著者
堀川 直顕
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.614-621, 1999-08-05
被引用文献数
1

1988年EMCグループが報告したCERNにおける実験結果はこれまでの単純なクォークモデルに基づく核子スピンの描像をうちこわし, QCD適用の是非まで議論を発展させる一大センセーションを巻き起こした. その後, 10年を経てCERNでのSMC実験, SLACでの一連の実験, およびDESYのHERMES実験によりクォークスピンの役割の輪郭がはっきりしてきた. また, この間得られたデータに対するQCD解析法の発展により信頼性の高い結論が導かれてきている. QCD的扱いの信憑性を検定する「Bjorken和則」も, 測定精度の向上から理論値との比較に信頼度が増した. ここでは, EMCが提起した「核子スピン問題」のおさらい, それを解き明かすため筆者らが実行したSMC実験の紹介, 得られた結果に対するQCD解析, それから導かれるクォータスピンの役割, 今後の研究の展望について紹介する.
著者
青木 亮三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.621-628, 1990-09-05

脳は人間存在の根元に関わるものとして究極の興味ある対象であるが, まるで分かっていない. 高度の判断を司る神経線維の絡み合いは余りに複雑で, 実体の解析を拒否している. ところがその脳が全体として電気信号を発している, しかも, それが驚くほど単純な波形で観測されている. 多数の構成要素からなる系の単純な集団振動, これこそは相関の強い多体系として, 物理学研究者にとって好個の対象と考えられる. いままで生体については, ともすれば性急に物理的概念を当てはめようとしたり, 手近の解析的手法をそのまま応用することが試みられてきたが, この解説から対象に即した新しい観方やアプローチが触発されれば幸いである.
著者
江沢 洋
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.467-471, 1994-06-05

468ページの写真は,小谷先生の若き日のノートの第2〜3ページである.表紙には量子力学論文輪講原稿第二集と筆で几帳面な楷書で書かれている.高校時代から親友だった犬井鉄郎が「かわいい,小学生が使うようなノート,表紙に赤い屋根がついた…」と語ったのは第一集のことか?この第二集には「赤い屋根」でなく「赤い花」がついている.横14.3cm,縦19.4cmの94ページ.罫線はない.小谷は,勝木のインタヴュー(1977年6月15日)において「大学の2年のころに,かなり量子力学の論文,といってもそう論文があるわけでもないけれど,何か学生の仲間で,論文を読んだりしていた」と言い,同席した犬井は「小谷さんはSchrodingerをやった」と応じて「とにかく,やたらに,めちゃめちゃに読んだ」と言っている.小谷ノートは,そのとき作られたのである.「原稿」とあるから,輪講の準備ということだろう.
著者
永宮 正治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, 2011-05-05
被引用文献数
2
著者
Yamanaka Yoshiya
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
Progress of theoretical physics. Supplement (ISSN:03759687)
巻号頁・発行日
no.111, pp.417-431, 1993-04-10

A model with spontaneous breakdown of symmetry in quantum field theory is studied in the framework of the Parisi-Wu stochastic quantization (SQ). Looking at the conventional treatment of the model in the canonical and the path-integral quantizations including the problems of many inequivalent Hilbert spaces and measures, we explicitly construct the SQ formulation for the model in the conventional treatment of quantum field theory. The real power of SQ is found in extending quantum field theory beyond the existing frameworks; SQ easily avoids the problems imposed by choices of Hilbert space or measure. We demonstrate it by introducing c-numbers depending on the fictitious time into the starting formal Langevin equations for the model. This new formulation in SQ thus obtained is mathematically well-defined, leading to a definite calculational scheme. The result from this shows that the masses and number of excitation modes change from those in the conventional treatment.
著者
吉田 善章
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.74-81, 2013-02-05

プラズマの運動や構造を理解するために大きな課題となっているのが<渦>である.プラズマとは,物体と場(通常のプラズマの場合は電磁場)が共変動する系のことである.物体と場の「圧縮運動」に関する研究(衝撃波やソリトンなど)は成熟の域に達しているといってよいだろう.しかし渦(回転運動やせん断運動)の問題は(プラズマならずとも中性流体においてすら)未だ極めて難しい.本稿では,プラズマの運動が生起する空間の幾何を渦論的に構築し,そのトポロジカルな性質,階層的な構造を解明する試みについて解説する.また具体的な事象として,宇宙論的種磁場の問題や,磁気圏プラズマの自己組織化を,渦=空間の歪みとして理解する最近の成果を紹介する.
著者
國仲 寛人 小林 奈央樹 松下 貢
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.658-665, 2011-09-05

正規分布は,数学や物理学において最も基本的で,重要な分布関数と考えられている.例えば,実験観測の測定誤差が正規分布に従うというのは,よく知られた事実である.だが実際には,自然界や人間社会に見られる「複雑系」とも称される系においては,べき分布や対数正規分布などの裾の長い分布関数が観測されることが多い.本稿では,対数正規分布が出現する数理的なメカニズムを紹介し,対数正規分布を基本としてべき分布や正規分布が出現し得るということを紹介する.また,自然現象や社会現象に見られる対数正規分布と,その出現メカニズムについて考察する.