著者
早川 洋行
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.65-88, 2016

本論文は,人気マンガを題材にして,戦後日本社会におけるジェンダーの変化を考察したものである。1では,ジェンダーの形式的次元と実質的次元を区別して,後者に注目することに重要性を論じる。2では,知識社会学からのアプローチを説明した後に家族を描いた人気マンガを紹介して,そこに描かれた家族像と時代との関連を考察する。3では,家族ではなく個人に注目して,人気マンガの主人公に表現されている男性ジェンダーと女性ジェンダーの特徴をまとめる。そして4では,これまで論じてきたことを振り返り,現代日本社会におけるジェンダーの歴史的位相を総括する。
著者
米山 雅浩
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
研究年報 = Annual report University Research Institute, Nagoya Gakuin University (ISSN:1346101X)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-12, 2013

従来の読みでは,"A New England Nun"の主人公Louisa は,心変わりした婚約者のため自ら婚約解消を申し出たとされてきた。だが14年間に及ぶ婚約期間に築き上げた独身生活の質を維持するため,誰の名誉も損なわずに破談にする方途をしたたかに追求したというのが真相である。しかし,「芸術家」的独身生活の果てにはWakefield やEmilyのように,「世界から見捨てられし者」となる運命が待っている。また,この小説には非生産的生涯を過ごすための経済的裏付けに対する言及がないため,Louisa の選択はリアリティに欠け,それが作品の価値を損なっている。
著者
吉田 達矢
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 言語・文化篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; LANGUAGE and CULTURE (ISSN:1344364X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.81-99, 2023-03-31

本稿では,オスマン帝国史において「改革の時代」とされる19世紀前半における地方軍政官の人事に着目し,オスマン帝国中央政府の地方社会に対する統治方針の一端について考察した。考察対象の場所は現在のギリシア北部に存在していたヤンヤ県とし,考察対象の時期は18世紀末よりヤンヤ県を中心に中央政府から半ば自立した勢力として広大な領域を支配したアルバニア人豪族テペデレンリ・アリー・パシャの討伐が始まった1820年から,ヤンヤ県にタンズィマート改革が導入され,ヤンヤ州が新たに設立された1846年前後までとした。当該時期に就任したヤンヤ県軍政官各自の履歴,選出・離任理由などについて考察した結果,ギリシア独立戦争やアルバニア人豪族の統御などの問題に対処するため,1830年代前半まではアルバニア人豪族の任用,有力政治家の親子2代にわたる長期の統治がみられ,「第二のテペデレンリ・アリー・パシャ」が出現する可能性があったことなどを指摘した。
著者
大原 寛史
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSYU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.183-200, 2015-07-31

「民法の一部を改正する法律案要綱」は,意思無能力者がした法律行為を無効とする準則を明文で規定する。この準則は,判例および学説において異論なく認められてきたものである。しかしながら,この準則を明文で規定する以上,行為能力理論および制度との関係性,とりわけ「日常生活に関する行為」との関係性の問題については,より詳細に検討しておく必要がある。この問題について,ドイツにおいては,2002年に成年の行為無能力者による「日常生活に関する行為」については一定の要件のもとで例外的に有効とする規定が新設されたものの,当該規定をめぐって様々な観点から議論がなされている。本稿は,この議論を素材として上記問題を検討することにより,民法改正により生じる問題点,とりわけ成年の意思無能力者による「日常生活に関する行為」の効力についての解釈における一視座を提示し,今後の課題を明らかにすることを目的とするものである。
著者
山岡 航
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.177-208, 2021-03-31

譲渡された債権について債務不履行があり,譲受人に譲渡人よりも多くの損害が生じた場合,この損害の賠償をそのまま認めてよいかには,一考の余地がある。ここでは,特に,債務者が債権譲渡によって不利益を被ってはならないという原則との関係が問題になる。本稿では,ドイツ法を参照し,損害賠償の範囲に関して保護されるべき債務者の利益の有無を検討した。その結果,債務者の利益としては,損害額に関する抽象的なもの,損害発生への対処可能性に関するもの,損害の範囲に関する具体的なものの3 種類があり,後二者については,それぞれ,債権譲渡にともなう不利益の禁止,契約自由の原則から要保護性が認められることを示した。これにより,債務者が負担する損害の範囲は,譲渡人との契約を基礎に決定されることになる。このことは,債務者と譲渡人との間の契約の効力が譲受人にも及んでいることを意味し,契約当事者概念の分析に接続しうるものである。
著者
山岡 航
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.17-96, 2020-03-31

債権譲渡との比較において契約上の地位の移転の独自の効果とされてきたものの1つに,解除権の移転がある。しかし,債権譲渡において,債権の譲受人にその債権の発生原因である契約の解除権を認める見解もあり,契約当事者の地位にともなって解除権が移転するということには,理論的に検討の余地がある。本稿では,ドイツ法を参考に,債権譲渡の場面から,解除権と契約当事者の地位との関係を明らかにすることを試みた。検討の結果,解除権は,契約当事者の自己決定の保護を目的としており契約当事者以外の者に帰属しえないこと,および,契約上の地位の移転によって移転するのではなく,地位を譲り受けた者のもとで新たに発生することを明らかにした。このことは,契約当事者の地位を移転の対象とする一般的な理解に対して再検討の必要性を示すとともに,契約当事者の地位および契約当事者概念の分析の端緒となり得るものである。
著者
山岡 航
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.123-184, 2020-07-31

債権譲渡との比較において契約上の地位の移転の独自の効果とされてきたものの1つに,解除権の移転がある。しかし,債権譲渡において債権の譲受人にその債権の発生原因である契約の解除権を認める見解もあり,契約当事者の地位にともなって解除権が移転するということには,理論的に検討の余地がある。本稿では,ドイツ法を参考に,債権譲渡の場面から,解除権と契約当事者の地位との関係を明らかにすることを試みた。検討の結果,解除権は,契約当事者の自己決定の保護を目的としており契約当事者以外の者に帰属しえないこと,および,契約上の地位の移転によって移転するのではなく,地位を譲り受けた者のもとで新たに発生することを明らかにした。このことは,契約当事者の地位を移転の対象とする一般的な理解に対して再検討の必要性を示すとともに,契約当事者の地位および契約当事者概念の分析の端緒となり得るものである。
著者
鈴木 啓司
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; HUMANITIES and NATURAL SCIENCES (ISSN:03850056)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.23-41, 2018-01-31

「モノそのもの」であることを表現する言語の構築を目指す新物質主義の思想にのっとり,数学概念のモノ化を目指す。数学は特定の指示対象をもたぬ極めて抽象的な言語であるだけに,逆に人間という「モノそのもの」の内奥から湧き出,それを映し出している言語であると考えるからだ。具体的な対象として,実数,虚数を合わせすべての数を表示する複素平面を取りあげる。認識論的存在論から話を起こし,実数を自己に,虚数を他者になぞらえて解釈する。当初は「あちら」と「こちら」という原始的世界他者意識が,のちに両者が交叉し,中間に「自己」意識を結ぶ。自己とは他者=世界の後付けで生まれたものである。通念とは逆行するこの虚数から実数へという流れを,複素平面のなかに読み込む。こうした観点から,オイラーの公式,さらにはリーマン予想にまで言及する。
著者
安藤 りか
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSYU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.133-147, 2015-07-31

本論では,取り組み開始から十数年となった大学におけるキャリア教育に対して,近年提出されている種々の批判を整理し,それらの批判の対象となっているキャリア教育の現実との照合・確認をおこない,そこに見られる課題の検討を試みた。その結果,第1に,批判の中核である「心理主義的傾向」と「対象と範囲の無限定性」については,批判が妥当であることを確認した。第2に,「対象と範囲の無限定性」の問題が,キャリアcareerの語義に起因する教育内容の無限定性の問題にとどまらず,教員の専門性の問題とも深く関わっていることを見出した。最後に今後のキャリア研究の課題を示した。