著者
海老沢 研
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.670-677, 2008-09-05
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

人工衛星を用いた宇宙観測データは,一定の占有期間の後,解析ソフトウェアとともに無償で公開されることが世界的な標準となっている.データが長期間にわたってアーカイブズ化され,世界中の科学者によって広く共有されることにより,数多くの成果が生み出されるのである.それを目的とし,各国の公的機関が多くの予算とマンパワーを費やして構築した「宇宙科学データアーカイブズ」は,人類共通の貴重な知的財産と言えよう.また,宇宙科学データは,他の多くの分野の科学技術データとは異なり,その利用に金銭的な利害や倫理的な問題が絡まない,という特徴がある.その特徴を生かし,最先端の宇宙科学データを真っ先に取得して世界に公開することは,それによって国際社会からの信頼とリーダーシップを勝ち取るための貴重なソフトパワーになりうる.今後,各国が協力して科学データ共有を進め,国と国との間の信頼関係を高めていくことによって,「科学による安全保障」を実現できるようになるかもしれない.
著者
Tomonaga Sinitiro
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
理論物理学の進歩 (ISSN:0033068X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.544-569, 1950-08
被引用文献数
16 278

The fact implied by Bloch several years ago that in some approximate sense the behavior of an assembly of Fermi particles can be described by a quantized field of sound waves in the Fermi gas, where the sound field obeys Bose statistics, is proved in the one-dimensional case. This fact provides us with a new possibility of treating an assembly of Fermi particles in terms of the equivalent assembly of Bose particles, namely, the assembly of sound quanta. The field equation for the sound wave is found to be linear irrespective of the absence or presence of mutual interaction between particles, so that this method is a very useful means of dealing with many-Fermion problems. It is also applicable to the case where the interparticle force is not weak. In the case of force of too short a range this method fails.
著者
井上 太郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.830-837, 2000-11-05
被引用文献数
2

我々は通常,宇宙は無限に拡がっているものと思い込んでいるが,実は有限の体積をもち,無限に繰り返している有限な周期構造を「無限」と錯覚しているのかもしれない.然らば,我々は如何にして,宇宙の多重連結性,即ち「有限性」を知ることが出来るのであろうか? 本稿では宇宙背景輻射の非等方性を用いた宇宙の多重連結性の観測的検証について解説する.
著者
広重 徹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.380-388, 1971-06-05

特殊相対性理論はMichelson-Morleyの実験から生まれたという, ほとんどだれもが当然のこととしている解釈はじつは根拠のない神話であることが, 最近の物理学史研究によって明らかとなる. なぜそれを神話と判断するのか. それが支持できないとすれば, 代わるべき解釈はいかなるものか. 歴史的背景とEinsteinの思考の発展との両面から考察してみよう.
著者
田中 彰則 田崎 晴明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.434-438, 2011-06-05

われわれは強磁性が生じる機構をミクロな量子多体系の問題にさかのぼって理解することを目指して研究を進めている.ここでは,「金属強磁性」つまり「同じ電子が強磁性と電気伝導の双方に寄与する」現象を,ハバード模型という理想化されたモデルから厳密に導く最近の研究について述べる.専門外の読者を想定し,モデルと結果の概要を中心に解説する.
著者
那須野 悟
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.775-778, 1998-10-05

粉体の層に剪断応力を加えると何が起こるだろうか?この問題は, 通常の固体とも液体とも異なる奇妙な振舞を示す粉の科学にとって重要な研究課題であるばかりでなく, ミクロからマクロに及ぶ摩擦の基本原理を理解するための新たなアプローチを我々に提供してくれる.
著者
勝木 渥
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, 1994-06-05
参考文献数
5
被引用文献数
1

私は小谷正雄先生とは実はあまりご縁がない.ただ1977年6月15日に物性研究史の「聞書き」でお話をうかがったことがあり(その記録と補遺が『数理科学』No. 365-369,1993.11-1994.3に掲載されている),その「聞書き」を準備する過程で,先生に手紙を差し上げ,お返事を頂いた.以下に述べることは,その時のお話,および頂いたお手紙に書かれていたことに基づいている.「聞書き」のとき,語り手として犬井鉄郎先生も小谷先生のお誘いで同席された.[上記「聞書き」記録の発言には,すべて番号が振ってある.以下の文章の随所に現れる( )付きの数字および(補遺-n)は,その記録の発言番号,および補遺の番号を示す.なお,以後,敬称を省く.]また,東京理科大学の定期刊行物「SUT Bulletin」に高木佐知夫・目黒謙次郎による「聞書き」記録が8回にわたって連載されている(1990.9-1991.3および1991.5)が,随時この記録も援用する[(B-n)は同誌連載n回目の記事に基づくことを示す].
著者
呉 健雄 永宮 正治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.660-666, 1997-09-05

C.S. Wu氏が今年2月中旬に亡くなられた. 原子核物理学者として偉大な業績を残されただけでなく, 女性科学者として, また近隣の中国人科学者として, 戦後の日本の研究者に与えた影響は大きい. Wu氏がいかにパリティ非保存の発見をなしえたのか, 御自身が仁科記念講演会において語られた記録を再録し, 追悼にかえたい.
著者
藤森 淳 吉田 鉄平
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.815-821, 2007-11-05

高温超伝導の舞台は強い電子間クーロン相互作用がもたらす異常な金属状態である.なかでも異常な「擬ギャップ」は,超伝導転移温度T_cを超えた高温からフェルミ準位上の状態密度が減少する現象であるが,その起源はまだ明らかではない.最近の角度分解光電子分光(ARPES)実験により,擬ギャップ状態で残ったフェルミ面の一部が「フェルミ・アーク」として観測されている.固体物理学の常識では考えにくいこの現象を理解するため,理論・実験両面で精力的な努力が行われている.本稿では,興味深いフェルミ・アークに関するこれまでの研究状況を整理し,この異常な電子状態の理解が超伝導発現機構の解明にどうつながるか展望を述べる.