著者
菊川 裕幸 小浦 誠吾
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-13, 2023-06-12 (Released:2023-06-12)
参考文献数
27

本研究は,クロモジ(Lindera umbellata)精油を用いたアロマテラピーの介入によって,要介護の高齢者に及ぼす生理面への影響や介護者の介護負担度などを検証した。対象者はデイサービスを利用する人の中から同意の得られた10人で,平均年齢は82.1±7.0歳であった。研究デザインとして,精油を使用しない対照期間,クロモジ精油を使用するアロマ期間をそれぞれ4週間設けた。結果,ストレスの評価指標である唾液コルチゾール濃度および認知機能の得点は試験区間や介入前後による有意差はなかった。施設職員の介護負担度は,介入前と比べ,対照期間2回目,アロマ期間1回目,2回目有意に減少した(p<0.05)。バイタルサインとして,脈拍は試験区間や介入前後による有意差はなかったが,血圧は収縮期血圧,拡張期血圧の一部でアロマ介入後に有意に低下した(p<0.05)。感情分析は,各活動回に有意な差はなかったが,対照期間とアロマ期間の期間ごとの比較では,対照期間よりもアロマ期間のほうがポジティブ感情は増加し,ネガティブ感情は低下した。これらのことから,クロモジアロマの塗布は認知症予防やストレス軽減につながる可能性があることが示唆された。
著者
伊藤 仁久 大西 雄己 三澤 紅 藤阪 芽以 友廣 教道 松川 哲也 遠藤 雄一 梶山 慎一郎 重岡 成
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.14-20, 2023-07-15 (Released:2023-07-18)
参考文献数
35

精油の皮膚の健康と美に関する機能性を探索することを目的に,アロマテラピーの分野で汎用される精油30種の終末糖化産物(Advanced Glycation End Products : AGEs)産生抑制およびチロシナーゼ阻害効果を評価した。その結果,ローズマリー(Rosmarinus officinalis)精油にAGEs産生抑制効果を見いだした(IC50:124 µg/mL)。また,メリッサ(Melissa officinalis)精油にチロシナーゼ阻害効果が認められた(IC50:276 µg/mL)。ローズマリー精油はAGEs産生抑制に基づくアンチエイジング効果,メリッサ精油はチロシナーゼ阻害に基づくメラニン産生抑制効果をもつ可能性があり,今後の香粧品あるいは機能性食品の分野での活用が期待される。
著者
沢村 正義 鈴木 悟 小原 典子 佐藤 美夢 東谷 望史
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.39-47, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
44

本研究は,精油の安全使用に関するアロマテラピー情報を提供することを目的として,光毒性をもつフロクマリンの定量分析を行ったものである。ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)において,内部標準としてp-クロロベンゾフェノンを使用し,また選択イオンモニタリング(SIM)モードで分析を行った。光毒性をもつソラレン,キサントトキシン,ベルガプテン,イソピムピネリン,そしてクマリン類の一種で光毒性のないオーラプテンの正確な一括分析法を確立するために9種類の質量イオンを選択した。分析した116種類の市販精油のうち,フロクマリンはセリ科およびミカン科の精油試料で,それぞれ4種類,9種類検出された。一方,オーラプテンは6種類のミカン科精油で検出された。
著者
熊谷 千津 永山 香織
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-14, 2015-10-08 (Released:2015-10-08)
参考文献数
16
被引用文献数
1

小学校高学年児童の計算力と気分に与える精油の影響を明らかにする目的で,ペパーミント油とオレンジ・スイート油を用いてランダム化クロスオーバー比較試験を行った。対象は小学6年生(11,12歳)の男子女子,合計38名であった。対象児童をランダムに2群に分け,ペパーミント油の検証を行う群,オレンジ・スイート油の検証を行う群とした。また,各群ともさらに2群に分け,実験順序による影響を消去するため,ウォッシュアウトの休憩時間を挟み,対照とする精製水と精油の実験順序をクロスオーバーさせた。気分の変化は二次元気分尺度(TDMS-ST),および,VASで評価し,計算力は10分間の百ます計算(1桁,加法)の作業数と誤答数を評価した。さらに,語彙検索力の評価として語想起課題を行った。精油の香り刺激は,精油を滴下したプレートを鼻に近づけ30秒間吸入した後,机上にプレートを置いて芳香浴を持続した。ペパーミント油は,精製水の場合と比較して,集中している,頭がスッキリする,元気がある,の3項目でVASスコアが有意に向上した。オレンジ・スイート油では,精製水の場合と比較して,イライラしていない,やる気がある,不安でない,きびきびしている,頭がスッキリしている,の5項目でVASスコアが有意に向上した。また,TDMS-STでは,オレンジ・スイート油において,活性度,安定度,快適度で有意な向上が確認された。計算力では,百ます計算作業数の平均値は,精製水,ペパーミント油,オレンジ・スイート油の場合ともに変化は見られなかった。誤答数の平均値は,有意差は認められなかったが,ペパーミント油では,精製水の場合の4.2から3.2に24%減少し,オレンジ・スイート油では精製水の場合の4.4から3.2に27%減少した。誤想起課題では,ペパーミント油,オレンジ・スイート油ともに有意な変化は見られなかった。以上のことから,ペパーミント油,オレンジ・スイート油ともに,頭がスッキリするなど,小学生の気分に好影響を与え,計算ミスが減少する傾向があることが明らかとなった。
著者
木村 竜一朗
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-24, 2015-10-08 (Released:2015-10-08)
参考文献数
21

成人T細胞白血病(ATL)は,ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)感染を原因とするリンパ性悪性腫瘍である。ATLの発症には,転写因子NF-κBが重要な役割を果たすことが知られており,特異性の高いNF-κB阻害剤の開発が悪性度の高いATLの治療に有効と考えられている。本研究でわれわれは,精油の抗ATL効果とNF-κB阻害効果について,ヒトHTLV-I感染T細胞株を用いた解析から明らかにした。試行した30種の精油のうち,ゼラニウム,イランイラン,ジュニパー,ジャスミンの4種については,顕著に細胞増殖を抑制することがわかった。さらにゼラニウムは,HTLV-I感染T細胞株の恒常的なNF-κB活性化を抑制し,その結果,カスパーゼ依存的なアポトーシス細胞死を特異的に誘導することが明らかとなった。以上の結果から,ゼラニウムは強力なNF-κB阻害効果と抗ATL効果を有することが示された。これらの知見は,ゼラニウム精油,および精油の構成成分は,NF-κBが活性化している多くの腫瘍,および種々の炎症性疾患に対する分子標的治療と緩和ケアに効果を発揮する可能性を示唆するものである。
著者
熊谷 千津 川口 光倫 齋藤 碧
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.10-21, 2018-05-31 (Released:2018-05-31)
参考文献数
21

精油の香りを纏うライフスタイルが人の魅力に与える影響を明らかにするため,二つの実験を行った。一つ目の介入実験では,参加者である女子大学生28名が3群に分かれ,精製水,50%希釈ベルガモット精油,0.5%希釈ローズ精油のいずれかを身につけて約5週間生活を行った。介入期間前後で参加者の不安(STAI, State-Trait Anxiety Inventory),対人的行動特性(NTI-II, Nursery Trait Inventory-II),気分・肌状態の実感を測定した。二つ目の顔画像評価実験では,介入実験参加者の介入期間前後における顔画像を,大学生の男女20名により評定した。介入実験では,ローズ精油群でSTAI特性不安が介入により有意に減少した。また,NTI-IIについては,ローズ精油群で「行動力」,「援助的活動性」,「情緒的受容性」の各平均値が有意に増加した。ベルガモット精油群で気分と肌状態の実感に関する項目,ローズ精油群で肌状態の実感に関する項目が有意に向上した。顔画像評価実験では,ベルガモット精油群で一部の評定項目が介入により有意に向上した一方,ローズ精油群ではすべての評定項目が介入により有意に向上した。また,介入後の顔画像の方を良いと選択した割合が対照群48.1%,ベルガモット精油群61.0%,ローズ精油群77.0%となった。本研究の結果,参加者が継続的に精油の香りを使用することで,内外面の変化とともに顔の魅力度が高まる可能性が示された。
著者
角崎 丈司 三重野 雄貴 浜出 百合菜 青木 俊介
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.25-36, 2016 (Released:2016-03-31)
参考文献数
38

精油の効能については経験的に確認されているが,その構成成分の生体における作用機序については多くが明らかにされていない。本研究ではケモインフォマティクスの各種手法を用い精油構成化学成分の病原体であるMycobacterium属およびStaphylococcus属への抗菌作用機序を解明することを目的とした。精油化学成分と標的タンパク質のドッキングシミュレーションを行い,そこで選択された23種の精油に関し抗菌作用の検証を行ったところ,6種の精油において抗菌活性が見られた。抗菌活性を持つ精油を併用時の抗菌作用の検証を行い,複数精油の併用による抗菌活性の相乗効果を見いだした。さらに,シミュレーションならびに実験結果より8種の精油構成化合物を入手し,単独での抗菌作用の検証から,7種類の化合物に抗菌作用を見いだした。これら化合物を併用した際の抗菌作用の検証実験からは,有意な相乗的抗菌作用を示す化合物の組み合わせが確認された。また,抗菌活性を持つ精油化学成分と予想される標的タンパク質との相互作用解析より,結合モデルを予測した。今回の研究結果からケモインフォマティクスの応用は,精油の抗菌作用の分子レベルでのメカニズム解明に有効であると考えられた。
著者
枝 伸彦 伊藤 大永 清水 和弘 赤間 高雄
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.28-37, 2019-12-17 (Released:2019-12-17)
参考文献数
34

本研究では,エッセンシャルオイルを用いた香り刺激が安静時の口腔内免疫能および心理状態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。健康な成人男性16名を対象として,30分間の香り刺激の前後および30分後に口腔内免疫能,自律神経活動,心理ストレス指標を測定した。ベルガモット,ラベンダー,レモンの3種類のエッセンシャルオイルを用いて,噴霧量の強弱に分けた6試行とコントロール試行の合計7試行をランダム化クロスオーバーデザインにて実施した。その結果,ベルガモット「弱」試行にて,香り刺激の30分後に唾液中の分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A; SIgA)分泌速度の有意な増加がみられた。コルチゾール濃度については,ベルガモット「弱」試行,ベルガモット「強」試行,レモン「弱」試行において有意に低下することが確認された。また,いずれの試行においても心理状態は有意な改善を示し,特にレモン精油の香り刺激は総合的な気分状態を改善することが明らかとなった。したがって,ベルガモット精油は免疫機能とストレスホルモンに有益な効果を示し,総合的な気分状態の改善にはレモン精油が有効であることが示唆された。
著者
熊谷 千津 山川 義徳
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-7, 2017-08-23 (Released:2017-08-23)
参考文献数
16

われわれは,ゼラニウム精油嗅覚刺激がプレ更年期女性のQOLに与える効果を明らかにする目的で,40代女性30名を対象に実験を行った。ゼラニウム精油は携帯型簡易芳香器を用いて,2月経周期の間,毎日吸入した。介入前後にMRIを撮像し大脳皮質灰白質の量(GM-BHQ),神経線維の異方性(FA-BHQ)を分析した。質問紙はピッツバーグ睡眠調査票,STAI, POMS2, VASを用いて調査した。VASにおいては,若々しさに関する4項目,生活の充足に関する6項目を評価した。解析は,実験開始より前に介入をスタートした2例を除外し28例で行った。介入によって,若々しさが増加したと感じた女性ほどGM-BHQが増加し,アンチエイジング効果が脳構造に反映している可能性が示唆された。さらに,食事が美味しくとれるなどの生活の充足度が低いと感じている女性ほど,ゼラニウム精油の嗅覚刺激によるFA-BHQの改善効果が表れやすいことが示唆された。今後は例数を増やし対照群を設けてプレ更年期のQOLに与えるゼラニウム精油嗅覚刺激の効果を追究していきたい。
著者
武田 ひとみ
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.24-30, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
12

目的と方法:成人男女19名を対象とし,芳香環境(Od)やトリートメント(T)後の睡眠時体動記録と睡眠感調査および心拍変動や気分の変化を測定し,アロマテラピーが睡眠に及ぼす影響を調べた。State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZにて特性不安と状態不安を,ピッツバーグ睡眠質問票にて睡眠状況を測定した。精油はフロクマリンを除去したCitrus bergamia FCFを1%に希釈し用いた。結果:ピッツバーグ睡眠質問票得点と特性不安との間に有意な相関(r=0.514, p<0.02) がみられ,不安傾向が強いほど睡眠に問題があった。 (T)後に疲労感や自覚的ストレスに有意(p<0.05)な低下が,気力の充実感に有意な増加がみられた。(Od)や(T)後の睡眠効率,睡眠感に改善傾向がみられ,(T)後には疲労感が有意に低下し,それらとLF/HFの変化率の有意な相関から交感神経活動の抑制が推測された。特性不安とLF/HFの変化率に有意な相関があった。以上よりベルガモットを用いたトリートメントは睡眠の質を向上させる可能性が示唆され,その効果は不安傾向の強い人に期待しやすいと推測された。
著者
藤林 真美 永友 文子 石原 昭彦
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-6, 2015-10-08 (Released:2015-10-08)
参考文献数
22
被引用文献数
1

生活習慣病への罹患は動脈硬化を促し,健康寿命に影響を及ぼすことは周知である。運動は動脈硬化の予防・改善に有効であるが,運動習慣のある成人男性は36.1%,成人女性は28.2%にとどまっている。近年,植物に由来する芳香成分(精油)を用いて鎮静や癒しを求めるアロマテラピーが人気を博している。本研究では,「運動時に精油を芳香させることで心身が鎮静して,運動を楽に行える」と仮説を立てて検証を行った。10名の健康な中年女性(年齢:53.6±8.0,BMI:24.5±3.2)を対象に,自転車を用いた有酸素運動を20分間行わせた。運動前と運動中に心拍数および自覚的運動強度を測定した。運動中にグレープフルーツ精油(学名:Citrus paradisi)を芳香する精油試行と芳香を行わない対照試行の間でクロスオーバー試験を行った。その結果,精油試行では対照試行と比較して自覚的運動強度の変化率が有意に低下した。本研究から,精油芳香によって「運動を楽に行うこと」が期待でき,肥満の予防・改善を目指した運動処方に応用できると結論した。
著者
菊川 裕幸 三輪 邦興 八尾 正幸
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-8, 2022-09-22 (Released:2022-09-22)
参考文献数
26

本研究では精油の抽出にあたり,簡易な方法で製作,使用できる水蒸気蒸留装置を試作し,その性能を評価した。また,試作機を用いて,兵庫県丹波市の里山の樹木から分析事例の少ないヒメクロモジ(Lindera lancea),アブラチャン(Lindera praecox),コクサギ(Orixa japonica)の3種を選定し,精油の抽出および成分分析(GC–MS分析)を行った。結果,水蒸気蒸留装置は,市販品よりも安価(製作費約6万円)かつ短時間(約3時間)で製作された。装置の重量は約13.5 kgで,植物材料は1.5 kg,水は1.5 Lまでの蒸留が可能で,屋内外でも使用できる持ち運び可能な装置である。得られた3種類の精油の含有成分は,ヒメクロモジ35種類,アブラチャン40種類,コクサギ39種類であった。精油の主成分は,ヒメクロモジではリナロール(41.26%),アブラチャンではカンファー(22.60%),コクサギではα-ピネン(23.81%)であった。近年の分析結果が少ないその成分が本研究で明らかになった。これらのことから,教育現場や里山などさまざまな場所で地域資源を利用した和精油による嗅覚教育の可能性が高まった。
著者
沢村 正義 佐藤 彰洋 芦澤 穂波 中島 悦子 石鍋 佳子 浅野 公人 東谷 望史
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.37-46, 2021-06-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
38

本研究は,アロマテラピー向けの22種類のキャリアオイルに存在するビタミンEおよびフィトステロール含量を明らかにしたものである。キャリアオイル中のビタミンEの8種類の同族体であるα-, β-, γ-, δ-トコフェロール,α-, β-, γ-, δ-トコトリエノール,およびフィトステロールであるカンペステロール,スチグマステロール,β-シトステロールを選択的イオンモニタリング(SIM)モードを使ったガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)により分析した。抗酸化能,皮膚の角質化の防止,抗炎症などの機能活性を有しているビタミンEおよびフィトステロールが,多くのキャリアオイルで含量の違いはあるが検出された。22個のオイル試料のうち,トコフェロール含量がもっとも高かったのは有機カレンデュラオイルであり,次いで小麦胚芽オイル,有機アルニカオイルであった。トコトリエノールは13種類のキャリアオイルで検出された。グレープシードオイルは,ビタミンEの8種類の同族体をすべて含有するキャリアオイルであり,また,α-トコトリエノールの含量がもっとも高かった。フィトステロールに関しては,小麦胚芽オイル,ホホバオイル・バージンのみならず,ほとんどのオイルでも顕著に多く含まれていた。本研究の結果から,トリートメントにおけるキャリアオイルの役割は皮膚に対する物理的効果に加えて,ビタミンEおよびフィトステロールによる生理的効果の可能性が示唆された。
著者
吉本 隆治 天満 和人 田中 敦
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.17-23, 2021-06-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
40

【はじめに】鹿児島県の県木はクスノキであり,これは江戸時代の薩摩藩から続いた樟脳生産と歴史的に関係がある。現在も指宿市開聞でクスノキの一種の芳樟から精油を生産している。芳樟精油は,ラベンダー精油と同様,鎮静作用があるとされるl-リナロールが主成分である。ラベンダー精油を用いたアロマテラピーの芳香療法は,リラックス効果をもたらすことがさまざまな先行研究により示されている。本研究の目的は,芳樟精油を用いた芳香療法の効果について,自律神経機能の面から検討することである。【方法】対象は健常若年女性17名で,方法は椅座位にて安静(5分)・芳香(5分)・芳香後(10分)とし同時に指尖脈波計より脈波を収集した。ティッシュに芳樟精油を1滴(0.05 mL)垂らし嗅ぐ芳香療法とした。解析はTAOS社製のソフトを用い,高周波成分(HF),低周波成分(LF),心拍数(P),心拍変動係数(CVRR),エントロピーを算出した。測定前後で疲労感と芳樟精油の好き嫌いをVisual Analogue Scale(VAS)で,香りの印象をアンケートで聴取した。【結果】芳香条件では安静条件と比較して,副交感神経活動の指標であるHFは有意な増加,交感神経活動の指標であるLF/HFは有意な低下を認め,疲労感VASも有意な疲労感改善を認めた。【結語】芳樟精油の芳香療法を行うと,5分間でHFが増加しLF/HFが低下したことから,芳樟精油は数分で副交感神経系を優位にし,自覚的疲労感を改善する可能性が示された。
著者
小林 奈保子 下田 実可子 清水 綾音 川原 正博 田中 健一郎
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-9, 2021-02-05 (Released:2021-02-09)
参考文献数
17

皮膚は表皮(ケラチノサイト),真皮(ファイブロブラスト),皮下組織から構成されており,生体内部の保護や体温調節などの役割を果たしている。また,表皮最下層の基底層にはメラニンを産生するメラノサイトが局在している。一方,紫外線(UV)などの刺激に曝されると,皮膚障害(ケラチノサイトでの細胞死)・メラノサイトでの過剰なメラニン産生・ファイブロブラストでのコラーゲン産生低下が起こる。このように,皮膚がUVに繰り返し曝露されると,酸化ストレスによる障害が蓄積し,シミ・シワを特徴とする「光老化」が引き起こされる。そこで,本研究では,酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する精油を網羅的スクリーニングにより発見することを目的として実施した。その結果,ラベンダー精油がケラチノサイト保護とコラーゲン産生低下の回復,ジャスミンAbs.がメラニン産生抑制とコラーゲン産生低下の回復という複数の保護作用を持つことを見いだした。また,これらの保護作用は抗酸化作用を介する可能性が示唆された。今後さらなる解析を行い,酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する最適な精油を提案したい。
著者
諏訪 竜一 大見謝 恒太 西原 隆 高橋 昌弘 住 秀和 殿岡 祐樹 河野 恵美子
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.19-23, 2020

<p>沖縄県における海洋汚染の主たる原因の一つとして,畑地からの赤土流出が挙げられる。これらの赤土流出保全のため沖縄県においてはベチバー(<i>Vetiveria zizanioides</i>)がグリーンベルトとして広い地域に植栽されている。本研究では,このグリーンベルトとして栽培がされているベチバーから精油の採油が可能であるか,また,市販の精油との比較,さらに採取時期による採油率の変化および成分変動の有無について検証を行った。本研究で比較のために用いた二つの市販精油(インドネシア産およびスリランカ産)では精油中の組成成分の構成が異なっていた。採油を行った精油中の特長では,最も主要な成分ではkhusimolやvetiselinolなどのアルコール類が主要であり,この傾向はインドネシア産と同様であった。また,初夏と初冬における採油率(乾物重あたり)を比較した場合,初夏において0.62%であるのに対して初冬においては0.34%であった。一方,精油製造時に季節を問わず,構成成分の変動が比較的小さかった。このため,採油時期に起因する品質の不安定の懸念が少ないことが示された。今後,グリーンベルトを用いた精油の製造が進むことにより,一次産業とアロマ業界が複合することによる環境保全の促進につながることが想定される。</p>
著者
金子 知生 大塚 麻衣 飯田 順一郎
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.31-38, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

アロマテラピーの歯科矯正治療に伴う歯痛の緩和効果を評価することを目的とした。被験者は歯科矯正治療で上顎左右第一大臼歯の近遠心に歯間離開を行う患者48名(平均26歳5カ月,男性19名,女性29名)とした。最小化法でラベンダー,ペパーミント,プラセボ(精製水)の3群へ割り付けし,歯間離開開始48時間後にアロマテラピーを1時間行った。歯間離開直後,3, 6, 12, 24, 48時間後,アロマテラピー開始30分後,1時間後に自発痛の評価をvisual analogue scale(VAS)で行った。また,歯間離開直後,48時間後,アロマテラピー開始30分後,1時間後に,打診痛のVASによる評価を行った。さらに,アロマテラピー施行中は近赤外線分光法(NIRS)で血中の酸化・還元ヘモグロビン量を1時間観察した。また,アロマテラピー施行前後にProfile of Mood States(POMS)のアンケートを行った。VASとNIRSによる評価によりラベンダー群は最初の30分は歯痛緩和の効果がみられ,ペパーミント群はラベンダー群より効果がみられた。また,POMSの評価は吸入後にすべての項目で減少した。以上よりアロマテラピー吸入法が,歯間離開における歯痛に対する緩和効果をもたらす可能性が示唆された。