著者
柳坪 幸佳 鈴木 今日子 松浦 とも子 Sachika YANAGATSUBO Kyoko SUZUKI Tomoko MATSUURA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.11, pp.21-35, 2015

中国の中等教育には、近年第二外国語として日本語を設置する学校が見られる。しかし、中国教育部による第二外国語のシラバスや教科書はまだなく、何をどう教えればいいか、試行錯誤をしている教師が多い。このような状況の中、国際交流基金北京日本文化センターは、教材『エリンが挑戦!にほんごできます。』(国際交流基金、2007)の内容を厳選、中国の現地事情を考慮した内容を追加し、『エリンが挑戦!にほんごできます。艾琳学日語』として出版した。教材の作成にあたっては、中国の教室で第二外国語の主教材として使えるようにすること、同時に、第一外国語の日本語授業でも視聴覚教材として使えるようにすることを目標とした。教材に対しては、教師・学習者ともに好意的な評価を示したが、異文化理解の育成に関しては教師への支援が必要なことがわかった。
著者
和田 衣世 Kinuyo WADA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.3, pp.13-28, 2007
被引用文献数
1

本稿は、これまで行われていなかったスリランカの日本語学習者を対象にした言語学習ビリーフ調査の報告である。調査はBALLIを用いて行われ、質問項目は外国語学習の適性言語学習の本質言語学習の困難さ学習とコミュニケーションストラテジー言語学習の動機教師の役割教授法・教室活動媒介語言語学習と文化の関係についての9領域にわたる。調査の結果、スリランカの大学における日本語学習者は、コミュニケーション重視の教授法や教室活動、シラバスを望み、教師依存の傾向が強く、教師に強い信頼と期待を寄せているということが明らかになった。また、この調査の結果をもとに、スリランカの日本語教育の問題点と照らし合わせ、どのような改善が必要かを考察した。現実と学習者のビリーフにはギャップがあり、それを埋めていくことが今後のスリランカにおける日本語教育の改善の鍵になると思われる。
著者
板橋 貴子
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.16, pp.17-28, 2020-03

本調査では、日本語能力試験(以下、JLPTと略す)の聴解問題「即時応答」で、従属節の聞き取りを問う2題を日本語中上級以上の非日本語母語話者45名に解答してもらい、解答プロセスについて回想法でプロトコルを採取した。即時応答に解答する際、どのように正答を選んでいるか、どうして誤答を選んでしまったかをプロトコルを通して概観していく。その中で、中上級以上であっても、テ形従属節の聞き取りにおいて、語義の推測を誤ったり、格助詞に注意が向かず、動作主を誤ったりして、正答が選べないことが分かった。また、スクリプトの意味が理解できない場合には、機能の推測やムードを頼りに選択肢を選ぶというストラテジーも観察された。本研究はJLPT聴解試験の妥当性検証を質的に行うという役割を担っている。
著者
羽太 園 野畑 理佳 東 健太郎 戸田 淑子 安達 祥子
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.55-70, 2017-03-01

国際交流基金関西国際センターで実施している外交官・公務員日本語研修では、これまで主教材として『みんなの日本語』を使用していたが、コース目標とカリキュラムのずれ、レベル差の拡大による学習ストレス、日本文化社会理解のシラバスの偏りなどの問題から、平成27年度より『まるごと日本のことばと文化』(以下『まるごと』)を使用することとした。主教材変更に際しては、本研修参加者の多様な背景や学習能力などをふまえ、①職業的な知識や経験の利用、②レベル差への対応、③文法を重視する学習者への対応、の3点に留意してコースデザインを行った。研修の結果、成績下~中位レベルの口頭運用能力の向上、ストレスの軽減、コミュニケーションへの積極性などの変化が明らかになったが、上位レベルのカリキュラムには課題が残った。
著者
菊岡 由夏 篠原 亜紀
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.71-85, 2017

本稿では、ノンネイティブ日本語教師を対象とした教師研修における教授法科目のコースデザインの概要とその成果について報告する。海外日本語教師長期研修では、教授法科目のシラバスを改訂し、2015年度の研修において新たなシラバスによる教授法コースを実施した。新たなシラバスは、JF 日本語教育スタンダードの考えに基づいて、「課題遂行を重視した教え方」を中心に作成した。コースの実施にあたり、研修参加者が、これまでの日本語の教え方と研修で学ぶ新たな教え方とのギャップに混乱することがないよう、「内省」の機会を取り入れることとした。コース終了時のアンケートの結果から、「課題遂行を重視した教え方」が研修参加者に肯定的に捉えられたこと、また、「課題遂行を重視した教え方」を学ぶことを通して研修参加者が自身の教え方をふり返り、自身の教え方の変化の必要性を気づくに至ったことがわかった。
著者
プーリク イリーナ ミロノワ リュドミラ 山口 紀子 Vladimirovna PURIK Irina Olegovna MIRONOVA Lyudmila Noriko YAMAGUCHI
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.9, pp.135-150, 2013

本稿では、ロシア・ノボシビルスク市立「シベリア・北海道文化センター」(以下SHC)における初級日本語コースのシラバス開発及びコースブック『どうぞよろしくI』開発について報告する。近年のロシアにおける日本語学習の目的はよりコミュニケーション重視の方向へと変化しており、対応する教材の開発が急がれている。SHCではコース受講生のニーズ調査を行い、ロシアで初めて日本語コースに言語活動能力を育てるCan-doシラバスを取り入れた。1年間のコース実施を経てシラバスの改善を行い、2011年にコースブックの開発に着手。ガニェの9教授事象モデルを参照し、言語運用能力・自律学習能力が身につく構成に配慮した。また各課に日本事情をふんだんに取り入れ、日本語を学ぶと同時に日本についても学べる内容となっている。教材開発と並行してロシア各地で教師セミナー・模擬授業を行い、その反応と評価を反映し、現在出版に向けて準備を進めている。
著者
佐藤 五郎
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.23-38, 2017

筆者は、"日本語パートナーズ"(以下、NP)教務支援担当として、2014年度より継続的に、NP の学校訪問や、E メール等を通じたコンサルティングなどを行ってきた。日本語教師ではないNP に対し、どのような支援をすべきか試行錯誤を続ける中で、「任期中一度もコンタクトのないNP とのつながりをいかに確保するか」「NP のニーズに合った情報を適切なタイミングでいかに提供するか」という二つの課題が明らかになった。そこで、2016年度は4期に対して、筆者の個人ブログによる情報提供を開始した。ブログへのアクセス数、NP からのコメント、ブログ利用状況に関するアンケート調査の結果から、当ブログの有用性が認められ、そこで紹介した活動が授業でも実践されていることがわかった。同時に、「NP のニーズに合った情報の提供」「カウンターパート(タイ人日本語教師)との対話を促す手立て」という課題も浮き彫りになった。
著者
千馬 智子 中島 豊 Tomoko SEMBA Yutaka NAKAJIMA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.12, pp.73-88, 2016

国際交流基金シドニー日本文化センターでは、従来教師研修や学習者奨励活動などの事業を行ってきた。しかし近年は全豪日本語教育シンポジウムの実施などを契機としアドボカシーの重要性にも目を向けており、そのパイロット事業として、タスマニア州においてアドボカシー活動を試みた。本稿では、従来当センターが個別に行ってきた教師研修、学習者奨励活動などの事業をアドボカシーの観点から複合型事業として発展統合した、タスマニア州におけるNihongo Roadshowの概要を報告する。また、参加した教師から得られたフィードバックの分析を通じて、本企画がもたらした効果について考察する。さらに事業全体から得られた示唆や今回の試みによって見えてきた課題について述べる。
著者
杉島 夏子
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-15, 2021-03

近年インドネシアの中等教育においては、21世紀型スキル等のコンピテンシーを高める教育が重要視されているが、知識伝達型の教育を受けてきた教師にとって、それらを教育実践に取り入れていくことは容易ではない。そこで高校で日本語を教えるインドネシア人教師を対象に、教師ら自身が21世紀型スキルを取り入れた学びを経験してみた上で、教室での実践を考えるという7週間のオンラインコースを実施した。本実践研究においては、実践の概要と成果を報告するとともに、教師の学びを変容的学習理論の枠組みから捉え、インドネシア人高校日本語教師らが21世紀型スキルを取り入れた学習を経験することで、学びに対する考え方をどのように変容させていくのかというプロセスを、コース実施後の参加者への半構造化インタビューから明らかにする。