著者
三島 亜紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.113-124, 2016-05-31 (Released:2019-02-15)
参考文献数
47

2014年7月に採択された「ソーシャルワークのグローバル定義」で,ソーシャルワークは「学問」であると初めて明記された.その「知(knowledge)」は学際的なものであり「ソーシャルワーク固有の理論的基盤および研究」に加え,「他の人間諸科学の理論」も援用するとされる.さらに「地域・民族固有の知(indigenous knowledge:IK)」もこれらと同等の一つの知と明記された.本稿ではほかの学問分野におけるIKに関わる議論も参考にしながら,これが重視された背景や日本における展開を考察する.ソーシャルワークの知の変化の背景として,ソーシャルワークには先住民族をはじめ社会的弱者を迫害した歴史があったことを真摯に受け止めなければならないという機運が高まったこと,ソーシャルワークの知はサービス利用者と共に生み出すことをよしとする風潮が生まれたこと,西洋的な価値観に基づくソーシャルワークへの批判などがあり,これが新定義に反映されたといえる.
著者
堀 真紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.68-76, 2001

少子化が進むなか,政策レベルにおいて育児支援策拡充の議論が活発になされている。本稿は,このような議論がなされる背後には国家が想定する一定の家族モデルが存在し,その家族モデルは政策に反映するという問題意識に基づいて,既存の児童福祉政策における家族モデルの抽出を試みたものである。ここでは,単親家庭の児童養育に対する経済的援助制度を分析の対象とし,諸外国の制度との比較を通してその特徴をとらえ,その特徴に着目して国家の指向する家族モデルを検討している。この分析によって,児童扶養手当制度が前提とする家族モデルは性別役割分業に基づく近代家族モデルであり,この家族モデルから外れた家族を制度の対象としているということが明らかとなった。また,近代家族モデルがもたらしている問題点や制度の潜在的機能,私的扶養義務を追及する制度をもたない意味などについての考察も行った。
著者
堅田 香緒里
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.16-28, 2005-07-31 (Released:2018-07-20)

「脱工業化」社会の貧困の多くも,従来の貧困同様,社会的要因に起因するものであるが,それへの社会的対応の一つとしての再分配が十全には行われていない.こうした状況が許される背景として,特定の言説の影響が考えられる.本稿ではまず,そうした言説の一つとしてアンダークラス言説を取り上げ,それが再分配に与える影響について考察している.その結果,アンダークラス言説は,アンダークラスをアブノーマルなものとして構成することによって,再分配を脱正当化しているということが明らかになった.続いて,今日,十全な再分配を要求し得るアプローチの一つとして,ナンシー・フレイザーの「再分配と承認」アプローチを検討している.その結果,彼女のアプローチは,経済的な再分配と象徴的な承認という二側面を包含している点および承認の対象を地位に求めている点において,十全な再分配の要求ないし貧困の政治にとって有用であることが確認された.
著者
松宮 透高 八重樫 牧子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.123-136, 2013-02-28 (Released:2018-07-20)

メンタルヘルス問題のある親による虐待事例への支援においては,児童福祉と精神保健福祉連携が不可欠であるが,実際には不十分な状況にある.本研究は,その要因のひとつと考えられる両領域間の相談援助職の認識を明らかにすることを目的として,児童福祉施設および相談機関の相談援助職と精神科医療機関に所属する精神保健福祉士を対象に,当該事例に対する関与実態と認識についての質問紙調査を行った.その結果,当該事例について相談援助職間で認識の差異があることが明らかになった.またその背景には,精神保健福祉士の当該事例への関与機会の乏しさ,相互の領域に関する研修の乏しさなどがみられた.こうした不十分な連携と支援プログラムの乏しさのなかで,児童福祉の相談援助職は強い困難感やストレスを抱きながら当該事例への支援を多く担っていた.研修体制の拡充や適切な人員の配置により,支援環境の整備と両分野における認識の共有を図る必要があるといえる.
著者
西尾 祐吾
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.1-23, 1988

Firstly, I tried to describe to the implications of discussing "stigma" in Japan, today explicating the meaning of the term "stigma". Then I outlined tke contents of "Stigma and Social Welfore" by P. Spicker, 1984, Croom Helm, in which the relation between stigma and social welfare has been dealt with systematically and preponderantly for the first time. Lastly, focusing on public assistance, I discussed the various phenomena of stigma seen in the present practices of social welfare in our country.
著者
金子 充
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.33-43, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

産業構造の転換に伴って,人びとの働き方,家族のあり方,ライフコースが大きく変化してきている。そのことは,社会福祉の「対象」が変化していることを表している。こうした社会福祉の現代的な「対象」の問題は,ジェンダー論,人種/エスニシティ論,そしてアンダークラス論から提示されている。「批判的社会政策論」(Critical Social Policy)はこれらの議論のエッセンスを凝縮し,階級,ジェンダー,人種/エスニシティなどの観点から,人びとが「社会的に分裂した」(social division)状態にあることに注目しつつ,そのような、人びとの差異やアイデンティティに配慮した福祉国家を構築することに関心をもつアプローチである。こうした視点をもとに,現代の社会変化と「社会的分裂」に関する議論を踏まえた社会福祉対象論を再構成するための展望について論じる。
著者
三島 亜紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.115-127, 2020-11-30 (Released:2021-02-09)
参考文献数
44
著者
春木 裕美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.16-30, 2020-08-31 (Released:2020-10-03)
参考文献数
38

本研究は,障害児を育てる母親の就業に影響を及ぼす要因を明らかにし,障害児家族への援助の在り方を検討することを目的とした.特別支援学校在籍児の母親を対象とした質問紙調査を行い,266通の回答を有効とした.従属変数は,就業の有無,仕事の制限感とし,階層的重回帰分析,階層的2項ロジスティック回帰分析を行った.分析の結果,母親の就業に最も影響を与えていたのは子どもの医療的ケアだった.医療的ケアが必要な場合,母親は無職であることや仕事の制限感が高かった.有職の母親は,福祉サービス利用度が高いことや福祉サービスの量的充足度が高いほど仕事の制限感を低めていた.一方,対象児の介助度が高いほど,また,母親の役割拘束の認識が高いほど仕事の制限感を高めていた.これより,障害児相談支援の役割として,母親が就業を希望する場合には,子どもと家族の双方を考慮した福祉サービスのコーディネートの重要性について言及した.
著者
神林 ミユキ
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.71-85, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
3
被引用文献数
1

スーパービジョンはソーシャルワーカーに身近になったが,スーパーバイザーからはスーパービジョンに対する不安の声が聞かれる.不安軽減のためには,具体的なスーパービジョンのイメージや,終了後の自己評価指標が有用だと考えた.そこで,1セッションごとの展開と,スーパービジョンで用いられるスキルを明確にすることを,研究目的とした.実務経験10年以上のスーパーバイザーによる,12のスーパービジョンセッションを調査したところ,634のスキルが抽出された.それらは,提出事例を対象としたスキルとスーパーバイジーを対象としたスキル,スーパーバイジーの語りや内省を促すスキルに分類された.1セッションの展開は,開始段階からスーパーバイジー自身の成長課題への気づきを促すことを志向した介入が行われ,特に展開段階では成長課題に気づかないスーパーバイジーに対し,段階的にスキルが活用され,根気強く気づきを促していた.
著者
今井 小の実
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-11, 2002

1934年母性保護法制定促進婦人連盟として誕生した母性保護連盟は,母性保護運動を展開し,1937年の母子保護法制定に貢献した。その連盟誕生の産婆役をつとめたのは,婦選獲得同盟であった。婦人の参政権獲得を目的として結成された女性団体が,母性保護連盟を生み出し,母性保護運動に積極的にかかわっていくのは,戦時体制へと突入し,婦選運動が閉ざされていく状況にあったからだといわれている。しかし同盟が母性保護運動に取り組んでいく方向性は,1928年にはすでに示されていた。同盟には従来の研究では説明されてこなかった母性保護運動を開始する別のモチベーションも存在したのではないだろうか。本稿の目的は,同盟の母性保護運動に対する従来の評価に,新たに大正時代の母性保護論争から続く"継承性"という視点を加えることによって,その揺籃期のモチベーションを明らかにしようとするものである。
著者
伊藤 嘉余子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.82-95, 2010-02-28 (Released:2018-07-20)

本研究の目的は,児童養護施設入所児童を対象に行った,施設生活に関するインタビューの結果から,子どもたちが児童養護施設や職員に求めている生活の質,支援,役割について明らかにすることである.C児童養護施設(A県B市)の入所児童10人を対象に1対1の半構造化面接によってインタビューを行い,データを分析した.その結果,多くの子どもが,実家庭とは異質な施設生活に満足や喜びを感じており,物的環境の充実が子どもに与える影響の大きさが明らかになった.しかし,その一方で,施設生活の質の高さに満足すると同時に,多くの子どもが「できれば実家に帰りたい」という葛藤を持ち続けている実態も明らかとなった.また,子どもの感じる施設生活への満足度の高低には,子ども自身が施設内の人間関係をどうとらえているかが影響していることが明らかとなり,人間関係構築やコミュニケーションにおける職員の資質や力量が重要となることが分かった.さらに,多くの子どもが施設入所前/入所時の不安について語っており,アドミッション・ケアの充実の必要性が示唆された.
著者
中山 忠政
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.271-286, 1999-06-30 (Released:2018-07-20)

The facilities for children with autism are the only welfare service peculiar to persons with autism in our country. This research aimed to clarify the development of the welfare for persons with autism by analyzing process of installation and institutionalization of the facilities for children with autism. At first, the facilities for children with autism were set up as facilities specific to autism in 1969. Later, it was reexamined what the facilities for children with autism should be like on ground of various problems in management of the facilities for children with autism. The discussion to emphasize "Realistic countermeasure" which is that an intellectual handicaps accompanied autism was performed there. Thus, the facilities for children with autism were turned over in legal facilities, and assumed to be a kind of the facilities for children with intellectual handicaps. The principle of the treatment in the intellectual handicaps frame to persons with autism which ran here now established.