著者
八巻 知香子 高山 智子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.185-197, 2014-09-02 (Released:2014-09-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2

がん相談支援センター(以下,相談支援センター)は,自院の患者・家族のみならず,地域住民に対しても広くがんの情報提供は相談に応じる窓口として,全国すべてのがん診療連携拠点病院に設置された。しかし,認知度や利用者数について不十分との指摘もあり,院内外への活動の周知が必要な段階にある。よって本研究では全国18施設のがん診療連携拠点病院での面接調査を行い,1)院内および院外に対してどのように周知をしているのか,2)その周知の取り組みは相談支援センターの利用の多寡とどのように関係しているのかを検討した。結果より,院内スタッフに相談支援センターが認知され,紹介される取り組みが不可欠であり,その取り組みが相談件数が高く推移する結果につながっていること,院外患者への周知については具体的な取り組みが相談件数に直結するとは限らなかったが,自治体の広報誌への掲載等により高い効果が実感されている事例があることが明らかになった。互いの意欲的な活動実践が共有され,よりよい取り組みが各地で展開されやすくなるような環境作りが重要であると考えられた。
著者
谷口 千絵 村田 加奈子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.295-307, 2011 (Released:2011-11-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

背景:日本における全出産数の1%を,地域で活動する助産師が助産所や産婦の自宅において介助している。また産科医不足という周産期医療の課題の解決策として,「正常分娩」を自立して行う助産師の業務が見直されている。目的:助産所の開設形態別に,開設者の視点からみた助産所を開設・運営する体験を明らかにする。方法:2003年から2006年の間に,助産所を開設または業務変更を行った助産所管理者5名を対象に,聞き取り調査を実施した。結果:助産師は助産所を開設することによって,自らが目指すケアを実現させることができ,同時に不本意なケアを提供している葛藤から解放されていた。また,助産師は家庭生活に合わせて段階的に業務拡大を行い,居住する地域社会の一員として受け入れられていった過程がみられた。分娩の取扱いを始めることは覚悟が要ることであり,助産師生命を賭けた業務拡大となっていた。有床助産所は開設資金と維持に課題があることが明らかとなった。結論:助産師は自立自営で助産所を開設することにより,病院勤務では実現しなかった妊娠・出産・産後を通じた継続的なケアを提供することができていた。助産師は,地域の一住民として社会的信用を得て,家庭生活に合わせた業務拡大を行っていた。
著者
山口 典枝
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.29-41, 2013-06-28 (Released:2013-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

高齢化の更なる進行や疾病構造の変化など地域医療連携ニーズの多様化に対応し,できる限り在宅で過ごしたいという患者・家族の要望に応えるためには,医療・介護サービスを提供する限られた人的資源を有効的に活用する必要があり,それを支える仕組みづくりが急務となっている。 地域包括ケアの理念を踏まえ,なかでも在宅医療連携の協業におけるニーズを満たすためには,医師・看護師等によるICTを利活用した多職種協働とそれを支える情報基盤,さらにはその導入に伴う業務改革が不可欠である。ケアカンファレンスを中心とした多職種連携の実績が長く,地域包括ケアの先行モデルである「尾道方式」を,多職種間での情報共有やコミュニケーションに焦点をあてて考察したところ,成功の要件は下記の通りと考えられる。 ①地域の施設がつながる幅広い連携ネットワークがベースとして構築されていること②(患者・家族を含む)多職種チームメンバー間のコミュニケーションツールが提供されていること③ラーニングオーガニゼーションとして機能可能な情報の流れや学びの仕組みがあること④コアとなるチームメンバー以外の専門家の支援を仰げる仕組みが確立されていること以上4つの視点から,「情報共有およびコミュニケーションにおけるICT利活用の可能性」について検討し,限られた人的資源を効果的に活用する仕組を構築する際に参照可能なフレームワークと照らし合わせて,事例を分析する。
著者
井伊 雅子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.205-218, 2008 (Released:2010-05-26)
参考文献数
12
被引用文献数
3 2

第2次世界大戦後,多くの途上国は先進国型の医療・保健システムを導入しようとした。しかしその対象は主に都市部に限られ,人口の多くを占める農村のための医療は軽視されてきた。日本では1961年に国民皆保険が達成されたが,1922年に制定された健康保険法に次ぎ1938年に国民健康保険法が成立し,戦前に農村を含む医療保険制度の骨格が形成された。インフォーマルセクターが相対的に多い経済構造の中でどのようにしてその取り組みを行い,社会保険を構築してきたのか,その歴史的な経緯を考察することは,現在公的医療保険制度の設立に取り組んでいる途上国への重要な示唆となる。 この小論では,明治の近代産業の勃興とともに大きな問題となった労働者保護のために始まった工場法,本格的な社会立法である健康保険法,戦時体制の中で急速に整えられた国民健康保険法などを紹介しながら,1961年の皆保険制度への布石を分析する。また,皆保険達成後の日本の医療保険制度について,国民健康保険の問題(経済構造の変化や高齢化といった社会状況の変化に対応していないために引き起こされた制度疲労,場当たり的な制度変更の積み重ねによる制度の複雑化と責任所在の不明化),公平な制度と言われる中で比較的議論されることの少ない負担の不公平の問題,高齢者医療保険制度への対応,保険者の役割という4つの視点から考察する。
著者
遠藤 久夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.11-30, 2021-07-08 (Released:2021-07-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

患者に医療費の自己負担を課すことの主な目的は以下の三つである。1)医療資源を過剰に利用するモラル・ハザードの回避2)医療費の財源を公費や保険料から患者負担にシフトさせるコスト・シフティング3)過度の大病院志向などの不適切な患者の受療行動の適正化わが国の公的医療保険制度では,「法定自己負担率」と「高額療養費制度」により患者の医療費自己負担額をコントロールしている。高額療養費制度とは,患者の自己負担の上限を定めたもので,この制度により患者は高いコストの医療を受けることが可能になり,医療費の支払いにおけるセーフティネットだと言える。医療費は増加し続けているが,医療保険財政は悪化しているため,患者の法定自己負担率は引き上げられてきている。その結果,自己負担額が上限額に達するケースが増え,高額療養費が増加している。医療費に占める高額療養費の割合は2002年の3.2%から2017年には6.4%に上昇している。高額療養費増が増加しているため,公的自己負担率は上昇傾向にあるにもかかわらず,実効自己負担率は低下している。具体的には,2003年の実効自己負担率は74歳以下が22.7%,75歳以上が8.8%であったものが,2017年にはそれぞれ,19.7%,8.0%に低下している。実効自己負担率を外来と入院で比較すると,2017年では外来18.3%,入院6.6%と入院の実効自己負担率が非常に小さい。これは,入院は医療費の額が大きいため高額療養費の支出が大きいためである。75歳以上の患者の法定自己負担は原則1割である。これに対して,高齢者は,医療費に対する保険料や自己負担の割合が,若い世代と比較して低すぎるので,高齢者の自己負担を引き上げるべきという意見が台頭してきた。それに対して,高齢者は所得が少なく医療費が多いので,所得に占める医療費の自己負担の割合が若い世代より高い。したがって,高齢者の医療へのアクセスを担保するためには1割のままでよいという意見が対立した。議論はなかなか決着がつかなかったが,2020年になって,「年収約200万円以上の75歳以上の高齢者は2割負担」にすることが政治決着した。今後も,患者の医療費の自己負担を増加させようという圧力が高まっていくことは間違いない。その中で,高齢者の法定自己負担率のさらなる引き上げと高額療養費制度の見直しがポイントになるだろう。
著者
五十嵐 隆
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.123-134, 2017-05-25 (Released:2017-06-13)
参考文献数
11

わが国の周産期や小児の保健・医療は世界的にも優れている。しかしながら,安心して子どもを出産し,子育てをする上で必要な国や自治体からの支援が他の先進諸国に比べ遅れている。さらに,若年成人の所得減少が近年になって著しくなり,経済的不安や将来への不安が強い。晩婚化が進み,子どもを生み育てることへの躊躇が見られる。その結果,低出生体重児の出生が増加しており,成人の生活習慣病や発達障害などの疾患が増加することが懸念されている。適齢期の成人が安心して妊娠・出産することのできる体制の整備,子育て支援,保育環境の整備,思春期医療の充実,子どもや青年の在宅医療の充実,移行期医療の整備,発達障害児者と家族への支援,予防接種体制の整備などが必要とされる。また,かかりつけ医がすべての子どもを定期的にbiopsychosocialに評価し,必要な場合には支援をする健康監査の仕組みがわが国では脆弱である。このような対応は現行の学校健診では不可能であり,特に思春期以降の子どもに対しての整備が求められている。さらに,優れた保健・医療を提供するためには,周産期医学・小児医学研究が不可欠である。わが国では,医療費,年金,教育費など国からの65歳以上の世代への支出が20歳未満の世代への支出よりもはるかに多い。今後,胎児期から次世代の子どもを育てる若年成人までの保健・医療を切れ目なく支援するための理念法である「成育基本法」を制定し,将来を担う子どもや若年成人の保健・医療を充実させることが望まれる。
著者
大河内 二郎 東 憲太郎
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.25-35, 2023-05-29 (Released:2023-07-06)
参考文献数
18

介護保険法により介護老人保健施設(以下,老健施設)の対象者は,「要介護者であって,主としてその心身の機能の維持回復を図り,居宅における生活を営むための支援を必要とする者」である。従って,老健施設は入所し続ける施設ではなく,居宅での生活を維持しつつ,リハビリテーション等の目的で施設利用をする高齢者に対して総合的なサービスを多職種で行っているという特徴がある。老健施設を繰り返し利用している中で,人生の最期を老健施設で過ごすことになる高齢者が増えている。2017年には約7割の老健施設が看取り機能を有していた。老健施設における看取りの満足度調査では約9割の利用者の家族が看取り後に満足と答えており,その施設側要因としては,多職種での利用者への説明と,より早期の看取りへの説明等が要因として挙げられた。また老健施設は通所リハビリテーションや訪問リハビリテーション等のサービスを提供していることから,在宅高齢者がより軽度な障害を負った時点から以後の生活を支えることができる。つまり老健施設では,単なる終末期の看取りだけではなく,対象者が元気なうちから残りの人生をどこで,どのように生きるのかということも含めて支援が可能な側面がある。従って単なる終末期医療 “End of Life care”ではなく,“Life Care”と考えることで,よりそれぞれの利用者の個別性に立ったマネジメントが可能になると考えられる。
著者
本村 和久
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.23-32, 2019-05-24 (Released:2019-06-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

沖縄県は39の有人離島があり,宮古島と石垣島,久米島にはそれぞれ県立病院や公立病院が設置され,16島に県立診療所,4島に町村立診療所が設置されている。16の県立診療所と2つの町村立診療所においては,医師の配置は1人だけである。16の県立診療所医師のほとんどは,沖縄県立中部病院や沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの後期研修プログラムの一環として赴任している。現在の医師養成が可能となっているのは,先人の離島医療に対する尽力があってこそと考えている。沖縄の近代医療史を振り返りながら,第二次世界大戦,沖縄戦で大きな被害を受けた沖縄の医療がどのように立ち上がってきたのかを考察し,その中で離島の医療を守ることが重視されてきた現状を報告する。沖縄戦後,米国統治下の厳しい医師不足,医療事情の中で,公衆衛生看護婦や医介輔などの医療職が沖縄の離島医療を支えてきた。医師養成を行い,離島の多い沖縄の医療を支える拠点病院としてスタートした沖縄県立中部病院では,教育システムを作り上げて人材の養成確保を図り,代診や遠隔医療などの支援体制を充実させてきた。派遣された医師は,離島という特殊環境下において,島民の医療を守り,地域包括ケアを実践している。
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.235-243, 2022-08-05 (Released:2022-08-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
二木 立
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-26, 1995-04-25 (Released:2012-11-27)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

医療技術進歩が医療費増加の主因と言えるかを,1970~1992年の「国民医療費」と「社会医療診療行為別調査」により,四段階で検討した。(1)国民所得でデフレートした実質国民医療費は1970年代には増加したが, 1980年代には一定であった。(2)「医療技術」を投薬・注射, 画像診断・検査,処置・手術等の3種類と操作的に定義し,それらの医科医療費総額に対する割合を検討したところ,1970年代には8.3%ポイント,1980年代にも6.8%ポイント低下していた。医療技術の割合の低下は投薬・注射の低下により生じた。なお,1984年以降は,診察・在宅療養,医療技術,入院の割合も,3種類の医療技術の割合も固定化した。(3)画像診断と検査について新旧技術の変化を検討したところ,1980年代には,新技術の普及は旧来型技術を代替する形で進んでいた。(4)高度先進医療技術から保険導入された技術の医科医療費総額に対する割合はわずか0.08%にすぎなかった。以上より,わが国では,少なくとも1980年代以降は,医療技術進歩は実質医療費増加の主因ではないと結論づけられた。
著者
坂本 秀樹 安川 文朗
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.405-418, 2022-10-27 (Released:2022-11-09)
参考文献数
22

超高齢化社会を迎える日本にとって,日常生活のQOLや生産性を低下させるだけでなく,認知症発症の要因となり得る難聴の対策は喫緊の課題の一つである。しかし,難聴対策として有効な補聴器の装用率は,他の先進国と比較して日本が著しく低く,補聴器の普及について改善の余地が大きい。補聴器はこれまで聴覚障害者のための福祉補装具の一つとして認識され,流通やビジネスの視点からはほとんど議論されてこなかった。欧米先進国では認知症発症抑制への期待や技術イノベーションによる補聴器の機能向上から装用対象者の拡大が進み,補聴器ビジネスの潮流に変化が生じつつある。世界の補聴器の99%は欧米のメーカーが生産しており,日本でも輸入補聴器のシェアは70%を超えることから,今後,海外の補聴器ビジネスの変化が,日本のそれにも大きく影響を与えることが予想される。そこで本稿では,これまであまり議論されたことが無かった日本の補聴器ビジネスに焦点を当て,欧米の現状と比較しながら,今後その規模が拡大してゆくと考えられる日本の補聴器業界のビジネスモデルにおける現状の分析と課題,および今後の展望について検討を行った。
著者
梅原 昌宏 山田 康夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.139-156, 2012 (Released:2012-08-09)
参考文献数
36
被引用文献数
1

少子高齢社会の影響もあり,医療保険制度の財政は非常に厳しい状況に陥っている。そして国民医療費の抑制を目的とした自己負担率の引き上げが過去幾度か行われてきたが,効果は限定的であった。しかし近年,スイッチOTC化の進歩とともに医療サービス需要を代替するセルフメディケーションが注目されはじめている。セルフメディケーションが普及することは医療サービスの価格弾力性を大きくし,自己負担率引き上げによって医療サービス需要を抑制させ,その効率化を図ることが期待できる。本稿では対象疾病をアレルギー性鼻炎および花粉症に限定し,WEB調査によるアンケートを行った。そして,医療サービス需要関数,セルフメディケーション需要関数をProbit分析によって推定し,自己負担率が現在平均の2割8分から最大6割まで引き上げられたときに関連する要因をχ2独立性の検定,差の検定によって分析した。分析の結果は,交差価格弾力性が0.54~0.90と大きくなり,自己負担率引き上げによる医療サービス需要の抑制効果が高くなる可能性があることが確認された。しかし,自己負担率が6割まで引き上げられると自然治癒を選択する割合が高くなり健康水準の低下とそれに伴う国民医療費の増加が懸念されるようになる。そして,性別,年齢,自己負担率,世帯労働所得,薬の知識,自覚症状といった要因の分析を行ったが,自己負担率の引き上げに関連するものは薬の知識と自覚症状ということが明らかになった。
著者
小口 正義 藤森 愛子 小口 はるみ 跡部 治 永田 和也 両角 和雄 藤森 洋子 立花 直樹 蜂谷 勤
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.97-105, 2010 (Released:2010-07-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

抗菌薬適正使用は感染患者の確実かつ安全な治癒,耐性菌出現と蔓延化の防止,および医療費の効率的運用の観点から対処するとされ,特に抗菌薬の使用法管理は経済的にも重要な問題となっている。そのため抗菌薬の使用法管理としての対策(抗MRSA薬・カルバペネム系薬の使用申請制度,監視制度,警告通知制度),DPC制度導入などがどの様に薬剤費に影響したかを調査・分析した。その結果,抗菌薬の総使用量は調査期間中ほぼ一定であったが,カルバペネム系薬の使用量,および抗菌薬の総使用金額は半減した。さらに平均在院日数も減少した。これらのことから当院の抗菌薬適正使用の取り組みにより,スペクトラムの広域な抗菌薬から狭域な抗菌薬への変更,および高価な抗菌薬から安価な製品への置き換えなど,適切な抗菌薬の選択が進んだものと考えられた。抗菌薬適正使用による抗菌薬の使用法管理は,薬剤費に大きなコスト削減効果を及ぼしていることがわかった。
著者
片山 晶博
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.37-48, 2018-04-30 (Released:2018-05-24)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

我が国では「保険医療機関及び保険医療養担当規則」第18条の規定「保険医は,特殊な療法又は新しい療法等については,厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない」としており,国内で承認されていない医薬品・医療機器等を使用する場合には原則として保険診療では実施できない。例外として,保険外併用療養費制度が存在し,その枠組みの中に治験や先進医療といった評価療養が存在する。一方で,このような既存の制度では最先端の医療技術・医薬品等への迅速なアクセスが困難な患者が一定程度存在し,そのような患者が先進的な技術等へのアクセスを確保できるよう,2016年より「人道的見地から実施される治験」や「患者申出療養」といった新たな制度が施行された。これらの制度が開始されて1年以上が経過しているが,それぞれの制度の概要を説明した上で,両制度の現状及び課題等について言及する。