著者
松田 隆美
出版者
慶応義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究課題について、書物と人の交流という外面史と文学的影響という内面史の両方から研究をおこなった。1. 活版印刷術の伝播と15-16世紀におけるイタリアとイギリスでの出版事情の変化。グーテンベルク以来の活版印刷術の伝播を、個々の出版者の活動と出版対象となった書物の種類およびそのレイアウトに注目しつつ具体的にたどり、15世紀のインキュナビュラから16世紀のより小型な書物への移行の過程に関して、両国を比較した。イタリアでは全般的な書物の小型化が見られる一方で、イギリスでは、テクストのジャンルと用途をより厳密に反映するかたちで書物の形態の多様化が生じたことを指摘した。2. 中世後期から17世紀にかけてのイギリス人旅行者にとってのイタリアの魅力。中世から17世紀にかけての巡礼者へのガイドブック、人文主義者の旅行者が残した紀行文、16-17世紀の外国旅行の手引き書などを一次資料として用い、宗教改革期を経てイタリア訪問の意義が、ローマ巡礼から古代探訪へと徐々にシフトしてゆく過程を跡づけたが、シフトは完全なものではなく、長らくカトリック信仰への興味と古代への情熱が共存するかたちで、イギリス人にとってのイタリアの魅力を形成していたことが明らかとなった。3. ベトラルカの詩および散文作品のイギリス文学における受容。ベトラルカの『老年書簡』に登場する「グリセルダの話」のイギリス、フランスへの伝播を16世紀まで全てのヴァージョンに関して辿り、読者層の変化との関連で主題上のシフトを説明した。またベトラルカの「カンツォニエーレ」のイギリスへの伝播を15世紀の写本、16世紀の英訳によって跡付け、いわゆるペトラルキズムの発展をモチーフと挿絵の両面から考察した。また収集した画像資料を画像データベース化し、Web公開が可能なかたちで整理した。
著者
柴田 徹一 浅見 敬三 (1984)
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1984

本年はハロゲン化ビスフェノールに関しては嫌気性原虫の呼吸代謝に対する影響、リーシュマニア・ドノバニの増殖抑制、及び住血吸虫の中間宿主たるヒラマキ貝への作用を中心に乏討した。また、植物由来のクワシノイド、ニトロイミダゾール誘導体についても各々検討を加えた。1.ビチオノール、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェンは試験管内においての増殖抑制とほぼ同濃度(【10^(-4)】M)で有意にランブル鞭毛虫の内因性呼吸、NADH酸化等を阻害した。2.BALB/Cマウス肝におけるリーシュマニア・ドノバニの増殖をビチオノールが効果的に抑制することが判明した。同時にアロプリノールと比較したが、感染虫体数が多くなるとアロプリノールの方がやや優れていた。ただし、アロプリノールは腹腔内投与のためもあり、副作用が強く出現し、マウスの体重減少等を認めた。3.住血吸虫の媒介貝であるBiomphalariaに対してビチオノールは強い殺貝作用を示した。対照としてPCPを用いたが、これよりは数倍程度強力であった。但し、他研究所で行なわれたミヤイリ貝に対する研究ではそれほど強くは作用しなかった。現在ビチオノールのヒラマキ貝の呼吸に対する作用について検索している。4.その他の化合物ではクワシノイドとニトロイミダゾールについて特にトリパノソーマとアメーバを対象に検討した。前者はアメーバには良く秦効し、ハムスター,スナネズミにおいてメトロニダゾールに匹敵する治療効果を示したが、トリパノソーマについては殆んど殺虫作用を示さなかった。一方、後者はトリパノソーマに強力に作用する化合物を含み、現在1〜2のものをマウスのモデルを用いてテストしている。作用機序については主に電顕的に現在は実施している段階である。
著者
高橋 潤二郎 渡辺 貴介 盛岡 通 鈴木 邦雄 久保 幸夫 淡路 剛久
出版者
慶応義塾大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

この研究の目的は、広域都市圏の湾岸域を対象に望ましい親水環境を明らかにし、その実現のための体系を構築することである。本年度は、第一年次であるため、東京湾岸域の土地利用、親水条件、住民の親水イメ-ジ、市民の親水活動・イメ-ジ選好・居住環境に対する意識構造、親水環境としての植生、行政主導型ウォ-タ-・フロント計画などの実態把握と分析を行なった。土地利用・海岸利用施設に関しては、国土庁湾岸域情報を入手して読み込み用・地図作成のソフトを作成し、空中写真・リモ-トセンシング映像・空中写真などと併せて湾岸域の総合的なマルチメディア・デ-タベ-スシステムの作成を目的として、埋立地を対象にディジタル化・デ-タベ-ス化を行なった。親水条件に関しては、市民の湾岸域へのアクセシビリティについて東京都を取り上げ、マストランゼッションと湾岸の土地利用親水性との関連を明らかにした。市民の親水イメ-ジを知るために、横浜〜富津の公立小中学校の校歌(357曲)を取り上げ、これを8イメ-ジ、12モチ-フ、4場面の計24のカテゴリ-に分け、これを数量化3類で分析し、4つに類型化するとともに、それらが時代や地域と深くかかわっていることを明らかにした。東京湾における活動・イメ-ジの居住者による選好特徴は、景観に関する内容が大きな割合を占めていて、活動・イメ-ジでは自然的な内容が望まれていることがわかった。親水環境としての植生に関しては、環境指標となる植生単位の抽出を行なった結果、3つのグル-プに分けられることが明らかになった。行政主導型の計画を取り上げ、国・自治体・企業・住民の役割について、船橋・市川・川崎を例に、その問題点を明らかにした。
著者
鷲見 成正 利島 保 苧阪 直行 後藤 倬男 中谷 和夫 仁平 義明
出版者
慶応義塾大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、科学研究費補助金総合研究(B)の主旨に則り、研究者相互の情報交換と討議を通じて今後の研究展開に向けての新たな視点をさぐる研究集会開催を中心にして進められた。イメージサイエンス(画像科学)からピクトリアルサイエンス(図像科学)への知覚心理学的展開を目指す本研究の課題は、“見えるもの"が“見えざるもの"の姿かたち・雰囲気・意図などをいかにして写しだしてくるかの解明にある。知覚事像との関連で(1)色・形、(2)空間・運動、(3)音響・触感覚、等各研究班を組織し、図像情報生成の知覚・認知機構ならびに基礎データの提示とそれらについての総合的検討を行なった。とくに研究集会を通じて得られた理工学研究者と実験心理学者間の研究交流は、この種の新しい領域の今後の展開に向けての貴重な貢献といえるだろう。第1次研究集会(東京:平成4年9月17〜19日)研究テーマ「形態知覚と図像情報」基調講演「色、形、視覚」小町谷朝生(東京芸大)形態知覚研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約40名)、第2日(約90名)、第3日(約50名)]第2次研究集会(開催地:呉、平成4年10月29〜31日)研究テーマ「空間知覚と図像情報」基調講演「サイエンティフィックビジュアライゼーションの現状」中前栄八郎(広島県立大)空間・運動知覚研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約30名)、第2日(約30名)、第3日(約50名)]第3次研究集会(開催地:大阪、平成4年12月17〜19日)研究テーマ「視覚構造・触知覚・音響と図像情報」基調講演「聴覚における感性情報処理をめぐって」難波精一郎(大阪大)視覚・音響・触・触ー運動研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約40名)、第2日(約50名)、第3日(約50名)]
著者
板野 理 斎藤 淳一
出版者
慶応義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

現在、胃癌に先行して、大腸癌の臨床検体を用いた研究を継続中である。大腸癌新鮮手術切除検体25例の癌部、非癌部のゲノムDNAを抽出し、RLGS法を用いて、各々のprofileを作成した。(板野、斎藤)二次元電気泳動により得られた各profile上でのスポットの変化を、癌部と非癌部間で比較したところ、いくつかの共通スポット変化をみとめた。その内訳は、非癌部のみに出現するスポットが4種、癌部のみに出現するスポットが2種であった。最も高頻度にみられたスポット変化は癌部のみに出現するスポットで、25例中19例(76%)にみとめた。そのDNA断片をゲルからクローニングするために、制限醇素Not I siteのみを描出するtrapper methodを用いた。クローニングはtrapper施行後のprofileから、目的とするスポットを直接打抜き、DNAを抽出した。DNA量の確保のため、プラスミドに押入し、大腸菌を用いて形質転換を行い、増幅させた。さらにダイデオキシ法にて、塩基配列を決定した。今回のクローニングで得られたDNA断片の塩基配列は、ヒト脂肪酸合成酵素遺伝子(FAS)と69%の相同性を認めるものであった。(板野)今後は,得られたDNA断片をprobeとし、該当する癌関連遺伝子の同定を試みる予定である。以上の手法にて、他の変化スポットも1種ずつクローニングしてゆくことで、未知の癌関連遺伝子同定が進んでゆくと考える。また、各profile間のスポット変化と臨床病理学的特徴を解析することで、特定の遺伝子変化に対応した病態が解明される可能性がある。
著者
鈴木 参朗助 佐賀 正道 成田 正弥 安藤 靖恭 真島 行彦
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

難治性網脈絡膜炎、特にヘルペスウイルス性ぶどう膜炎におけるPCR法の診断的意義および病態との関連性を解明するために、以下の研究を行った。家兎を用いて実験的単純ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎を発生させ、その網脈絡膜炎の病態、病期とPCR法の検出感度およびウイルス抗体価の変動を検討した。抗体価の上昇は硝子体内へのウイルス接種後7日より上昇し始め、21〜28日にピークを示した後、低下した。PCR法による前房水中のウイルスDNAの検索では、接種後3〜7日に検出され、その陽性率は30%であった。ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の臨床症例の検討では、前房水におけるPCR法によるウイルスDNAの検出は、硝子体に比べ、検出率が低かった。しかし、2週間の抗ヘルペス剤投与後にも眼内液から検出することが可能であった。免疫抑制患者においては、眼内液のウイルス抗体価よりもPCR法によるウイルスDNAの検出が有用であった。免疫抑制患者における水痘・帯状ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の検討から、免疫能の低下が網脈絡膜炎の病態に関与していることが示唆された。ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の診断における眼内液のPCR法によるウイルスDNAの検出率は、必ずしも高率ではなかった。生体の免疫能を考慮し、眼内液のウイルス抗体価と併せて評価すべきと考えられる。免疫抑制患者では、健常者と比べ免疫能の低下していることから、眼内液のウイルス抗体価は低く、PCR法によるウイルスDNAの検出率が高くなると考えられた。ウイルス性網脈絡膜炎患者においては、その免疫能を考慮し、ウイルス学的検索結果と臨床所見を詳細に検討する必要がある。
著者
吉岡 直樹
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

磁気特性を有する有機物質を設計することは新しい機能性物質の創世にもつながる重要な基礎課題である。本研究の目的は、安定ラジカル構造を規則的に導入した新規な共役高分子、水素結合連鎖を合成設計し、π電子系または水素結合を介したラジカルスピン間の磁気的な多重相互作用を目指した。本年度は剛直棒状なスピン連鎖の構築法の確立、連鎖の配列様式の解明を重点的に実施し以下の知見を見出した。(1)ラジカル中心として室温大気下で安定なアセチレン誘導体2,2-dip heny 1-3 haro-8-ethy nyl quinoline-1-oxylを合成し、Pd錯体触媒を用いてエチニル水素と環置換ハロゲンを温和な条件下でクロスカップリングし厳密に頭尾結合が規制されたポリラジカル高分子を合成したが、溶解性が低く高分子量体は得られなかった。(2)イミダゾールがプロトン供与性部位と受容性部位を具有することに着目して、2-位にラジカル中心として4,4,5,5-tetramethy limidazoline-3-oxide-1-oxylおよび4,4,5,5-tetramethy limidazoline-1-oxylを導入した誘導体、lm-NNとlm-INを合成した。(3)単結晶X線構造解析より、lm-NNはb軸方向に水素結合連鎖を形成していた。ラジカル部位とイミダゾール環は大きく捻れ(48 deg)連鎖間でNO結合が接近していた。lm-NNのモル磁化率は、110K付近で極大を示しスピン間には反強磁性的相互作用が存在した。(2J=_-123cm^<-1>)。この磁気的相互作用はNO結合間の直接的な軌道の重なりで説明され、水素結合連鎖を介してスピン伝達の効果は認められなかった。lm-NN中で不対電子密度がNN部位に局在分布しているためと考察された。(4)プロトン受容性にイミノ基を2つ有するlm-INは、lm-NNに比べ結晶化しにくく構造の詳細は不明であるが不対電子間の相互作用は反強磁性的であった。以上を総合して、水素結合を利用した有機ラジカルの自己組織体の構築法を確立した。
著者
河瀬 斌 山口 則之 清水 克悦 三谷 慎二 堀口 崇 荻野 雅宏
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

【目的】低温による脳保護作用のメカニズムを検討し、脳のみの局所低体温法を確立する。【方法】(1)スナネズミ一過性前脳虚血モデルを用い海馬における遅発性神経細胞死を算出する一方で、オートラジオグラフィー法により蛋白合成能を、また免疫組織化学により各種蛋白の生成を、常体温と低体温とでそれぞれ比較した。(2)ラット一過性前脳虚血モデルを用い、線条体におけるdopamine・ adenosineとその代謝産物の生成を、虚血中低体温と虚血後低体温とで比較した。(3)成猫に低温人工髄液を脳室脳槽灌流し、脳冷却の程度と脳内温度較差を測定した。また、臨床使用目的にて脳温測定用センサーを組み込んだ脳室脳槽灌流用ドレナージチューブを作成した。【結果】(1)低体温により海馬CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制されるが、これに先立ち(i)同部の蛋白合成能の回復が促進される。(ii)ストレス蛋白発現が抑制される一方で、即初期遺伝子c-Junが正常より強く発現する。c-Fosの発現は変化しない。以上より、低体温は虚血ストレスそれ自体を減弱する一方で、蛋白代謝を早期に回復させ、細胞の生存に影響を及ぼす即初期遺伝子の発現を促す。(2)(i)虚血中低体温はdopamineの放出を抑制する一方、adenosineの放出には影響しないが再灌流時のadenosineの減少は抑制する。(ii)虚血後低体温はadenosineの代謝を抑制して細胞外液中の濃度を高く保つが、dopamine代謝には影響しない。(3)低温人工髄液灌流により成猫において脳深部に2〜3℃の冷却効果が見られたが、皮質ではその冷却効果は少ない。脳血流量は一過性に減少するがその後回復し、血圧や血液ガスには影響はない。脳温測定用センサーを組み込み、かつ従来のものと材質・外径に差がない脳室脳槽灌流用ドレナージチューブが完成した。【総括】以上より(3)の脳虚血に対する局所低体温療法は(1)(2)の補助治療法を組み合わせることで臨床応用が更に期待できる。
著者
浦 昭二 宮川 裕之 眞鍋 龍太郎 細野 公男 福川 忠昭 神沼 靖子
出版者
慶応義塾大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は、情報システム学の概念を確立することと、それに基づいた教育カリキュラムを構築することである。本年度は、前年度にまとめた、情報システムの定義・目的・特徴・機能・性格,情報システムの問題を考える際の留意事項、情報システム教育の方向などに関する基本的な考え方に基づいて、情報システム学の体系、情報システム教育のカリキュラム、当該カリキュラムに含まれる各科目の内容を検討し最終案をまとめた。まず情報システム学の体系は、情報システムの「企画」、「開発」、「運営」、「概念」、「社会的影響」の5つの側面から構成されるとし、それぞれの特徴と相互関連を明らかにした。このうち最初の3つは、情報システムの構築・活用に直接結びつくことが多い側面であり、後の2つは情報システムの基本概念およびそれと社会との関わりを扱い、それぞれ前の3つの要素とは異なった側面(次元)をもつものである。この体系に基づいて、情報システム教育の中心となるコア領域と参照学問領域の2つの領域から構成される教育カリキュラムを構築した。このうち参照学問領域は、情報システムの人間・社会的側面に接近するために既存の学問領域に属する知識・技術を情報システム学の視点から捉えた科目群と、情報システムの構築・把握などに関わる各種の自然科学・工学的な知識・技術を扱う科目群とに大別した。カリキュラムを構成する科的としては、コア領域に属するもの29科目、参照学問領域に属するもの32科目の合計61科目を設定した。さらに、情報システム教育の実学的特徴に配慮して、上述の領域を横断的に捉える「事例調査」と「プロジェクト研究」の2つを設けた。これらの科目は、動機付けのための基礎科目(19科目)と専門科目(43科目)とに分けられている。また、各科目の概要を、位置付け、狙い、アプロ-チ、内容、レベルの観点から記述し、さらに具体的なコ-ス例を複数個作成した。