著者
加来 義浩 河原 正浩 浅井 知浩
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

狂犬病ウイルス(Rabies virus: RABV)に感染すると、ウイルスは血流を介さず、末梢神経細胞を経由して中枢神経へと伝達され、狂犬病を発症する。発症後の致死率は100%であり、有効な治療法はない。本研究では、狂犬病発症後の治療法の開発を目的として、RABV感染細胞内でウイルス蛋白質に結合できる人工小型抗体を複数作出し、一部についてはウイルスの増殖阻害効果を有することを確認した。また人工小型抗体の遺伝子をナノ粒子に封入し、神経細胞へのin vitroデリバリー系の構築を行った。
著者
竹田 誠 永田 典代 福原 秀雄
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

肺炎や下気道炎を起こすウイルスは多様である。しかしながら、これら呼吸器ウイルスは、ウイルス種としては多様であるものの、それら呼吸器ウイルスの膜融合蛋白が宿主気道上皮のプロテアーゼで活性化するという共通の性質を持つと考えられる。申請者らは「プロテアーゼ依存性トロピズム」理論に立脚した考えのもとに、ウイルス活性化に関する研究を推進してきた。その結果、ノックアウトマウス技術を用いることで、呼吸器上皮細胞に発現しているセリンプロテアーゼTMPRSS2が、インフルエンザウイルスの生体内活性化酵素であることを証明した。本研究では、TMPRSS2の生理機能や細胞内動態の解析、TMPRSS2の阻害化合物の大規模スクリーニングを実施し、TMPRSS2阻害化合物の呼吸器ウイルス感染阻害効果を検証することを目的に実験を行なっている。また、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウスならびにTMPRSS2 KOマウスを用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖、病原性発現におけるTMPRSS2の役割を解明するとともに、TMPRSS2の阻害化合物による各種呼吸器ウイルスやMERSコロナウイルスの生体内での増殖抑制効果を明らかにすることを目的に実験を行った。本研究開始以前に、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウス(CD26-tgマウス)を作出することによって、すでにMERSコロナウイルスのin vivo(マウス)モデルを確立していたので、本マウスとTMPRSS2 KOマウスを交配されることによって作出されるマウス(CD26-tg/TMPRSS2 KOマウス)を用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖におけるTMPRSS2の役割を解析した。の結果、TMPRSS2がMERSコロナウイルスの気道での増殖ならびに気道で起こる免疫反応に重要な意義があることが確認された。
著者
上野 圭吾
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

病原性真菌<i>Cryptococcus gattii</i>は、健常人に感染し予後不良なクリプトコックス症を引き起こす。申請者は、本感染症の予後を改善する樹状細胞 (DC)ワクチンを開発し、その作用機構を解析している。昨年度は、DCワクチンが肺常在性記憶型Th17細胞 (lung TRM17)を誘導することや、lung TRM17の分化維持機構に必要な因子について、国際誌に報告した (Ueno et al., Mucosal Immunol, 2019)。lung TRM17の誘導前期 (ワクチン後2週目) と誘導後期 (ワクチン後15週目)について、IL-17A欠損マウスでの挙動を評価したところ、IL-17A欠損マウスではどちらの時期もlung TRM17の数は有意に少なかった。特に、誘導後期のIL-17A欠損マウスでは、lung TRM17に発現するCD127の発現量が有意に低下し、lung TRM17の数はワクチン非投与群の場合と同等であった。このことは、IL-17Aがlung TRM17の発達や維持に関与することを示唆している。その他、DCワクチンを事前にMHC-II阻害抗体で処理するとlung TRM17の発達が阻害されたことから、DCワクチンによる抗原提示活性がlung TRM17の発達に必要であることも明らかになった。上記の論文では、lung TRM17が好中球の活性化を介して本感染症を制御するモデルを示した。その後の研究では好中球の殺菌機構や分化制御機構についても国際誌に報告した (Ueno et al., Med Mycol, 2019: Sci Rep, 2018)。初年度で開発した新規経鼻 (IN) ワクチンについて、DCワクチン同様に感染予後を改善することが明らかになった (上野ら, 第62回 日本医真菌学会総会, 2018年)。
著者
岩田 奈織子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

重症肺炎を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV) 及び中東呼吸器症候群コロナウイルス (MERS-CoV) に対する新規ワクチン開発のため、平成29年度は平成28年度に引き続き免疫原とするSARS-CoVのスパイク (S) タンパク質を作製し、その中和抗体誘導能をマウスで確認した。平成28年度に作製したSARS-CoV S タンパク質は精製度が低かったため中和抗体誘導能が低かったため、平成29年度は精製度の高いSARS-CoV S タンパク質を作製し直した。このタンパク質を抗原としてマウスに 1 匹あたり 1 回、1, 0.5, 0.1, 0.05 μg をそれぞれ皮下免疫したところ、2回の免疫で S タンパク質に対する IgG の産生が見られた。IgG 抗体の産生は免疫した抗原濃度に依存して見られ、1 μg, 0.5 μgでは免疫した全てのマウスで高い IgG 抗体産生があった。中和抗体に関しても 1, 0.5, 0.1 μg では産生が見られたが、0.05 μg の免疫群では検出限界以下だった。また、各抗原量に金ナノ粒子を添加して同様に免疫をした場合、1 μg, 0.5 μgを免疫した群では抗原のみを投与した群と比較して中和抗体の産生に違いはなかったが、0.1 μg を投与した群では金ナノ粒子を添加した場合の方が IgG 抗体および中和抗体の産生はわずかに高かった。しかし、これらの免疫マウスを用いてウイルス攻撃実験を行なった結果、金ナノ粒子を添加した免疫群はどの抗原量においても感染後の体重の回復が悪く、さらに金ナノ粒子添加 0.1 μg、0.05 μg を免疫した群では、生存率が抗原のみの群よりも悪かった。この結果に基き次年度は、金ナノ粒子を添加したことによる副反応の影響を追求する。
著者
白戸 憲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

多くのエンベロープウイルスはエンドサイト―シス経由で細胞侵入する。ヒトコロナウイルス(HCoV)229EもエンドゾームのカテプシンLを利用すると考えられてきた。本研究では、我々はHCoV229Eの臨床分離株はATCC株のような細胞順化株とは異なり、エンドゾームのカテプシンLよりも細胞表面のTMPRSS2の利用を好む事を発見した。エンドゾームはTLR認識など、自然免疫応答の主要な場所であり、本来のHCoV229Eはおそらく細胞表面からの細胞侵入によってエンドソームを飛び越えるように進化したと考えられる。ATCC株におけるこれらの性質は、長い間の細胞継代によって失われたと考えられる。
著者
田口 文広 松山 州徳 森川 茂 氏家 誠 白戸 憲也 座本 綾 渡辺 理恵 中垣 慶子 水谷 哲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1)SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関する研究SARS-CoVは通常エンドゾーム経由で細胞内へ侵入することが報告されているが、我々はSARS-CoVのS蛋白の融合活性を誘導するプロテアーゼ(trypsin, elastase等)存在下では細胞膜径路で侵入することを明らかにした。更に、この径路による感染は、エンドゾーム径路感染より100-1000倍感染効率が高いことが判明した(PNAS,2005に発表)。SARSの重症肺炎の発症機序は、ウイルス感染を増強する様なプロテアーゼの存在が重要ではないかと考え、マウスに非病原性細菌感染で肺elastaseを誘導し、SARS-CoVを感染させることにより、ウイルス増殖及び肺の組織障害が高くなることを観察した。今後、更に重症肺炎に至るウイルス側及び宿主側因子の同定を進めたい。2)マウスコロナウイルス(MHV)に関する研究神経病原性の高いMHV-JHM株は受容体発現細胞に感染し、その細胞から受容体を持たない細胞に感染することが知られている。我々は、JHM株を直接受容体非発現細胞へ吸着させることにより、感染が成立することをspinoculation法(ウイルスが接種された細胞をウイルスと共に3000rpmで2時間遠心)により証明した。また、受容体非依存性感染にはJHM株のS蛋白の自然条件下で融合能が活性化されるという性質によることも明らかにされた(J.Viro1.2006発表)。
著者
西條 政幸
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究により.世界で初めてウイルス学的に証明されたアシクロビル耐性HSV-1による新生児脳炎患者の報告をした.DNApol関連ACV耐性HSV-1の性状を解析し,多くの耐性株は神経病原性が低下しているものが多いものの,中には病原性が維持されているウイルスも存在する.また,DNApol関連ACV耐性HSV-1のほとんどがガンシクロビルに感受性を有し,逆にフォスカルネットには交叉耐性を示すことが明らかになった. ACV耐性HSV感染症の増加等が予想されることから,今後,病原ウイルスの薬剤感受性を調べる耐性の構築と,その結果に基づく適切な治療ができるようにする必要がある.
著者
川端 寛樹
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ライム病はスピロヘータの一種ボレリア感染に起因する慢性の感染症で、抗菌薬による治療を行わなかった場合、慢性の関節炎、皮膚炎、神経炎に移行する。本研究では、ライム病ボレリアゲノムシークエンスが完了したボレリアB31株を用い、マウス感染モデルにおける病原性機構、特に関節炎発症メカニズムの解明を目的として以下の研究を行った。結果:1)B31株エピソームである28kb線状plasmid-4(lp28-4)を欠失した変異体では、接種部位から遠位に位置する関節組織において、関節炎の重症化が起らない事、即ち、この表現型では関節周囲組織へのボレリア侵入能、定着能もしくは組織での病原性が低下していることを明らかにした。2)炎症の度合いは組織での定着菌数と比例すること、すなわちlp28-4欠失変異体では、関節組織での定着菌数が低下していることを見出した。3)Lp28-4プラスミド上の因子同定を目的として、3種類の推定表層抗原遺伝子(BBI16,BBI36,BBI42)を相補し、感染実験を行った。これは、ライム病ボレリアは病原因子等の分泌機構を有さないこと、すなわち表層抗原に依存した病原機構が多いと考えられるためである。しかしながら親株であるlp28-3欠失変異体と比較し、本相補株では有意の関節炎増悪はみられなかった。まとめ:以上の結果から、lp28-4領域に関節炎を増悪させる因子が存在する可能性が示唆された。本因子には、ボレリアの関節周囲組織への浸潤を促進する機能があると考えられた。一方でlp28-4上の因子の特定にはいたらなかった。
著者
小川 基彦
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ツツガ虫病の起因菌Orientia tsutsugamushiはリンパ球や血管内皮細胞など細網内皮系細胞に主に感染する.その結果,ヒトには免疫応答など様々な生体反応が誘発され,発熱,発疹,CRP,肝酵素の上昇などの症状が起きる.また,一部の患者は播種性血管内凝固(DIC)をおこし重症化する.そこで,本研究ではツツガ虫病の免疫応答と病態の関係に注目し解析をおこなった.まず,患者の発生状況や臨床所見に関して行った調査票による疫学調査の中で,特に免疫応答に関連するリンパ球を含む白血球減少,DICなどの所見に注目し疫学的な解析をおこなった.その結果,主に春に発生が多くGilliamおよびKarp株の感染が多い東北・北陸地方は白血球減少およびDICをおこす頻度が高く,重症度が高いこと,一方で秋に発生が多くKawsakiおよびKuroki株の感染が多い関東および九州地方では頻度が低く,症状が軽いことが明らかになった.これらの結果から,本菌の血管内皮細胞やリンパ球への感染による免疫応答が病態と密接に関係している可能性が示唆された.次に,ヒト臍帯内皮静脈細胞(huvec)に病原性の強いKarp株を感染させ,免疫応答のメディエーターであるサイトカインの誘導を解析した.huvecにKarp株を感染後,感染細胞からRNAを抽出しRT-PCRによりmRNAレベルでサイトカインの発現を解析した.その結果,感染後72時間でIL-6,8,GMCSF, MCP-1,RANTES, TNFαの発現がみられた.また,同様の解析をヒト単球セルラインU937で行ったところ,IL-1β,8,RANTES, TGFβの発現がみられた.また,U937にはKarp株への感受性が高かったが,別の単球セルラインのK562は感受性が低かった.また,huvecを用いた血管透過性の解析では,およびを用いて,Transwellメンブレン上のモノレイヤーの感染後の電気抵抗の変化をEndohmにより解析した.その結果,Karp株の感染およびTNFα(陽性対照)により透過性が亢進した.今後,産生されるサイトカインの役割,内皮透過性,単球への感受性,病原性の異なる株による違いに注目した解析を行い,各細胞のin vitroにおける役割・応答を解析するための基礎データが蓄積できた.
著者
池辺 忠義
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

劇症型溶連菌感染症(STSS)は、発病からの病状の進行が急激かつ劇的で、いったん発病すると数十時間以内に、死に至る可能性の高いことが知られている。本研究において、劇症型溶連菌感染症臨床分離株で、新たにrgg遺伝子に変異があることを見出した。マウスモデルにおいて、このrgg変異株は、致死性が高く、様々な臓器に障害を与え、ヒトの好中球を殺傷することが明らかとなった。STSS株と非侵襲性感染株におけるrgg遺伝子の変異頻度を調べた結果、劇症型溶連菌感染症臨床分離株の約25%を占めていた。また、咽頭炎などの非劇症型感染臨床分離株では、1.7%しかこの遺伝子に変異が見られず、有意に劇症型感染症臨床分離株においてrgg遺伝子に変異がみられることが判明した。このことから、このrgg遺伝子の変異は、劇症型感染症に重要な役割をしていることが考えられた。
著者
宮村 達男 吉田 弘 清水 博之 PHAN Van Tu 米山 徹夫 萩原 昭夫 松浦 善治 武田 直和 RADU Crainic DELPEYROUX F CRAINIC Radu
出版者
国立感染症研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ポリオウイルスは代表的なエンテロウイルスであり、経口感染によりヒトからヒトへと伝播する。そしてヒトのみが唯一の感受性自然宿主である。糞口感染が日常的におこらないような衛生状態が恒常的に保たれれば、ポリオの伝播は次第に絶ち切られ、ポリオという疾患は消滅するはずである。一気にポリオを根絶する為には、更に強力な免疫計画とサーベイランスが必要であり、この目的をもって世界レベルの根絶計画がWHOの強力な指導のもとにスタートした。我が国の属する西太平洋地域では野生株ポリオウイルスは激減しているが、本研究は最後までウイルスが残っているベトナムをその対象領域として、野生株ポリオウイルスが弱毒性ワクチン株に置き換えられてゆく最後の過程を検証することにある。1997年、ベトナムでは1例、隣国のカンボジアでは8例の野生株が分離された。これらは現地で急性弛緩性マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)を生じた小児の糞便検体が当研究室に送付され、ウイルス分離、同定、型内鑑別が行われたものである。そしてこれらの分離株のVP-1領域の塩基配列を決定し、これまで周囲で分離されていた野生株と比較した。その結果、インドシナ半島で複数存在していた株のうちの一つのみが残っていることがわかった。北ベトナムでAFP例から分離されたウイルスは、ここ2年間、すべてワクチン由来株であったが、この1年はワクチン株の分離も減少している。一方、南ベトナムの国家ラボで得られた成績と日本のラボでの成績には、一部不一致がみられた。その問題点を解決する手段として、野本らにより樹立されたポリオウイルスのレセプターを発現しているマウス細胞株(Lα細胞)を用いた、ポリオウイルス選択的なウイルス分離が提唱され、実行されつつある。かくして、1997年3月19日のカンボジアの1例を最後として、野生株は分離されておらず、これが最後の例となるか、更なる強力な監視が必要である。
著者
永宗 喜三郎 川原 史也 アンドラビ ビラル
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

トキソプラズマにおいて最近「細胞外」原虫でのみ形成され、原虫の細胞外環境適応能力を規定している可能性があるオルガネラ(PLV/VAC)の存在が報告された。申請者らは独立した研究によりこれらと類似のオルガネラを発見し、詳細な解析からこれらのオルガネラが3つのサブコンパートメントに区別できることを見出した。また申請者らは抗マラリア薬として知られているプリマキンが、3つのサブコンパートメントの1つであるPLV2の水素イオンおよびカルシウムイオンを細胞質内に遊離させる作用を持つことも見出し、またプリマキン耐性トキソプラズマ原虫クローンを確立することにより、その責任遺伝子を同定した。
著者
寺原 和孝 横田 恭子 岩渕 龍太郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究はHIV-1感染伝播における樹状細胞の役割についてヒト化マウスモデルで明らかにすることを目的とした。ヒト化マウスは樹状細胞等の骨髄系細胞の分化が乏しいため、まず、ヒト由来サイトカインであるGM-CSFおよびFlt3-Lの導入による樹状細胞の分化誘導について検討したところ、骨髄系樹状細胞亜集団であるBDCA-1+ MDC1およびBDCA-3+ MDC2の顕著な分化誘導が可能となった。そして、これらヒト化マウスにHIV-1を感染させた結果、感染前の単球数と感染後1週目の血中ウイルス量が有意に相関した。つまり、HIV-1初期感染において樹状細胞がその伝播効率に関与することが推察された。
著者
倉根 一郎 高崎 智彦 松谷 隆治 鈴木 隆二
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

デングウイルス感染症は世界で最も重要な蚊媒介性ウイルス感染症である。デングウイルス感染におけるデング出血熱の発症機序の解明のため、マーモセットを用いてデングウイルス感染モデルの確立を行った。マーモセットは感染後高いウイルス血症を示し、また抗体反応、臨床的所見、血液学および生化学的検査所見もヒデング熱患者と同様の変化が見られた。また、マーモセットにおけるT細胞免疫応答の詳細な解析のため、サイトカインや細胞マーカー解析のツールを確立した。
著者
倉根 一郎 高崎 智彦 正木 秀幸
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

デング出血熱の病態形成におけるフラビウイルス交叉性免疫応答の役割を解明することを最終的な目的とし、デングウイルスと日本脳炎ウイルス交叉性T細胞の解析をヒトおよびマウスのリンパ球を用いて詳細におこなった。日本脳炎ウイルスとデングウイルス間には免疫ヒトリンパ球を用いてのバルクカルチャーにおいては交叉反応性が認められた。しかし、CD4陽性T細胞クローンレベルでは日本脳炎とデングウイルス間に交叉反応性が認められなかった。一方、日本脳炎ウイルス反応性T細胞クローンの一部は西ナイルウイルスとの間に交叉反応を認めた。これは、日本脳炎ウイルスと西ナイルウイルス間でのアミノ酸の相同性の高さによると考えられる。従って、ヒトT細胞においてフラビウイルス交叉反応性は存在するが、日本脳炎とデングウイルス交叉性のものは低頻度であると考えられる。これらCD4陽性ヒトT細胞クローンのT細胞レセプターはユニークなモチーフは認められなかった。一方、マウスにおいてもデングウイルスと日本脳炎ウイルス間のT細胞交叉反応性を検討する目的で、まず、日本脳炎ウイルス反応性キラーT細胞の誘導と認識するエピトープの解析を行った。マウスを日本脳炎ウイルスで免疫することにより、日本脳炎ウイルスに対するキラーT細胞が誘導される。これらのキラーT細胞が認識するエピトープはエンベロープ蛋白質のアミノ酸60-68番上にあり、H-2K^d拘束性であった。現在、このエピトープを確認するT細胞のフラビウイルス交叉性、およびマウスキラーT細胞が認識する他のエピトープの同定が進行中である。
著者
津田 良夫 沢辺 京子 高木 正洋 杉山 章 江下 優樹 都野 展子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

野外のネッタイシマカ集団が有する斑紋変異の現状をベトナム、インドネシア、ラオス、シンガポール、フィリピン、タイを調査地として調べた。その結果大陸に位置する調査地(ベトナム、タイ、ラオス)では、体色の黒い個体が集団の95%以上を占めていることがわかった。これに対して島嶼に位置する調査地(フィリピン、インドネシア)では白色化した個体の割合が高く変異の幅も広いことがわかった。インドネシア、ベトナム、タイで採集された個体を親世代として、それぞれの集団に対して体色のより黒い個体あるいはより白い個体の人為淘汰を行った結果、どの地域の集団からも黒色個体と白色個体を選抜することができた。スラバヤの集団より選抜された黒色系統と白色系統を用いて、個体群形質の比較を行った。その結果、(1)白色系統は黒色系統に比べて発育が遅い、(2)砂糖水だけで飼育したときの寿命はほぼ同じ、(3)繰り返し吸血させ産卵させた場合は白色系統の寿命の方が短い、(4)成虫の令別生残率と令別産卵数とから求めた繁殖能力は黒色系統の方が大きいことがわかった。白色系統と黒色系統の産卵場所選択について調べるために、インドネシア・アイルランガー大学の動物舎でmark-release-recapture実験を行った。黒色個体は放逐場所に最も近い屋内に設置したオビトラップに集中的に産卵したが、約40m離れた屋外のオビトラップにも産卵していた。一方白色個体は動物舎内の比較的明るい場所に設置したオビトラップにより多く産卵し、屋外のトラップへの産卵はごくわずかであった。野外集団のデング熱ウイルス媒介能力を成虫のトラップ調査によって実施するためには二酸化炭素源が必要であり、簡便に二酸化炭素を発生できる装置を考案し定期調査を実施した。
著者
杉山 広 熊澤 秀雄
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

南米エクアドルで住民を対象に肝吸虫の調査を実施して、太平洋側の3県にAmphimerus属肝吸虫の流行地を見いだした。淡水魚を20種類以上検査して、Guabinaという魚がメタセルカリアの寄生数が多く、感染源として最も重要であることを明らかにした。メタセルカリアの種同定には、患者由来の成虫を用いて解読した遺伝子配列が、マーカーとして役立った。肺吸虫に関しては、エクアドルでの過去の研究成果を紐解き、総説論文をまとめた。陽性地区の淡水産カニから幼虫を分離し、実験ネコへの感染試験で成虫を回収、本虫(メキシコ肺吸虫)の形態と遺伝子に関する知見も得た。
著者
有田 峰太郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

抗エンテロウイルス薬の候補化合物は、ウイルスタンパク阻害剤、宿主のPI4KB/OSBP阻害剤に分類された。PI4KB/OSBP経路は、ウイルスRNA合成過程ではなく、ウイルスの複製の場の形成に必要であり、複製の膜上にフリーのコレステロールを蓄積する役割を果たしていた。これらの結果は、抗エンテロウイルス薬の開発において宿主因子に対する阻害剤に注目する場合には、PI4KB/OSBP経路の阻害剤の有効性を検討する必要性があることを示唆する。
著者
野崎 智義 洲崎 敏伸 坪井 敏文 守屋 繁春 津久井 久美子 松崎 素道 橘 裕司 石田 健一郎 小保方 潤一 橋本 哲男 金子 修 稲垣 祐司 井上 勲 永井 宏樹 黒田 誠 永宗 喜三郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

真核生物の進化、及び、オルガネラ(細胞内小器官)の進化は、生物学の最も重要な基本命題である。一般に葉緑体・ミトコンドリアなどのオルガネラは細菌の内部共生によって生まれ、真核生物に革新的な代謝機能を与えた。本研究は(1)オルガネラ進化につながる一次・二次共生関係を生物界から広く検出し、共生を可能とする仕組みを理解する、(2)進化過程にある共生・寄生オルガネラの機能と維持機構を解明する、(3)「内部共生体に駆動される真核生物進化」という新しいパラダイムを確立する、(4) オルガネラ移植等の細胞工学手法による試験管内生物進化に必要な技術基盤を確立することを目指し研究を展開し成果を生んだ。
著者
野崎 智義 津久井 久美子 佐藤 暖 JEELANI Ghulam
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

赤痢アメーバの嚢子モデルであるEntamoeba invadensを用いて、嚢子化過程において、キャピラリー電気泳動飛行時間計測型質量分析計を用いたメタボローム解析、DNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を行い、代謝物の動態、遺伝子発現を網羅的に解析し、高度な代謝の変化を確認した。更にこれまで未同定の新規の代謝経路を発見した。本研究成果は、遺伝子発現と代謝物の動態から代謝の流れと調節点を同定し、嚢子化の代謝変化の分子機構を理解することを可能とした。