著者
冨田 隆史 葛西 真治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

一般に昆虫の雌成虫体内では,卵巣発育のためにエクジステロイドが分泌される。エクジステロイド合成系と性ホルモン合成系に関与するチトクロムP450の特定を目的として,マイクロアレイ法により86個のキイロショウジョウバエ全P450遺伝子の発現量を雌雄間で比較した。発現量に性差があった15種類のP450遺伝子につき,定量PCR法による検証を行った。エクダイソン合成系への関与が既知のCyp302a1とCyp315a1や機能不明なCYP6A19の遺伝子が雌成虫体内で約20倍多く発現していることを明らかにした。逆に,Cyp312a1は,雄成虫で数十倍多く発現していることが明らかになった。Cyp312a1遺伝子の多くは腹部で発現し,蛹期より徐々に増大し成虫5日目でピークに達していることから,この酵素は雄生殖器管内で働いている可能性が高い。フェノバルビタール(PB)はほ乳類,昆虫類,菌類などさまざまな生物種でP450の一般的な誘導剤として知られている。P450遺伝子の転写機構を解明する目的で,PBの誘導を受けるP450遺伝子をマイクロアレイ法により特定した。PB処理により10数種のP450が成虫体内で誘導されることを明らかにした。これらの中には殺虫剤抵抗性バエでDDT解毒作用を示すことが知られているCYP6G1の遺伝子も含まれていた。
著者
酒井 宏治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

高熱と急性の呼吸器症状を伴うインフルエンザ様症状を呈し入院した海外渡航者からウイルスが分離された。そのウイルスは、過去3例のみ論文報告のある極めて稀なオルソレオウイルスのネルソンベイウイルスに属する新型レオウイルスであった。本研究では、その分離株の性状解析を実施すると共に、インフルエンザやSARSとの類症鑑別を視野にいれたウイルス遺伝子検出系および血清学的診断系の開発、動物感染実験を行い、新興感染症としての新型レオウイルスのコントロール法の確立を試みた。1.分離株の塩基配列決定:分離株の4つのSセグメントの全塩基配列決定を行った。特に、同時期に分離されたKamparウイルス、HK23629/07株と非常に近縁であることがわかった。2.ウイルス遺伝子検出系の開発:Sセグメントの配列情報から、(1)保存性が高く、(2)哺乳類レオウイルス及び鳥類レオウイルスに反応せず、(3)ネルソンベイウイルス群特異的なプライマーセットを作製し、RT-PCRでの迅速かつ高感度な遺伝子検出システムを構築した。3.血清学的診断系の確立:(1)ウイルス中和試験、(2)間接蛍光抗体法、(3)不活化濃縮精製ウイルスを抗原としたELISAのシステムを確立した。4.動物感染実験:マウス感染実験では致死性の呼吸症状が認められた。カニクイザル感染実験では、急性の呼吸器症状は認められたが、顕著な高熱、致死性は認められなかった。
著者
泉福 英信 浅野 敏彦 村田 貴俊 花田 信弘
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、ヒト型モノクローナル抗体を利用した新しい口腔バイオフィルム感染症予防方法の確立を行った。ヒト型モノクローナル抗体の作製は、PAc(361-377)ペプチドを利用して行った。このペプチドは、S.mutansの歯表面への付着阻害抗体の認識するB細胞エピトープとT細胞エピトープを有する。実際にこのペプチドがヒトにおいて有効に免疫原として作用するか、唾液のペプチドIgA抗体量とS.mutans量との相関関係を検討した。その結果、抗体価の高い唾液を有するヒトは、S.mutans量も低下していることが明かとなった。またDRB1^*1501やDRB1^*0406などを含む10種類のHLA-DR遺伝子タイプを有する被験者においてその高い唾液抗体誘導が認められた。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)をNOD-scidマウスに移植し、このペプチドを接種して、ヒト特異ペプチド抗体を誘導できるか検討を行うと、すべての遺伝子タイプのPBMC移植において、PAc(361-386)ペプチドIgG抗体を誘導できることを明かにした。これらの結果から、PAc(361-386)ペプチドはヒトへの接種によりPAc(361-386)ペプチドIgA抗体やIgG抗体を誘導できる抗原であることが確認できた。よって、この抗原を利用して作製されたヒト型モノクローナル抗体を用いれば、有効な齲蝕予防方法が確立して行くことができる。このPAc(361-377)ペプチドを免疫原として、10種類のモノクローナル抗体を得た。それら抗体のうちKH3,KH5,SH2,SH3は、S.sobrinusとS.mutansのみに反応する事が認められた。これらの抗体SH2,SH3,KH5は、S.mutansの歯表面の付着においてPBSで処理したラットに比べ60%以上の阻害効果が認められた。またこれらのモノクローナル抗体は、S.mutansと唾液成分との結合をBIAcore in vitro実験においても70%以上の阻害することが認められた。今回明かとなったペプチド抗原で誘導されたヒト型モノクローナル抗体をこの3DSのような口腔バイオフィルム除去法を併用していけば、さらに長期間効果を期待できるう蝕予防が実現化していくと考えられる。
著者
今井 奨 西沢 俊樹
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

それ自身う蝕誘発性をもたず、う蝕原性細菌の有機酸産生や歯の再石灰化などに関わりをもってう蝕の発生を低下させるような、従来とは異なる機能性オリゴ糖の開発と、それを用いたう蝕予防方法の開発を目的として本研究を遂行した。馬鈴薯澱粉に液化型α-アミラーゼを反応させてリン酸化オリゴ糖(POs)を調製した。このPOsについてカルシウムリン酸沈殿阻害効果や、う蝕原性細菌であるS.mutans MT8148株、S.sobrinus 6715株を用いてPOs自身の発酵性とスクロースの発酵に及ぼすPOsの影響を調べた。また、人工口腔装置を構築し、ミュータンスレンサ球菌がスクロース存在下で形成する人工バイオフィルムの量、人工バイオフィルム下のpHおよびpH低下によって起こるエナメル質の脱灰に及ぼすPOsの影響を本装置によって評価した。その結果、POsはin vitroでのカルシウム-リン酸沈殿阻害効果を示し、カルシウム可溶化作用のあることが分かった。また、POs自身はS.mutans、S.sobrinusによって資化されず、培地pHを低下させないことが分った。また、POsは両ミュータンスレンサ球菌およびActinomyces viscosusによるスクロースの発酵に由来するpH低下を濃度依存的に抑制した。このpH低下抑制効果はリン酸化オリゴ糖のもつ緩衝作用に依ることが示唆された。さらに人工口腔装置による実験系で、Ca型のPOsはS.sobrinus、S.mutansの人工バイオフィルム沈着に起因するpH低下に対して抑制的に作用し、エナメル質表面の人工バイオフィルム量、エナメル質脱灰も抑制した。以上よりリン酸化オリゴ糖はう蝕予防用のオリゴ糖としての望ましい性質を備えており、これを用いた種々の予防方法に応用可能であることが確認された。
著者
山越 智
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

サイトカインLECT2の関節リウマチにおける抑制作用を解析した。関節炎に関与しLECT2受容体を発現する細胞を同定した。滑膜細胞はLECT2受容体を発現していた。そこで、滑膜細胞の増殖、関節炎に関与する炎症性サイトカイン等各種遺伝子発現についてLECT2添加による影響を調べた。LECT2遺伝子欠損マウスを用いたマウス関節炎モデルにおいて、主要に働く炎症性サイトカインに支配される遺伝子を見出した。
著者
中尾 龍馬
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

Porphyromonas gingivalisの血球凝集素HagBが糖修飾を受け、バイオフィルム形成に関与することを明らかにした。また、P. gingivalis培養上清から外膜ヴェシクルを精製し、これを解析したところ、その構成要素には、Rgp、Kgp等の病原因子のほか、メジャー線毛、およびマイナー線毛の構成タンパクFimA、MfaIが豊富に含まれていた。外膜ヴェシクルは口腔上皮細胞に対しRgpに依存した強力な脱離活性を示した。以上より、P. gingivalisのHagBを介したバイオフィルム形成や、外膜ヴェシクルを介した組織傷害が、歯周病の病態形成に関与する可能性が示唆された。
著者
中尾 龍馬
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Porphyromonas gingivalisは主たる歯周病原性細菌であり,近年は動脈硬化や冠状動脈疾患の発症,早産の誘発などにも関与することが示されている。本疾患形成には,菌体外膜にあるLPSやある種のタンパクが関連すると考えられている。本研究では,菌体外へ放出される外膜ヴェシクル(OMV)と糖合成系経路で機能するUDP-galactose 4-epimerase(GalE)に着目し,galE変異に伴うOMV産生への影響について調べた。野生株(ATCC 33277株),galE変異株,galE相補株の培養上清に含まれるOMVの形態と量を電子顕微鏡にて経時的に観察した。培養上清中のLPSはリムラス試験法にて定量した。野生株の培養上清中のOMV量は培養開始から3日間は経時的に増加し,その後死菌由来と思われるデブリスを増した。一方,galE変異株は培養開始から3日間はほとんどOMVを産生せず,その後デブリスが増した。また,galE変異株の培養上清中のLPS量も同様に,野生株に比べて著しく減少した。しかしgalE遺伝子の相補によりOMV産生は回復しなかった。以前のP.gingivalis galE変異株の解析から,GalEはP.gingivalisの生育に影響しないこと,LPSや外膜タンパクの糖化に関与することが明らかになっている^<1.2>。一方,本研究において,galE変異株のOMV産生はほとんど失われたが,galE遺伝子を相補してもOMV産生の回復がみられなかったことから,OMV産生にはgalE以外の遺伝子が関連するものと推察された。
著者
駒野 淳
出版者
国立感染症研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

GPCR多量体化は小胞体からの脱出、細胞膜輸送、リガンド依存的/非依存的エンドサイトーシス等に関与するといわれている。多量体化の生物学的意義は、GPCR単量を作成してその機能を野生型タンパク質と比較するのが最も直接的である。実際いくつかのGPCRでは単量体GPCRを作出する事に成功し、多量体化が小胞体からの脱出やエンドサイトーシスに重要であることが判明した。しかし、全てのGPCRに共通した普遍的な多量体モチーフは同定されていない。我々はGPCRの一種であるCXCR4が多量体化することをBRET/BiFCにて実証した。これに加えて細胞質ドメインC末端付近のアミノ酸343-346が欠損すると多量体化効率が顕著に低下する事を明らかにした。本研究ではこれを基礎としてCXCR4単量体誘導体を作出して、多量体化の生理的意義の解明を試みた。その結果、厳密な意味での単量体CXCR4作出は困難であった。しかし、多量体化レベルと機能の相関を解析することにより、CXCR4多量体化の生理学的な意義の一つは細胞表面におけるタンパク質発現レベルの制御であることが判明した。これは定常的エンドサイトーシスの効率により決定される可能性が示唆された。欠損変異体のリガンドへの反応性は増強していた。これは細胞レベルのCXCR4のC末端欠損によって引き起こされる遺伝的疾患WHIM症候群の表現型と非常に良く似ていた。以上よりCXCR4の多量体化はリガンド依存的/非依存的エンドサイトーシスと機能的に関連することが示された。本研究結果はCXCR4多量体化の制御法開発、WHIM症候群の病態理解と治療法開発に示唆を与えるものと思われる。
著者
川端 寛樹 田島 朋子 田島 朋子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1)国内分離のライム病病原体であるボレリア・ガリニゲノムからマダニ唾液腺へのボレリア接着因子として、機能未同定の遺伝子を複数検出した。表層抗原であるBB0616ホモログは、マダニ唾液腺への接着に関与していると思われる。一方、その機能ドメイン、接着リガンドなどは未同定である。2)国内分離ボレリアのマダニ中腸への接着性についても検討を行った。ボレリアの中腸組織への接着は、未吸血マダニ中腸組織で見出された。また、接着阻害実験に用いた細胞間マトリックスの一部は、その接着を阻害した。他方、これまで知られているglycosaminoglycansへの結合能は本ボレリアでは見出されなかったが、ボレリアのマダニ中腸組織への結合を阻害した。今後、これらボレリアの接着因子の同定を試みている。
著者
中野 由美子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

コレステロールは赤痢アメーバの生育に必須な因子の一つであり、赤痢アメーバは細胞外からのコレステロールの取込み、あるいは細菌や宿主細胞を貪食することによりコレステロールを摂取している。ヒトにおいて、コレステロールが局在するオルガネラは細胞膜であるが、赤痢アメーバではリソソームに局在していることが明らかになった。そこで、コレステロールの細胞内輸送の特殊性を理解するために、リソソーム輸送の制御機構について解析を行った。他種生物ではリソソームへの輸送は低分子量GTPaseであるRab7が膜融合を担っているが、赤痢アメーバゲノムにはRab7が9種存在した。そのうちの一つEhRab7AはエンドソームからTGNへの逆行輸送に関与することが以前に報告されていたが、EhRab7Aにもっとも高い相同性を示したEhRab7Bは赤痢アメーバ内で大量発現することにより、リソソームの肥大化を誘引ことが分かった。EhRab7Bの機能をさらに詳細に解析するために、EhRab7Bの優性変異であるH69L変異を発現させたところ、EhRab7B H69Lタンパク質の細胞内局在は膜から可溶性画分へと変化し、リソソームの形成が阻害された。さらにEhRab7B H69L変異発現株ではリソソーム酵素であるシステインプロテアーゼが細胞外に大量に分泌されていた。システインプロテアーゼの細胞内での発現はEhRab7B H69L変異株では僅かに減少しており、システインプロテアーゼのmis-secretionが起こっていると考えられた。以上の様に、赤痢アメーバのリソソーム輸送は、複数のRab7が異なるステップを調節しており、Rabの機能の細分化が起きていると考えられた。