著者
藤澤 大介 能野 淳子
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.10-17, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
13

認知行動療法は,認知の柔軟性を高め,積極的な行動変化を促す治療であり,レジリエンス向上に大きく関連する領域をターゲットにしているといえよう。認知行動療法を実施する際には,個々の症例に合わせて治療を計画することが重要であり,重症・複雑な症例ほど,こういった“症例の概念化”が重要である。本稿では,レジリエンス向上を意識した認知行動療法の概念化と治療計画の立て方を解説する。重篤な身体疾患への罹患は多くの人が体験する逆境の一つであり,レジリエンスに関する普遍的なテーマを提供してくれると考えられ,がん患者に認知行動療法を適用した事例を解説した。
著者
藤澤 大介
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.370-377, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
23
被引用文献数
1

がん患者に対する認知行動療法は,身体症状に対する介入と,精神症状に対する介入とに大別される。後者はさらに,狭義の認知行動療法(ベックの古典的認知行動理論に基づくより厳密な意味での認知行動療法)と,広義の認知行動療法(ストレス訓練,リラクセーション法などといったさまざまな認知・行動的技法を含む認知行動療法的アプローチ)に分けられる。本稿では,身体症状・精神症状のそれぞれに対する認知行動療法の効果についてレビューし,さらに狭義の認知行動療法の具体的なアプローチについて解説した。
著者
渡邉 明 名越 泰秀 黒田 友基 福居 顯二
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.277-286, 2011-07-15 (Released:2015-05-20)
参考文献数
27

2010年7月~12月の6カ月間で,京都第一赤十字病院入院中にせん妄と診断された21名のがん患者を対象に,quetiapine(QTP)の有用性についてのopen studyを行った。せん妄の重症度はDelirium Rating Scale Revised 98(DRS-R98)を使用し,QTP 50 mgから開始して,DRS-R98が50%以上改善するまで1日ごとに増量した。DRS-R98は平均20.6から6.7に有意な改善を認め,平均投与量は147.3 mg,改善までに平均2.0日を要した。介護負担の評価に関しては,介護者や担当看護師を対象にVisual analogue scale(VAS)を用いて評価し,平均6.8から1.6と有意な改善を認めた。有害事象は眠気とめまいを1例ずつ認めたが減量にて改善した。有害事象での投与中止例はなかった。
著者
大野 裕
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.239-244, 2014-07-15 (Released:2017-08-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1

認知行動療法は認知,つまりものの受け取り方や考え方に注目して,気持ちや行動をコントロールできるように手助けする精神療法(心理療法)である。私たちは,ストレスを体験すると抑うつや不安などの気分の変調を体験する。そうしたときに,私たちはその気分に直接働きかけることができないが,考えや行動に働きかけて気分を改善することはできる。そうした視点を活用した治療法が認知行動療法であり,うつ病をはじめとする精神疾患の治療法として効果を実証し,世界的に広く使われるようになっている。本稿では,行動活性化や認知再構成法などの認知行動療法の技法について紹介し,薬物療法を補完して治療効果を高める認知行動療法的アプローチ,さらには,認知行動療法活用サイト『うつ・不安ねっと』(http://cbtjp/)などのIT 技術を活用したアプローチについて概説した。
著者
羽多野 裕 福居 顯二
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.384-390, 2013-10-15 (Released:2017-02-03)
参考文献数
45

Informed consent(説明と同意)は患者中心の医療を行ううえで重要なプロセスであるが,患者・医療者双方ともにその重要性の認識は未だ不足している。また急速な高齢化による認知症患者の増加により,同意能力が低下し自らの医療の決断に困難を要する患者に対する意思決定支援が今後急務となる。しかし支援体制はまだ充足しているとはいえず,代理意思決定権の問題についても法的整備が追い付いていないのが現状である。認知症をはじめとする精神疾患患者を診断・治療し意思決定を支援することは,これからの精神科医の役割として重要である。
著者
筒井 幸 神林 崇 田中 恵子 朴 秀賢 伊東 若子 徳永 純 森 朱音 菱川 泰夫 清水 徹男 西野 精治
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-50, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
42

近年,統合失調症の初発を想定させる精神症状やジスキネジア,けいれん発作,自律神経症状や中枢性の呼吸抑制,意識障害などの多彩な症状を呈する抗NMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)受容体抗体に関連した脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎と略する)の存在が広く認められるようになってきている。若年女性に多く,卵巣奇形腫を伴う頻度が比較的高いとされている。われわれは合計10例の抗NMDA受容体抗体陽性例を経験し,これを3群に分類した。3例は比較的典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過をたどり,免疫治療が奏効した。他の7例のうち3例は,オレキシン欠損型のナルコレプシーに難治性の精神症状を合併しており,抗精神病薬を使用されていた。また,残り4例に関しては,身体症状はほとんど目立たず,ほぼ精神症状のみを呈しており,病像が非定型であったり薬剤抵抗性と判断されm-ECTが施行され,これが奏効した。
著者
小澤 いぶき 宮崎 健祐 田中 哲 市川 宏伸 黒田 安計
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.222-229, 2012-07-15 (Released:2016-05-29)
参考文献数
10

背景:東京都立小児総合医療センタ-児童・思春期精神科(以下当科)は,2010年3月の開院後より小児精神科救急を導入している。今回,診療開始から1年間に当科へ緊急入院した患者の統計および,そのなかで身体合併症治療目的に緊急入院となった患者の統計を集計したので報告する。対象と方法:2010年3月から2011年3月までの1年間に,当科へ緊急入院した患者について診療録に基づき統計をとり,そのなかから身体合併症目的に入院した患者について検討した。診断にはICD-10を用いた。結果:開院後1年間で当科に緊急入院した患者総数は122名で,診断としては統合失調症が最も多く,次いで多かったのが発達障害圏であった。このうち,身体合併症治療目的での緊急入院は6名であった。考察:統合失調症に次いで多かった発達障害圏の患者の入院治療は,その特性理解と,それをふまえた対応が求められる。小児精神科の緊急入院が可能な医療機関が限られているなか,そのような患者の身体合併症治療における当科の役割および,他科,他院や関係機関との連携についての検討を行った。
著者
池本 桂子 駒沢 大輔 村尾 亮子 小山 敦
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.143-147, 2011-04-15 (Released:2015-04-02)
参考文献数
4

2011年3月11日の東日本大震災後の3カ月間に,第一原子力発電所に最も近い中核総合病院である,いわき市立総合磐城共立病院(819床)の3次救命救急センターを受診後入院し,リエゾン科にコンサルトされた自殺企図症例11例(男性2例,女性9例)の臨床像を検討した。女性症例が男性の4.5倍を占め,年齢的には20歳代が6例と半数を占めた。神経症圏の20歳代女性の過量服薬(急性医薬品中毒)と自傷が多く(4例),中高齢者のケース(3例)では,縊頸・農薬服毒など成功率の高い手段が用いられていた。関連する状況と要因は,過労と家庭内トラブルの表面化(4例),異性間の問題(3例),飲酒(3例),農業・自営業の先行きと放射能への不安(3例),不眠の長期化と抑うつ(3例),不安障害・心的外傷後ストレス障害の再燃・発症(3例)など,多岐にわたっていた。昨年同時期と比較すると,自殺企図による同センター受診例は,女性の急性医薬品中毒がいずれも最多であり,既遂自殺者は,男性は1例と変化がなかったが,女性は0から4例に増加していた。
著者
新井 久稔 井上 勝夫 浅利 靖 宮岡 等
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.15-23, 2017-01-15 (Released:2023-09-07)
参考文献数
13

北里大学病院救命救急・災害医療センター(以下当センター)に勤務する精神科医の立場として,救命救急センターに搬送され精神疾患が疑われた患者に対する対応に関して検討した。筆者は,救命救急センターに搬送となった急性薬物中毒や縊首,墜落外傷,刺切創など自殺企図の症例や,重篤な身体疾患の治療にて入院となり精神症状を合併した症例などに精神科医としての立場から対応している。当センターでは,①救命救急センターにおける精神科医の関与は自殺企図症例の割合が高いこと,②自殺企図症例の精神科診断は,F3(気分障害)の割合が高く,退院後精神科医療機関へつなぐケースの割合も高いこと,③自殺企図の手段により,入院期間に影響(過量服薬は短期間,転落外傷は入院が長期化)する傾向が見受けられた。さらに,救命救急センターに勤務して感じた点は,①従来の報告どおり,救命救急センターに搬送される患者のなかでも自殺企図患者が1割以上を占めて高いこと,②精神科医としての役割において自殺企図患者の対応が中心であること,③救命センターのベッドは早い回転が必要であり,早めの治療・ケースワークの必要とされること,④精神科医療機関との効率的な連携に関してはさらに検討が必要と考えられた。
著者
大野 裕
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-28, 2016-01-15 (Released:2018-11-15)
参考文献数
6

認知行動療法の方略(スキル)は日常的に使われているストレス対処法をわかりやすくまとめたものであり,うつ病などの精神疾患の治療としてだけではなく,一般身体疾患での精神的苦痛や,さらには日常生活でのストレスへの対処法として広く用いることが可能である。そこで本稿では,認知行動療法で重視される概念化(定式化),つまり「みたて」に基づくアジェンダ設定と治療技法の選択,および治療関係を軸に,認知行動療法を総合病院精神科の診療で活用する可能性について検討した。
著者
小林 清香
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.332-339, 2016-10-15 (Released:2022-11-05)
参考文献数
11

多職種が関与するコンサルテーション・リエゾン活動における心理職の役割や機能,実際の活動のためのポイントを整理した。心理職によるコンサルテーションは精神科医との連携を図り,精神医学的・心理学的アセスメントに基づいて行われる。臨床心理職は患者に対する心理療法のほか,コンサルティに対する助言や,医療者−患者・家族間,医療者間の関係調整も行う。コンサルテーションにおいて不可欠であるコンサルティとの協働体制を構築するうえで有用と考えられる,段階的ケア・モデルをはじめとするいくつかのモデルについて触れた。また,心理職による,認知行動モデルを用いたコンサルテーションの実際を紹介した。
著者
渡邊 衡一郎
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.262-267, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
19

うつ病治療において認知行動療法(CBT)が保険適応となり,改めて非薬物療法的アプローチが注目されている。本稿ではうつ病を例にとり,非薬物療法的アプローチの国内外のガイドラインにおける位置づけと,実臨床への応用の可能性について言及した。国内外のうつ病治療ガイドラインを概観すると,薬物療法は中等症例以上では推奨されているが,軽症例では次善の策に位置しており,むしろ当事者を適切な方向に導くような非薬物療法的アプローチが推奨されている。さらには当事者の背景や希望・嗜好などによって治療アプローチが決められることが望ましいとされる。その決め方としては,当事者と治療者がともに治療方針を決定するShared Decision Making (SDM)が推奨される。当事者が「安心・満足・納得」し,その結果レジリエンス(自己回復力)を刺激するようなアプローチこそ意義があると考える。今後,当事者を安心させる支持的精神療法の重要性も認識しつつ,より多くの非薬物療法的アプローチをわれわれ臨床医が治療選択肢に加えられるよう努めなければならないだろう。
著者
川島 啓嗣 諏訪 太朗 村井 俊哉 吉岡 隆一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.168-174, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
24

電気けいれん療法の刺激を構成する個々のパラメータは,それぞれ固有の神経生物学的効果を有し,有効性や認知機能障害に大きく影響するが,本邦においてそれらのパラメータについて十分な注意が払われているとは言い難い。本稿ではパルス波治療器で調節可能なパラメータである刺激時間,パルス周波数,パルス幅に焦点を当ててこれまでの議論を概観し,刺激時間が長いこと,周波数が低いこと,そしてパルス幅が短いことが効率的な発作誘発に有利であることを確認した。最後にパルス波治療器の最大出力で適切な発作が誘発できない場合に,刺激パラメータ調節が有効な場合があることを特にパルス幅に注目して論じ,その理論的な手がかりについて考察した。
著者
谷口 豪 當山 陽介 藤田 宗久 光定 博生 諏訪 浩
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.397-402, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
11

アミロイドーシスは,線維状の異常蛋白であるアミロイドが全身諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である。われわれは,多彩な身体症状を「身体表現性障害」として精神科クリニックにて加療されていた37歳男性に対して入院精査を行い,原発性ALアミロイドーシスとの確定診断に至った。本症例は原発性ALアミロイドーシスが特異的な症状所見に乏しく早期診断が困難であるという特徴と医療者の行き過ぎた「了解」が重なり,身体疾患を見逃した結果「身体表現性障害」と診断されていたと考えた。身体科から紹介されて受診する身体表現性障害疑いの患者のなかには,今回のように確定診断の難しい身体疾患が紛れている可能性がある。身体疾患を見落とし,すべての症状を身体表現性障害による表出と誤解しないために,本疾患のように身体科専門医をしても診断が容易でない場合があることを念頭に置くことが,リエゾン精神医学の実践に不可欠である。本症例は一方でヒステリー的な性格特性と行動様式も有しており,これにアミロイドーシスの身体諸症状が取り込まれる形をとっていた。当院における診断はアミロイドーシスと身体表現性障害の併存とした。われわれは,本人の性格や葛藤状況を適切に「了解」し,それに基づく治療的配慮を施しながら慎重に診断作業を継続したことにより,身体疾患の確定診断を得た。精神科診療における「了解可能性」の判断の確かさが問われていることに気づかされた症例であった。
著者
清野 仁美 湖海 正尋 松永 寿人
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.270-277, 2014-07-15 (Released:2017-08-29)
参考文献数
25
被引用文献数
1

精神障害を有する妊産婦では,周産期において向精神薬の中断や心理社会的ストレスなどによる精神障害の再発や悪化のリスクが高まるが,予防のための系統的なストラテジーは確立されていない。このため,精神障害患者が周産期において直面する問題のマネージメントを行い,既存障害の悪化を予防し,リプロダクティブヘルスの向上を目指した介入が求められている。今回われわれは,精神障害を有する妊産婦への1)心理教育,2)Shared Decision Makingに基づいた周産期ケアプランの作成,3)社会福祉資源の導入,4)家族教育,5)養育スキルトレーニングで構成される,包括的介入プログラムを作成し,その効果について前方視的調査を実施した。結果,介入後および産後1カ月の時点で,精神症状や全体的機能水準の改善が示唆された。本研究は対照群を設けないオープン試験であり,今後,対照群を設けた多施設研究によりさらに症例数を増やして検討することが望ましいと考える。
著者
横田 雅実 木村 真人 池森 紀夫 中尾 泰崇 中山 菜央 廣橋 愛
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.221-226, 2010-07-15 (Released:2014-07-01)
参考文献数
10

向精神薬の副作用である口渇は,治療コンプライアンスやQOLを低下させる障害である。そこで本研究では,口渇症状を訴える向精神薬服用者に対して,抗コリンエステラーゼ作用による唾液分泌促進効果が報告されているH2遮断薬nizatidineを投与し,その効果を検討した。当科外来受診中の向精神薬服用者のうち,口渇を訴えた22名(男性6名,女性16名,平均年齢53.1±14.8歳)を対象とし,nizatidine(アシノンⓇ)を通法に従い,8週間投与し,口渇自覚症状スケールを用いてその間の口渇症状の変化を観察した。その結果,nizatidine投与前と比較して,4週,8週で口渇症状は改善した。このことより,nizatidineは向精神薬服用者の口渇症状改善に有用と思われた。
著者
黒木 宣夫 桂川 修一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.290-296, 2015-10-15 (Released:2018-11-01)
参考文献数
9

改正労働安全衛生法が2014年6月25日に公布され,2015年12月より50人以上の事業所に義務化される。筆者は2004年度に某大学病院で従業員の自殺企図を契機に相談室を開設し,2010年度より筆者がWEB上でストレスチェック(簡易ストレス調査)を年1回実施しているが,その具体的取り組みと高ストレス者の判定方法に言及し,改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の概要に関して報告する。
著者
野田 賀大
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.132-146, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
82

rTMSやMSTの現況について,主に海外のガイドラインを紹介しながらそれらの知見を概説した。薬物治療抵抗性うつ病(TRD)に対するrTMSは,急性期治療としてはECTには及ばないものの,再発予防目的の維持療法としてはECTと同等である可能性が示唆されている。MSTに関しては,急性期治療においてもECTと同等の治療効果が期待できる治療法であり,施術後の回復もECTと比べ非常に早いという特徴がある。さらにrTMSやMSTは,ECTが抱えているような社会的スティグマや認知機能障害などの副作用が非常に少なく,費用対効果もECTとほぼ同等であると考えられている。神経刺激治療は,薬物による副作用を軽減し,長期的には全体の医療費を抑制できる可能性も十分秘めている。今後は,rTMSをはじめとした神経刺激の治療メカニズムをさらに詳細に解明していくことで,治療パラメータやプロトコルの最適化を図り,将来的には患者個人の病態に合わせた個別化医療が実現する日がくるかもしれない。
著者
吉井 初美 北村 信隆 齋藤 秀光 赤澤 宏平
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.268-277, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
28
被引用文献数
1

健康への悪影響が懸念される精神保健分野の課題の1つであり,かつ障害予防歯科における課題でもある精神障害者の口腔衛生問題に関し,統合失調症患者に対する口腔衛生支援の促進をめざし,1)国内外の文献による統合失調症患者における口腔衛生研究動向を概観し,2)今後のわが国の統合失調症患者に対する効果的な口腔衛生支援のあり方と課題を考察した。国内研究では事例報告と口腔衛生調査結果が示されていた。国外研究では,口腔衛生調査結果と統合失調症に特有の口腔衛生に関する概説とが示されていた。それらの内容検討から,口腔衛生指導に関する疫学研究の促進,および口腔衛生指導の実践・導入のための組織的な支援体制の整備,さらにわが国の精神保健医療福祉システムに則した効果的な支援方法の検討が必要であると考えられた。
著者
谷口 豪 澤田 欣吾 渡辺 雅子 成島 健二
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-20, 2014-01-15 (Released:2017-05-03)
参考文献数
38
被引用文献数
1

総合病院における精神科臨床の現場においては,症状性精神病やせん妄などの意識障害を基盤とした精神症状に遭遇する機会が多いため,脳波を用いた意識障害の評価はきわめて重要である。しかしながら,わが国の若い世代の精神科医は脳波に対する苦手意識をもつことが多く,必ずしも適切に脳波を活用しているとは言い難い。結果として,脳波が治療方針の決定の過程において重要な役割を担っているという認識が乏しくなっている。そこで,本論文においては,筆者らが実際に経験した,脳波の判読が治療方針の決定に大きな役割を果たして効果的な治療に結びついた実際の症例を呈示することで,脳波検査のもつ重要性に対する注意を喚起した。わが国の若い世代の精神科医が,精神科医にとって歴史的に“付き合いの長い”脳波検査に親しみを感じ,興味をもって臨床の現場で有効に活用するための一助となれば幸いである。