著者
志水 宏行
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.323-340, 2022-07-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
87

煙型雪崩と火砕流は,粒子濃度の成層構造をもつ固気混相重力流である.本論文では,既存の二層火砕流モデルについてレビューし,二層火砕流モデルの雪崩への応用可能性について議論する.二層火砕流モデルは,成層化した流れの上部を低濃度乱流サスペンション流として,下部を高濃度粒子流としてモデル化し,それらの相互作用(粒子のやりとりなど)を考慮することによって,火砕流の流動・停止を評価する.特に,高温である火砕流の上部低濃度流の停止プロセス(低濃度流が周囲大気より軽くなり離陸するプロセス)を評価するために,低濃度流上面から取り込まれた周囲大気の熱膨張の効果が評価される.煙型雪崩の流動・停止における多くの物理プロセスは火砕流と共通する.しかし,煙型雪崩の上部低濃度流(雪煙り層)の停止プロセスは,火砕流とは異なり,低濃度流内部の乱れ速度の減少によって流れ内部の全粒子が沈降するという物理プロセスによって説明される.このプロセスを二層火砕流モデルに組み込むことにより,雪崩・火砕流の統一モデルを構築できることが期待される.
著者
上村 靖司 星野 真吾
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.477-485, 2008 (Released:2021-04-09)
参考文献数
5

一般に氷を製造する場合の熱移動は,熱伝導または対流熱伝達が支配的であり,放射を工業上利用した製氷技術は見当たらず,その得失は未知である.本研究は,放射冷却による製氷(放射製氷) の技術開発を目的とし,実証実験装置を試作しその製氷過程の観察を行った.実験装置は低温熱源と断熱水槽で構成され,両者の間の熱伝導と対流熱伝達を排除し,かつ霜の成長を抑制するための真空層を挿入した. 実験は雰囲気温度約2℃に保持された低温室内で行い,水槽側面の静止画像撮影と水温測定を行った.初晶は冷却開始から数時間後に水槽上面で自然発生し,その後鉛直下向きにほぼ一定速度で成長し,40時間で約20mm の厚さとなった.その間の成長速度は0.6mmh-1であった. 生成された氷は目視では完全に透明で気泡も見られなかった.そして結晶は全体が鉛直方向をc軸とする単結晶であった.熱伝導による製氷(伝導製氷)と比較を行った結果, 伝導製氷は氷が厚くなると成長速度が低下するのに対し,放射製氷では速度低下が見られず,また取り込まれる気泡のサイズが小さいという違いが見られた.
著者
杉山 慎 近藤 研
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.193-204, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
48

北極域では,温暖化に伴う環境変化が人間社会に影響を与えつつある.本稿ではその事例として,グリーンランドで発生した氷河流出河川の洪水災害を紹介し,数値モデルを用いた氷河融解と流出量解析について解説する.2015 年7 月21 日と2016 年8 月2 日に,グリーンランド北西部カナック氷河の流出河川が増水し,村と空港を結ぶ道路が破壊された.これらの事象を詳しく解析するために,2017-2019 年に氷河と河川で実施した観測に基づいて,氷河融解・流出モデルを構築した.この数値モデルによって2015年と2016年の流出量を再現したところ,両年の洪水時における流出量は,一時間値で9.1 および19.9m3 s−1 と示された.2015 年の洪水は,氷河全域平均で51mm w.e. d−1に及ぶ雪氷融解によるもので,2015-2019年では2 番目に顕著な融解イベントであった.一方で2016年の洪水は,2015-2019 年で2 番目の規模を持つ豪雨(90mm d−1)によるものであった.数値実験の結果は,気温上昇,強風・降雨の頻度増加,裸氷域の拡大などの環境変化が,氷河流出量の増加傾向をもたらすことを示している.
著者
小玉 正弘
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.207-211, 1977
著者
及川 周
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.1-4, 1949

雪の多い地方の生活には, 他では見られない特殊な様式が衣食住の各方面に亘つてあらわれて居り, それば降雪期には勿論のこと, 雪の無い時期に於ても, 直接間接に多かれ少かれ雪と云うものに支配され影響をうけて居ることが多い。<BR>單に住まいの點から丈け見ても, 家の構造は雪につぶされない様にがつちりしたものになり, 雪の吹つ込みを防ぐ爲に窓口が少くなる。一面そのために家の中が暗くなるし, 換氣の具合も惡くなる。家の外側を藁や莚で雪圍することも他には見られないことである。住まい方の點から云つても, 雪國の冬はどうしても蟄居の生活になり勝ちだし, 雪下ろしと云う余分な特殊の勢働るある。炉と云うものも雪國に於ては特別の趣がある。<BR>ここには主として保温, 防濕乃至雪國の人の温感などと云う立場から, 雪圍や炉邊や就眠のことに就いで調べた成績を述べで見たいと思う。
著者
渡辺 興亜
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.279-285, 2000-05-15
参考文献数
11

南極氷床内陸部および日本列島の積雪域における広域雪氷観測を通じて, いかにして雪氷化学観測の方法が確立していったかを筆者の個人的経験を回想しつつ述べた.
著者
深澤 倫子
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.369-375, 2009 (Released:2021-04-09)
参考文献数
16

氷や雪のもつ“滑りやすさ”は,スキーやスケート等のウィンタースポーツには欠かせない.この“滑りやすさ”の秘訣は,結晶氷表面の構造にある.結晶氷表面には,融点以下の低温においても,擬似液体層と呼ばれる液体状の層が存在することが知られている. 擬似液体層は,1859年にFaradayによってその存在が提唱されて以来,一世紀以上にわたり,多くの研究者の興味を惹きつけてきた.本稿では,最近の分子動力学計算による研究を中心に,氷表面の構造とダイナミクスについて解説する.
著者
川田 邦夫
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 : 日本雪氷協會雜誌 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.131-136, 2009-03-15
参考文献数
14

高度1000 m 以上の山岳地では一般に風も強く, 地吹雪や降雪時には吹雪となることが多い. その結果として山岳地での積雪は再配分によることが多い.尾根状の地形の所での積雪は風上側が削られ,風下側に多く溜まる.また窪地には雪が多く堆積して,元の地形と大きく異なった表面形態となる. 標高が高い分だけ気温も低く, 強い風速下で積雪は変態と地吹雪によるパッキング, 及び深い積雪による荷重を受けて平地では見られない程硬い雪へと変質する. 山稜部に見られる雪庇というのは本来吹き溜まりの一種と考えられるが, ここに積雪地形という概念を用いて, 雪庇の形成過程を説明した. 風下側の元の地形が急崖であれば, 庇状に伸びた小さな雪庇ができ, 風下側の斜面が緩い場合には最初は吹き溜まり状の形態から前面が次第に急になり, 段差を持つ大型の雪庇を形成する. 巨大に成長する雪庇について, その形成過程を述べた.

1 0 0 0 鉄道と除雪

著者
小竹 豊
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.172-181, 1957

目次<BR>1.雪の輸送に及ぼす影響<BR>2.積雪と気象管理<BR>3.防雪体制<BR>4.機械力除雪<BR>5.人力除雪<BR>6.防雪林及び防雪柵<BR>7.結び<BR>国鉄は23,000kmの本線軌道延長を有し, 年間延39億人の旅客と, 1億6,000万屯の尨大な貨物を輸送して・国民の足の努めを果しているが, 冬ともなれば・その約40%の9,000kmが雪に覆われ, これが除雪に心を砕いている.除雪は雪掻車を主体として, 除雪労務員を併用しているが, その経費は莫大であり, 除雪労務賃銀だけで年間2億円の多額にのぼっている.雪の国鉄輸送に及ぼす影響は非常に大きいが, 以下新潟鉄道管理局における除雪の実晴を主として記述する.
著者
黒岩 大助
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.131-141, 1968
被引用文献数
1
著者
吉田 順五 黒岩 大助
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-5, 1949

eを氷の電媒常數, em, を積雪の電媒常數とすると, <BR>em-1/em+u=d/0.92*e-1/e+u<BR>を滿足するuは, 積雪の粒の形によつてきまるということがO.Wienerの理論からみちびかれる。dは積雪の密度, 0.92は氷の比重である。いろいろな積雪について電媒常數をはかり, uをもとめたところ, uによつて積雪の粒の形, 粒と粒との連結のぐあいがあらわせそうな見こみがついた。なお, uが粒の形だけできまるというのは近似的なことで, 實はdやeによつてもuはかわる。このことについてもしらべたがuとd, eとの關係は, いろいろの場合でちがい簡單ではない。<BR>この仕事は文部省科學研究費で行つた。

1 0 0 0 OA 黒部川の雪崩

著者
宮嶋 治男
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.35-36, 1963 (Released:2009-09-04)
著者
渡辺 興亜
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.279-285, 2000-05-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
11

南極氷床内陸部および日本列島の積雪域における広域雪氷観測を通じて, いかにして雪氷化学観測の方法が確立していったかを筆者の個人的経験を回想しつつ述べた.

1 0 0 0 積雪モデル

著者
山崎 剛 杉浦 幸之助
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.607-612, 2006-11-15
参考文献数
29
被引用文献数
3 2

吹雪モデルを含む積雪モデルの現状と課題について概観した.積雪モデルは大きく分けて,少ない入力から積雪を評価する簡便なモデルと,可能な限り複雑な物理過程を考慮して積雪の層構造をも再現する多層モデルに分類される.また,吹雪モデルは個々の雪粒子の運動力学に基づくモデル,吹雪を空間濃度で表現し乱流拡散理論に基づくモデルが構築されている.それぞれに関して日本で開発されたモデルを中心に,代表的なモデルを紹介した.また,積雪モデルの国際相互比較Snow MIPについても紹介した.今後の課題として,雪の移動・再配分を含めた積雪分布モデル,森林地帯の扱い,気候予測に使える凍土を含めた長期積分可能なモデル,組織的な取り組みの必要性を指摘した.
著者
長田 忠良 小林 俊市
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-27, 1971
被引用文献数
1

道路横断方向に4観測点を定め, それぞれの点における路面圧雪の密度, 硬度, 雪温などを連続的に測定した.<BR>最高気温が2.1℃, くもりの日中11~17時の間に平均密度が0.57g/cm<SUP>3</SUP>から0.63g/cm<SUP>3</SUP>に, 表面付近の雪粒の最大粒径は約0.3mmから0.5mmに変化し, 表面下約3mmまでは完全に氷板化した. この間に測定された表面硬度は, 35~110kg/cm<SUP>2</SUP> (木下式硬度) であった. 横断方向4点の硬度差の最大は50kg/cm<SUP>2</SUP>であって, 日中の通行幅の広がりによって15kg/cm<SUP>2</SUP>まで減少した.<BR>もっとも融解が進んだとみられる時においても, 横断方向4点の硬度のうち最大は55kg/cm<SUP>2</SUP>で, 一般の除雪機により十分な処理量が得られるほどの硬度の大きな低下はみられなかった.
著者
赤川 正臣
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-6, 1977
被引用文献数
2

オホーツク海西部の海氷季節初期における結氷域の生成・拡大,流氷群南下には低温・低塩分水から成る東樺太海流の役割が重要とされている.この東樺太海流は主としてアムール川の陸水によってかん養され, またアムール川流量は主として夏季モンスーンによる降水量が補給源とされている.したがって, 因果的にはアムール川流域の夏季雨量と海氷季節初期の海氷現象との間に, 相関関係が期待されるかも知れない.<BR>このような考えから,雨量としてブラゴベシチェンスクとニコライエフスクの地点雨量, 海氷現象として樺太東岸の一年氷出現日,エリザベト岬の結氷初日および北海道紋別沿岸の海水比重急落日を選び,それらの相関を評価してみた.しかし,有意な相関関係はほとんど得られなかった.これはアムール川流量を地点雨量で代表させるのに問題があり, また東樺太海流の消長や海氷現象は気温や風などの気象条件が大きく利いているためである.