著者
山本 克也
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.3_81-3_96, 2004 (Released:2010-02-02)
参考文献数
23

本稿では「医療施設調査」の個票データを利用し,病院の倒産確率の測定を行なった。「医療施設調査」は非財務データであるが収支の代理変数を抽出しプロビット分析を施して,病院の倒産事由の代表である放漫経営と販売不振を検討した。収入項目である病床に関しては,現在のところ,慢性期患者向けの病床を保有することは固定収入の確保につながり,倒産確率は下がる。一方,外来患者については倒産確率を引き下げる効果を持たない。入院の赤字を外来で埋める式の経営は成立しないので病床管理は重要である。一方,診療機器については,その需要予測はもちろん,普及期をすぎれば診療報酬は下がるということも勘案して導入しなくてはならない。販売不振については,医療需要の飽和ということも考えられるが,患者のニーズと病院の設備事態,有り様がミスマッチになっている可能性もある。すべての病院(医師)が最新の医療,高度医療を行なう必要がないことを病院経営者は銘記すべきであろう。
著者
松井 達也
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.341-352, 2011 (Released:2011-01-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

2005年に医療観察法が施行され触法精神障がい者に対する看護が注目されている。触法精神障がい者に適切な看護を提供する上で彼らに対する態度を理解することが必要であるが,その態度についての構成要件については明らかにされていない。そこで触法精神障がい者に対する看護師の態度の構成要件を明らかにすることを目的に触法精神障がい者のケアを行っている3つの精神科病院で12名の看護師を対象に面接調査を実施した。そしてBerelsonの内容分析を用いて質的・帰納的分析を行った結果,15個のカテゴリーが抽出された。まず看護師は触法精神障がい者と出会い彼らと関係作りを行うが,これに関するカテゴリーが5個あった。次に臨床場面において治療的関わりを持つがこれに関するものが4個あった。さらに治療を進める中で退院に向けた関わりを持っていたがこれに関するものが2個あった。そしてそれらの関わりの中で患者に対する様々な感情が生じていたがこれに関するものが4個あった。触法精神障がい者に対する態度の構成要件は相反する価値観が矛盾しながら存在するので,そのバランスをいかにとるかが重要である。また触法精神障がい者に対する消極的態度を克服するためには彼らを深く理解し,彼らの看護に関する専門的な知識を持つことが大切である。さらに看護師は彼らの退院後の地域支援システムの構築に寄与することが求められている。
著者
中山 徳良
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.3_69-3_79, 2004 (Released:2010-02-02)
参考文献数
22
被引用文献数
2 7 5

わが国の自治体病院の経営状況を見ると,非効率性の発生が予測される。そのため本稿では,まず自治体病院の技術効率性を包絡分析法(DEA)によって計測した。計測には,規模に関して収穫一定(CRS)モデル,投入指向型規模に関して収穫可変(VRS)モデル,産出指向型規模に関して収穫可変モデルの3つのDEAのモデルを用いた。技術効率性の平均値はCRSモデルの場合には86%,VRSモデルの場合には投入指向モデルでは90%,産出指向モデルでは88%であった。 次に技術効率性についてトービット・モデルにより分析した。この際には,技術効率性と補助金との間の関係に特に注目した。分析結果によれば,補助金の割合が多くなればなるほど非効率であることが示された。その他の要因としては,患者100人当たり検査件数の対数値,病院の立地条件,救急病院の告示の有無,看護の基準,平均在院日数の対数値を考えた。病院の立地,看護の基準の係数は有意であり,病院の立地が不採算地区にある場合,看護の基準が手厚くなればなるほど非効率的であることが示された。
著者
川渕 孝一 杉原 茂
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1_111-1_127, 2005 (Released:2010-02-02)
参考文献数
59

医療技術の進歩には目覚しいものがある。しかし,治療方法が進歩し診断精度が向上したとしても,それを現実の治療行為の場で適切に活かすことができなければ現実の医療成果の改善につながらない。こうした新技術は,臨床試験により医学的な有効性が検討されているものの,それらが実際の診療現場においてどのように医療成果の改善につながっているかについては,必ずしも明らかにされていない。そこで,本論文では,経皮的冠動脈インターベンションについて,高度医療技術が実際の治療に適応されるに当たって,病院ごとの固有の要因により現実の医療成果がどの程度左右されているかについてランダム係数モデルを使って検証した。 ステントについては,短期的な医療成果はステントを使わない経皮的冠動脈形成術と変わらないが,長期的には再灌流療法の再施行などの重大な心血管事故の確率を低下させることが医学文献により示されている。しかし本論文の結果によれば,その効果は病院によって大きなばらつきがあり,効果的にステントを活用している病院もあれば,ステント本来の有効性を無にしてしまっている病院もあることが分かった。ロータブレーター及び血管内超音波法についても,病院固有の要因によりその有効性が左右されることが見出された。 喫緊の課題は,最新の医療技術を導入すること自体にあるのではなく,個々の病院において,全体の治療プロセスの中で高度医療技術を医療成果の改善に結び付けるようなシステムをいかに構築するかという点であると考えられる。
著者
元橋 一之
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.55-70, 2007 (Released:2009-06-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

米国と比較して日本のバイオベンチャーの活動は遅れているといわれている。本稿ではこの点について日米のバイオベンチャーに関する企業レベルデータ(日本については443社(うち上場企業12社),米国については1,446社(うち上場企業431社)の2004年時点データ)を用いて定量的な分析を行った。分析結果によると,まず日本におけるバイオベンチャーは設立からの年月や技術分野をコントロールしても米国企業より相当程度規模が小さいことがわかった。また,日本のバイオベンチャーは時間とともに企業が大きくなっているのに対して,米国企業は設立年によって規模は大きく変わらない。これは日本のバイオベンチャーは米国と比べて比較的新しい企業が多いことから規模が小さいのではなく,そもそも事業モデルが違うことを示唆している。更に,米国のベンチャー企業はリスクが比較的高いといわれている「医療・健康」分野において飛びぬけて多額の研究資金を投じているのに対して,日本においては総じて研究開発費の額が小さく,技術分野による違いがみられなかった。つまり,日本のベンチャー企業はリスクの高い研究プロジェクトに多額の研究資金を投じるのではなく,低リスク分野で研究サービスなどの「日銭」を稼ぎながら事業を行っているということである。このような日米のバイオベンチャーの違いの背景にはベンチャーキャピタルなど資金環境が異なることの影響が大きいのではないかと考えられる。
著者
遠藤 久夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.7-19, 1999-03-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
15

マネジドケアの統一した定義は存在しないが,基本的な構造は次の通りである。1)医師-保険者関係:[1] 医療の標準化とモニタリングとインセンティブによる医療への介入,[2]医師・病院のネットワーク化,2)患者-保険者関係:[1] 患者の医療機関選択の制限,[2]患者(保険加入者)の組織化。マネジドケアとは,これらの仕掛けを通じて,医療システムに見られる2種類の非効率性([1]医療需要が社会的に過剰になる非効率,[2] 医療資源を空間的,時間的に最適配分できない非効率)を改善させる制度的イノベーションである。アメリカのマネジドケアのパフォーマンスを見ると,[1] 入院率の低下,[2] 入院期間の低下,[3] 高額な治療や検査の抑制,[4] 予防サービスの増加,[5] 医療の質に対する満足度の低下,[6] 費用に対する満足度の増加,という傾向が見られる。一方,[1] 医療の質の低下,[2] 高リスク者の排除,[3] 良好な医師-患者関係の崩壊という問題点も指摘されている。マネジドケアの概念と手法をわが国の公的医療保険制度に導入することを考える際,[1] エビデンス・べースの標準化を行うための診療情報とコスト情報を有機的に結ぶ情報インフラの整備[2]「標準」のコンセンサス形成のためのシステム作り,[3] 保険者が患者の利益の代理人として行動するための制度的担保の確立,が必要である。これらの課題が解決されないまま拙速な導入が行われれば,マネジドケアの副作用の方が主作用を上回ることも懸念される。
著者
惠上 博文
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.13-28, 2013-06-28 (Released:2013-07-05)
参考文献数
13

2006年第五次医療法改正に基づく医療計画制度の見直しにおいては,四疾病五事業ごとに各病期の医療機能を明確にした上,地域の医療施設が担う医療機能リストを作成して具体的な医療連携体制を構築することとなったことから,医療連携体制構築に向けた保健所の企画・調整機能を早急に強化する必要性が生じた。 このため,地域における医療連携体制構築に向けた保健所の企画・調整機能の強化に資するため,全国の保健所の関与状況に関するアンケート調査で把握した先駆的事例に対して実施した現地ヒアリング調査結果を分析して,保健所が果たす役割,保健所と連携することのメリット,保健所が関与する際のポイント,市保健所の関与を促進する方策及び医療連携体制の評価の進め方を提言した。
著者
秋山 美紀 武林 亨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-11, 2013-06-28 (Released:2013-07-05)
参考文献数
12
被引用文献数
3

診療所による在宅医療の実施状況を把握するとともに,診療所がどのような課題を認識しているのかを明らかにすることを目的に,7都道府県20地区・郡市医師会で,内科,外科,整形外科のいずれかを標榜する2990件の診療所を対象に質問紙調査を行った。回答を得られた1201診療所のうち,在宅療養支援診療所として算定の実績があったのは215施設(34%),届出のみ算定なしが43(7%),届出取り消し済みが5(0.8%),届出なしが367(58%)であった。2010年一年間の在宅看取りが一例以上あった施設数は409(59%),年間看取り数0は280(41%)だった。年間看取り件数が7件以上あったのは77施設で,全在宅看取りの62%を担っていた。在宅療養支援診療所の届出・算定を行っている215施設の46%(99施設),在宅療養支援診療所の届出を行っていない367施設の約50%(182施設)が年1~6件の看取りを行っていることから,現状の地域の看取りは,在宅療養支援診療所の届出の有無によらない幅広い診療所群が支えていると考えられる。看取り数上位10パーセンタイルに含まれる診療所の半数が,24時間体制を構築しており,地域における診療協力体制への関与を持ち,また地域医療連携に関わる職員も積極的に配置していた。とりわけ,看護・介護に関わる他施設とのカンファレンスの実施割合は高く,このことからも,在宅医療推進における地域連携,多職種連携の重要性が示唆される。
著者
原田 謙
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.57-68, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
34
被引用文献数
1 4

本研究は,階層的地位(学歴・職業・所得)が領域別および距離別パーソナル・ネットワークに及ぼす影響およびその性差を検討することを目的とした。データは,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県内の30自治体に居住する25歳以上の男女4,676人から得た。分析の結果,第一に,学歴が高い者ほど友人数が多く,ネットワーク総数に占める親族ネットワーク比率が低かった。とくに女性では,この学歴による友人数の多寡がネットワーク総数の多寡にもつながっていた。第二に,専門・管理職の者ほど仕事仲間数が多かった。さらに専門・管理職の女性は,友人数も多く,隣人数が少なくても,差し引きするとネットワーク総数が多くなった。第三に,所得が高い者ほど仕事仲間数が多く,ネットワーク総数が多かった。さらに男性では,所得が高い者ほど親族数も多く,所得がネットワークに及ぼす影響は男性において顕著であった。第四に,学歴が高い者ほど,そして所得が高い者ほど中距離および遠距離親族・友人数が多かった。つまり学歴と所得がネットワークを広域化する資源であることが示唆された。
著者
島永 和幸 佐々木 常和 岡田 芳男 島永 嵩子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.207-222, 2007 (Released:2009-06-17)
参考文献数
22

目 的:産業経済から知識創造経済への経済構造の変化のもとで,企業価値創造の推進力としての研究開発マネジメントが大きく注目されている。中国において研究開発の重要性に対する認識が高まりつつある中で,製薬企業は他業種に比べて積極的に自主開発を行っている。しかしながら,実証的な研究はほとんど行われておらず,その実態はブラックボックスになっている。そこで,中国の製薬企業を対象に研究開発マネジメントに関する実態調査を実施し,企業の属性ごとに研究開発戦略や研究開発従事者のマネジメントに差異がみられるかを明らかにすることを目的とする。対象と方法:2006年に中国において実施した質問票調査の分析を行った。中国の製薬企業2,393社を対象に,地域別,取扱い商品別,規模別に約1,500社をそれぞれ比例抽出し,計270票の有効回答を得た(回答率18.0%)。分析にあたって,主成分分析を用いて中国の製薬企業の属性を明らかにし,主成分得点の結果からクラスター分析を行う。クラスター分析によって得られた中国の製薬企業の類型ごとに,組織的なマネジメント,創造性を発揮する環境づくり,専門能力の向上,およびモチベーションの刺激についてどのような差異がみられるのかを分析した。結 果:中国の製薬企業の類型化を試みた結果,3つのパターンが見出された。研究開発の実績や志向性の高低によって,研究開発マネジメントに差異がみられる。考 察:現在の中国において,研究開発の実績が低く,かつ志向性が弱い企業が最も多く,全体の45.6%を占めている。製薬企業では,マネジメントの基盤づくりやチームワーク方式,成果主義などを重視している現状が明らかとなった。
著者
井田 聡子 隅藏 康一 永田 晃也
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.169-191, 2009 (Released:2010-05-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

近年の医薬品産業においては,企業間の合併・買収,戦略的提携が増加している。このような企業境界の変化は,当事者企業のイノベーションに様々な影響を及ぼすと考えられるが,その影響は十分に明らかになっていない。そこで,本稿では,イノベーションの決定要因である専有可能性と技術機会という2つの概念に着目し,製薬企業間の合併がこれらの要因に及ぼす影響について分析を行った。第一三共(三共と第一製薬の合併)とアステラス製薬(山之内製薬と藤沢薬品工業の合併)を対象とした事例研究の結果,以下の知見が得られた。 (1)同質的な製品セグメントにあった2社が合併した場合は,専有可能性が向上する。 (2)異質的な製品セグメントにあった2社が合併した場合は、技術機会の源泉となる情報源が多様化する。 このように,合併がイノベーションの決定要因に及ぼす影響は,合併を行った2社の製品セグメントの異同によって異なることが明らかになった。
著者
井田 聡子 隅藏 康一 永田 晃也
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.257-271, 2008 (Released:2010-05-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

近年の医薬品産業においては,新薬の開発競争の激化を背景として,世界的な規模で業界再編が進展している。日本国内においても,企業間の合併,経営統合,戦略的提携等が活発化しつつある。本稿では,このような企業境界の変化がイノベーションの決定要因である専有可能性(appropriability)と技術機会(technological opportunity)に及ぼす影響を分析した。対象事例として,中外製薬とロシュによる戦略的提携を取り上げ,両社による戦略的提携が専有可能性と技術機会に及ぼしつつある影響を考察した。中外製薬における医薬品売上構成の変化,開発パイプラインの品目構成の変化を中心に分析した結果,提携後の中外製薬においては,(1)イノベーションから得られる利益の専有可能性が高まった,(2)ロシュ・グループ外部からの技術機会が制約された,などの結論が得られた。