著者
鈴木 正男
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.213-223, 1969
被引用文献数
2

人の手指を, 0℃の水で冷却すると, その皮膚温は急速に水温付近まで下がり, 数分後自然に著しく上昇し, 一定度に達すると, 再び下降して, その後は不規則波動変動を繰り返す。LEWIs (1930) によつて発見されたこの現象は, ヒトの寒気に対する適応能の測度となる。<BR>局所の寒冷に対する適応能の差が, いかなる原因に由来するのかについて, YOSHIMURA & IIDA (1950, 1952) は主として生活環境の気温に対する適応の程度にあるとし, 一方, MEEHAN (1955) は, 遺伝的なものとした。筆者は, 奄美大島高校生 (60名) 東京都高校生 (99名) 静岡県下田高校生 (20名) 同海女 (34名) アイヌ成人 (37名) 双生児 (38名) について手指皮膚温反応を測定し, 環境, 遺伝両側面から比較検討した。その結果は次のとおりである。<BR>1.女子は男子よりもいくぶん強い反応を示す<BR>2.年平均気温が, 寒冷に対する手指皮膚温反応の適応能に差をもたらす重要な因子であることが確認された。<BR>3.アイヌは, 日本人と比較して, ほとんど差がない。<BR>4.海女は, 非常に昂進した反応を示し, 環境因子の強いことが知られた。<BR>5.統計的に有意ではないが, 一卵性双生児は二卵性双生児に比較して, 各組内で類似した反応を示す。<BR>6.皮厚から推定された体脂肪量と寒冷に対する手指皮膚温反応の間には, あまり相関関係がない。
著者
安部 国雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.37-52, 1982

インド中央州バスタール地方の原住民ムリア,アブジュマリア,バイソン&bull;ホーン&bull;マリアの3部族(ゴンド語族)と,アンドラ州ハイデラバードとビサカパトナム2地域住民(テルグ語族)の生体計測的形質を比較検討して次の結果を得た。<br>(i)バスタール3部族相互の間の諸形質は互によく類似している。(ii)2地域のテルグ語族相互の諸形質の間に地域差は認められない。(iii)これらゴンド語族の測度の大部分はテルグよりも小さく,より長い頭型とより広い顔型に傾むくが,前者の鼻幅が大きく,従って鼻示数の著しく大きいことが両者の形質の間で最大の差異である。<br>しかし両語族の形質のこれらの差異は,両語族の人種的差異を示すほどのものではなくて,中央インドのドラビダ系言語族或いは同一人種系統での変囲内に止まるものであると考える。
著者
史 常徳 西澤 哲 足立 和隆 遠藤 萬里
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological science : journal of the Anthropological Society of Nippon (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.467-484, 1995-12-01
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

直立二足姿勢をとるヒトの脊柱は, 他の動物とは異なった形態を持つことが考えられる。本研究はヒトの脊椎骨の形態と姿勢との機能的な関係を明らかにする前段階として, 椎体の形態的特徴を抽出することを目的として行った。資料はヒト, チンパンジー, ニホンザル, ニホンカモシカである。計測項目は椎体に関する腹背側垂直径, 頭尾側矢状径, 頭尾側横径の6項目である。この結果ヒトにおける椎体の形態的特徴が他の哺乳類と異なる点は, 1) L4とL5の背側垂直径が腹側垂直径より著しく小さい, 2) 椎体横径がC3~C7, T8~最終腰椎まで著しく増加する, 3) 頸椎と腰椎椎体のプロポーションが太く短いということであった。これらの特徴とヒトの直立二足姿勢との関係についての考察を行った。
著者
山田 博之 川本 敬一 酒井 琢朗 片山 一道
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.435-448, 1988
被引用文献数
3

クック諸島住民について歯の大きさを計測し,その結果をクック諸島内ならびに周辺諸地域の集団の間で比較検討した。資料として,クック諸島のラロトンガ,マンガイア,プカプカで採取した4歳から20歳までの男女397名の全顎石膏模型の中から,男性146個体のものを選んで用いた.計測は,上下顎の中切歯から第2大臼歯までの歯冠近遠心径&bull;頬舌径について1/20mm副尺付ノギスで行った。資料は両親あるいは祖父母の出生した島にしたがい次の6群に分類した.プカプカ群,N-S群(北島グループと南島グループの混血),ラロトソガ群,マンガイア群,S群(南島グループのうちラロトンガとマンガイアを除いたもの),混血群(ヨーロッパ人との混血)である。また周辺地域との比較では,クック諸島民をプカプカ群,混血群,南クック群(上記6群のうちプカプカ群と混血群を除いたもの)に分けて行った.集団比較にはマハラノビス距離を用い,これにもとついてクラスター分析,正準座標分析を行った.<br>その結果,クック諸島の中では,プカプカと南島グループの間で歯の大きさに有意差が存在し,とくにプカプカとマソガイアの間では28項目中8項目に有意差がみられた.しかし,南島グループの中では歯の大ぎさにほとんど差違は認められなかった.混血群もプカプカとの間に4項目で有意差が認められたが,南島グループとはあまり差を示さなかった.周辺地域との比較では,クック諸島とポリネシアン&bull;アウトライアーのタウマコは1つのサブクラスターを形成し,ハワイージヤワのサブクラスターと比較的近い関係を示した.一方,ニューギニアとブーゲソビルのメラネシアグループは異なった1つのクラスターを形成した.このメラネシアグルーフ.のクラスターには中央オーストラリアの原住民も含まれた(図4,5).<br>今回の結果では,歯の大きさに関してオセアニア地域では大きく分けて2つのクラスターが存在することが示された.一方はジヤワを含をポリネシア地域の集団からなり,他方はメラネシア地域のものであった.ここにみられた"dichotomy"はオセアニア地域での生体ならびに歯冠の形態特徴の結果とよく一致した.
著者
尾本 恵市
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological science : journal of the Anthropological Society of Nippon (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.415-427, 1995-12-01
参考文献数
46
被引用文献数
1

この総説は, 日本人の起源の問題について, 分子人類学の立場から, 何が, どこまでいえるのかを紹介し, 今後の総合的な日本人研究への一助とする目的で書かれた。検討のための土台として, 埴原の「二重構造モデル」が用いられた。このモデルを, (1)「原日本人」は東南アジア起源である, (2) 現代日本人の諸集団の形成には、「原日本人」と北東アジア系の渡来人という主として2つの系統を異にする集団が関わっている, との2つの部分仮説にわけ, それぞれを個別に検討した。分子人類学的に重要な資料としては, 古人骨のミトコンドリアDNAの塩基配列 (宝来ら) と古典的遺伝標識の遺伝子頻度を用いた多変量解析 (根井, および筆者ら) などがある。前者は, 原日本人の南方起源説にとり有利な資料を, また, 後者は, 反対に, 原日本人の北方起源説を支持する資料を提供している。また, 埴原のいう「二重構造」の存在についても, 意見がわかれている。このような不一致点をどのように説明するかが, 大きな問題である。本論文で筆者は, 問題点の所在を明らかにすると共に, 将来の検討に対する資料として, いくつかの提案をした。
著者
ASHIZAWA KUMI TANAMACHI NORIKO KATO SUMIYO KUMAKURA CHIYOKO ZHOU XIA JIN FENG LI YULING LU SHUNHUA
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.67-76, 2008
被引用文献数
3

A number of papers on the growth of Chinese children have been published in local journals in China in the Chinese language. However, we noticed that height and weight are the main focus of these studies. Because leg length relative to height is of interest in human biology, the current study focuses on the growth of this proportion. Two groups of Chinese children were investigated: 587 boys and 625 girls in Beijing in 1997 aged 6&ndash;18 years, and 579 boys and 615 girls in Xilinhot, Inner Mongolia, in 2005 aged 7&ndash;18 years. Height and leg length (iliospinal height) were measured, and the ratio of leg length to height was calculated for each child. Mean distance curves and spline-smoothed yearly increment curves were obtained. In order to clarify the difference between the two groups of Chinese children, data from Japanese children were adopted as a control. The Beijing children were taller than the Xilinhot children, but no difference was detected in leg length between them. The ages at &lsquo;take-off&rsquo; and &lsquo;peak&rsquo; obtained on the yearly increment spline-smoothed curve of height in the Xilinhot children boys were 1.2&ndash;1.8 years earlier, respectively, than those of the Beijing boys. In the girls, these two ages were almost the same in the two cities, although the &lsquo;peak&rsquo; was 1.8 cm greater in the Xilinhot girls. Leg length in the boys was almost the same in both Beijing and Xilinhot. In the girls of the Xilinhot group, leg length was greater after puberty. Consequently, the ratio of leg length to height was greater in the Xilinhot children than the Beijing children. It is suggested, in China, that socioeconomic factors influence growth of height to a greater extent than growth of leg length, and that leg length and leg length relative to height might be controlled by a genetic factor.<br>
著者
小宮 孟
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.119-137, 2005-12-01
参考文献数
125

縄文時代の内湾漁撈は,スズキとタイを主な漁獲対象に展開したと考えられている。しかし,東関東の内湾沿岸部にある9ケ所の中後期貝塚から任意に採取した104本の柱状貝層サンプルを水洗したところ,アジ,イワシ,ウナギ,フナなどの小型魚類遺存体が高い頻度で分離された。内湾貝塚産魚類の主体は,従来の発掘で見落とされたこれらの小型魚が構成すると考えられる。ただし,魚種構成は地域差が顕著で,臨海部の遺跡では沿岸性小型魚が,内陸の遺跡では淡水魚が,そして,それらの中間域の遺跡では汽水魚が優占する。遺跡産魚類相を決定する1次要因が縄文人の漁撈にあるとすれば,この地域の内湾漁撈の主体は想定領域内に出現する小型魚の漁獲と消費に適応したシステムだったと推定される。しかし,想定領域内に海が存在しない遺跡からも大量の小型海魚のほか,タイなどの高級魚がしばしば出土することから,特定の海産物が経済的な取引をつうじて集団間を頻繁に移動した可能性がある。したがって,今回のデータは漁撈だけにとどまらず,魚類資源利用にかかわる当時の経済や社会のしくみを再検討する材料としても重要と思われる。<br>