著者
三原 博光 松本 耕二
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.108-118, 2012-08-31 (Released:2018-07-20)

本研究は障害児の年齢(18歳以下・19歳以上),出生順位,妻の仕事の有無に着目して障害者の父親の生活意識の検証を目的とする.方法は質問紙調査が採用され,341人(34〜81歳)の父親から回答が得られた.その結果,18歳以下の障害児の父親が学校・施設行事に積極的に参加し,妻と会話をよくしていたが,障害児をもったことでつらい経験をし,その理由として,子どものしつけを挙げていた.また,これらの父親は,障害者の働く場所の確保を行政に期待していた.出生順位は,障害児が第1子(長男・長女)の場合,その父親は社会的問題をよく考えていた.障害児が第2子(次男・次女)以降の場合,その父親は社会が障害者に対して親切であると感じていた.妻が仕事をしていない場合,父親は子どもの障害について妻とよく話をしていた.一方,妻が仕事をしている場合,父親は母親の働く場所のさらなる確保を行政に期待していた.全体として障害者の父親は,わが子の障害にショックを受けながら,母親の育児に協力をし,仕事に励んでいた.
著者
中村 剛
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.5-17, 2010-11-30 (Released:2018-07-20)

「貧困は自己責任」といった自己責任論が広がっている.そして,このような考えが,社会的排除を助長している.本稿の目的は,「新たな公的責任」という概念を提起し,それが「自己責任論」を超克する福祉思想であることを論証することにある.まず,先行研究から「新たな公的責任」を形成していくうえで必要不可欠な観点を学ぶ.次に,「公」と「責任」概念の意味を確認し,分析したうえで,両者を止揚する概念として「新たな公的責任」という概念を提起する.続いて,責任の有無を区別する基準,自己責任論の問題点,自己責任論を超克する思想について確認する.そのうえで,「新たな公的責任」が責任の有無にかかわらず,支援が必要な人に支援すべき根拠となる理由を述べる.最後に,「新たな公的責任」の構造を明らかにするとともに,「新たな公的責任」は福祉思想の水準でなければ成り立たないことを説明する.
著者
小山 聡子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.104-117, 2020-08-31 (Released:2020-10-03)
参考文献数
34

ソーシャルワーク教育では,実習前後の演習教育においてロールプレイの導入が称揚されているが,具体的な方法提示は不十分である.そこで,演劇/ドラマの手法を適用したコミュニケーション集中授業の授業研究結果を踏まえて,ソーシャルワーク演習教育に示唆するものと留意点に関する考察をした.分析対象は,2015年と2016年に受講した学生の事後リポートである.分析を通して,①演劇/ドラマの手法が提供する「身体への回帰」とセットになった即興性の体験が,「いまここ」の感覚を呼び覚ますこと,②「評価の解体」によって各自が十分に認められる体感が,社会変革につながる価値の増殖を可能にすることがわかった.これらはクリティカル・ソーシャルワークが提唱するクリティカル・リフレクションへの第一歩を助けると考えられる.一方,こうした授業はその要素が演習教育全体に適切に配置されてこそ活かされる.演習教育の今後に向けた課題がクリアになった.
著者
金子 絵里乃
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.68-81, 2016-02-29 (Released:2018-07-20)

本研究の目的は,患者との死別体験が日常的にある緩和ケアにおいて,援助者(ソーシャルワーカー,看護師,医師)がどのようなグリーフを抱え,グリーフにどのように対応しているかを明らかにすることである.インタビューの結果,援助者は「申し訳なさ」,「無力感」,「喪失の類似体験」,「不安感」というグリーフを抱え,「患者と心理的な距離感を保つ」,「同僚と語り合い肯定的に受けとめ合う」,「患者からの学びを仕事に活かす」,「自覚して揺れ動く」,「他の援助者に託す」ことを通してグリーフに対応していることが明らかとなった.これらの研究結果をもとに,援助者のグリーフとその対応にはどのような共通性があるか,また,ソーシャルワーカーが抱えるグリーフとその対応にはどのような特有性があるかを考察した.
著者
大原 美知子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.46-57, 2003-03-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

首都圏在住で満6歳以下の幼児をもつ母親1,538人を対象に,自記式アンケート調査を行った。調査内容は母親による子どもへの不適切な育児行為とその頻度,家族環境(FES),産後抑うつ(EPDS),解離傾向,母性意識,母親が認知しているサポートなど多面的な質問を行い,虐待行動のリスクファクターを検討した。虐待行動と諸項目を重回帰分析で解析したところ,子どもの数(育児負担)・解離傾向・気の合わない子どもがいる(子どもに対する不適切な認知)・葛藤性(家族内の暴力傾向)・母性意識否定感(母親の低い自己評価)などが虐待行動の要因として選択された。これらのリスクファクターの査定は,援助者が虐待ハイリスク家族や子どもを発見するのを容易にし,虐待の防止と適切な治療的介入を促進する可能性を有している。
著者
高橋 賢一
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.41-55, 2016-11-30 (Released:2019-02-15)
参考文献数
36

本研究は,援助者が遭遇する困難やストレスを主体的な取り組みが含まれる「苦慮」という概念で捉え,成長に至る契機やプロセスを明らかにすることを目的とした.精神保健福祉士10名のライフストーリーをSCATによる質的分析を行った結果,援助者にとって苦慮を伴う体験が肯定的認識となり成長に寄与していることが示唆された.そのプロセスは,新人から現場の中核を担う過程において,ネガティブな状況にありながらもクライエントや職場スタッフとの関わりや支えられた体験を意味あるものとして自分のなかに落とし込めることにより新たな価値認識に至りポジティブな転換に移行していた.さらに,苦慮と対峙してきた経験が専門職としての意識や価値の形成,信念や持論など援助者としての自分を支える基盤に結びついていた.
著者
片岡 志保
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.19-31, 2013

本稿は,高度経済成長期を対象期間とし,養護施設中卒児の進路に対する実践者と政策主体の認識の変遷過程を明らかにすることを目的とした.当時の実践記録や厚生白書等を分析すると,双方の認識は就職から進学に変化していた.実践者は当初,結果的に労働力として子どもを送り出すことを受け止めていたが学校教育からの排除や不安定な収入で若年労働者として働く子どもの現実に触れ,就職に対する認識を変化させていった.政策主体が中卒児の進路を就職とした背景に,労働力需給との関係があった.認識変化は特別育成費の導入ととらえられ,政策主体は全中卒児との進学率の差を是正すべきと認識していた.進学率の差は以前から存在していたことを考慮すれば,これまでになかった実践者のソーシャルアクションによって社会の関心が寄せられ制度の導入に影響したことが示唆された.特別育成費は内容に限界をもちつつも中卒児の進路に確実な変化をもたらした.
著者
姜 恩和
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.63-75, 2014-05-31 (Released:2018-07-20)

韓国では,2012年8月に全文改正された養子縁組特例法が施行され,養子縁組の成立を当事者による届出のみとするのではなく,家庭裁判所による許可制とするなど,子どもの権利保障という点で大きく前進した.しかし,施行後,養子縁組斡旋機関に預けられる子どもの人数が減り,乳児の遺棄事件が絶えないとして議論が続いている.この議論について,本稿では,出生届の捉え方に焦点を当て,子どもの出自を知る権利対未婚母のプライバシー保護の権利と,家庭で育つ権利という二つの論点に分けて分析した.その結果,養子縁組は,虚偽の出生届を媒介とし,望まぬ妊娠をした女性を対象とした社会福祉制度として機能してきたが,2012年特例法への改正に際して,この機能が看過されたことが,施行後すぐに再改正の議論が起きている最たる要因であることが明らかになった.韓国社会で未婚の状態での出生届がいかに負担感の大きいものかが改めて問われているのである.
著者
藤江 慎二
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.56-67, 2020-02-29 (Released:2020-05-23)
参考文献数
23

本研究は,介護老人福祉施設の介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセスを明らかにすることで,不適切な介護の予防的研究および実践に寄与することを目的とした.研究方法には,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.分析の結果,介護職員は〈心身状態の不調〉〈モチベーションの低下〉という苛立ちやすい状態で業務につき,そのなかで〈終わらない業務への焦り〉,〈利用者への苛立ち〉が生起していた.これらには〈他職員介護による苛立ち・負担〉という苛立ちを増加させる要因があった.そして最終的に介護職員の〈利用者への苛立ち〉は〈自分自身への苛立ち〉となり,諸種の焦りや苛立ちが悪循環していくプロセスとなっていた.このような現状を介護職員だけの問題にせず,職員,施設,行政機関などが個々の役割を果たし,不適切な介護の予防に向けた総合的な取り組みを検討していくことが必要であると考えられた.
著者
志賀 文哉
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.165-175, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

本稿は身体障害に関するスティグマについて,その意味や形成の過程,さまざまな諸相を検証し,それを払拭する術を見いだそうとするものである。スティグマ研究はGoffman以来さまざまに試みられてきており,「ラベル化」や「社会的逸脱」とういう現象をとおして身体障害をもつ者は社会との関係を断たれることがわかってきている。また,周囲の人たちも「名目的スティグマ」を被ることがある。身体機能の不全に関するスティグマの形成過程は従来のよく知られたWHO障害分類(機能障害,能力障害,社会的不利)を内包する。筆者のハンセン病研究では自宅遠方の療養所を選択して移住したケースがみられ,スティグマのさまざまな諸相のなかでもネガティブな影響力が推し量られる。スティグマを克服する方法としてはWHOの新たな障害分類を考慮しながら科学的知識普及の努力,人権思想の確立,社会保障の拡充などを検討することが重要であり効果的である。
著者
実方 由佳
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.27-39, 2014-08-31 (Released:2018-07-20)

本研究では実践家の認知を媒介とすることで子ども虐待対応における複数の職種・機関による援助「専門職間連携」の観察を試みた.子ども虐待対応に関わる機会の多い児童相談所,保健所・保健センター,市区町村の児童家庭相談窓口を対象とした質問紙調査から得られた定量的データを用いて因子分析を行った結果,「メンバー間で行う作業」,「メンバーの関係性」,「対象への焦点化」の3つの潜在概念を抽出した.そして,「専門職間連携」の実体認知と「メンバー間で行う作業」と「メンバーの関係性」は相関するが,「対象への焦点化」は疑似相関であることが明らかとなった.この分析結果からクライエントを理解しようとする力動がなくても"連携している"と錯覚する可能性を指摘し,これを"「専門職間連携」の擬態化"と呼称した,この分析結果を知識として理解することにより,実践家の意思によって「対象への焦点化」を強化することも可能と考えられる.
著者
杉田 穏子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.54-66, 2011

本論文は,障害の個人的経験をもディスアビリティに組み込もうとする社会モデルに立脚し,知的障害のある人の人生の語りを通して,ディスアビリティ経験(社会の側の態度や対応)が彼らの自己評価に与える影響について,共通するパターンを見いだし社会福祉実践への示唆を得ようとするものである。6人の女性の語りからは,学齢期のいじめや本人意思の無視,就労期のつらい仕事や失職といった社会の否定的な態度や対応が否定的な自己評価の積み重ねを招き,閉じこもりにも至るが,福祉サービス選択時に自己選択・決定できる機会の提供という社会の肯定的な態度や対応がなされると肯定的な自己評価に一転し,さらにひとり暮らし支援やアドボカシー役の提供でいっそう自己評価を高めるというパターンが見いだせた.これは,社会福祉実践面では,教育や福祉サービスの場の選択時,事前体験やていねいな聞き取りによる本人意思の関与が最重要であることを示唆している.
著者
高橋 隆
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.189-209, 2000-02-28 (Released:2018-07-20)

National Health Insurance (NHI) was introduced in 1995 as the first universal medical insurance system in Taiwan. Before that, there existed sixteen medical insurance programs, which covered only a small part of the population. The reason for the lack of the universal system can be attributed to the existence of conflict with Mainland China and the decision by the Kuomingtang, Taiwan's long-term dominant party, to give top priority to economical development, rather than social development. However, the establishment of universal system became one of the political agendas through the democratization process since mid-1980's. In 1997, Taiwan government planned to cut costs by privatizing and pluralizing of NHI. KMT and the Democratic Progressive Party (DPP), the opposition party, have agreed on the privatization of state-owned enterprises so far, but it may take years to reform the NHI because both the national and international politics concerning Taiwan have been very unsteady. In this article, I conclude that the attempt of Taiwan's pluralism will be increasingly demanded by changing civil society and political party systems of Taiwan and the relationship with Mainland China.
著者
蘇 珍伊 岡田 進一 白澤 政和
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.124-135, 2007-02-28 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
3

介護職員の仕事の有能感に関連する要因について人間関係に焦点をあてて検討した.調査対象は,介護職員400人であり,自記式調査票を用いた郵送調査を待った.人間関係は,利用者との関係や職場内のソーシャルサポート,職場内の全体的な人間関係を設定し,仕事の有能感は,業務の達成,能力の発揮・成長,仕事上の予測・問題解決の領域でとらえた.重回帰分析の結果,介護職員の仕事の有能感の3つの領域すべてにおいて,利用者との肯定的関係との強い関連が示された.また,業務の達成は,職場内の全体的な人間関係がよいほど高く,能力の発揮・成長は,上司と同僚からのサポートを受けているほど高かった.さらに仕事上の予測.問題解決は,勤務年数が長く,上司からのサポートを受けているほど高かった.これらのことから,介護職員が利用者との良好な関係づくりや職員同士で支え合うサポート関係づくりができるように支援することが求められる.
著者
山本 浩史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.117-128, 2012-05-31 (Released:2018-07-20)

済世顧問制度は,岡山県において1917(大正6)年に公布された防貧制度である.本稿の目的は,創設期における顧問個人による活動を考察することにある.その研究方法であるが,制度創設者である笠井信一の思想と済世顧問制度の概要を整理したうえで,制度創設期における顧問の実践を実例から分析し,それぞれの実例に対し,顧問がどのような支援を行っていたのか分析するものである.
著者
寺本 尚美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.36-52, 1995

A turning point in the survivors' benefits schemes has been reached in many developed countries because a typical family for which these schemes were designed for has undergone a lot of changes. The survivors' benefits schemes were established when a typical family meant a family headed by a male working full time and a wife who took care of children and the household on a full time basis, a family whose ties were stable and devorce were rare. However, at present all these have changed. This papaer will present a detailed account of the historical development and similar background of the Japanese survivors' benefits schemes. Acounts of historical development will also tackle the changing concept of "widowhood". It will also include a discussion of major current issues involving the derivative rights of surviovors, particularly the changing concept of a typical family. With all these changes happening and having an impact on the current survivors' benefits schemes, the author would like to strongly believe that a closer and deeper study of the said schemes is necessary and timely.
著者
西岡 弥生
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.17-32, 2019-05-31 (Released:2019-06-13)
参考文献数
15

本研究の目的は,「心中による虐待死」事例の家族危機形成プロセスを検証することによって,加害者とされた母親の「喪失体験」を明らかにすることである.具体的には,自治体報告書で報告された9事例を対象に,心中が企図されるまでの家族の生活状況を二重ABC-X理論を援用し検討した.家族は【前危機段階】で,すでに不安定な生活基盤と脆弱な家族機能の状態にあった.【危機発生段階】で母親は既存の役割を失い,【後危機段階】では母親を支える重要な家族成員や日常生活の安全感,さらに関与のあった支援機関等の間での社会関係を失うという複数の「喪失体験」にみまわれていたことが示された.喪失の累積によって母親は「悲哀の病理」に陥り,認知が閉塞した状況で「心中」を企図したものと推察された.母親の精神の危機は虐待の定義では捉えきれず,社会生活が困難な母親の状況と支援者側の認識との間に齟齬が生じ見過ごされた可能性が高いと考えられる.