著者
木村 穣
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.348-354, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

認知行動療法は,さまざまな精神・身体疾患において有用であり,同様に糖尿病や肥満などの生活習慣病においても有用である。多くの肥満患者は“私は食べてない”“水を飲んでも肥える”などの認知の歪みを伴っている。これは自己ダイエットとリバウンドの繰り返しによる自己効力感の低下から生じていることが多い。したがって,肥満や糖尿病の治療で重要なことは患者の認知の歪みを修正し,運動や食事療法による減量や血糖の改善に対する自己効力感を向上させることである。これらの認知の歪みを生じやすい性格特性として,全か無思考や過度の一般化などを認めることが多く,治療にあたり患者の性格特性を把握しておくことは有用である。実際の肥満,糖尿病の治療では,血糖や体重のセルフモニタリングと,自己の行動(食事,運動など)とその後の血糖,体重の変化(関連)に気付かせることが重要である。同時に患者の自己効力感を向上させ,食事,運動などの行動変容を促し,維持させるサポートが必要である。これら患者の認知の歪みを修正し,自己効力感を維持,向上させるうえで認知行動療法は非常に有用である。以上のことより肥満,糖尿病の治療にかかわる医師,看護師,栄養士,運動トレーナーなどすべての職種のスタッフが認知行動療法の基本を理解し,臨床的に応用していく必要がある。
著者
西村 良二
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.9-15, 2016-01-15 (Released:2018-11-15)
参考文献数
4

人はなぜ結婚するのかという動機に関して,7つの要因,すなわち愛,自分のアイデンティティの完成,生殖,性愛性,安全感と逃避,社会的な圧力や親からの圧力,無意識のニーズについて説明した。これらの結婚の理由が内在的に病理性をもっているわけではないが,結婚の動機の構成部分において無意識の要素が強ければ強いほど,将来の夫婦の不和の種となりやすいことを論じた。次に,夫婦がお互いに相手に求めていたものが相手から得られない失望と,子どもが思春期に至って挫折することとの関連を論じるとともに,思春期のこどもをもつ家族への対応の1つとして,子どもが困り果てている姿が親の目に見えてくるようになる親ガイダンスの進め方を述べた。
著者
河村 代志也 藤原 修一郎 秋山 剛
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.152-159, 2011-04-15 (Released:2015-04-02)
参考文献数
12

1995年1月17日の都市直下型地震による阪神大震災,および,2011年3月11日の太平洋沖地震とその大津波による東日本大震災において,震災1カ月の時点(ハネムーン期)に,神戸市および石巻市・東松島市で精神医療支援を行った。また,東日本大震災によって原発事故も抱えた福島県において,災害半年以後(幻滅期への移行期)に継続的な精神医療支援を行った。これらの経験を通して,阪神と東日本の両震災がもたらした影響の異同,東日本大震災における支援時期の違い,原発事故の影響について報告した。震災1カ月の支援対象は,ほとんどが了解可能な一過性の不安恐怖や不眠の反応を起こした被災者であった。感情は抑制されていたが不安定化することがあった。一部に軽躁傾向を示す被災者もいた。震災半年以後は,不安抑うつ症状のために精神科を受診する被災者が増える傾向にあった。被災地では放射能汚染不安を示す者がかえって少なかった。
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.122-129, 2014

<p>摂食障害治療にはさまざまな困難が伴う。摂食障害は栄養障害に対する身体管理を行う必要があるため,一般の精神科医から敬遠される傾向があるが,身体管理を最寄りの内科医に委ねることで精神科医の負担はずいぶん軽減するはずである。摂食障害に対して提唱されている複数の治療法の選択は難しいが,パーソナリティ傾向によって「反応・葛藤型」「固執型」「衝動型」に,症状発現の段階によって「急性期」「亜急性期」「慢性期」に分類することで,タイプと病期を目安にして治療法を選択することができる。摂食障害患者は一見病識を欠き治療意欲が乏しいと思われるが,それは彼らの自己愛のテーマとこの病気の嗜癖性のためである。彼らの自己愛を理解しつつ嗜癖としての食行動異常を安心して手放すことができるよう導くことが求められる。摂食障害治療では,身体面を含む現実状況へ配慮しつつ,彼らに安心を与える良好な治療関係を確立することが重要である。</p>
著者
松下 年子 野口 海 小林 未果 松田 彩子 松島 英介
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 = Japanese journal of general hospital psychiatry (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.142-152, 2010-04-15
参考文献数
7
被引用文献数
2

がん患者が受けた医療者による情報提供と,心のケアの実態を把握するために,インターネットを媒体とした質問調査を実施した。患者がとらえる心のケアは形式的なものではないこと,病名および再発告知(情報提供)の際の心のケアの質・量には幅があること,ケア提供者の89.7%と91.4%は主治医であることが示された。一方,病名告知に伴う自らの相談行為は55.8%に認められ,その相手はプライベートな関係者が圧倒的に多かった。治療中の相談行為は47.2%に認められ,そのうちの75.4%が相談相手を家族としていた。治療中に心のケアを受けた者は32.2%にすぎなかったが,ケア提供者は告知時と比較して主治医以外の医療職が多かった。情報提供の際のより積極的な心のケアの提供と,患者から相談を受ける体制の構築,治療中のがん患者への相談サービスの提供とアピール,主治医以外の医療職による心のケアの展開などの必要性が示唆された。

1 0 0 0 OA BPSDの薬物療法

著者
水上 勝義
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.19-26, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
37

認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法について述べた。薬物療法を施行する前に,BPSDの多くは非薬物療法で改善するため,まずは非薬物療法を十分に行うことが重要である。その結果,改善が得られない場合に薬物療法が行われる。薬物療法では安全性への配慮が最も大切であり,副作用によって認知機能や身体機能の低下を来さぬよう注意する。本稿では,うつ,アパシー,幻覚,妄想,興奮,易刺激性,せん妄などの薬物療法についても例示した。アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルは,認知機能改善のみならず,BPSDのいくつかの症状に対しても効果を認める。したがってBPSDに対して薬剤を追加する前に,まずドネペジルの効果を評価する。また抗精神病薬を使用する前に,代替治療薬の可能性を検討することも有用である。特に漢方薬はBPSDに対する有力な選択肢の一つである。薬物療法が奏効すると,患者と家族の心理的苦痛を軽減し,家族関係の改善ももたらす。したがって安全に配慮した適切な薬物療法は認知症の診療に有用といえる。
著者
渡邉 明
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.165-170, 2013-04-15 (Released:2016-11-18)
参考文献数
19
被引用文献数
1

The Confusion Assessment Method(CAM)は簡便なせん妄スクリーニングツールで,世界的に広く使用されている。今回われわれはCAM日本語版を作成し,2012年1月1日から7月31日までに大腿頸部骨折で整形外科入院となった53症例を対象に有用性を検討した。せん妄患者は12例で認め,有病率は22.6%だった。CAM陽性は11例(せん妄10例,非せん妄1例)で,CAM陰性は42例(せん妄2例,非せん妄40例)だった。CAM日本語版は感度83.3%で特異度97.6%,コーエンのκ係数0.83,φ値0.78と十分に高く,せん妄のスクリーニングツールとして優れていると考えられた。日本語版を含むCAMには著作権があり,原著者のサイト(http://www.hospitalelderlifeprogram.org/private/cam-disclaimer.php?pageid=01.08.00)から入手できる。
著者
伊藤 敬雄 大久保 善朗
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.268-276, 2011-07-15 (Released:2015-05-20)
参考文献数
21

日本医科大学付属病院高度救命救急センターに自殺未遂もしくは自傷行為で入院した患者を対象に,その特徴,特に未遂手段・自傷手段を調査した。地域特性を考慮しなくてはならないが,当センターに入院した自殺未遂者・自傷者では,向精神薬の処方例がその85%を超えていた。未遂者の53%,自傷者の76%が向精神薬を未遂・自傷手段として過量服薬し,その割合は女性に多かった。さらに未遂者の45%,自傷者の48%がアルコール乱用もしくは依存症の診断に該当し,その割合は男性に多かった。この結果から,われわれは救命救急医療の場に搬送される未遂者,自傷者に対して,再自殺予防の見地から性別を考慮した向精神薬とアルコールによる精神疾患への早期介入の必要性を提案した。これらの疾患は,それ自体が自殺のハイリスク因子であり,また,自殺企図のハイリスク因子である気分障害,統合失調症そしてその近縁疾患に共存することに注意を払う必要がある。
著者
松島 英介
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-26, 2015-01-15 (Released:2018-02-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1

せん妄の病態を解明するために,せん妄患者の生理学的基盤を検討した研究を概観した。頭部CTや頭部MRIなどの脳形態画像を用いての検討では,大脳皮質の萎縮や白質の高信号域,基底核病変などの所見が認められた。頭部SPECTを用いた脳機能画像による検討では,脳血流が前頭前野で減少,線条体・内側側頭葉で増加あるいは視床・基底核で減少などの所見が認められた。脳波では,後頭部の背景律動の徐波化や全般性の徐波成分の混入などの所見が認められた。脳波と眼球運動を組み合わせると,過活動型せん妄では脳波は低振幅・徐波化し,遅い眼球運動の上に速い眼球運動が重なるRSタイプの出現が特徴的にみられた。これらはがん患者の術後のせん妄や抗コリン薬によるせん妄でもみられることがわかった。これまでのせん妄についての生理学的基盤を基に,がん患者で多くみられる低活動型せん妄について生理学的に検討することは,せん妄全体の発現機構を解明するうえで重要であると考えられた。
著者
本橋 伸高
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.106-109, 2012-04-15 (Released:2015-12-16)
参考文献数
23

1938年にイタリアで開発された電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は方法の修正を加えられ,現在でも治療抵抗性精神障害の治療に用いられている。わが国ではECTの研究が早くから行われていたが,方法の改良はなかなか行われず,短パルス矩形波(パルス波)の治療器は2002年になって認可された。この治療器の導入により,修正型ECTが原則化され,ECTが技術として認められるようになった。さらに,ECTのイメージが改善し,ECTの研究が世界的に評価されるようになった。しかし,わが国では非修正型のECTが未だに行われており,安全で有効な治療法としてのECTを普及させる必要がある。
著者
山﨑 信幸
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.234-238, 2014-07-15 (Released:2017-08-29)
参考文献数
12

近年,うつ病患者数は増加傾向にあり,うつ病患者に適切な医療を提供する意義は大きい。 うつ病に対する認知行動療法の有効性が確立されてはいるが,多忙な総合病院精神科医師が認知行動療法を実施する際には困難を伴うことが多い。総合病院精神科の医師,コメディカルが認知行動療法のトレーニングを受けることで,認知行動療法を希望する患者のニーズに応えることができるとともに,精神科治療技法の質の向上につながり,若手医師・コメディカルの精神療法の教育にも役立てることができる。セルフヘルプ用の書籍,コンピュータ支援型認知行動療法などの簡易型(低強度)認知行動療法の利用を通じて,総合病院精神科においても認知行動療法の導入が進むことが期待される。
著者
吉邨 善孝 桐山 啓一郎 藤原 修一郎
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.2-8, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
2
被引用文献数
1

コンサルテーション・リエゾン精神医学の分野において,チーム医療の推進,精神医療の標準化,可視化の実践が期待されている。平成24年4月の診療報酬改定に際して,精神科リエゾンチーム加算が新設された。精神科リエゾンチームは,一般病棟でせん妄や抑うつを有する患者,精神疾患を有する患者を対象として,精神症状の評価,定期的なカンファレンスの実施,心理療法,薬物療法,ソーシャルワーク,心理教育を適切に行い,退院後も精神医療(外来など)が継続できるような調整を実施する。一方,今後の課題として,①算定医療機関の偏在,②診療ガイドラインの整備, ③チーム編成,④看護師の専任規定,⑤専門看護師認定に関する課題,⑥研修規定,⑦精神科医師の算定要件,⑧診療報酬上の評価が十分でないなどがあげられる。
著者
臼田 謙太郎 西 大輔 佐野 養 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.147-155, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
34

産後うつ病の予測因子については,国によって異なった要因が報告されており,社会文化的な相違がその原因になっている可能性がある。日本においては,子どもを産まなければならないというプレッシャーを感じることが産後の抑うつ症状を予測する可能性があると先行研究から考えられたため,本研究ではその仮説を検討した。市中産院で妊娠12〜24週の妊婦を連続サンプリングでリクルートし,妊娠中と産後1カ月時点でエジンバラ産後抑うつ質問票(EPDS)を実施し,産後のEPDSが9点以上であることを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。産後1カ月の調査には118名(66.7%)が参加し,解析の結果,出産に関するプレッシャーが産後の抑うつ症状を予測していた。総合病院の精神科において妊婦中に出産に関するプレッシャーの有無を尋ねることは,産後の精神的健康を予測するうえで有用な可能性が示唆された。
著者
西 大輔 渡邊 衡一郎 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.2-9, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

レジリエンスは非常に注目されている概念であるが,その理解や臨床への活用は必ずしも容易ではない。本稿では,レジリエンスの理解を深めるため,レジリエンスが注目されてきている理由について考察し,①時間軸も含んだ概念であること,②修正・介入の可能性を含んだ概念であること, ③レジリエンスを「自然治癒力の現代医学版」とみなすことで治療論や回復論が発展する可能性が高まること,の3点をあげた。また総合病院精神科における臨床への活用について,慢性うつ病とディスチミア親和型うつ病への対応および治療方針の決定の際に重視されてきている「Shared decision making」について取り上げ,それらをレジリエンスの視点からとらえなおすことを試みた。レジリエンスという概念の下に実証的研究の成果と臨床から得られた知見を有機的につなげることで,レジリエンスは総合病院精神医学の発展にも大きく寄与し得ると考えられる。
著者
竹内 崇
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.366-372, 2010-10-15 (Released:2014-08-07)
参考文献数
26

せん妄は総合病院においてしばしば認められており,身体疾患の併発や死亡率の増加をもたらしている。今回われわれは,当院での食道癌の手術前に精神科が介入することでせん妄の発症や経過についてどのような変化がもたらされるかを検討し,せん妄の予測と予防に関する最近の知見を呈示するとともに報告した。われわれの手術前の介入により,術後のせん妄発症率や発症したせん妄に対する薬物療法を必要とした症例数は,ともに減少傾向はみられたものの有意差は得られなかった。 その理由として,今回の研究ではせん妄の危険性の情報提供にとどまり,非薬物療法的アプローチに関する具体的な指導が十分でなかったことにより,医療スタッフ間で患者への対応の相違があったことが予測された。今後は教育的介入をより強化し,医療スタッフの患者への対応の標準化を行っていくことがせん妄発症や重症化の予防に寄与する可能性があると考えられた。
著者
木村 哲也
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.155-161, 2012-04-15 (Released:2015-12-16)
参考文献数
8

がんの終末期において治療的介入に抵抗し,自殺企図を認めた1例について報告し,終末期がん患者への精神療法的接近について考察した。本症例は,心理的な介入に対する抵抗感が強く,せん妄による意識障害の存在,十分な予後告知がなされない状況での治療などといったさまざまな要因のため,精神症状のコントロールがうまくいかず,対応に難渋した。しかし,治療者が患者の苦悩を重層的に深く理解しようと努め,変化してゆく精神症状や身体状況を正確に評価し,その時々で適切な支持的介入を粘り強く続けることによって,患者の精神症状は落ち着き,最期を迎えた。終末期医療において安定した治療構造の提供と,支持的精神療法を基盤とした深い理解を伴う共感的対応が,患者にとって支持的になると考えられた。
著者
中嶋 義文
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.114-121, 2013-04-15 (Released:2016-11-18)
参考文献数
2

無床精神科の常勤医ありの施設数は2013年5月の調査では260施設であり,2008〜2009年に底を打ったあと微増している。これは緩和ケアやサイコオンコロジーなどの活動への参加によるものと考えられている。施設の60%が常勤医1名である。50%で臨床心理士が雇用されていた。 66%で緩和ケアチーム活動があった。無床精神科医がいきいきと仕事をするためには業務を整理し,限られた時間を割り振ることで主体的に働き方を決める必要がある。多様性と持続可能性を重視した働き方が無床精神科を魅力的で働きやすい職場とし,無床精神科医の増加につながるだろう。
著者
木村 穣
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 = Japanese journal of general hospital psychiatry (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.348-354, 2011-10-15
参考文献数
10

認知行動療法は,さまざまな精神・身体疾患において有用であり,同様に糖尿病や肥満などの生活習慣病においても有用である。多くの肥満患者は"私は食べてない""水を飲んでも肥える"などの認知の歪みを伴っている。これは自己ダイエットとリバウンドの繰り返しによる自己効力感の低下から生じていることが多い。したがって,肥満や糖尿病の治療で重要なことは患者の認知の歪みを修正し,運動や食事療法による減量や血糖の改善に対する自己効力感を向上させることである。これらの認知の歪みを生じやすい性格特性として,全か無思考や過度の一般化などを認めることが多く,治療にあたり患者の性格特性を把握しておくことは有用である。実際の肥満,糖尿病の治療では,血糖や体重のセルフモニタリングと,自己の行動(食事,運動など)とその後の血糖,体重の変化(関連)に気付かせることが重要である。同時に患者の自己効力感を向上させ,食事,運動などの行動変容を促し,維持させるサポートが必要である。これら患者の認知の歪みを修正し,自己効力感を維持,向上させるうえで認知行動療法は非常に有用である。以上のことより肥満,糖尿病の治療にかかわる医師,看護師,栄養士,運動トレーナーなどすべての職種のスタッフが認知行動療法の基本を理解し,臨床的に応用していく必要がある。
著者
中野 有美
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.364-369, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
25

妊娠中および妊娠前後,もしくは近々妊娠の可能性がある女性の抑うつ/不安に薬物療法は使用しにくい。したがって,彼女らは認知行動療法を含む精神療法の有用性が高い集団と考えられる。 原因不明の反復流産の患者に対し,産婦人科領域では,簡便な情緒的サポートが患者の抑うつ/不安の軽減のみならず,出産率を向上させるであろう点を指摘している。一方で,それだけでは抑うつ/不安の改善に至らない反復流産の患者には,高強度認知行動療法など時間をかけたマンツーマンの精神的援助が必要となる。本稿では,流産,反復流産の患者の精神疾患罹病率について概観した後,認知行動療法を含む精神的支援について,これまでの調査研究と名古屋市立大学病院での試みをもとに論じた。
著者
林 公輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.154-160, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
7

神経性無食欲症の治療は困難である。心理的・身体的なアプローチが必要であるが,治療に協力的ではない患者も少なくない。症例Aは40歳代の女性であり,入院時のBMIは9.04kg/m2であった。病棟ルールは守らず,経験の浅いスタッフには高圧的に振る舞った。退院のめどは立たず,私たちの援助はすべて拒否されているように感じられ,チームは疲弊していった。難治例の治療では,治療者が他のスタッフに援助を求められずに孤立してしまうことがある。そうならないためには,多職種によるカンファレンスなど,誰かに相談する機会を定期的にもつことが役に立つ。また,チームの限界について患者と率直に話し合うことも重要である。これは,彼女たちの中にある健康な自己と手を結ぼうとする試みでもある。結果としてA は転院したが,治療は継続した。難治例の治療においては,退院以外にもさまざまな選択肢について考えられる柔軟な思考が求められる。