効であると考えられる.
著者
澁谷 智子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.70-81, 2014-02-28 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
3

一般に,子どもは保護されケアされる対象と考えられているが,家族の状況によっては子どもが大人並みのケア役割を果たすことがあり,こうした子どもたちはヤングケアラーと呼ばれている.本稿では,医療福祉専門職がヤングケアラーをどう認識しているか,こうした子どもがどれほどの頻度でみられるのかを知るために,東京都医療社会事業協会の全会員に質問紙調査を実施した.回答者402人のうち,35.3%は子どもが家族のケアをしていると感じた経験をもち,親の病気や入院,ひとり親家庭であることなどをヤングケアリングの理由として挙げた.全体的に,ケアを担う子どもに対する回答者の関心は高かった.しかし,そうした子への支援方法は確立しておらず,個々の医療福祉専門職が現場で試行錯誤していることも浮き彫りとなった.
著者
岩田 千亜紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.132-143, 2020-08-31 (Released:2020-10-03)
参考文献数
30

本稿の目的は,ソーシャルアクションの実践方法としてのプログラム評価の有用性および方法について考察することである.東京都渋谷区で行われた「渋谷スタディクーポン事業」へのプログラム評価の実践事例を取り上げ,ソーシャルアクションにおける展開方法としての,プログラム評価の有用性および方法について考察を行った.その結果,プログラム評価を通じた「プログラム理論の明示化」,「ニーズの明確化」,「プログラム効果の可視化」,「評価結果の提示・共有化」が,本事業の政策化というソーシャルアクションの実現に寄与したと考えられた.以上から,プログラム評価はソーシャルアクションの実践方法として,有用な実践方法である可能性が高いと考えられた.
著者
高橋 万由美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.39-57, 1999

It is often difficult for the people with disability or the frail elderly to go out freely. In Japan, Special Transport Service (STS), which situates between a mass public transport and using a private car, has not been well developed. Firstly, in this article, I examine the concept of "transport support service" and determine the scope of "welcome and send-off service" and "special transport service". Then I illustrate the recent development of STS by the Ministry of Health and Welfare and the Ministry of Transportation and assert the need for consideration of "Welfare Transportation Service" with the mutual understanding of both Ministries. Secondly, I present the outcome of my interviews to organisations that operate STS. The problems to be solved lie in 1) who to drive, 2) who to escort, 3) who to be users, 4) how to coordinate, 5) how to handle the traffic accidents, 6) how to be secure and 7) contrary to Transport Law. Finally, I assert that more should be done to realise the community that even the people with disability or the frail elderly go out freely and to realise the barrierfree community.
著者
伊藤 新一郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.73-85, 2021-11-30 (Released:2022-02-02)
参考文献数
27
著者
伊藤 富士江
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.23-32, 2005

近年注目を集めている修復的司法観に基づく実践形態のひとつに,「被害者と加害者の対話(Victim Offender Mediation)」がある.VOMは,犯罪被害者と加害者のニーズに対応し,人間関係の問題解決を図るという点でソーシャルワーク実践としての要素を強くもち,被害者の回復を助長する可能性を有している.北アメリカやヨーロッパでは多数のVOMプログラムが実践され,従来の犯罪者中心の刑事司法に影響を与えてきているが,わが国ではVOMについての認知や理解はまだ限られている.本稿は,実践の蓄積があるアメリカのVOMを取り上げ,その実際,現状と課題について明らかにし,さらにわが国におけるVOMの可能性について被害者支援の視点から論じている.

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著者
高山 恵理子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.221-230, 2020-11-30 (Released:2021-02-09)
参考文献数
60
著者
野口 啓示 高橋 順一 姜 民護 石田 賀奈子 千賀 則史 伊藤 嘉余子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.28-38, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
21

本研究の目的は,里親養育支援の実態を明らかにするとともに,その支援が里親養育支援に対する満足度にどのような影響を与えているのかについて分析することである.全国の里親家庭4,038カ所を対象に郵送法による質問紙調査を実施した.里親養育支援の実態を探索的因子分析した結果,「里子が委託される前の里親への養育支援状況」を構成する因子として「委託前支援」と「未委託里親への支援」の2因子が抽出,また,「里子が委託されてからの里親への養育支援状況」を構成する因子として「里子のニーズと里親の意向を尊重した里親子支援」,「里親研修」,「里親養育をささえるつながりづくりの支援」,「不調時の危機介入」,「レスパイト」の5因子が抽出された.また,得られた因子が里親の満足度にどのような影響を与えているのかを重回帰分析したところ,「里親養育をささえるつながりづくり支援」と「委託前支援」のみが貢献していた.
著者
夏堀 摂
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-33, 2003-07-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
5

本稿では,障害児の親がになわされてきた「親役割」を明らかにし,見直すための作業の端緒として,「親の障害受容」を1つの鍵概念とし,現代日本における「障害受容」論の2つの主要な流れである「共同療育者」論と「認識変容」論について検討した.前者は親が「共同療育者」としての役割を果たすために,後者は障害児の「代弁者」となるための「認識変容」として,「受容」を位置づけるものである.これらの検討を通じて,それぞれの研究のなかに埋め込まれた「望ましい」とされる親像が専門家や研究者によって描かれ,メッセージとして発信されてきたことが明らかになった.
著者
角森 輝美 山口 洋史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.46-56, 2012-11-30 (Released:2018-07-20)

本研究の目的は,次の2点を解明することにある.男性への視点を加味した,親性の力=親力が育つための支援赤ちゃんの泣きへの対処法の支援を行う基礎資料のために,対児感情と,赤ちゃん泣き声の認知が,妊娠前期,後期の父親と母親初産と経産で違いがあるかまた,赤ちゃんの泣きの生起原因を妊娠期の父親母親がどう推察しているかを明らかにすることである.その結果,初産母親のほうが経産母親より対児感情が葛藤状態にあり,赤ちゃん泣き声イメージでも回避的で葛藤状態が高かった.初産父親は対児感情の葛藤が母親より高く,経産父親は対児感情の葛藤と,泣き声イメージの葛藤が母親より高く,接近感情は母親より低かった.初産父親と母親は,経産に比べ,赤ちゃんが泣く理由として「抱っこしてほしいとき」とした人が少なかった.母親だけでなく父親へも,乳児との接触機会の提供や,赤ちゃんの泣きへの対処法の支援が必要と考える.
著者
石川 時子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.5-16, 2007

本稿は,従来社会福祉においてパターナリズムという語が,自律を抑圧すると否定的に集約されがちなことから,その概念と正当化基準を検討し再考したものである.先行研究からは5つの正当化基準を導き,近年は抑圧を回避すると考えられている「自律を尊重するパターナリズム」が論じられる傾向にあることを明らかにした.この基準は,被干渉者の個別性や自律を重視する社会福祉においても,親和性の高い基準といえる.しかし,通常パターナリズムとは批判的に扱われるため,その批判がどのような思想に基づいているのかを3点に要約した.パターナリズムを必要と考える場合と批判的にとらえる場合の相違点は自律の解釈にあるといえる.最後に,自律を尊重するパターナリズムの論には,自律概念の多義性と自律概念に内在しうる価値判断によって,抑圧的に作用する場合もあり,パターナリズムの正当化基準においては十分とはいえないことを明らかにした.
著者
天畠 大輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.28-41, 2020

<p>本研究の目的は,兵庫青い芝の会会長澤田隆司の介護思想とその実践について検討し,その問題点を浮かび上がらせることで,いまだ解明されていない「発話困難な重度身体障がい者」の介護思想の枠組みを模索することである.</p><p>はじめに,青い芝の会の活動の中心を担った横塚晃一の主張に着目し,青い芝の会の思想である「健全者文明の否定」や「健全者手足論」について考察する.次に,横塚の思想に影響を受けた澤田がどのような実践を行っていたのかを整理する.次に,特に重度の発話障がいを抱えていた澤田の,青い芝の会の介護思想を実践することへの限界と課題に言及する.また,介護者が兵庫青い芝の会会長という属性による解釈を行ったことから,両者の間に生じた問題を明らかにする.最後に,本研究の結論として,澤田独自の介護思想とその実践から,「発話困難な重度身体障がい者」における介護思想を考察する.</p>
著者
永野 叙子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.78-93, 2014

本研究では,市民後見人の役割を明らかにすることを目的とした.研究方法は,半構造化面接法によって得た各種情報を集計し分析すると同時に,発言を逐語記録から記述し,エスノグラフイーを用いて再構成した.その結果,市民後見人の役割として,(1)定期的な面談によって被後見人(以下,本人)の状況把握や本人の希望を確認する,(2)本人にとっての最善を見いだす,(3)本人の能力に働きかけ発揮できるよう環境を調整する,(4)身上監護が適切に行われているかを見極める,(5)本人の権利擁護に取り組む,(6)生活者の視点で後見活動に付随したインフォーマルな支援を行う,などの状況が確認された.加えて,個人としての存在が認められ価値がある人として大切にされるよう,その人にとっての最善を共に考え,その実現に向けて支援すること,また,成年後見制度を提供する立場で意見し,より良い制度となるよう提言する役割を担っているのではないかと考えられた.
著者
衣笠 一茂
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.14-26, 2009

本論文は,ソーシャルワークの価値理論の構造的な問題を明らかにしようとするものである.従来からソーシャルワークの価値である「個人の尊厳の尊重と保障」を具象化するために「自己決定の原理」が重要視されてきたが,近年はこの原理を実現するうえでの倫理的ジレンマも多くみられる.本論文では,こうした実践のジレンマを方法や技術といった機能論的な理解ではなく,ソーシャルワークの価値理論が構造的に内包している問題に端を発するものであると考え,その問題構造を論証する・具体的には,ソーシャルワークの価値についての議論が多くみられる1990年代以降のアメリカとイギリスにおける先行研究をレビューし,そこから整理された価値の理論構造をカント哲学を中心とする近代社会思想に準拠して分析することにより,特に自己決定の原理が有している構造的問題を解明し,実践に寄与しうる新たなソーシャルワークの価値理論を,ソーシャルワーク実践を帰納的な方法で科学的に分析することにより構築する必要性を提起する.
著者
平塚 良子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.105-128, 1991-10-15 (Released:2018-07-20)

Value is a significant theme for the profession of Social Work. It has been considered a central base of social work practice. But there is not a clear consensus of social work values in these days. In this paper, I review some articles on values in social work and discuss about values in frameworks of social work practice, functions of values, levels of values, professional values and so on, in social work. Through this process I describe the nature of value, the mechanism offiltered values in social work practice and design for a value system of social work. And I point out tasks of the study on values in social work. The value system consists of social welfare values and social work values, which is influenced by societal values, group values and individual values. Social worker produce values in one's practice, which are consistent with client's values, conflicting with professional values and and other values, using knowledge and skills. But values are invisible, so we can only guess them. Therefore value has risk. So we will need making a tool of the analysis of values as a profession of social work in order to have responsibility to clients.
著者
中山 忠政
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.271-286, 1999

The facilities for children with autism are the only welfare service peculiar to persons with autism in our country. This research aimed to clarify the development of the welfare for persons with autism by analyzing process of installation and institutionalization of the facilities for children with autism. At first, the facilities for children with autism were set up as facilities specific to autism in 1969. Later, it was reexamined what the facilities for children with autism should be like on ground of various problems in management of the facilities for children with autism. The discussion to emphasize "Realistic countermeasure" which is that an intellectual handicaps accompanied autism was performed there. Thus, the facilities for children with autism were turned over in legal facilities, and assumed to be a kind of the facilities for children with intellectual handicaps. The principle of the treatment in the intellectual handicaps frame to persons with autism which ran here now established.