著者
後藤 広史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.31-42, 2007

本研究の目的は,前路上生活者が施設から「自己退所」する要因を探索的に明らかにし,路上生活者に対して,施設での援助活動を展開する際の指針をうることである.そのために,施設を「自己退所」した経験をもつ路上生活者15人に対して,(1)施設入所前の路上生活をどのように営み,それをどう意味づけていたのか,(2)そのような路上生活者が施策を利用するにあたっての目的は何だったのか,(3)そして,施設での生活はいかなるものであり,なにが「自己退所」のきっかけとなったのかという3点に着目し,インタビュー調査を行った.研究の結果,「自己退所」に関わる要因として,「路上生活への適応」「利用目的のずれ」「施設で直面する諸困難」という3つの要因が抽出された.このことから,「路上生活を尊重した援助」「ていねいなアセスメントの必要性」「住環境および処遇の改善」という援助の指針が得られた.
著者
田川 佳代子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.1-12, 2018-07-20

社会正義の思想は,正義の諸概念や諸構想に依拠する.どのような正義の構想に依拠するかを曖昧にすることは,実現しようとする正義を玉虫色のものにする.ソーシャルワークが擁護すべき社会正義とは何か.ソーシャルワークにおいて実現しようとする正義は何であるか.社会正義の広範な理論の検討を踏まえ,議論の輪郭を描くことが課題である.本稿では,まず,広範囲に及ぶ社会正義の意昧について調べる.配分的正義の議論を乗り越え,現代のソーシャルワークに要請されている抑圧や文配を除去し,搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい,ソーシャルワークにおける社会正義の諸概念や諸構想を検討する.ポスト近代,ケアの倫理,反抑圧といった新たな社会理論からの異議申し立てを,ソーシャルワークはどう受け止めるのか.ソーシャルワークの理論的変遷を辿りつつ,考察を試みる.
著者
中村 秀郷
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.89-101, 2018

<p>本研究の目的は,更生保護施設職員が刑務所出所者等の社会復帰支援で直面する困難性(心理的ストレス)の構造・展開を明らかにし,その実態を体系的に整理することである.</p><p>更生保護施設職員19名を対象として,個別インタビューによる半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて逐語データの分析を行った.</p><p>分析結果から12個の困難性概念が生成し,概念間の関係性から,〈制度的・組織的限界へのストレス〉,〈対象者の言動へのストレス〉,〈支援の行き詰まりへのストレス〉の三つのカテゴリーに収斂された.</p><p>本研究では,概念間のつながり,カテゴリー間の流れから刑務所出所者等の社会内処遇の実践現場で直面すると考えられる困難性の予測に示唆を与えた.また,ジェネラリスト・ソーシャルワーク理論だけでは収まらないスペシフィックな刑務所出所者等の社会復帰支援の特徴を提示した.</p>
著者
藤江 慎二
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.56-67, 2020

<p>本研究は,介護老人福祉施設の介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセスを明らかにすることで,不適切な介護の予防的研究および実践に寄与することを目的とした.研究方法には,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.分析の結果,介護職員は〈心身状態の不調〉〈モチベーションの低下〉という苛立ちやすい状態で業務につき,そのなかで〈終わらない業務への焦り〉,〈利用者への苛立ち〉が生起していた.これらには〈他職員介護による苛立ち・負担〉という苛立ちを増加させる要因があった.そして最終的に介護職員の〈利用者への苛立ち〉は〈自分自身への苛立ち〉となり,諸種の焦りや苛立ちが悪循環していくプロセスとなっていた.このような現状を介護職員だけの問題にせず,職員,施設,行政機関などが個々の役割を果たし,不適切な介護の予防に向けた総合的な取り組みを検討していくことが必要であると考えられた.</p>
著者
日吉 真美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.52-62, 2019

<p>本研究の目的は「ひきこもり」当事者が乗り越えてきたものを本人の視点から明らかにすることである.2017年度に全国68カ所のひきこもり地域支援センターを利用する当事者に対するアンケート調査を行った.分析方法は,anova4による分散分析を用いた.分析の結果,次の特徴が見られた.それは「人と接することに対する恐怖」,「家や部屋から出ることに対する不安」,「何かしようという気力のなさ」,「過去のつらい出来事の想起」,「人の視線に対する恐怖」,「乗り物(電車など)に乗ることに対する恐怖」,「他人の価値観の受容のできにくさ」,「自分の中で何が起こっているかの認識の低さ」,「親子関係の悪さ」,「自分の病気や障害に対するつらさ」,「不登校やひきこもり経験に対する負い目」,「自分自身の自信のなさ」であり,この12の経験が「ひきこもり」当事者が乗り越えてきたものの一部であることが示唆された.</p>
著者
髙阪 悌雄
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.28-42, 2017

<p>1985年,幼い頃からの障害者に給付されていた障害福祉年金が障害基礎年金に統合され,無拠出と拠出に同額の障害年金が支給されることとなった.財政支出削減の目的で積極的な行政改革が行われていた時期,保険の原則を超えた障害福祉年金の増額が行われた背景を,東京青い芝の会の機関誌,当事者運動活動家の白石清春への聞き取り,国会議事録,年金局長山口新一郎の評伝などに基づき明らかにすることが本稿の目的である.結論として,本稿では4点のことが明らかになった.(1)当事者参加の研究会や障害者団体の要求が障害者所得保障改善の内容を含む障害者計画策定につながった.(2)障害者団体の政府・行政への柔軟な対応により,行政と共同で所得保障に関わる政策を作り上げることができた.(3)年金局長であった山口新一郎の貢献があった.(4)家と施設から離れ所得保障を求めた脳性マヒ者達の主張に強い説得力があった.保険の原則を超えた新たな所得保障制度誕生の背景には,国際障害者年という時代の下,障害者団体と行政官僚の力強い動きがあった.</p>
著者
野村 恭代
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.70-81, 2012-11-30 (Released:2018-07-20)

現在,精神障害者の地域移行が進められつつあるが,その実現には多くの障壁が立ちはだかる.その代表的なもののひとつが,精神障害者施設への地域住民からの反対運動などの「施設コンフリクト」である.精神障害者の地域移行を実現するためには,これらの問題を解決しなければならないが,精神障害者施設と地域住民とのコンフリクトに関し,現在,どこの地域で問題が発生しているのか,発生数はどのくらいであるのかなど,その現状を知る術はない.そこで,本研究では,1980年代および1990年代に実施された全国調査を概観するとともに,2000年以降の実態に関し,全国調査を行うことにより明らかにする.さらに,施設コンフリクトが発生した施設はどのような対処をしたのか,また,対処の結果どのような反応がみられたのかを検証し,コンフリクト発生から合意形成に至るプロセス(手段方法,要因)と合意形成との関連性について分析を行う.
著者
岩田 千亜紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.44-57, 2015-11-30 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
5

高機能自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されている母親およびASDが疑われる母親14名についてインタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)による質的研究を実施した.その結果,対象者は,子どもの頃から親からの身体的・心理的虐待や,学校でのいじめなど,さまざまな外傷体験を有しており,結婚前から精神疾患を発症していたことが明らかにされた.さらに,妊娠・出産後は,妊娠・出産の不安,自身の特性に起因する悩み,子どもや夫,周囲との関係についてなどさまざまな悩みを抱え,思うようにいかない子育てから,ひどい抑うつや育児ノイローゼなどに至ったことがわかった.そして,母親がストレスや不安の軽減につながるか否かは,自身や子どもへの支援,夫からの理解,自身の特性の理解によって規定された.分析結果から,グレーゾーンの母親も含めた包括的な早期支援および,「子育て世代包括支援センター」を活用した多職種間連携による支援の必要性が示唆された.
著者
三宅 雄大
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.17-30, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
12

本稿の目的は,生活保護制度における大学等への「世帯分離就学」がどのような論理によって正当化され,維持されているのかを明らかにすることである.以上の目的を明らかにするべく,分析資料としては,2017年に開催された厚生労働省・社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」の議事録を用いる.分析結果として,部会の議論では:①「大学等非就学者/高卒就職者/非利用世帯との均衡」を理由に,大学等就学の「最低生活保障への包摂不可能性」が指摘されていた.そして,②これにより「世帯内就学」の正当性が否定され,③結果として「世帯分離就学」が消極的に正当化されていた.しかし,以上の「世帯分離就学」を正当化する論理には,いくつかの問題が含まれており必ずしも頑健なものではなかった.そのため,今後,あらためて「世帯分離就学」を正当化する論理を精査し,大学等就学時の「世帯認定」の在り方を検討する必要がある.
著者
鵜沼 憲晴
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.13-24, 2001-03-25 (Released:2018-07-20)

昨年6月に改正された社会福祉法総則は,社会福祉事業法から大幅に改正されたにも関わらず充分検討されていない。本稿は,これを解釈・検討し,問題点の提起を目的とする。(1)対象では,「社会福祉を目的とする事業」の範囲を史的変遷を踏まえながら明らかにし,またそれに含まれる事業が改正法において明示されていないことを問題とした。(1)法目的達成手段では,新設された「福祉サービス利用者の利益の保護」について,契約制度に移行した社会福祉事業による福祉サービス利用者のみを対象とした利益保護では不充分であること,利用者の権利体系構築の必要性等について考察した。(2)理念では,「福祉サービスの基本的理念」を中心に考察し,「個の尊厳」とは「人間の尊厳」と「個の尊重」との融合概念であること,「その有する能力に応じ」た自立支援では「能力」によって自立の範囲及び支援内容が制限される危惧を示した。最後に,社会福祉法全体の評価を行うとともに,社会福祉法が「基本法」となるための法律学的検討課題として憲法13条・25条との関連の追求を提起した。
著者
鈴木 浩之
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.1-14, 2016

<p>本研究では,子ども虐待の危機介入において,不本意な一時保護をされた保護者と児童相談所の協働関係の構築についてのプロセスとその構造を検討することを目的とする.研究においては,不本意な一時保護を体験した家族10組20人の研究協力者にインタビューを実施し,グレイザー派グラウンデッド・セオリーによりデータを分析した.その結果,33のコンセプトと12のカテゴリーが創出された.中核的なコンセプトは「折り合い」である.さらに,これらのカテゴリーは三つのステージに分類された.すなわち,「失う」「折り合い」「引き取る」である.これらの分析によって,不本意な一時保護を体験した保護者との協働関係を構築していくためには,「折り合い」にある,六つのカテゴリー「見通し」「支えられる」「担当者との関係」「話し合いの場」「子どもへの思い」「期待」の要件を整えることがソーシャルワークの課題であることが示唆された.</p>
著者
山田 壮志郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.17-29, 2008

本稿の目的は,ホームレス自立支援センターにおける支援記録の分析を通じて,ホームレス対策の課題を考察することである.近年のホームレス対策は,自立支援センターにおいて就労支援を行い,ホームレスの就労による自立を実現することを主要な目標としている.しかし,自立支援センターには,就労可能性が高く就労支援を特段必要としていないようにみえる層から,自立支援センターへの入所が適切でないと思われる層まで,多様な人々が入所しており,結果として目的の実現可能性に差異を生じさせている.また,劣悪な雇用環境やセンターでの集団生活,利用期限の設定といった問題も,入所者の就労による自立を困難にさせている.今後のホームレス対策は,ハウジング・ファースト・アプローチも視野に入れた居住場所の確保を前提に,自立を阻害する環境的な要因を取り除き,就労に偏らない多様な自立を容認しうる複線的なアプローチから形成される必要がある.
著者
横山 登志子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.57-70, 2021

<p>本論文の目的は,ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害を受けた女性・母子の緊急一時保護の実態調査と追跡調査から支援課題を検討することである.緊急一時保護の実態調査結果からは,①複合的困難ゆえの短期間調整の難しさ,②「生命の危惧あり」の多さ,③子どもの被害の見えにくさ,④被害女性の生活経験にみる生活困難,⑤自立的な生活再建層を中心に予想される不安定さ,⑥継続する生活困難であった.また追跡調査からは約7割のケースで連絡がとれず生活基盤の不安定性が継続している可能性が示唆されたほか,電話が通じたケースでもほとんどのケースでさらなる転居がみられた.以上のことから,支援課題を3点指摘した.①複合的困難と転居に対応する連携強化,②子どもの被害に焦点を当てた支援,③アフターケアの強化である.</p>
著者
天畠 大輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.27-41, 2021-02-28 (Released:2021-03-31)
参考文献数
26

身体とコミュニケーションの両方に障がいをもつ筆者にとって,文章作成は社会との繋がりをもつための重要な手段の一つである.本研究の目的は,その「発話困難な重度身体障がい者」である筆者の文章作成実態とはいかなるものかを明らかにすることである.そのため,メール作成調査を通じて筆者の文章作成過程における介助者との「あ,か,さ,た,な話法」を用いた相互行為を詳細に読み解く.分析の結果,筆者は介助者によって,メール文面を作成するプロセスを変えていることがわかった.つまり,介助者によって「何を書くか(What to do)」「どのように書くか(How to do)」が変容していることから,「誰とおこなうか(With who)」の重要性が示された.これは介助者による解釈や提案を引きだすための戦略であり,筆者の自己決定は従来の「強い主体」の障がい者像とは異なる「弱い主体」を選び取ることで成り立っていた.